蝶ノ光【番外編】
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セミたちが元気に鳴き、蒸し暑い夏がやってきた。
汗が頬を伝う。日差しが強く、立っているだけでも溶けてしまいそうだ。
夏休みに入ったが、我らが立海テニス部は関東大会に向けて毎日練習に励んでいる。
今日はレギュラー同士の練習試合だ。
私はというと、熱中症対策にドリンクを作ったり、タオルなどを用意していた。
ちょうどドリンクが作り終わり、コート付近に運んでいると柳が近づいてきた。
「時雨。申し訳ないが仁王を探してきてもらえないだろうか? 次、出番なのに姿が見えないんだ」
「仁王くんが? ……次の試合は30分後ね。対戦相手って誰だっけ」
「弦一郎だ。時雨が相手しても構わないが」
真田と試合した場合を思い浮かべてみるが、ダブルスならともかく、シングルスでは分が悪い。
彼のパワーに太刀打ちできる自分が想像できなかった。
そもそも、試合前に「仁王がいないだと……たるんどる!」と喝が飛んできそうだ。
仁王が真田と試合をしたら、どちらが勝つのだろう。試合をぜひ見てみたい。
そのためには仁王を見つけなければ。
「……仁王くん探してくるね」
「フッ……よろしく頼む。他の部員が連れ戻すより、お前が行った方が素直に戻ってきてくれるだろう」
「そういうものなの?」
「ああ」
柳の言葉はいまいち理解できなかったが、彼のいうことだから私が行った方が良いのだろう。
早速仁王を探すことにした。
柳の情報によるとコート付近は見て回ったが、どこにもいないとのことだった。
そのため、探索場所を広げて校舎の方へ移動する。辺りをキョロキョロ見渡しながら進むが、立海テニス部のジャージを来ている人は見当たらない。
湧き出る汗をタオルで拭う。
このままでは体力を消耗させるだけだ。
早く見つけないと仁王が不戦敗してしまう。不戦敗だけならまだしも、その後に真田の説教もついてきそうだ。
――「仁王先輩は涼しいところ探すの得意だから、暑い日は仁王先輩を探すといいッスよ!」
ふと先日、切原から聞いた言葉を思い出す。
そういえば仁王くんは暑いのが苦手だったんだっけ。
そこで今度は日陰がある場所を中心に探してみた。日差しが直接あたらないだけで、身体的負担が軽くなる。
気づけば中庭にたどり着き、緑に囲まれていた。時々風が吹き、木々が涼しげに揺れる。
歩いていると、視界の片隅に木の端から銀髪の尻尾がぴょこりと飛び出ているの捉えた。
間違いなく仁王だ。見誤るはずがない。
私は彼がいる木に駆け寄った。
「にお――――」
私はここで呼び掛けるのを止めた。仁王が寝ていたからだ。
彼は背中を木に預け、左足だけ立てて座りながら、瞳を閉じていた。
「にゃー」
「ん……?」
地面の方から猫の鳴き声が聞こえると思えば、仁王の右膝に猫が丸くなっていた。茶、黒、白の三色の毛色が混ざっている。三毛猫だ。
猫の目線に合わせて、私は膝を抱えるようにして屈む。
「ネコさん、仁王くんを返してください。このままだと、彼が不戦敗してしまいます」
私の言葉が通じなかったのか、猫は首を傾げていた。
か、可愛い……。
このとき猫に夢中のあまり、私は気づかなかった。仁王の眉がピクリと動いたことに。
「にゃー」
猫が甘えるようにこちらに向かって鳴く。
顎の下を撫でると、猫は気持ち良さそうに目を瞑った。
一度手を止めると、まだ撫でてよというばかりに猫は鳴く。
私は辺りに仁王以外いないことを確認し、
「……にゃー?」
と猫の鳴き真似をしながら頭を撫でた。普段よりやや高めの声で、抑揚をつけることを意識して。
すると狸寝入りだったのか、仁王の右膝がガクンと揺れた。
「にゃっ!?」
猫は驚いたのか、仁王の膝から降りて近くの木まで駆けていってしまった。
仁王に聞かれたことが恥ずかしく、私の耳や頬は徐々に熱を帯びていく。
「…………仁王くん、起きているでしょう」
ゆっくり仁王の瞼が開かれる。
いつから起きていたのやら。
「……プリッ。可愛かったぜよ」
「別に嬉しくない。真田くんと試合することなく負けて、グラウンド100周すればいいんだわ」
「まぁ、そう怒りなさんなって。これをあげるから機嫌を治しんしゃい」
猫に気をとられて気づかなかったが、仁王の左手には紙袋が握られていた。
目の前に差し出されたので、私はそれを受け取る。
「これは……?」
「気になるなら開けてみるといいぜよ」
紙袋を開けると、入っていたのは藍色の鍔付き帽子だった。正面には白色で、とあるスポーツメーカーのロゴが刺繍されている。
「この帽子は貰っていいの?」
「もちろん。いつも時雨にお世話になってるし、暑い日が続く中頑張ってるからのう。俺にできることといえば、こうしたちょっとしたことや試合に勝つことだけじゃ」
「そんなことないわ」
仁王の瞳を見据え、すぐさま言い返す。
いつだって仁王は私に勇気を与えてくれた。隣にいてくれるだけで、どれだけ心のつっかえが軽くなったことか。
彼がいなかったら、青学のみんなと向き合うことができなかったかもしれない。
「あなたがいなかったら、私は立海でマネージャーをやっていなかったかもしれない。だから、その……ありがとう。試合頑張ってね」
「……そうか。時雨に応援されたら、やる気を出すしかないのう。さて、名残惜しいがそろそろ戻るか」
仁王は少々照れながら笑っていた。
彼は私の手を引きながら、コートへ向かう。
爽やかな風が頬を撫でた。
真田との試合が始まるまであと10分。
勝つのは果たして――――。
汗が頬を伝う。日差しが強く、立っているだけでも溶けてしまいそうだ。
夏休みに入ったが、我らが立海テニス部は関東大会に向けて毎日練習に励んでいる。
今日はレギュラー同士の練習試合だ。
私はというと、熱中症対策にドリンクを作ったり、タオルなどを用意していた。
ちょうどドリンクが作り終わり、コート付近に運んでいると柳が近づいてきた。
「時雨。申し訳ないが仁王を探してきてもらえないだろうか? 次、出番なのに姿が見えないんだ」
「仁王くんが? ……次の試合は30分後ね。対戦相手って誰だっけ」
「弦一郎だ。時雨が相手しても構わないが」
真田と試合した場合を思い浮かべてみるが、ダブルスならともかく、シングルスでは分が悪い。
彼のパワーに太刀打ちできる自分が想像できなかった。
そもそも、試合前に「仁王がいないだと……たるんどる!」と喝が飛んできそうだ。
仁王が真田と試合をしたら、どちらが勝つのだろう。試合をぜひ見てみたい。
そのためには仁王を見つけなければ。
「……仁王くん探してくるね」
「フッ……よろしく頼む。他の部員が連れ戻すより、お前が行った方が素直に戻ってきてくれるだろう」
「そういうものなの?」
「ああ」
柳の言葉はいまいち理解できなかったが、彼のいうことだから私が行った方が良いのだろう。
早速仁王を探すことにした。
柳の情報によるとコート付近は見て回ったが、どこにもいないとのことだった。
そのため、探索場所を広げて校舎の方へ移動する。辺りをキョロキョロ見渡しながら進むが、立海テニス部のジャージを来ている人は見当たらない。
湧き出る汗をタオルで拭う。
このままでは体力を消耗させるだけだ。
早く見つけないと仁王が不戦敗してしまう。不戦敗だけならまだしも、その後に真田の説教もついてきそうだ。
――「仁王先輩は涼しいところ探すの得意だから、暑い日は仁王先輩を探すといいッスよ!」
ふと先日、切原から聞いた言葉を思い出す。
そういえば仁王くんは暑いのが苦手だったんだっけ。
そこで今度は日陰がある場所を中心に探してみた。日差しが直接あたらないだけで、身体的負担が軽くなる。
気づけば中庭にたどり着き、緑に囲まれていた。時々風が吹き、木々が涼しげに揺れる。
歩いていると、視界の片隅に木の端から銀髪の尻尾がぴょこりと飛び出ているの捉えた。
間違いなく仁王だ。見誤るはずがない。
私は彼がいる木に駆け寄った。
「にお――――」
私はここで呼び掛けるのを止めた。仁王が寝ていたからだ。
彼は背中を木に預け、左足だけ立てて座りながら、瞳を閉じていた。
「にゃー」
「ん……?」
地面の方から猫の鳴き声が聞こえると思えば、仁王の右膝に猫が丸くなっていた。茶、黒、白の三色の毛色が混ざっている。三毛猫だ。
猫の目線に合わせて、私は膝を抱えるようにして屈む。
「ネコさん、仁王くんを返してください。このままだと、彼が不戦敗してしまいます」
私の言葉が通じなかったのか、猫は首を傾げていた。
か、可愛い……。
このとき猫に夢中のあまり、私は気づかなかった。仁王の眉がピクリと動いたことに。
「にゃー」
猫が甘えるようにこちらに向かって鳴く。
顎の下を撫でると、猫は気持ち良さそうに目を瞑った。
一度手を止めると、まだ撫でてよというばかりに猫は鳴く。
私は辺りに仁王以外いないことを確認し、
「……にゃー?」
と猫の鳴き真似をしながら頭を撫でた。普段よりやや高めの声で、抑揚をつけることを意識して。
すると狸寝入りだったのか、仁王の右膝がガクンと揺れた。
「にゃっ!?」
猫は驚いたのか、仁王の膝から降りて近くの木まで駆けていってしまった。
仁王に聞かれたことが恥ずかしく、私の耳や頬は徐々に熱を帯びていく。
「…………仁王くん、起きているでしょう」
ゆっくり仁王の瞼が開かれる。
いつから起きていたのやら。
「……プリッ。可愛かったぜよ」
「別に嬉しくない。真田くんと試合することなく負けて、グラウンド100周すればいいんだわ」
「まぁ、そう怒りなさんなって。これをあげるから機嫌を治しんしゃい」
猫に気をとられて気づかなかったが、仁王の左手には紙袋が握られていた。
目の前に差し出されたので、私はそれを受け取る。
「これは……?」
「気になるなら開けてみるといいぜよ」
紙袋を開けると、入っていたのは藍色の鍔付き帽子だった。正面には白色で、とあるスポーツメーカーのロゴが刺繍されている。
「この帽子は貰っていいの?」
「もちろん。いつも時雨にお世話になってるし、暑い日が続く中頑張ってるからのう。俺にできることといえば、こうしたちょっとしたことや試合に勝つことだけじゃ」
「そんなことないわ」
仁王の瞳を見据え、すぐさま言い返す。
いつだって仁王は私に勇気を与えてくれた。隣にいてくれるだけで、どれだけ心のつっかえが軽くなったことか。
彼がいなかったら、青学のみんなと向き合うことができなかったかもしれない。
「あなたがいなかったら、私は立海でマネージャーをやっていなかったかもしれない。だから、その……ありがとう。試合頑張ってね」
「……そうか。時雨に応援されたら、やる気を出すしかないのう。さて、名残惜しいがそろそろ戻るか」
仁王は少々照れながら笑っていた。
彼は私の手を引きながら、コートへ向かう。
爽やかな風が頬を撫でた。
真田との試合が始まるまであと10分。
勝つのは果たして――――。
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