短編
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白石くんと一緒のクラスになって三年目。
三年間同じクラスなのに、あなたは遠い遠い存在――――。
*
「ほな、雪宮。問4の食塩水の濃度はいくつやろう?」
五限目の授業は化学。私の一番苦手な科目だ。
熱心に先生の話を聞いていたら視線がぶつかり、当てられてしまった。
先生、私が化学苦手なの知っているでしょう。
すぐさま教科書を読み返し、食塩水の濃度の求め方を探す。
悲しいかな、穴が開きそうなほど教科書を見ても文字が滑り、濃度の求め方は全然分からない。
その時、コツりと白い塊が腕に当たった。
机の上に視線を動かすと、小さく畳まれた紙が置いてある。腕に当たった塊だろう。
誰が置いたのかとキョロキョロと辺りを見渡すと、隣の席の白石くんと目が合った。よく見ると私の机――正確には机の上の紙――を指しながら、口をパクパクさせている。
『机の上の紙、見てや』
慌てて紙に手を伸ばして開いてみると、綺麗な字で「答えは10%やで」と書かれていた。有難いことに、計算式まで書かれている。
「10%です」
「よし、正解! 雪宮が分かってるなら、みんなも平気やな」
いや、白石くんが教えてくれたんだけど。
そのツッコミは声に出さず、心の中に留めておいた。
先生は教科書の内容の説明に戻り、ホッとため息が出る。白石くんのおかげで答えることができ、しばらく当てられることはなさそうだ。
チラリと隣を見ると、白石くんは板書を写していた。
一見何でもできるように見える白石くん。でもそれは努力の賜物であることを、私は知っている。
ある日、テニスコートを通りかかったときのこと。既に部活が終わって帰る時間だったけれど、一人残って練習する白石くんに気づけば目を離せず、心を奪われてしまった。
それに誰に対しても優しいから、彼に想いを寄せる女の子は数知れず。かくいう私もその一人である。
東京から大阪に引っ越し、四天宝寺中に転校。学校に慣れない私を案内してくれたのは、白石くんだったっけ。
だから、さっきのようなことがあると、叶わないのは分かっているけど少し期待してしまう自分がいた。
チャイムの音が鳴り響く。
やっと最後の授業が終わった。待ちに待った放課後の訪れである。
白石くんにお礼言っていないことを思い出し、慌てて隣の席に座っている彼のもとへ駆け寄った。
「あの白石くん、さっきはありがとう! 助けてもらったお礼にその……なんか私にできることはないかな?」
言葉にしてみてハッと気づいた。彼女じゃあるまいし、はっきりいって迷惑かもしれない。
「そんなの気にせんでええのに。……あ、せや! 今日流星群が見れるらしいから、一緒に見いひん?」
「私でいいの!? テニス部のみんなは? 忍足くんとか……」
「俺は雪宮さんと見たいねん。七時に家迎えに行くから、よろしゅう」
「う、うん」
「白石ー! 遅いで、早う部活行こうや」
浪花のスピードスターこと忍足くんだ。
早くテニスがしたいのか、黒板の前でこちらに向かって手を振り、落ち着きがない。
「ちゅうわけで雪宮さん、またあとでな」
白石くんは席から立ち上がり、私の耳元で囁く。一気に顔が熱くなるのを感じた。
彼は何事もなかったかのように、忍足くんと一緒に教室から出ていく。
一方、私は何が起きたか分からず、呆然と教室の扉を見つめるのだった。
*
七時ちょうどにインターホンが鳴る。時間ピッタリなところが彼らしい。
事前に住所を伝えたら、夜に一人で歩くのは危ないということで一度遠慮したものの、迎えに来てもらうことになったのだ。
すぐさま鞄を持って、玄関へ走って向かった。
「こんばんは。迎えに来たで」
ドアを開けると、学校とはまた違う、私服姿の白石くん。
白色のシャツに淡色のデニムを合わせて、柔らかい雰囲気を感じる。
学校では制服かジャージ姿しか見たことないので、私服が眩しかった。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。白石くんの家はうちから近いの?」
「結構近いで。ここから三分くらいやろうか。玄関で立ち話するのもなんやし、近くの公園でも行こうか」
私は母に出かける旨を伝え、家を出た。
住宅街を白石くんと並んで歩く。
今日は流星群が見られるからか、いつもよりすれ違う人が多い。
公園に向かっているのはいいのだが、果たして白石くんの隣にいて良いのか不安になってくる。女性とすれ違う度に、「あの男の人、うちの好みや」とか「今の男の子かっこよない!? 同じ学校の子かな」とか聞こえるからだ。
きっと白石くんの耳にも届いているだろう。
やっぱり、白石くんって学校以外でもモテるんだなあ。
どうして流星群を見に、私を誘ったのか気になる。白石くんからしたら、私はただの友達だろう。
「さっきから雪宮さん黙ってるけど、どないしたん? ⋯⋯もしかして具合悪い?」
「えっ、そんなことないよ!? ただ、白石くんモテるんだなって思って」
ぼんやり考えていたら急に話しかけられ、肩が跳ねる。
突如、白石くんが歩みを止めたので、私も立ち止まった。
「――――嫉妬してる?」
私の顔を覗きながら、どこか機嫌が良さそうな白石くん。
顔が近くて、心臓が口から飛び出そうだ。とても直視できそうにない。
「俺は見てくれじゃなくて、内面を見てくれる女の子が好きやけどな。雪宮さんみたいな」
「え?」
思わず顔を上げると、白石くんは頬をかいていた。心なしか顔が赤い気がする。
「ほんまは二人っきりのときに言おうと思うてたけど。俺……雪宮さんのことが好きやねん」
予想外の言葉に、息をのんだ。
聞き間違えじゃなければ、白石くんが私のこと好きと言ったような。⋯⋯本当に?
「雪宮さんは俺のこと、どう思う?」
「私も、白石君のことが……好、き……」
「ん、もういっぺん言うてもろうてもええか?」
恥ずかしさのあまり、語尾が小さくなってしまった。
もう一度とお願いされたが、本当は聴こえていたのではないかと思う。
だって彼、少しにやけてるし。
「好き……だよ」
勇気を振り絞り、先ほどより声を大きくして伝えた。
「良かった」
緊張が和らいだのか、白石くんの表情が柔らかくなる。
「あ……」
澄み渡った夜空に輝く、一筋の光が目に入った。
よく見ると、ある一点を中心に流れ星が、四方八方に飛び出しているように見える。――――流星群だ。
いつまでも白石くんといられますように。
三回唱える時間なんてないから、一回だけ心の中で唱える。
「……雪宮さんは流れ星に何を願うたん?」
「えっ!?」
本人の前で言うのは恥ずかしく、視線がさ迷う。
「言うてくれへんの?」
恐る恐る白石くんを見ると目が合い、眉をハの字にした表情が可愛いと思ってしまった。
普段の爽やかな表情との差が凄まじい。
頑張って伝えようと決意し、ぎゅっと目を瞑る。
「わ、わた、わ、私――」
ダメだ、緊張してなかなか話せない。
深呼吸して呼吸を整えると、額に柔らかな感触を得た。面食らい、すぐさま瞳を開く。
顔を上げると、そこには目を弓なりに細めて笑っている白石くんが。
「はは、堪忍。目瞑ってる姿が可愛くて。俺は、雪宮さんといつまでも一緒にいれますようにって願ったで」
「わ、私も……」
白石くんも同じことを考えていたのが嬉しい。
「好きやで、時雨」
頬にそっと手を添えられ、今度は口づけを交わした。
■2025/8/13 加筆修正
三年間同じクラスなのに、あなたは遠い遠い存在――――。
*
「ほな、雪宮。問4の食塩水の濃度はいくつやろう?」
五限目の授業は化学。私の一番苦手な科目だ。
熱心に先生の話を聞いていたら視線がぶつかり、当てられてしまった。
先生、私が化学苦手なの知っているでしょう。
すぐさま教科書を読み返し、食塩水の濃度の求め方を探す。
悲しいかな、穴が開きそうなほど教科書を見ても文字が滑り、濃度の求め方は全然分からない。
その時、コツりと白い塊が腕に当たった。
机の上に視線を動かすと、小さく畳まれた紙が置いてある。腕に当たった塊だろう。
誰が置いたのかとキョロキョロと辺りを見渡すと、隣の席の白石くんと目が合った。よく見ると私の机――正確には机の上の紙――を指しながら、口をパクパクさせている。
『机の上の紙、見てや』
慌てて紙に手を伸ばして開いてみると、綺麗な字で「答えは10%やで」と書かれていた。有難いことに、計算式まで書かれている。
「10%です」
「よし、正解! 雪宮が分かってるなら、みんなも平気やな」
いや、白石くんが教えてくれたんだけど。
そのツッコミは声に出さず、心の中に留めておいた。
先生は教科書の内容の説明に戻り、ホッとため息が出る。白石くんのおかげで答えることができ、しばらく当てられることはなさそうだ。
チラリと隣を見ると、白石くんは板書を写していた。
一見何でもできるように見える白石くん。でもそれは努力の賜物であることを、私は知っている。
ある日、テニスコートを通りかかったときのこと。既に部活が終わって帰る時間だったけれど、一人残って練習する白石くんに気づけば目を離せず、心を奪われてしまった。
それに誰に対しても優しいから、彼に想いを寄せる女の子は数知れず。かくいう私もその一人である。
東京から大阪に引っ越し、四天宝寺中に転校。学校に慣れない私を案内してくれたのは、白石くんだったっけ。
だから、さっきのようなことがあると、叶わないのは分かっているけど少し期待してしまう自分がいた。
チャイムの音が鳴り響く。
やっと最後の授業が終わった。待ちに待った放課後の訪れである。
白石くんにお礼言っていないことを思い出し、慌てて隣の席に座っている彼のもとへ駆け寄った。
「あの白石くん、さっきはありがとう! 助けてもらったお礼にその……なんか私にできることはないかな?」
言葉にしてみてハッと気づいた。彼女じゃあるまいし、はっきりいって迷惑かもしれない。
「そんなの気にせんでええのに。……あ、せや! 今日流星群が見れるらしいから、一緒に見いひん?」
「私でいいの!? テニス部のみんなは? 忍足くんとか……」
「俺は雪宮さんと見たいねん。七時に家迎えに行くから、よろしゅう」
「う、うん」
「白石ー! 遅いで、早う部活行こうや」
浪花のスピードスターこと忍足くんだ。
早くテニスがしたいのか、黒板の前でこちらに向かって手を振り、落ち着きがない。
「ちゅうわけで雪宮さん、またあとでな」
白石くんは席から立ち上がり、私の耳元で囁く。一気に顔が熱くなるのを感じた。
彼は何事もなかったかのように、忍足くんと一緒に教室から出ていく。
一方、私は何が起きたか分からず、呆然と教室の扉を見つめるのだった。
*
七時ちょうどにインターホンが鳴る。時間ピッタリなところが彼らしい。
事前に住所を伝えたら、夜に一人で歩くのは危ないということで一度遠慮したものの、迎えに来てもらうことになったのだ。
すぐさま鞄を持って、玄関へ走って向かった。
「こんばんは。迎えに来たで」
ドアを開けると、学校とはまた違う、私服姿の白石くん。
白色のシャツに淡色のデニムを合わせて、柔らかい雰囲気を感じる。
学校では制服かジャージ姿しか見たことないので、私服が眩しかった。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。白石くんの家はうちから近いの?」
「結構近いで。ここから三分くらいやろうか。玄関で立ち話するのもなんやし、近くの公園でも行こうか」
私は母に出かける旨を伝え、家を出た。
住宅街を白石くんと並んで歩く。
今日は流星群が見られるからか、いつもよりすれ違う人が多い。
公園に向かっているのはいいのだが、果たして白石くんの隣にいて良いのか不安になってくる。女性とすれ違う度に、「あの男の人、うちの好みや」とか「今の男の子かっこよない!? 同じ学校の子かな」とか聞こえるからだ。
きっと白石くんの耳にも届いているだろう。
やっぱり、白石くんって学校以外でもモテるんだなあ。
どうして流星群を見に、私を誘ったのか気になる。白石くんからしたら、私はただの友達だろう。
「さっきから雪宮さん黙ってるけど、どないしたん? ⋯⋯もしかして具合悪い?」
「えっ、そんなことないよ!? ただ、白石くんモテるんだなって思って」
ぼんやり考えていたら急に話しかけられ、肩が跳ねる。
突如、白石くんが歩みを止めたので、私も立ち止まった。
「――――嫉妬してる?」
私の顔を覗きながら、どこか機嫌が良さそうな白石くん。
顔が近くて、心臓が口から飛び出そうだ。とても直視できそうにない。
「俺は見てくれじゃなくて、内面を見てくれる女の子が好きやけどな。雪宮さんみたいな」
「え?」
思わず顔を上げると、白石くんは頬をかいていた。心なしか顔が赤い気がする。
「ほんまは二人っきりのときに言おうと思うてたけど。俺……雪宮さんのことが好きやねん」
予想外の言葉に、息をのんだ。
聞き間違えじゃなければ、白石くんが私のこと好きと言ったような。⋯⋯本当に?
「雪宮さんは俺のこと、どう思う?」
「私も、白石君のことが……好、き……」
「ん、もういっぺん言うてもろうてもええか?」
恥ずかしさのあまり、語尾が小さくなってしまった。
もう一度とお願いされたが、本当は聴こえていたのではないかと思う。
だって彼、少しにやけてるし。
「好き……だよ」
勇気を振り絞り、先ほどより声を大きくして伝えた。
「良かった」
緊張が和らいだのか、白石くんの表情が柔らかくなる。
「あ……」
澄み渡った夜空に輝く、一筋の光が目に入った。
よく見ると、ある一点を中心に流れ星が、四方八方に飛び出しているように見える。――――流星群だ。
いつまでも白石くんといられますように。
三回唱える時間なんてないから、一回だけ心の中で唱える。
「……雪宮さんは流れ星に何を願うたん?」
「えっ!?」
本人の前で言うのは恥ずかしく、視線がさ迷う。
「言うてくれへんの?」
恐る恐る白石くんを見ると目が合い、眉をハの字にした表情が可愛いと思ってしまった。
普段の爽やかな表情との差が凄まじい。
頑張って伝えようと決意し、ぎゅっと目を瞑る。
「わ、わた、わ、私――」
ダメだ、緊張してなかなか話せない。
深呼吸して呼吸を整えると、額に柔らかな感触を得た。面食らい、すぐさま瞳を開く。
顔を上げると、そこには目を弓なりに細めて笑っている白石くんが。
「はは、堪忍。目瞑ってる姿が可愛くて。俺は、雪宮さんといつまでも一緒にいれますようにって願ったで」
「わ、私も……」
白石くんも同じことを考えていたのが嬉しい。
「好きやで、時雨」
頬にそっと手を添えられ、今度は口づけを交わした。
■2025/8/13 加筆修正
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