蝶ノ光【番外編】
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澄み渡る空の下。
私は仁王と屋上でお昼を取っていた。
周りに人がいないので貸切状態だ。
「ほう。今日のおかずは唐揚げか」
私のお弁当箱を覗き込み、仁王がぽそりと呟く。
おそらく唐揚げが好きなのだろう。
仁王と屋上でお昼を食べる時はよくおかず交換をするのだが、私のお弁当に唐揚げが入っていると、必ず彼は欲する。
「食べる?」
「ああ、お前さんも好きなの取っていいぜよ」
仁王のお弁当箱が差し出される。お弁当の中には、ミートボール、卵焼き、きんぴらごぼうなどが入っていた。
どれも美味しそうだ。
「じゃあ、今日はタコさんウインナーと交換してもらおうかしら」
卵焼きと悩んだが、ウインナーを選ぶ。
「分かった」
仁王は頷き、私のお弁当箱の蓋にウインナーを乗せる。私もお弁当箱の蓋に唐揚げを乗せた。
「ん……お前さんの作った唐揚げは、やっぱり美味しいのう」
「ふふ、ありがとう! 早起きして作った甲斐があるわ」
唐揚げを食べ終え、仁王の口元が綻ぶ。
トクンと胸が高鳴った。
この笑顔が見たくて、時々唐揚げを作るようにしているのは秘密だ。彼に隠し事をしても、見破られてしまうかもしれないが、できるだけ内緒にしておきたい。
私は誤魔化すように、仁王から貰ったウインナーに手をつけた。
「そうじゃ、時雨。放課後の自主練、もう予定は決まっとるか?」
「ううん、まだよ」
「それなら跡部の大会に踏まえて、俺と練習せんか?」
「もちろん、良いわよ」
今日の部活の練習内容は自主練習だ。各自の判断で基礎練習しても良いし、練習試合しても良い。
また跡部主催の大会参加者は、テニススクールで練習しても良いことになっている。ただし、その場合は部室のホワイトボードに、外出する旨を書く必要があるけれど。
私もダブルス大会に向けて仁王と練習したかったので、快く承諾した。
「それじゃあ放課後は、図書館で待ち合わせはどうかな? 今週私の班は掃除ないから、自習スペースにいるわ」
「了解ナリ。掃除が終わり次第、図書館に向かうぜよ」
こうして放課後の自主練習を一緒にする約束をした私たちは、予鈴が鳴るまで屋上でのんびり過ごすのだった。
*
午後の授業が終わり、掃除の時間。
私は掃除当番ではないので、図書館へ向かう。
入り口の扉を開けて中へ入るが、いつもより利用者が少なかった。掃除の時間に入ったばかりだからだろう。
私は窓側の席を選び、椅子に腰をかけた。
バッグの中から筆箱とプリントを取り出し、数学の宿題に取りかかる。だが、数問解いたところで眠気に襲われた。
決して数学が苦手だからではない。むしろ柳に教わって、得意科目である。
一旦手を止めて頬をつねるが、上手く力が入らないせいか痛くない。睡魔に抗おうとするが、瞼が重いし、こくりこくりと船を漕ぐ。
少し仮眠した方が良さそうだ。
このまま宿題に手をつけても、全然進まないだろう。
私はテーブルに伏せて、目をゆっくり閉じた。
*
掃除が終わった俺は、時雨が待っている図書館へ歩を運ぶ。彼女と練習ができると思うと、自然と足取りが軽くなる。
練習試合をしようか、基礎練習をしようか。今日の練習メニューを考えながら、図書館に足を踏み入れた。
自習スペースにいるだろうと思い、窓際に向かおうとして固まる。
「なっ……」
探していた少女――時雨がテーブルに伏せて、すやすやと眠っていた。
慌てて辺りを見渡すが、誰もいない。ひとまず安心し、ゆっくりと息を吐く。
俺は静かに自習スペースへ近づき、時雨の隣の席に座った。彼女の可愛い寝顔をじっと見つめる。
他に自習スペースを利用している人がいないから良かったものの、誰かが通りかかったらどうするんじゃ。
時雨の髪を梳くように撫でる。疲れが溜まっていたのだろうか、起きる気配はない。
それとも俺の前だから隙だらけなのだろうか。信用されているのは嬉しいが、何とも複雑な気持ちである。
時雨を振り向かせるには、どうすれば良いか。
おかず交換を意識してか、お弁当箱に定期的に唐揚げを入れているあたり、悪く思われていないと感じる。
もう少し意識してもらうように振る舞うか……?
どんな手を使っても、彼女の口から好きと言わせたい。いや、焦って距離を縮めて警戒されたら元の子もないか。
ダブルス大会もあるし、今日みたいに練習に誘って、少し距離を詰めていこうと決心する。
図書館の時計を見ると、既に部活の開始時刻は過ぎていた。ずいぶんと考え込んでしまったようだ。
時雨の寝顔は名残惜しいが、そろそろ起こさなければ。
俺はため息をついてから、彼女の肩を揺すった。
*
誰かの熱を感じる。どうやら肩を揺すられているようだ。
私は重い瞼をなんとか上げると、目の前にいた仁王と目が合った。
「……!?」
な、なぜ仁王くんがここに。
驚きのあまり、声が出なかった。
徐々に頭が冴えてきて、図書館で待ち合わせしていたことを思い出す。
眠気に襲われて仮眠どころか、ぐっすり寝てしまったが。おかげで眠気はどこかへ飛んでいった。
「目は覚めたか、お姫様?」
「お、おかげさまで……」
寝顔を見られたのが恥ずかしく、目が泳ぐ。
「それじゃ、こっそり部室向かうか」
そう言いながら仁王は席を立ち、ラケットバッグを背負う。
なぜこっそりとなのだろう。
顔に出ていたのか、仁王は楽しげに口を開く。
「ちなみになんじゃが」
「?」
「既に部活始まってるぜよ」
「え! すぐに起こしてくれて良かったのに……って私が言えたことじゃないわね」
私は慌ててバッグに筆箱とプリントを入れ、肩にかけた。
「可愛い寝顔が名残惜しかったからのう。ほら」
仁王はくつくつと笑いつつ、手を差し出す。
頬がじわじわと熱くなるのを感じる。
私はゆっくりと仁王の手に自分の手を添えた。手が重なると、彼は目を細めて相好を崩した。
部室近くの物陰から様子を窺うと、人の気配はなかった。
部室で待ち伏せはなさそうだ。恐る恐る扉を開けて中に入ると、予想通り誰もいない。
「これでよし、と」
ホワイトボードに外出することを書いた。
あとはテニススクールに向かうだけ。ただそれだけなのだが、いつも利用する東門から行ったら、柳が待ち構えている気がしてならない。
そこで仁王と西門から行こうとしたのだが――。
「あ」
西門でばったりと柳に遭遇してしまった。待っていたとばかりに微笑んでいる。
「今日は珍しく遅刻だな」
「東門にいると思ったのに……」
「時雨が東門を回避して、西門を利用すると読んでいたからな。……まあいい、テニススクールで練習するんだろう?」
「ほう、怒らないんか」
隣の仁王は特に驚いた様子もなく訊ねる。
まるで、西門に柳が待ち受けていることが分かっていたようだ。
「今回だけだ。お前はともかく、時雨は遅刻したことないからな」
「ありがとう、蓮二」
柳にお礼を言い、仁王とテニススクールへ向かった。
ダブルス大会のパートナーはまだ決まっていないが、おそらく柳は乾と組み、大きな壁として立ちはだかるだろう。
全力で彼らに挑みたい。
私は誰が対戦相手に来ても負けることがないよう、練習に励むのだった。
私は仁王と屋上でお昼を取っていた。
周りに人がいないので貸切状態だ。
「ほう。今日のおかずは唐揚げか」
私のお弁当箱を覗き込み、仁王がぽそりと呟く。
おそらく唐揚げが好きなのだろう。
仁王と屋上でお昼を食べる時はよくおかず交換をするのだが、私のお弁当に唐揚げが入っていると、必ず彼は欲する。
「食べる?」
「ああ、お前さんも好きなの取っていいぜよ」
仁王のお弁当箱が差し出される。お弁当の中には、ミートボール、卵焼き、きんぴらごぼうなどが入っていた。
どれも美味しそうだ。
「じゃあ、今日はタコさんウインナーと交換してもらおうかしら」
卵焼きと悩んだが、ウインナーを選ぶ。
「分かった」
仁王は頷き、私のお弁当箱の蓋にウインナーを乗せる。私もお弁当箱の蓋に唐揚げを乗せた。
「ん……お前さんの作った唐揚げは、やっぱり美味しいのう」
「ふふ、ありがとう! 早起きして作った甲斐があるわ」
唐揚げを食べ終え、仁王の口元が綻ぶ。
トクンと胸が高鳴った。
この笑顔が見たくて、時々唐揚げを作るようにしているのは秘密だ。彼に隠し事をしても、見破られてしまうかもしれないが、できるだけ内緒にしておきたい。
私は誤魔化すように、仁王から貰ったウインナーに手をつけた。
「そうじゃ、時雨。放課後の自主練、もう予定は決まっとるか?」
「ううん、まだよ」
「それなら跡部の大会に踏まえて、俺と練習せんか?」
「もちろん、良いわよ」
今日の部活の練習内容は自主練習だ。各自の判断で基礎練習しても良いし、練習試合しても良い。
また跡部主催の大会参加者は、テニススクールで練習しても良いことになっている。ただし、その場合は部室のホワイトボードに、外出する旨を書く必要があるけれど。
私もダブルス大会に向けて仁王と練習したかったので、快く承諾した。
「それじゃあ放課後は、図書館で待ち合わせはどうかな? 今週私の班は掃除ないから、自習スペースにいるわ」
「了解ナリ。掃除が終わり次第、図書館に向かうぜよ」
こうして放課後の自主練習を一緒にする約束をした私たちは、予鈴が鳴るまで屋上でのんびり過ごすのだった。
*
午後の授業が終わり、掃除の時間。
私は掃除当番ではないので、図書館へ向かう。
入り口の扉を開けて中へ入るが、いつもより利用者が少なかった。掃除の時間に入ったばかりだからだろう。
私は窓側の席を選び、椅子に腰をかけた。
バッグの中から筆箱とプリントを取り出し、数学の宿題に取りかかる。だが、数問解いたところで眠気に襲われた。
決して数学が苦手だからではない。むしろ柳に教わって、得意科目である。
一旦手を止めて頬をつねるが、上手く力が入らないせいか痛くない。睡魔に抗おうとするが、瞼が重いし、こくりこくりと船を漕ぐ。
少し仮眠した方が良さそうだ。
このまま宿題に手をつけても、全然進まないだろう。
私はテーブルに伏せて、目をゆっくり閉じた。
*
掃除が終わった俺は、時雨が待っている図書館へ歩を運ぶ。彼女と練習ができると思うと、自然と足取りが軽くなる。
練習試合をしようか、基礎練習をしようか。今日の練習メニューを考えながら、図書館に足を踏み入れた。
自習スペースにいるだろうと思い、窓際に向かおうとして固まる。
「なっ……」
探していた少女――時雨がテーブルに伏せて、すやすやと眠っていた。
慌てて辺りを見渡すが、誰もいない。ひとまず安心し、ゆっくりと息を吐く。
俺は静かに自習スペースへ近づき、時雨の隣の席に座った。彼女の可愛い寝顔をじっと見つめる。
他に自習スペースを利用している人がいないから良かったものの、誰かが通りかかったらどうするんじゃ。
時雨の髪を梳くように撫でる。疲れが溜まっていたのだろうか、起きる気配はない。
それとも俺の前だから隙だらけなのだろうか。信用されているのは嬉しいが、何とも複雑な気持ちである。
時雨を振り向かせるには、どうすれば良いか。
おかず交換を意識してか、お弁当箱に定期的に唐揚げを入れているあたり、悪く思われていないと感じる。
もう少し意識してもらうように振る舞うか……?
どんな手を使っても、彼女の口から好きと言わせたい。いや、焦って距離を縮めて警戒されたら元の子もないか。
ダブルス大会もあるし、今日みたいに練習に誘って、少し距離を詰めていこうと決心する。
図書館の時計を見ると、既に部活の開始時刻は過ぎていた。ずいぶんと考え込んでしまったようだ。
時雨の寝顔は名残惜しいが、そろそろ起こさなければ。
俺はため息をついてから、彼女の肩を揺すった。
*
誰かの熱を感じる。どうやら肩を揺すられているようだ。
私は重い瞼をなんとか上げると、目の前にいた仁王と目が合った。
「……!?」
な、なぜ仁王くんがここに。
驚きのあまり、声が出なかった。
徐々に頭が冴えてきて、図書館で待ち合わせしていたことを思い出す。
眠気に襲われて仮眠どころか、ぐっすり寝てしまったが。おかげで眠気はどこかへ飛んでいった。
「目は覚めたか、お姫様?」
「お、おかげさまで……」
寝顔を見られたのが恥ずかしく、目が泳ぐ。
「それじゃ、こっそり部室向かうか」
そう言いながら仁王は席を立ち、ラケットバッグを背負う。
なぜこっそりとなのだろう。
顔に出ていたのか、仁王は楽しげに口を開く。
「ちなみになんじゃが」
「?」
「既に部活始まってるぜよ」
「え! すぐに起こしてくれて良かったのに……って私が言えたことじゃないわね」
私は慌ててバッグに筆箱とプリントを入れ、肩にかけた。
「可愛い寝顔が名残惜しかったからのう。ほら」
仁王はくつくつと笑いつつ、手を差し出す。
頬がじわじわと熱くなるのを感じる。
私はゆっくりと仁王の手に自分の手を添えた。手が重なると、彼は目を細めて相好を崩した。
部室近くの物陰から様子を窺うと、人の気配はなかった。
部室で待ち伏せはなさそうだ。恐る恐る扉を開けて中に入ると、予想通り誰もいない。
「これでよし、と」
ホワイトボードに外出することを書いた。
あとはテニススクールに向かうだけ。ただそれだけなのだが、いつも利用する東門から行ったら、柳が待ち構えている気がしてならない。
そこで仁王と西門から行こうとしたのだが――。
「あ」
西門でばったりと柳に遭遇してしまった。待っていたとばかりに微笑んでいる。
「今日は珍しく遅刻だな」
「東門にいると思ったのに……」
「時雨が東門を回避して、西門を利用すると読んでいたからな。……まあいい、テニススクールで練習するんだろう?」
「ほう、怒らないんか」
隣の仁王は特に驚いた様子もなく訊ねる。
まるで、西門に柳が待ち受けていることが分かっていたようだ。
「今回だけだ。お前はともかく、時雨は遅刻したことないからな」
「ありがとう、蓮二」
柳にお礼を言い、仁王とテニススクールへ向かった。
ダブルス大会のパートナーはまだ決まっていないが、おそらく柳は乾と組み、大きな壁として立ちはだかるだろう。
全力で彼らに挑みたい。
私は誰が対戦相手に来ても負けることがないよう、練習に励むのだった。