【跡部夢】約束
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音楽の課題を練習するため、景吾くんと伴奏合わせをしようと音楽室に移動した、とある昼休みのこと。
「なんで、お前らもいるんだ」
「別に良いじゃない。時雨のファンだもの」
「右に同じく。俺はクラス違うて、本番聴かれへんからっていうのもあるけど」
私は景吾くんと音楽室で練習していたのだが、気づいたら最前列の席に、美緒と侑士くんが座っていた。
景吾くんの眉間にしわが寄る。
「今度の試合応援に行くから、ね?」
先日、今週末に氷帝で他校と練習試合をすると聞き、ヴァイオリンのレッスンはない日だったので、美緒と応援に行くことになった。そのことを景吾くんに伝えると、彼の表情が和らいだ。
「……ありがとよ」
「俺のことも応援してな」
「忍足のことは応援しなくていい」
「あはは……」
侑士くんの発言に、即ツッコミを入れる景吾くん。
若干声の温度が冷たく感じ、私は苦笑いを浮かべた。
一番応援するのはもちろん景吾くんだが、今まで色々お世話になっているので、侑士くんも応援したいところである。
「独占欲が強い男と付き合うのは大変ね」
「言ってろ」
「まあ、時雨が跡部くんのために演奏したら、機嫌が治るのでしょうけど」
「……否定はしない」
美緒の問いに、そっぽを向きながら答える景吾くん。
よく見ると、頬がほんのりと赤い。照れているのだろうか。
私はこの後予鈴が鳴るまで、景吾くんのために曲を捧げるのだった。
*
練習試合当日。
空は澄み渡っていて、試合日和だ。太陽がキラキラと輝いている。
私は景吾くんと侑士くんを応援するため、美緒と氷帝のテニスコートを訪れていた。
応援や見学に来るのは、氷帝学園の生徒が大半だと思っていたが、どうやら違うらしい。
氷帝は強豪校であるからか、偵察に来たと思われる他校の生徒がちらほら見かけられた。
よく見ると、他校生の半分くらいは女子生徒。男子テニス部のマネージャーだろうか。カメラを持っている人が多い。
一人で来たら、周りに圧倒されて心細かっただろう。美緒と一緒に来て良かった、と心の底から思った。
侑士くんの試合が終わったところで、私は飲み物を買いに行くためコートの側から離れた。日差しが強く、こまめに水分補給をしていたら、持参したお茶がなくなってしまったのである。
美緒に一声かけて、自販機を探しに行く。自販機はテニスコートからそう離れていない場所に設置されており、すぐに見つかった。
飲み物は何にしようかしら。
「今度は麦茶じゃなくて、スポーツドリンクにしよう」
「今度は麦茶じゃなくて、スポーツドリンクにしよう。と、お前は言う」
「え……!?」
聞き覚えのある声、話し方に慌てて振り返ると、そこには柳くんの姿が。思わぬ再会に心が浮き立つ。
「柳くん、久しぶり!」
「ああ、元気にしているか?」
「もちろん! あのね、氷帝でも生徒会室でヴァイオリンの練習しているの」
「氷帝の生徒会長は跡部だったな。如何にして、許可を得たのだ?」
立海の生徒会室で練習していたことを思い出したので伝えると、右手を顎に当てながら考え込む柳くん。
他校の生徒会長を知っているなんて流石だ。それとも景吾くんが、それだけ有名なのだろうか。
「景吾くんに校内を案内してもらった時に、音楽室の場所を知りたいって伝えたら……生徒会長だから融通を利かせられるって、生徒会室を使わせてもらえるようになったの」
素直に景吾くんが私の音を独占したいから、ということは恥ずかしくて言えなかった。
そんな私の様子を読み取ったのか、柳くんは片眉を上げる。
「ほう、それは興味深いな」
「あと以前、雪の結晶がモチーフのブレスレットの話したよね。そのブレスレットをくれた男の子――ケイゴくんが、なんと跡部景吾くんだったの!」
失くした花モチーフのブレスレットが見つかったことも話すと、柳くんは優しく微笑んだ。
「それは良かった。それに納得した。……雪宮ともう少し話したかったが、早く戻った方が良さそうだ」
「え?」
「――良いデータは取れたのか?」
何に納得したのだろう。
首を傾げると、背後から全てを凍りつかせる吹雪のような声が聞こえ、気付いたら左手を握られた。振り返らずとも、声と指先の感覚で誰だか分かる。
ちなみに柳くんは、満足げに口角を上げていた。
「ああ、おかげさまで面白いデータが取れた。跡部の試合は午後だったな。楽しみにしている」
「そうかよ。フン、俺様のデータが簡単に取れると思うなよ」
柳くんが去り、姿が見えなくなったところで、景吾くんはため息をついた。
機嫌が良くないのは分かるのだが、原因が分からない。
コート付近に戻るのが遅かったから?
違う気がする。景吾くんは短気な人ではない。
「景吾くん……?」
恐る恐る名前を呼ぶと、そっと抱きしめられた。
「時雨は無防備すぎる。もう少し他の男に警戒心を持ってくれ」
思わぬ返事に、目をぱちぱちさせた。
私にとっての一番は、景吾くんだ。
しかし言葉が足りなくて、不安にさせてしまったのかもしれない。
「私が好きなのは景吾くんよ。だから、その……」
「…………」
「あなたと同じ世界が見たいから、私とまた一緒に演奏してほしい」
「……条件が二つある」
「うん」
景吾くんの腕の力が強くなった。
「一つ目。演奏する曲は、今度は俺が選ぶ」
「分かったわ」
「二つ目。俺とテニスすること」
「……テニスの腕前は、景吾くんの足元にも及ばないけど良いの?」
「時雨とだから意味があるんだ」
「景吾くんが望むなら、付き合うわ」
「ああ」
後から知ったことだが、体育の授業で景吾くんとテニスした時に、特に加減をしなくてもラリーが続いたことに、彼は驚いたらしい。
人並みにテニスが出来るようになりたくて、柳くんに教わったことを素直に話せば、「これからは俺様が教えてやる」と返された。
今度、テニスを教えてほしいと頼んでみよう。
景吾くんの条件をのむと、彼の纏う雰囲気が柔らかくなる。
「午後の試合、頑張ってね」
「ありがとよ」
顔が見えなくても、歓喜しているのが伝わってきた。
その後、景吾くんが1ゲームも落とさず勝利したので、彼のためのプチ演奏会を開くことになるのは、少し先の話――。
「なんで、お前らもいるんだ」
「別に良いじゃない。時雨のファンだもの」
「右に同じく。俺はクラス違うて、本番聴かれへんからっていうのもあるけど」
私は景吾くんと音楽室で練習していたのだが、気づいたら最前列の席に、美緒と侑士くんが座っていた。
景吾くんの眉間にしわが寄る。
「今度の試合応援に行くから、ね?」
先日、今週末に氷帝で他校と練習試合をすると聞き、ヴァイオリンのレッスンはない日だったので、美緒と応援に行くことになった。そのことを景吾くんに伝えると、彼の表情が和らいだ。
「……ありがとよ」
「俺のことも応援してな」
「忍足のことは応援しなくていい」
「あはは……」
侑士くんの発言に、即ツッコミを入れる景吾くん。
若干声の温度が冷たく感じ、私は苦笑いを浮かべた。
一番応援するのはもちろん景吾くんだが、今まで色々お世話になっているので、侑士くんも応援したいところである。
「独占欲が強い男と付き合うのは大変ね」
「言ってろ」
「まあ、時雨が跡部くんのために演奏したら、機嫌が治るのでしょうけど」
「……否定はしない」
美緒の問いに、そっぽを向きながら答える景吾くん。
よく見ると、頬がほんのりと赤い。照れているのだろうか。
私はこの後予鈴が鳴るまで、景吾くんのために曲を捧げるのだった。
*
練習試合当日。
空は澄み渡っていて、試合日和だ。太陽がキラキラと輝いている。
私は景吾くんと侑士くんを応援するため、美緒と氷帝のテニスコートを訪れていた。
応援や見学に来るのは、氷帝学園の生徒が大半だと思っていたが、どうやら違うらしい。
氷帝は強豪校であるからか、偵察に来たと思われる他校の生徒がちらほら見かけられた。
よく見ると、他校生の半分くらいは女子生徒。男子テニス部のマネージャーだろうか。カメラを持っている人が多い。
一人で来たら、周りに圧倒されて心細かっただろう。美緒と一緒に来て良かった、と心の底から思った。
侑士くんの試合が終わったところで、私は飲み物を買いに行くためコートの側から離れた。日差しが強く、こまめに水分補給をしていたら、持参したお茶がなくなってしまったのである。
美緒に一声かけて、自販機を探しに行く。自販機はテニスコートからそう離れていない場所に設置されており、すぐに見つかった。
飲み物は何にしようかしら。
「今度は麦茶じゃなくて、スポーツドリンクにしよう」
「今度は麦茶じゃなくて、スポーツドリンクにしよう。と、お前は言う」
「え……!?」
聞き覚えのある声、話し方に慌てて振り返ると、そこには柳くんの姿が。思わぬ再会に心が浮き立つ。
「柳くん、久しぶり!」
「ああ、元気にしているか?」
「もちろん! あのね、氷帝でも生徒会室でヴァイオリンの練習しているの」
「氷帝の生徒会長は跡部だったな。如何にして、許可を得たのだ?」
立海の生徒会室で練習していたことを思い出したので伝えると、右手を顎に当てながら考え込む柳くん。
他校の生徒会長を知っているなんて流石だ。それとも景吾くんが、それだけ有名なのだろうか。
「景吾くんに校内を案内してもらった時に、音楽室の場所を知りたいって伝えたら……生徒会長だから融通を利かせられるって、生徒会室を使わせてもらえるようになったの」
素直に景吾くんが私の音を独占したいから、ということは恥ずかしくて言えなかった。
そんな私の様子を読み取ったのか、柳くんは片眉を上げる。
「ほう、それは興味深いな」
「あと以前、雪の結晶がモチーフのブレスレットの話したよね。そのブレスレットをくれた男の子――ケイゴくんが、なんと跡部景吾くんだったの!」
失くした花モチーフのブレスレットが見つかったことも話すと、柳くんは優しく微笑んだ。
「それは良かった。それに納得した。……雪宮ともう少し話したかったが、早く戻った方が良さそうだ」
「え?」
「――良いデータは取れたのか?」
何に納得したのだろう。
首を傾げると、背後から全てを凍りつかせる吹雪のような声が聞こえ、気付いたら左手を握られた。振り返らずとも、声と指先の感覚で誰だか分かる。
ちなみに柳くんは、満足げに口角を上げていた。
「ああ、おかげさまで面白いデータが取れた。跡部の試合は午後だったな。楽しみにしている」
「そうかよ。フン、俺様のデータが簡単に取れると思うなよ」
柳くんが去り、姿が見えなくなったところで、景吾くんはため息をついた。
機嫌が良くないのは分かるのだが、原因が分からない。
コート付近に戻るのが遅かったから?
違う気がする。景吾くんは短気な人ではない。
「景吾くん……?」
恐る恐る名前を呼ぶと、そっと抱きしめられた。
「時雨は無防備すぎる。もう少し他の男に警戒心を持ってくれ」
思わぬ返事に、目をぱちぱちさせた。
私にとっての一番は、景吾くんだ。
しかし言葉が足りなくて、不安にさせてしまったのかもしれない。
「私が好きなのは景吾くんよ。だから、その……」
「…………」
「あなたと同じ世界が見たいから、私とまた一緒に演奏してほしい」
「……条件が二つある」
「うん」
景吾くんの腕の力が強くなった。
「一つ目。演奏する曲は、今度は俺が選ぶ」
「分かったわ」
「二つ目。俺とテニスすること」
「……テニスの腕前は、景吾くんの足元にも及ばないけど良いの?」
「時雨とだから意味があるんだ」
「景吾くんが望むなら、付き合うわ」
「ああ」
後から知ったことだが、体育の授業で景吾くんとテニスした時に、特に加減をしなくてもラリーが続いたことに、彼は驚いたらしい。
人並みにテニスが出来るようになりたくて、柳くんに教わったことを素直に話せば、「これからは俺様が教えてやる」と返された。
今度、テニスを教えてほしいと頼んでみよう。
景吾くんの条件をのむと、彼の纏う雰囲気が柔らかくなる。
「午後の試合、頑張ってね」
「ありがとよ」
顔が見えなくても、歓喜しているのが伝わってきた。
その後、景吾くんが1ゲームも落とさず勝利したので、彼のためのプチ演奏会を開くことになるのは、少し先の話――。