蝶ノ光【番外編】
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冬のある日のこと。
その日は地上の温度が低く、湘南で雪が降った。例え雪が降っても、すぐ溶けてしまう程度なのに、珍しく積もっている。
家のチャイムが鳴り、モニターを見ると仁王が映っていた。
そろそろ学校に行く時間だ。
私は鞄を肩にかけ、ローファーではなくショートブーツを履いて外へ。仁王はマフラーで口元を隠し、コートに手を突っ込んでいた。
「雅治、おはよう!」
「ああ、おはよう。今日は一段と寒いのう」
「そうね。ただでさえ雪が降るなんて珍しいのに、積もるなんて」
仁王と並んで雪の上を歩くと、サクサクと音が鳴った。地面の表面が見えないので、まだ足跡がついていないところを歩きたくなる。
「ほら、ふらふら歩いていたら危ないぜよ」
幼い子供みたいにはしゃいでいると、仁王に手を掴まれた。
せっかくの機会だったのに。
少し頬を膨らませると、仁王が苦笑した。
「そんな顔しても、俺を喜ばせるだけぜよ。それに放課後、思いっきり遊べるから、雪遊びはそれまでお楽しみにしんしゃい」
放課後までのお楽しみとは、どういうことだろう。
小首を傾げると、仁王はトークアプリの画面を見せてくれた。そこには『今日は練習できませんし、放課後に雪合戦しません?』と切原からのメッセージが。メンバーは元レギュラー陣と私、切原とのこと。
もちろん私の答えは、参加一択だった。
*
放課後になり、ジャージに着替えてテニスコートへ。雪合戦をするので、手袋も忘れずに装着している。
目的地に着くと、辺りは真っ白に染まっていた。中央に支柱が立っており、辛うじてテニスコートのある場所が分かる。
跡部の氷の世界でも、ここまで雪を積もらせるのは難しいだろう。
「お待たせしました!」
既に私以外のメンバーは集まっていた。なんやかんや、皆楽しみだったのかもしれない。
「来たばかりだから大丈夫だよ。それじゃあ、雪合戦を始めようか」
幸村がふわりと微笑み、雪合戦のルールを説明した。
ネットとコートのラインの位置にテニスボールが雪に埋まっており、先に反対側のコートにいる相手チーム全員に、雪玉を当てたチームが勝者となる。雪玉に当たった人はコートから出るが、雪玉に当たる前に投げた雪玉は有効。
チーム分けは、くじ引きの結果、真田・柳・丸井・柳生チーム、私・幸村・仁王・切原チームに。
元マネージャーだったので、雪玉が当たったか判定する審判を引き受けようとしたが、ジャッカルが「雪合戦楽しみにしてたんだろ?」と代わってくれた。きっと雪合戦は一回だけでは終わらないので、二回戦は私が審判をしよう。
「試合開始!」
それぞれのチームがコート内に立ち、ジャッカルの合図で戦いの幕が切って落とされた。
「じゃ、遠慮なくいくぜ! ナックルサーブ!」
切原が真田に向かって雪玉を投げる。
「動くこと雷霆の如し」
切原が必殺技を叫んだからか、真田も必殺技を出して雪玉を避けた。
「妙技 鉄柱当て」
「メテオドライブ」
「レーザービーム」
テニスの時とは雪玉の動きが異なるが、皆ノリノリで必殺技を出す。
こうして試合が進み、雪玉を当てたり、躱されたりし――――
真田が幸村を目掛けて雪玉を投げた。そのまま幸村まで一直線に飛んだと思いきや、突然軌道が変わった。雪玉が私の方に迫ってくる。
「黒龍二重の斬」
「っ!?」
「白石さん、危ない!」
私を庇うために、幸村が私の前に立った。そして手にしていた雪玉を、素早く真田に向けて投げる。
「幸村、真田、アウト!」
ジャッカルのジャッジに従い、幸村と真田がコートから出た。
これで自チームでコートに残っているのは、私と仁王。対する相手チームは柳のみ。
数は勝っているが、油断はできない。
作戦を練ろうとする前に、早速柳が仁王に向けて雪玉を投げたのが見えた。
「かまいたち」
このままでは仁王に雪玉が当たってしまうだろう。気づけば全速力で彼に駆け寄り、押し倒していた。
背中越しに雪玉が通りすぎるのを確認。そのまま右手に体重をかけ、1回転して片膝をつく。
チラリと柳を確認すると、何故か目を開いて固まっていた。
チャンスだ。すぐさま雪玉を作って柳に目掛けて投げると、躱される素振りもなく、左腕に直撃した。
「あれ……?」
柳なら雪玉の軌道を予測して躱すかと思ったが、勝負は勝負。これで決着がついた。
「勝者、白石・幸村・仁王・切原チーム!」
ジャッカルが勝敗を宣言する。
先ほどから動かない柳が心配だが、まずは仁王と勝利を分かち合いたい。
「雅治、勝った……よ……? 雅治?」
そろそろ立ち上がっても良い頃合いなのに、仁王が動いた気配がないような。
慌てて仁王を見ると、大の字に寝そべってした。空をぼんやりと眺めている。
「だ、大丈夫?」
「重症じゃ」
「え!?」
まさか押し倒したときに、頭をぶつけてしまったのだろうか。
雪はふかふかなのでクッションとなり、衝撃が和らぐと思っていたのだが、怪我していたら大変だ。日常生活やテニスに支障をきたしたらどうしよう。
「……時雨がかっこよすぎて、心臓が止まるかと思った。今はバクバクいっちょる」
「え、と……?」
今度は私が固まる番だった。
仁王と視線が交わる。熱がこもった瞳に囚われて動けない。
雪合戦の最中は無我夢中で仁王を押し倒したが、今更になって頬が熱くなった。恥ずかしくなり、両手で頬を覆う。自分でも大胆なことをしたと思う。
「仁王なら問題ないから、心配するな」
隣から柳の声が聞こえ、ハッと我に返る。
仁王とやり取りをしている間に、柳がやってきて私の隣で片膝をついていた。彼にポンと肩を叩かれて落ち着きを取り戻し、ようやく動けるようになった。
「皆、二回戦もやる気満々だから、少し休憩したらコートの中央に来てほしい」
「分かったわ。……あ、蓮二! そういえば最後の雪玉、なんで躱さなかったの?」
柳が立ち去りそうだったので、慌てて腕を掴む。
今の状態で仁王と二人きりなんて、心臓がもたない。仁王は寝そべった状態から上半身を起こしたが、私への熱い視線は外さないし。
「そうだな……」
「珍しく動揺してたのう。ま、時雨が俺を押し倒したから、驚いたんじゃろう。気付いたら目の前に時雨の顔があって、俺も驚いたぜよ」
「仁王」
「本当のことを言っただけじゃ」
「ふふっ……」
図星だったのか、柳の表情が少し硬くなる。いつも冷静な彼の珍しい姿が面白くて、思わず笑みがこぼれた。
柳に何を言われても、のろりくらりとかわす仁王。
それで機嫌を悪くさせてしまったのか、二回戦も柳とチームが異なった仁王は、集中的に狙われるのであった。
その日は地上の温度が低く、湘南で雪が降った。例え雪が降っても、すぐ溶けてしまう程度なのに、珍しく積もっている。
家のチャイムが鳴り、モニターを見ると仁王が映っていた。
そろそろ学校に行く時間だ。
私は鞄を肩にかけ、ローファーではなくショートブーツを履いて外へ。仁王はマフラーで口元を隠し、コートに手を突っ込んでいた。
「雅治、おはよう!」
「ああ、おはよう。今日は一段と寒いのう」
「そうね。ただでさえ雪が降るなんて珍しいのに、積もるなんて」
仁王と並んで雪の上を歩くと、サクサクと音が鳴った。地面の表面が見えないので、まだ足跡がついていないところを歩きたくなる。
「ほら、ふらふら歩いていたら危ないぜよ」
幼い子供みたいにはしゃいでいると、仁王に手を掴まれた。
せっかくの機会だったのに。
少し頬を膨らませると、仁王が苦笑した。
「そんな顔しても、俺を喜ばせるだけぜよ。それに放課後、思いっきり遊べるから、雪遊びはそれまでお楽しみにしんしゃい」
放課後までのお楽しみとは、どういうことだろう。
小首を傾げると、仁王はトークアプリの画面を見せてくれた。そこには『今日は練習できませんし、放課後に雪合戦しません?』と切原からのメッセージが。メンバーは元レギュラー陣と私、切原とのこと。
もちろん私の答えは、参加一択だった。
*
放課後になり、ジャージに着替えてテニスコートへ。雪合戦をするので、手袋も忘れずに装着している。
目的地に着くと、辺りは真っ白に染まっていた。中央に支柱が立っており、辛うじてテニスコートのある場所が分かる。
跡部の氷の世界でも、ここまで雪を積もらせるのは難しいだろう。
「お待たせしました!」
既に私以外のメンバーは集まっていた。なんやかんや、皆楽しみだったのかもしれない。
「来たばかりだから大丈夫だよ。それじゃあ、雪合戦を始めようか」
幸村がふわりと微笑み、雪合戦のルールを説明した。
ネットとコートのラインの位置にテニスボールが雪に埋まっており、先に反対側のコートにいる相手チーム全員に、雪玉を当てたチームが勝者となる。雪玉に当たった人はコートから出るが、雪玉に当たる前に投げた雪玉は有効。
チーム分けは、くじ引きの結果、真田・柳・丸井・柳生チーム、私・幸村・仁王・切原チームに。
元マネージャーだったので、雪玉が当たったか判定する審判を引き受けようとしたが、ジャッカルが「雪合戦楽しみにしてたんだろ?」と代わってくれた。きっと雪合戦は一回だけでは終わらないので、二回戦は私が審判をしよう。
「試合開始!」
それぞれのチームがコート内に立ち、ジャッカルの合図で戦いの幕が切って落とされた。
「じゃ、遠慮なくいくぜ! ナックルサーブ!」
切原が真田に向かって雪玉を投げる。
「動くこと雷霆の如し」
切原が必殺技を叫んだからか、真田も必殺技を出して雪玉を避けた。
「妙技 鉄柱当て」
「メテオドライブ」
「レーザービーム」
テニスの時とは雪玉の動きが異なるが、皆ノリノリで必殺技を出す。
こうして試合が進み、雪玉を当てたり、躱されたりし――――
真田が幸村を目掛けて雪玉を投げた。そのまま幸村まで一直線に飛んだと思いきや、突然軌道が変わった。雪玉が私の方に迫ってくる。
「黒龍二重の斬」
「っ!?」
「白石さん、危ない!」
私を庇うために、幸村が私の前に立った。そして手にしていた雪玉を、素早く真田に向けて投げる。
「幸村、真田、アウト!」
ジャッカルのジャッジに従い、幸村と真田がコートから出た。
これで自チームでコートに残っているのは、私と仁王。対する相手チームは柳のみ。
数は勝っているが、油断はできない。
作戦を練ろうとする前に、早速柳が仁王に向けて雪玉を投げたのが見えた。
「かまいたち」
このままでは仁王に雪玉が当たってしまうだろう。気づけば全速力で彼に駆け寄り、押し倒していた。
背中越しに雪玉が通りすぎるのを確認。そのまま右手に体重をかけ、1回転して片膝をつく。
チラリと柳を確認すると、何故か目を開いて固まっていた。
チャンスだ。すぐさま雪玉を作って柳に目掛けて投げると、躱される素振りもなく、左腕に直撃した。
「あれ……?」
柳なら雪玉の軌道を予測して躱すかと思ったが、勝負は勝負。これで決着がついた。
「勝者、白石・幸村・仁王・切原チーム!」
ジャッカルが勝敗を宣言する。
先ほどから動かない柳が心配だが、まずは仁王と勝利を分かち合いたい。
「雅治、勝った……よ……? 雅治?」
そろそろ立ち上がっても良い頃合いなのに、仁王が動いた気配がないような。
慌てて仁王を見ると、大の字に寝そべってした。空をぼんやりと眺めている。
「だ、大丈夫?」
「重症じゃ」
「え!?」
まさか押し倒したときに、頭をぶつけてしまったのだろうか。
雪はふかふかなのでクッションとなり、衝撃が和らぐと思っていたのだが、怪我していたら大変だ。日常生活やテニスに支障をきたしたらどうしよう。
「……時雨がかっこよすぎて、心臓が止まるかと思った。今はバクバクいっちょる」
「え、と……?」
今度は私が固まる番だった。
仁王と視線が交わる。熱がこもった瞳に囚われて動けない。
雪合戦の最中は無我夢中で仁王を押し倒したが、今更になって頬が熱くなった。恥ずかしくなり、両手で頬を覆う。自分でも大胆なことをしたと思う。
「仁王なら問題ないから、心配するな」
隣から柳の声が聞こえ、ハッと我に返る。
仁王とやり取りをしている間に、柳がやってきて私の隣で片膝をついていた。彼にポンと肩を叩かれて落ち着きを取り戻し、ようやく動けるようになった。
「皆、二回戦もやる気満々だから、少し休憩したらコートの中央に来てほしい」
「分かったわ。……あ、蓮二! そういえば最後の雪玉、なんで躱さなかったの?」
柳が立ち去りそうだったので、慌てて腕を掴む。
今の状態で仁王と二人きりなんて、心臓がもたない。仁王は寝そべった状態から上半身を起こしたが、私への熱い視線は外さないし。
「そうだな……」
「珍しく動揺してたのう。ま、時雨が俺を押し倒したから、驚いたんじゃろう。気付いたら目の前に時雨の顔があって、俺も驚いたぜよ」
「仁王」
「本当のことを言っただけじゃ」
「ふふっ……」
図星だったのか、柳の表情が少し硬くなる。いつも冷静な彼の珍しい姿が面白くて、思わず笑みがこぼれた。
柳に何を言われても、のろりくらりとかわす仁王。
それで機嫌を悪くさせてしまったのか、二回戦も柳とチームが異なった仁王は、集中的に狙われるのであった。
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