蝶ノ光【番外編】
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それは唐突に始まった。
「三強と一球勝負?」
「ああ、今日は俺、真田、蓮二のいずれか一人と一球勝負をしてもらう」
部活の練習中、幸村からコートに呼び出されたレギュラー陣とマネージャーである私。
幸村、真田、柳が前に立ち、幸村が一球勝負について説明する。
「ルールはシンプル。シングルスの一本勝負で、ポイントを取った方が勝ち。対戦カードは、これからあみだくじで決めてもらう」
「勝負と言うからには、ご褒美があるとモチベーション上がりません?」
見るからにやる気満々の切原だが、ここぞとばかりに主張する。
幸村は口元に手を当て、少し考え込んだ。
「そうだな……じゃあ、もし俺たちからポイント奪えたら一つお願いを聞こう。もちろん、常識的な範囲でね」
「よっしゃ!!」
余程嬉しかったのか、ガッツポーズをする切原。あの様子だと、すでに願い事が決まっているのだろう。
魅力的なご褒美を前に、頬が緩む。日頃から伝えたかった頼み事を言えるチャンスである。
「幸村、あまり赤也を甘やかすのは……」
「まあ、たまには良いじゃないか弦一郎。赤也以外にも喜んでいる者はいるぞ」
心配そうにする真田を宥める柳。そして、ちらりとこちらを見て微笑む。
私は急に恥ずかしくなり、柳から目を逸らした。顔を引き締めるため、ぺちぺちと頬を叩く。
「ところで、どうして私まで呼ばれたの?」
視線を幸村に向けて、私は問う。
「白石さんに、たまには息抜きしてほしいと思ってさ。俺が君と対戦してみたいっていうのもあるけど」
そう言ってもらえるのは、素直に嬉しい。
しかし幸村が対戦相手になった場合、一番息抜きならないのではと思ったのは内緒だ。
「それでは早速、対戦カードを決めよう。こちらで用意したあみだくじに線を一本足して、上に名前を記入してくれ」
柳が紙とペンをこちらに差し出す。線の下部分は、三強いずれかの名前が書かれているため折られていた。
名前を書く順番をジャンケンで決めた結果、私は一番最後になった。
平行線の間に線を一本書き足し、残るスペースに名前を記入する。
「全員名前を書き終わったようだね。対戦相手を発表するよ」
幸村が紙を広げ、あみだくじの結果を読みあげる。
柳生と仁王が対戦するのは幸村。
切原と丸井は柳。
そして、私とジャッカルは真田と対戦することになった。
「お、白石さんも真田と対戦か。お互い頑張ろうぜ」
「ええ、全力を尽くしましょう」
こうして名前を書いた順番に、一球勝負をすることになったのだが――
「皆、動きが悪すぎるよ」
誰も三強からポイントを取ることが出来ず、私の番が回ってきた。
ゴクリと唾を飲み込む。
正直なところ、実力差は明らかだ。日頃の練習量、テニスの力量、精神面の強さ……どれをとっても真田に勝る要素が見当たらない。
そして、これはシングルスの試合である。ダブルスプレイヤーである私に勝てる可能性はあるのだろうか。
いや、それでも一太刀浴びせたい。
私はラケットをぎゅっと握りしめ、コートに入った。
「いくらお前だからって、容赦はせんぞ」
「臨むところよ」
サーブ権は挑戦者の私から。
ボールを指のお腹でふわっと持つ。
いざ、尋常に勝負。
私は右手をまっすぐ上げ、ボールを空中に投げ上げた。
*
「すげぇ……いつまで続くんだ、このラリー」
かれこれ5分以上ラリーが続いている。何度か危ない場面もあったが、なんとか食らいついていた。
「ここまでやるとはな。少々甘く見ていたようだ。だが、これはどうだ?」
真田の居合い切りのように素早いスイングから、目にも留まらぬボールが繰り出される。
ついに来たわね、風林火山。
たしかにボールは速いが対処法はある。
なぜなら――
「ボールが白石の方へ引き寄せられている……!?」
あらかじめボールに回転をかけて、自分のもとへ来るようにコントロールしたからだ。
リョーマの父である南次郎に指導してもらい、ようやくボールを引き寄せることができてきた。まだ未完成の技なので、彼のように軸足一歩も動かずとはいかないが。
真田を相手にラリーを続けられたのも、この技のおかげである。
「ならば、分かっていても返せぬ打球ならどうだ」
今度はグランドスマッシュが炸裂した。
「真田のやつ、火を出すとか容赦なさすぎだろい」
「…………っ!」
予想以上にボールが重く、咄嗟にラケットを両手で握った。ラケットがこぼれ落ちそうになるのを必死に耐える。
以前の私だったら、諦めていたかもしれない。
でも今は違う。
ここで諦めたら、混合ダブルス大会で優勝なんて夢の夢。
「はあああああ!!」
氷刃の舞を使い、気合いで返す。やや強引に返したためバランスを崩し、片膝をついた。
ボールはネットに当たり、宙を舞う。
全てがスロー再生したようにゆっくりに見えた。
やがて落下したボールはネットの上段を滑り――――
「勝者、白石時雨!」
真田側のコートに落ちた。
「すっげー! 真田副部長に勝っちまった!」
「良い試合でしたね」
「真田からポイントを奪うとはのう。見事ナリ」
試合を観戦していたレギュラー陣のはしゃぎ声が聞こえる。
実感が湧かず、呆然とする私。
本当に……勝ったの?
「勝者が跪いてどうする。早く立たんか」
「えっ? え?」
いつの間にか真田がコートの中央に来ていたので、慌てて立ち上がり、そこへ向かう。
「見事なプレーだった。称賛に値する」
真田が手を差し伸べてきたので、私も手を出して握手する。
「おめでとう、白石さん。ナイスゲーム」
コートの脇にいた幸村たちがこちらに集まって来た。
「真田に勝ったわけだけど、何か願い事はあるかい?」
そういえば一球勝負で勝てたら、一つお願いができるんだっけ。
真田との試合に必死すぎて失念していた。
願い事、それは。
「私……皆さんと遊びに行きたいです」
「ふふ、やはりね。そう言うと思って用意したんだ」
ポケットからアミューズメントパークのチケットを取り出す幸村。
あまりの自然な流れに、私は驚くことを忘れた。
チケットの枚数を数えると合計九枚。
まるで予定通りだと言わんばかりの手際のよさだ。
「…………エスパー?」
「ははっ、面白いこと言うね。たしかに白石さんから見たら、彼はエスパーだ」
幸村は柳へ視線を投げ掛けた。
この様子から察するに、幸村が私の願い事を柳からリサーチしたということか。たしかに柳なら、私の願い事の一つや二つ当てるのは容易いことだろう。
いや、待てよ。
切原から勝ったらご褒美がほしいという要望が出なければ、願い事の話は出てこなかったはず。
「全員、共犯者だったってこと?」
「そうだね。一球勝負でも試合は試合だから、俺たち三人も本気で勝ちにいったけど。レギュラー陣に、より鍛えてもらわなければならないのは置いといて」
「どうして……」
「言っただろう? 白石さんに息抜きしてほしいって。いつも頑張ってる君に、皆からご褒美だ」
幸村がふんわりと微笑む。
周りを見ると全員、私を祝福してくれた。
「……みんな、ありがとう」
嬉しくて涙腺が熱くなるのを感じた。
そっと目を擦り、喜びを噛み締める。
私は立海のマネージャーになれて良かった、と改めて実感するのだった。
そして、後日。
立海レギュラー陣とアミューズメントパークに行ったのだが――――
そこに氷帝レギュラー陣がいて、彼らとゲーム大会が繰り広げられるのは、また別の話。
「三強と一球勝負?」
「ああ、今日は俺、真田、蓮二のいずれか一人と一球勝負をしてもらう」
部活の練習中、幸村からコートに呼び出されたレギュラー陣とマネージャーである私。
幸村、真田、柳が前に立ち、幸村が一球勝負について説明する。
「ルールはシンプル。シングルスの一本勝負で、ポイントを取った方が勝ち。対戦カードは、これからあみだくじで決めてもらう」
「勝負と言うからには、ご褒美があるとモチベーション上がりません?」
見るからにやる気満々の切原だが、ここぞとばかりに主張する。
幸村は口元に手を当て、少し考え込んだ。
「そうだな……じゃあ、もし俺たちからポイント奪えたら一つお願いを聞こう。もちろん、常識的な範囲でね」
「よっしゃ!!」
余程嬉しかったのか、ガッツポーズをする切原。あの様子だと、すでに願い事が決まっているのだろう。
魅力的なご褒美を前に、頬が緩む。日頃から伝えたかった頼み事を言えるチャンスである。
「幸村、あまり赤也を甘やかすのは……」
「まあ、たまには良いじゃないか弦一郎。赤也以外にも喜んでいる者はいるぞ」
心配そうにする真田を宥める柳。そして、ちらりとこちらを見て微笑む。
私は急に恥ずかしくなり、柳から目を逸らした。顔を引き締めるため、ぺちぺちと頬を叩く。
「ところで、どうして私まで呼ばれたの?」
視線を幸村に向けて、私は問う。
「白石さんに、たまには息抜きしてほしいと思ってさ。俺が君と対戦してみたいっていうのもあるけど」
そう言ってもらえるのは、素直に嬉しい。
しかし幸村が対戦相手になった場合、一番息抜きならないのではと思ったのは内緒だ。
「それでは早速、対戦カードを決めよう。こちらで用意したあみだくじに線を一本足して、上に名前を記入してくれ」
柳が紙とペンをこちらに差し出す。線の下部分は、三強いずれかの名前が書かれているため折られていた。
名前を書く順番をジャンケンで決めた結果、私は一番最後になった。
平行線の間に線を一本書き足し、残るスペースに名前を記入する。
「全員名前を書き終わったようだね。対戦相手を発表するよ」
幸村が紙を広げ、あみだくじの結果を読みあげる。
柳生と仁王が対戦するのは幸村。
切原と丸井は柳。
そして、私とジャッカルは真田と対戦することになった。
「お、白石さんも真田と対戦か。お互い頑張ろうぜ」
「ええ、全力を尽くしましょう」
こうして名前を書いた順番に、一球勝負をすることになったのだが――
「皆、動きが悪すぎるよ」
誰も三強からポイントを取ることが出来ず、私の番が回ってきた。
ゴクリと唾を飲み込む。
正直なところ、実力差は明らかだ。日頃の練習量、テニスの力量、精神面の強さ……どれをとっても真田に勝る要素が見当たらない。
そして、これはシングルスの試合である。ダブルスプレイヤーである私に勝てる可能性はあるのだろうか。
いや、それでも一太刀浴びせたい。
私はラケットをぎゅっと握りしめ、コートに入った。
「いくらお前だからって、容赦はせんぞ」
「臨むところよ」
サーブ権は挑戦者の私から。
ボールを指のお腹でふわっと持つ。
いざ、尋常に勝負。
私は右手をまっすぐ上げ、ボールを空中に投げ上げた。
*
「すげぇ……いつまで続くんだ、このラリー」
かれこれ5分以上ラリーが続いている。何度か危ない場面もあったが、なんとか食らいついていた。
「ここまでやるとはな。少々甘く見ていたようだ。だが、これはどうだ?」
真田の居合い切りのように素早いスイングから、目にも留まらぬボールが繰り出される。
ついに来たわね、風林火山。
たしかにボールは速いが対処法はある。
なぜなら――
「ボールが白石の方へ引き寄せられている……!?」
あらかじめボールに回転をかけて、自分のもとへ来るようにコントロールしたからだ。
リョーマの父である南次郎に指導してもらい、ようやくボールを引き寄せることができてきた。まだ未完成の技なので、彼のように軸足一歩も動かずとはいかないが。
真田を相手にラリーを続けられたのも、この技のおかげである。
「ならば、分かっていても返せぬ打球ならどうだ」
今度はグランドスマッシュが炸裂した。
「真田のやつ、火を出すとか容赦なさすぎだろい」
「…………っ!」
予想以上にボールが重く、咄嗟にラケットを両手で握った。ラケットがこぼれ落ちそうになるのを必死に耐える。
以前の私だったら、諦めていたかもしれない。
でも今は違う。
ここで諦めたら、混合ダブルス大会で優勝なんて夢の夢。
「はあああああ!!」
氷刃の舞を使い、気合いで返す。やや強引に返したためバランスを崩し、片膝をついた。
ボールはネットに当たり、宙を舞う。
全てがスロー再生したようにゆっくりに見えた。
やがて落下したボールはネットの上段を滑り――――
「勝者、白石時雨!」
真田側のコートに落ちた。
「すっげー! 真田副部長に勝っちまった!」
「良い試合でしたね」
「真田からポイントを奪うとはのう。見事ナリ」
試合を観戦していたレギュラー陣のはしゃぎ声が聞こえる。
実感が湧かず、呆然とする私。
本当に……勝ったの?
「勝者が跪いてどうする。早く立たんか」
「えっ? え?」
いつの間にか真田がコートの中央に来ていたので、慌てて立ち上がり、そこへ向かう。
「見事なプレーだった。称賛に値する」
真田が手を差し伸べてきたので、私も手を出して握手する。
「おめでとう、白石さん。ナイスゲーム」
コートの脇にいた幸村たちがこちらに集まって来た。
「真田に勝ったわけだけど、何か願い事はあるかい?」
そういえば一球勝負で勝てたら、一つお願いができるんだっけ。
真田との試合に必死すぎて失念していた。
願い事、それは。
「私……皆さんと遊びに行きたいです」
「ふふ、やはりね。そう言うと思って用意したんだ」
ポケットからアミューズメントパークのチケットを取り出す幸村。
あまりの自然な流れに、私は驚くことを忘れた。
チケットの枚数を数えると合計九枚。
まるで予定通りだと言わんばかりの手際のよさだ。
「…………エスパー?」
「ははっ、面白いこと言うね。たしかに白石さんから見たら、彼はエスパーだ」
幸村は柳へ視線を投げ掛けた。
この様子から察するに、幸村が私の願い事を柳からリサーチしたということか。たしかに柳なら、私の願い事の一つや二つ当てるのは容易いことだろう。
いや、待てよ。
切原から勝ったらご褒美がほしいという要望が出なければ、願い事の話は出てこなかったはず。
「全員、共犯者だったってこと?」
「そうだね。一球勝負でも試合は試合だから、俺たち三人も本気で勝ちにいったけど。レギュラー陣に、より鍛えてもらわなければならないのは置いといて」
「どうして……」
「言っただろう? 白石さんに息抜きしてほしいって。いつも頑張ってる君に、皆からご褒美だ」
幸村がふんわりと微笑む。
周りを見ると全員、私を祝福してくれた。
「……みんな、ありがとう」
嬉しくて涙腺が熱くなるのを感じた。
そっと目を擦り、喜びを噛み締める。
私は立海のマネージャーになれて良かった、と改めて実感するのだった。
そして、後日。
立海レギュラー陣とアミューズメントパークに行ったのだが――――
そこに氷帝レギュラー陣がいて、彼らとゲーム大会が繰り広げられるのは、また別の話。