【跡部夢】約束
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それは私がまだイギリスにいた――小学一年生だった頃の話。
「ブレスレット……どこ行っちゃったの?」
雪がしんしんと降る中、ヴァイオリンケースを背負いながら、お気に入りのブレスレットを探していた。
母に貰った花モチーフのブレスレットは留め具がなく、私には少々大きかった。もともと母の手首周りのサイズに合わせて購入したものなのだ。
その日は朝から右腕につけていたのだが、いつの間にか失くしてしまった。ヴァイオリンのレッスンが終わってからその事に気付き、急いで家からレッスン場までの通り道を探したが見つからなかった。
もしかしたら、ブレスレットの上に雪が覆い被さってしまったのかもしれない。
いくら探しても一向に出てくる気配がなかったので、そろそろ諦めようかな。遅くなっては親に心配かけてしまうし。
母には素直に謝ろう。
しかし、お気に入りのブレスレットを失くしてしまったことがやはり悲しくて、目の前がボヤけてきた。涙が溢れそうだったので、左袖で拭こうとしたときだった。
「そこで何してるんだ?」
「え……?」
左手首を掴まれ、驚いて振り返る。
そこには金髪で青色の瞳の、外国人のような美しい顔立ちの少年がいた。
思わず目が点になる。手を掴まれたことにも驚いたが、日本語で話しかけられたからだ。
ここはイギリス。
まさか家族以外の日本語を聞くとは思わなかった。
「おい、具合が悪いのか?」
私が中々答えないことに不安になったのか、少年は私の顔色をうかがった。
「あ……あの、お気に入りのブレスレットを失くしてしまって。それで落ち込んでいたの」
「それは、どんなブレスレットだ」
「花モチーフの……って、どこへ行くの?」
少年が私の手を引くので、慌てて問う。
「アクセサリーショップだ。同じものがあるかは分からないが、ブレスレット贈る」
「え!? そんなの悪いよ。お礼もできないし……」
「別にお礼をもらいたくて贈るわけじゃないから、気にしなくていい」
初対面のはずだけれど、良いのかしら?
私は少年のなすがまま、彼の後ろをついていった。
近くのショッピングモールに着き、アクセサリーショップへ向かう。
早速お店の中へ入ると、落ち着いた雰囲気で私好みだった。
「好きなデザインのを選んでこい」
少年は手を離し、私にブレスレットを持ってくるよう促す。
私はブレスレットのコーナー向かい、花モチーフのを探したが、母に貰ったブレスレットと同じデザインのものはなかった。この店では取り扱っていなかったかもしれないし、一点ものだったのかもしれない。
そこで少年を連想させる、雪の結晶がモチーフのブレスレットを探した。
少年に出会ったのが雪の日だったから。きっと彼に会ったのも何かの縁だし、大切にしたい。
「あ! これしよう」
私は透き通ったホワイト、ライトブルー、シルバーをベースに、アクセントとして鮮やかな青色のビーズボールが組み込まれているブレスレットを手に取った。中央に雪の結晶のチャームがついていて、幻想的なデザインに惹かれたのだ。
少年のもとへ戻ると、彼の手にはクリーム色のポーチが。
「それは?」
「これも一緒にやる。ブレスレットを外しているときは、これに仕舞っとけ」
「分かったわ」
私は少年と共にレジへ向かった。
店員にタグを切ってもらい、早速ブレスレットをつける。
アジャスターが付いているものなので、サイズもちょうどいい。これなら失くさないだろう。
右腕につけたブレスレットを眺めていると、少年は支払いが済んだようで紙袋を持っていた。少年が紙袋を私に差し出したので、両手で丁寧に受け取った。
「ほらよ。今度は失くすなよ」
「ありがとう、大事にする! えーと……」
ここでようやく、彼の名前を聞いていなかったことに気づいた。
「景吾だ」
私がなぜ言葉に詰まっているか察したのか、ケイゴくんは自ら名乗る。
「ケイゴくん……。私の名前は」
「時雨、だろう?」
ケイゴくんは微笑みをこぼす。
私も名乗ろうとしたら、既に知られていた。
「近所のホールで、お前の演奏を聴いたことがある。その時パンフレットを見て知った」
なるほど。
確かに毎年近所のホールで開催されている発表会で、私はヴァイオリンを弾いている。大半はレッスンに通っている生徒の親や友人たちが聴きに来るが、一般のお客さんも聴きに来ることがあるのだ。
小さな発表会なので、ケイゴくんが来ていたことには驚いたけれど。
そこで、ふと閃いた。
ヴァイオリンを練習して今より上達したら、彼の好きな曲を弾こう。
「ねえ、ケイゴくん」
「なんだ?」
「ブレスレットのお礼なんだけど……ケイゴくんの好きな曲、頑張って練習するから、いつか聴いてもらえないかな」
緊張のあまり、声が震えてしまった。
ケイゴくんは耳が肥えてそうだけれど、私のヴァイオリンで満足させてみせる。
私は密かに燃えていた。
ケイゴくんは目を見開いた後、
「ああ、楽しみにしてるぜ。ちなみに俺様が好きな音楽はワーグナーだ」
と目を輝かせるのだった。
「ブレスレット……どこ行っちゃったの?」
雪がしんしんと降る中、ヴァイオリンケースを背負いながら、お気に入りのブレスレットを探していた。
母に貰った花モチーフのブレスレットは留め具がなく、私には少々大きかった。もともと母の手首周りのサイズに合わせて購入したものなのだ。
その日は朝から右腕につけていたのだが、いつの間にか失くしてしまった。ヴァイオリンのレッスンが終わってからその事に気付き、急いで家からレッスン場までの通り道を探したが見つからなかった。
もしかしたら、ブレスレットの上に雪が覆い被さってしまったのかもしれない。
いくら探しても一向に出てくる気配がなかったので、そろそろ諦めようかな。遅くなっては親に心配かけてしまうし。
母には素直に謝ろう。
しかし、お気に入りのブレスレットを失くしてしまったことがやはり悲しくて、目の前がボヤけてきた。涙が溢れそうだったので、左袖で拭こうとしたときだった。
「そこで何してるんだ?」
「え……?」
左手首を掴まれ、驚いて振り返る。
そこには金髪で青色の瞳の、外国人のような美しい顔立ちの少年がいた。
思わず目が点になる。手を掴まれたことにも驚いたが、日本語で話しかけられたからだ。
ここはイギリス。
まさか家族以外の日本語を聞くとは思わなかった。
「おい、具合が悪いのか?」
私が中々答えないことに不安になったのか、少年は私の顔色をうかがった。
「あ……あの、お気に入りのブレスレットを失くしてしまって。それで落ち込んでいたの」
「それは、どんなブレスレットだ」
「花モチーフの……って、どこへ行くの?」
少年が私の手を引くので、慌てて問う。
「アクセサリーショップだ。同じものがあるかは分からないが、ブレスレット贈る」
「え!? そんなの悪いよ。お礼もできないし……」
「別にお礼をもらいたくて贈るわけじゃないから、気にしなくていい」
初対面のはずだけれど、良いのかしら?
私は少年のなすがまま、彼の後ろをついていった。
近くのショッピングモールに着き、アクセサリーショップへ向かう。
早速お店の中へ入ると、落ち着いた雰囲気で私好みだった。
「好きなデザインのを選んでこい」
少年は手を離し、私にブレスレットを持ってくるよう促す。
私はブレスレットのコーナー向かい、花モチーフのを探したが、母に貰ったブレスレットと同じデザインのものはなかった。この店では取り扱っていなかったかもしれないし、一点ものだったのかもしれない。
そこで少年を連想させる、雪の結晶がモチーフのブレスレットを探した。
少年に出会ったのが雪の日だったから。きっと彼に会ったのも何かの縁だし、大切にしたい。
「あ! これしよう」
私は透き通ったホワイト、ライトブルー、シルバーをベースに、アクセントとして鮮やかな青色のビーズボールが組み込まれているブレスレットを手に取った。中央に雪の結晶のチャームがついていて、幻想的なデザインに惹かれたのだ。
少年のもとへ戻ると、彼の手にはクリーム色のポーチが。
「それは?」
「これも一緒にやる。ブレスレットを外しているときは、これに仕舞っとけ」
「分かったわ」
私は少年と共にレジへ向かった。
店員にタグを切ってもらい、早速ブレスレットをつける。
アジャスターが付いているものなので、サイズもちょうどいい。これなら失くさないだろう。
右腕につけたブレスレットを眺めていると、少年は支払いが済んだようで紙袋を持っていた。少年が紙袋を私に差し出したので、両手で丁寧に受け取った。
「ほらよ。今度は失くすなよ」
「ありがとう、大事にする! えーと……」
ここでようやく、彼の名前を聞いていなかったことに気づいた。
「景吾だ」
私がなぜ言葉に詰まっているか察したのか、ケイゴくんは自ら名乗る。
「ケイゴくん……。私の名前は」
「時雨、だろう?」
ケイゴくんは微笑みをこぼす。
私も名乗ろうとしたら、既に知られていた。
「近所のホールで、お前の演奏を聴いたことがある。その時パンフレットを見て知った」
なるほど。
確かに毎年近所のホールで開催されている発表会で、私はヴァイオリンを弾いている。大半はレッスンに通っている生徒の親や友人たちが聴きに来るが、一般のお客さんも聴きに来ることがあるのだ。
小さな発表会なので、ケイゴくんが来ていたことには驚いたけれど。
そこで、ふと閃いた。
ヴァイオリンを練習して今より上達したら、彼の好きな曲を弾こう。
「ねえ、ケイゴくん」
「なんだ?」
「ブレスレットのお礼なんだけど……ケイゴくんの好きな曲、頑張って練習するから、いつか聴いてもらえないかな」
緊張のあまり、声が震えてしまった。
ケイゴくんは耳が肥えてそうだけれど、私のヴァイオリンで満足させてみせる。
私は密かに燃えていた。
ケイゴくんは目を見開いた後、
「ああ、楽しみにしてるぜ。ちなみに俺様が好きな音楽はワーグナーだ」
と目を輝かせるのだった。
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