蝶ノ光【番外編】
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ゴールデンウィークも終わった五月上旬のある日のこと。
幸村から部活が始まる前に、レギュラー陣とマネージャーである私に話があると連絡があった。
何か大事なことがあっただろうかと疑問に思いつつ、さっさとジャージに着替える。
部室へ向かうと既にメンバーは全員揃っていた。
幸村、真田、柳が前に立つ。そして、幸村がまず口を開いた。
「さて、みんな集まったようだね。みんな知っての通り、今月の下旬に中間テストがある。テスト一週間前からテスト最終日は、ダブルス大会のバッジを賭けた試合は禁止となると跡部から連絡があった」
「テニスも大事だが、学生の本分は勉強。赤点を取らないよう勉強も励んでほしい。特に赤也!」
「は、はい!」
真田に名指しされた切原は、ビクリと肩を上げた。
「お前には、今回こそ英語で赤点回避を目指してもらう」
「そんな無茶ッスよ~」
「たるんどる! 授業をちゃんと受けて、復習すれば赤点回避はできる。再試験でテニスをする時間が削られるのは、もってのほかだ」
立海では主要五科目のテストで赤点を取ると再試験がある。
仁王曰く、切原は英語の再試験の常連らしい。
「今回は俺がテスト勉強に付き合うから、心配しなくていい。そして80点以上取れたら精市、弦一郎、俺と試合ができる特典付きだ」
「マジっすか!? 頑張って勉強します!」
目標を達成すれば三強と試合できるという言葉を聞いた直後、先程までのしょんぼりした姿は嘘のように、切原は目を輝かせた。
それにしても柳に勉強を教えてもらえるなんて、羨ましい限りだ。
「テストで赤点取るつもりはないけど、頑張った特典がないとやる気が出ないだろい」
「そうだな……それじゃあ、テストの合計点が一番高かった人には、このテニスに関する何でも券をプレゼントしよう」
幸村はポケットから、名刺サイズのカードを取り出した。
「テニスに関する何でも券……? それにしても用意がいいのう」
「赤也に特典を与えるなら、他のメンバーも特典があった方が良いと、蓮二からアドバイスがあってね。この券を手にした人は、一回だけテニスに関する決定権が与えられるよ。例えば、次の試合でS1に出るとかね」
「なるほど。それは魅力的な話ですね」
「モチベーションが上がるな。白石さんは、何かテニスに関する要望はあるか?」
「そうね……」
ジャッカルに聞かれて考えてみるが、すぐには出てこなかった。
周りを見渡すと、どうやらみんな既に要望が決まっているらしい。
「私はすぐには決まらないから、テスト勉強しながら考えるわ。それに勝負となれば、負けたくないし」
こっそり柳を見る。
彼は成績優秀で、いつも学年上位と百合に聞いた。テニスに関する要望が何であれ、彼に勝たなければ叶えられない。
「なるほど、白石さんは柳をライバル視してるわけか。確かに強敵だ」
テストまであと三週間。今から地道に勉強すれば、間に合うだろう。
私は部活が終わった後、いつもお世話になっている人物に連絡を入れるのだった。
*
「今日もよろしくお願いします、貞治先生!」
「では、今日の授業を開始しよう」
乾が眼鏡のブリッジを上げる。
青学に在籍していた頃は、テスト期間によく乾に勉強を教わり、高得点を取ることができた。
私は立海に転校することになったが、勉強を教えてもらえないか相談してみたところ、快く応じてくれた。
そのため、土日はテニスの練習をした後、私の家で勉強を見てもらうことに。
試験範囲は青学とほぼ同じため、自分のテスト勉強の復習にもなるらしい。分かりやすい説明のおかげで、すんなりと理解することができた。
苦手な古典の問題に取り組むこと数十分。
「この調子なら、本番でも九割以上解けるだろう。他の科目も仕上がっているし、時雨の実力なら蓮二以上の点数も取れるはずだ」
「そうかな? 貞治にそう言ってもらえるなら、自信がつくわ。……ところで授業のお礼は、本当にテニスの練習に付き合うで良いのかしら」
テスト勉強の相談をした時、対価はテニスに付き合ってほしいと言っていたが、私はそれで良いのか心配になった。勉強を教えてくれるばかりか、全科目――国語、社会、数学、理科、外国語の五科目――の試験対策問題集を作ってくれたからである。
「ああ、構わない。時雨とのテニスは楽しいからね。それに蓮二には勝ってほしいし」
「貞治に教えてもらったからには、良い報告ができるように頑張るわ」
「期待しているよ」
それから勉強を再開し、乾との勉強会が終わった後は、試験対策問題集で間違えた箇所を復習した。
*
全科目の試験が終わり、個人の結果表が配られた。結果は、乾とテスト勉強した成果もあり、高得点を取ることができた。
合計点の発表は、部室で行うことになっている。それまでは、他のメンバーの点数は聞かない約束をしているため、同じクラスである仁王、丸井の結果もお互い知らない。
私は結果表を片手に、部室の扉を開けた。
中に入ると、レギュラー陣はテーブルを囲って立っていた。よく見ると、それぞれの手元に横長の紙が伏せられている。あれはおそらく、テストの結果表だろう。
「やあ、白石さん。早速だけど、君も結果表をテーブルに置いてほしい。みんな一斉にひっくり返して点数を発表することになったんだ」
幸村に促され、私は仁王と丸井の間に入り、結果表を伏せた。
ゴクリと固唾を呑む。
「それじゃあ、せーの!」
幸村の合図に従い、紙を反転させた。
今回のテストは最高で合計500点だ。
右隣の丸井の結果表から順に目を向ける。
合計点の欄を見ると、
丸井 426
ジャッカル 431
切原 415
柳 490
真田 482
幸村 483
柳生 481
仁王 494
白石 493
だった。
仁王の結果表を二度見する。
柳には勝ったが、仁王に一点届かなかった。
テストが返却されたときは、一番も夢じゃないと思ったが、上には上がいたのだ。
私は拳を強く握った。
「みんな、いつも以上に頑張ったようだね。特に赤也。英語が前回の倍以上取れてて、凄いじゃないか」
「へへっ、柳先輩のおかげッスよ! それはそうとして、先輩たちの合計点エグくありません?」
「仁王くんがここまで点数を取るとは、正直予想していませんでした。普段好きな科目しかやる気を出さないあなたが、どういう風の吹き回しでしょうか」
柳生が静かに仁王へ問う。
どうやら普段のテストは、今回ほど熱心に勉強に取り組んでいないらしい。
「今回は合計点が一番高ければ特典が付くからのう。真面目にテスト勉強したわけよ」
「仁王の望みはなんだい?」
幸村が仁王にテニスに関する何でも券を渡した。
「雪宮さんに一日マネージャーやってもらうことじゃ」
雪宮さんこと雪宮桜とは、以前鬼ごっこをした際に使った、私が変装した姿である。
そして先日、仁王の指導のもと、雪宮桜の姿で一日マネージャーをやった。私の正体に気付けなかったレギュラー陣は、グラウンド10周の刑付きで。
「はー!? 仁王先輩、マジで言ってるんスか」
「そうだぜ、仁王! この前アイツがマネージャーをやった翌日、なぜかグラウンド10周させられたの忘れてないよな?」
「グラウンド10周したのは、丸井、ジャッカル、赤也の三人じゃろう」
「ぐっ……そうだけど!」
「俺は観察眼が鍛えられるから、良いと思うよ。良いよね、真田」
「幸村の言うとおりだ。もちろん、構わない」
「雪宮のテニスの腕は、現マネージャーに負けず劣らずだから問題ないだろう」
それはそうでしょうね、同一人物なのですから。
柳をちらりと見ると、視線に気付いた彼はフッと微笑んだ。
「それに、俺も雪宮さんと試合してみたいからのう」
鬼ごっこの期間中、柳が私の変装を見破ったか確かめるために、雪宮桜としてマネージャーをやった。
その際、柳にウォーミングアップという名の一球勝負を申し込まれたのだ。
「それじゃあ、ちょうど近々部活を休まないといけない用事があるから、その日に臨時マネージャーやってもらえないか頼んでみるね」
「よろしく頼むぜよ。ところで、白石さんはテストで一位になったら、何をリクエストするつもりだったんじゃ?」
「ふふ、それは秘密。もし桜に試合で勝ったら教えるわ」
「望むところぜよ。楽しみナリ」
仁王が不敵な笑みを浮かべる。
こうして仁王の要望により、後日、雪宮桜としてマネージャーをやることが決まった。
私の要望は、半分叶ったようなものだ。
彼との試合に勝つため、まずは今日の部活を頑張ろうと思うのだった。
幸村から部活が始まる前に、レギュラー陣とマネージャーである私に話があると連絡があった。
何か大事なことがあっただろうかと疑問に思いつつ、さっさとジャージに着替える。
部室へ向かうと既にメンバーは全員揃っていた。
幸村、真田、柳が前に立つ。そして、幸村がまず口を開いた。
「さて、みんな集まったようだね。みんな知っての通り、今月の下旬に中間テストがある。テスト一週間前からテスト最終日は、ダブルス大会のバッジを賭けた試合は禁止となると跡部から連絡があった」
「テニスも大事だが、学生の本分は勉強。赤点を取らないよう勉強も励んでほしい。特に赤也!」
「は、はい!」
真田に名指しされた切原は、ビクリと肩を上げた。
「お前には、今回こそ英語で赤点回避を目指してもらう」
「そんな無茶ッスよ~」
「たるんどる! 授業をちゃんと受けて、復習すれば赤点回避はできる。再試験でテニスをする時間が削られるのは、もってのほかだ」
立海では主要五科目のテストで赤点を取ると再試験がある。
仁王曰く、切原は英語の再試験の常連らしい。
「今回は俺がテスト勉強に付き合うから、心配しなくていい。そして80点以上取れたら精市、弦一郎、俺と試合ができる特典付きだ」
「マジっすか!? 頑張って勉強します!」
目標を達成すれば三強と試合できるという言葉を聞いた直後、先程までのしょんぼりした姿は嘘のように、切原は目を輝かせた。
それにしても柳に勉強を教えてもらえるなんて、羨ましい限りだ。
「テストで赤点取るつもりはないけど、頑張った特典がないとやる気が出ないだろい」
「そうだな……それじゃあ、テストの合計点が一番高かった人には、このテニスに関する何でも券をプレゼントしよう」
幸村はポケットから、名刺サイズのカードを取り出した。
「テニスに関する何でも券……? それにしても用意がいいのう」
「赤也に特典を与えるなら、他のメンバーも特典があった方が良いと、蓮二からアドバイスがあってね。この券を手にした人は、一回だけテニスに関する決定権が与えられるよ。例えば、次の試合でS1に出るとかね」
「なるほど。それは魅力的な話ですね」
「モチベーションが上がるな。白石さんは、何かテニスに関する要望はあるか?」
「そうね……」
ジャッカルに聞かれて考えてみるが、すぐには出てこなかった。
周りを見渡すと、どうやらみんな既に要望が決まっているらしい。
「私はすぐには決まらないから、テスト勉強しながら考えるわ。それに勝負となれば、負けたくないし」
こっそり柳を見る。
彼は成績優秀で、いつも学年上位と百合に聞いた。テニスに関する要望が何であれ、彼に勝たなければ叶えられない。
「なるほど、白石さんは柳をライバル視してるわけか。確かに強敵だ」
テストまであと三週間。今から地道に勉強すれば、間に合うだろう。
私は部活が終わった後、いつもお世話になっている人物に連絡を入れるのだった。
*
「今日もよろしくお願いします、貞治先生!」
「では、今日の授業を開始しよう」
乾が眼鏡のブリッジを上げる。
青学に在籍していた頃は、テスト期間によく乾に勉強を教わり、高得点を取ることができた。
私は立海に転校することになったが、勉強を教えてもらえないか相談してみたところ、快く応じてくれた。
そのため、土日はテニスの練習をした後、私の家で勉強を見てもらうことに。
試験範囲は青学とほぼ同じため、自分のテスト勉強の復習にもなるらしい。分かりやすい説明のおかげで、すんなりと理解することができた。
苦手な古典の問題に取り組むこと数十分。
「この調子なら、本番でも九割以上解けるだろう。他の科目も仕上がっているし、時雨の実力なら蓮二以上の点数も取れるはずだ」
「そうかな? 貞治にそう言ってもらえるなら、自信がつくわ。……ところで授業のお礼は、本当にテニスの練習に付き合うで良いのかしら」
テスト勉強の相談をした時、対価はテニスに付き合ってほしいと言っていたが、私はそれで良いのか心配になった。勉強を教えてくれるばかりか、全科目――国語、社会、数学、理科、外国語の五科目――の試験対策問題集を作ってくれたからである。
「ああ、構わない。時雨とのテニスは楽しいからね。それに蓮二には勝ってほしいし」
「貞治に教えてもらったからには、良い報告ができるように頑張るわ」
「期待しているよ」
それから勉強を再開し、乾との勉強会が終わった後は、試験対策問題集で間違えた箇所を復習した。
*
全科目の試験が終わり、個人の結果表が配られた。結果は、乾とテスト勉強した成果もあり、高得点を取ることができた。
合計点の発表は、部室で行うことになっている。それまでは、他のメンバーの点数は聞かない約束をしているため、同じクラスである仁王、丸井の結果もお互い知らない。
私は結果表を片手に、部室の扉を開けた。
中に入ると、レギュラー陣はテーブルを囲って立っていた。よく見ると、それぞれの手元に横長の紙が伏せられている。あれはおそらく、テストの結果表だろう。
「やあ、白石さん。早速だけど、君も結果表をテーブルに置いてほしい。みんな一斉にひっくり返して点数を発表することになったんだ」
幸村に促され、私は仁王と丸井の間に入り、結果表を伏せた。
ゴクリと固唾を呑む。
「それじゃあ、せーの!」
幸村の合図に従い、紙を反転させた。
今回のテストは最高で合計500点だ。
右隣の丸井の結果表から順に目を向ける。
合計点の欄を見ると、
丸井 426
ジャッカル 431
切原 415
柳 490
真田 482
幸村 483
柳生 481
仁王 494
白石 493
だった。
仁王の結果表を二度見する。
柳には勝ったが、仁王に一点届かなかった。
テストが返却されたときは、一番も夢じゃないと思ったが、上には上がいたのだ。
私は拳を強く握った。
「みんな、いつも以上に頑張ったようだね。特に赤也。英語が前回の倍以上取れてて、凄いじゃないか」
「へへっ、柳先輩のおかげッスよ! それはそうとして、先輩たちの合計点エグくありません?」
「仁王くんがここまで点数を取るとは、正直予想していませんでした。普段好きな科目しかやる気を出さないあなたが、どういう風の吹き回しでしょうか」
柳生が静かに仁王へ問う。
どうやら普段のテストは、今回ほど熱心に勉強に取り組んでいないらしい。
「今回は合計点が一番高ければ特典が付くからのう。真面目にテスト勉強したわけよ」
「仁王の望みはなんだい?」
幸村が仁王にテニスに関する何でも券を渡した。
「雪宮さんに一日マネージャーやってもらうことじゃ」
雪宮さんこと雪宮桜とは、以前鬼ごっこをした際に使った、私が変装した姿である。
そして先日、仁王の指導のもと、雪宮桜の姿で一日マネージャーをやった。私の正体に気付けなかったレギュラー陣は、グラウンド10周の刑付きで。
「はー!? 仁王先輩、マジで言ってるんスか」
「そうだぜ、仁王! この前アイツがマネージャーをやった翌日、なぜかグラウンド10周させられたの忘れてないよな?」
「グラウンド10周したのは、丸井、ジャッカル、赤也の三人じゃろう」
「ぐっ……そうだけど!」
「俺は観察眼が鍛えられるから、良いと思うよ。良いよね、真田」
「幸村の言うとおりだ。もちろん、構わない」
「雪宮のテニスの腕は、現マネージャーに負けず劣らずだから問題ないだろう」
それはそうでしょうね、同一人物なのですから。
柳をちらりと見ると、視線に気付いた彼はフッと微笑んだ。
「それに、俺も雪宮さんと試合してみたいからのう」
鬼ごっこの期間中、柳が私の変装を見破ったか確かめるために、雪宮桜としてマネージャーをやった。
その際、柳にウォーミングアップという名の一球勝負を申し込まれたのだ。
「それじゃあ、ちょうど近々部活を休まないといけない用事があるから、その日に臨時マネージャーやってもらえないか頼んでみるね」
「よろしく頼むぜよ。ところで、白石さんはテストで一位になったら、何をリクエストするつもりだったんじゃ?」
「ふふ、それは秘密。もし桜に試合で勝ったら教えるわ」
「望むところぜよ。楽しみナリ」
仁王が不敵な笑みを浮かべる。
こうして仁王の要望により、後日、雪宮桜としてマネージャーをやることが決まった。
私の要望は、半分叶ったようなものだ。
彼との試合に勝つため、まずは今日の部活を頑張ろうと思うのだった。