蝶ノ光
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立海に転校してニ日目、早速授業が始まった。
四限目の授業は体育だ。更衣室でジャージに着替え、百合とともにグランドへ向かう。
担当教員から授業内容の説明によると、最初に行う種目はテニスだった。だから、目立たないようにしようと気を付けたはずだったのに。
どうしてこうなったのだろう。
――時は少し遡る。
*
「時雨はテニス経験者?」
「授業でやったくらいだよ」
百合に問われ、私は咄嗟に嘘をついた。
マネージャーをやっていたし、テニススクールも通っていたので、紛れもなく経験者だ。しかし、ここで青学テニス部のマネージャーをやっていた、と正直に言うわけにもいかない。
「百合は経験者なの?」
「うん。ていうか私、こう見えても女テニだよ? ちなみに部長なんだ!」
「えええええ!」
思わず大声が出た。百合は優雅な容姿なので、勝手ながら文化部だと思っていたからだ。
すると、後ろから丸井の声がした。
「百合は黙っていれば、お嬢様に見えるのにな!」
「うるさいブン太! 仁王もなんか言ってよ」
どうやら近くに仁王という人もいたらしい。
「それはホントのことじゃからのう。……ん?」
声が聞こえたほうに顔を向けると銀髪の彼がいた。
私は、彼にじっと見つめられて狼狽した。全てを見通されるような感じがしたからだ。
視線に耐え切れず、思わず目をそらす。
「昨日はすまんかったのう。お前さん、名前は?」
「白石、時雨……です」
「白石さん、ね。俺は仁王雅治。テニス部だとよくコート上の詐欺師と言われとる。よろしく頼むぜよ」
「コート上の詐欺師……?」
「まっ、試合を見れば分かるナリ」
「は、はぁ……」
詐欺師というのだから、対戦相手を欺くプレイスタイルなのだろうか。
仁王のテニスに興味をそそられるが、放課後にテニス部の練習を覗いてみれば、いずれ分かるであろう。
今、深く追求すべきことではない。
ここまでは良かった。しかし、次の百合の一言で私は固まる。
「今日は自由に打っていいらしいから、時雨、一緒に打とうよ」
「せっかくテニス部がいるんだから、ニ人と打ってきたら?」
「え~、時雨も打とうよ~。あっ、そうだ! 四人いるし、ダブルスをしよう!」
「えっ!?」
「おっ、賛成!」
どうやら丸井もやる気満々のようだ。
「仁王もいいよね?」
「構わんよ」
こうなると断るわけにもいかない。
ジャンケンでペア分けをした結果、私は仁王と組むことになった。
「白石さんはテニス部じゃないきに、水澤たちも加減はすると思うが、返せなさそうなボールは俺がフォローするぜよ」
「ありがとう」
どうやら返せなさそうなボールはスルーしても良さそうだが、無意識のうちに返してしまうかもしれない。青学でマネージャーをしていた頃は球出しをしていたし、テニススクールで試合もしたりした。
下手したらテニス経験者とバレるのではないか、と内心ヒヤリとする。
そこで、利き手の逆である右手で打つことにした。
2ゲーム目に入ったが特に怪しまれることもなく、試合は順調に進んだ。私は普段試合をするときの半分以下の力で、打球を返していた。
ラリーが5分くらい続いたころだろうか。そろそろいいよな、と前衛にいる丸井は得意技を披露する。
「見てろよ、時雨。妙技・鉄柱当て!」
打球がポールに当たり、私の真横を抜こうとする。百合や丸井、仁王もこれは決まったと思った。私自身、スルーしようと思った。
しかし、全身の血が騒ぐ。気づけば身体が動き、ラケットを左手に持ち変えていた。
「――つばめ返し」
一瞬、水を打ったように静まりかえり、誰もが動くのを忘れた。
丸井がはっと我にかえり、口を開く。
「時雨……、それ青学、不二の……?」
どうやら、テニス経験者だとバレてしまったようだ。
「なんで白石さんが、不二の技を打てるんじゃ?」
仁王が驚くのも、尤もであろう。授業でテニスをしたくらいの人が、跳ねないボールで返球したのだから。
「……実は青学にいたとき、マネージャーをやっておりまして」
バレてしまったものはしょうがない。潔く白状した。
「嘘ついてごめんなさい……」
呆れられただろうと思う。向こうからしてみれば、特に隠す必要のないことだからだ。
しかし、百合たちの反応は違った。
「すごい、すごいよ! あの不二くんの技ができるなんて! こんなに上手いなら、ぜひ女テニに入ろう!」
「いいや、マネージャー経験あるなら、そっちの方が適性だろい?」
「白石さんみたいにテニス上手い人がマネージャーなら、とても助かるぜよ」
どうやら怒ってはいないらしい。むしろ、真逆の反応だ。
「ええと……?」
予想外の展開に、私は戸惑った。しかも、女テニやマネージャーというワードが聞こえた気がする。
「そうだ! 幸村くんに相談しよう!」
「それがいいじゃき」
「ええ~、精市くんがOKしたら時雨、マネージャー確定じゃない!」
私の意思は置いてけぼりに、3人で話が盛り上がる。
そこで、こっそりコートを後にすることにした。すでに授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったので、問題もないだろう。
それにしても、女テニにマネージャーか……。
なんとしても回避しないとな、と思うのだった。
四限目の授業は体育だ。更衣室でジャージに着替え、百合とともにグランドへ向かう。
担当教員から授業内容の説明によると、最初に行う種目はテニスだった。だから、目立たないようにしようと気を付けたはずだったのに。
どうしてこうなったのだろう。
――時は少し遡る。
*
「時雨はテニス経験者?」
「授業でやったくらいだよ」
百合に問われ、私は咄嗟に嘘をついた。
マネージャーをやっていたし、テニススクールも通っていたので、紛れもなく経験者だ。しかし、ここで青学テニス部のマネージャーをやっていた、と正直に言うわけにもいかない。
「百合は経験者なの?」
「うん。ていうか私、こう見えても女テニだよ? ちなみに部長なんだ!」
「えええええ!」
思わず大声が出た。百合は優雅な容姿なので、勝手ながら文化部だと思っていたからだ。
すると、後ろから丸井の声がした。
「百合は黙っていれば、お嬢様に見えるのにな!」
「うるさいブン太! 仁王もなんか言ってよ」
どうやら近くに仁王という人もいたらしい。
「それはホントのことじゃからのう。……ん?」
声が聞こえたほうに顔を向けると銀髪の彼がいた。
私は、彼にじっと見つめられて狼狽した。全てを見通されるような感じがしたからだ。
視線に耐え切れず、思わず目をそらす。
「昨日はすまんかったのう。お前さん、名前は?」
「白石、時雨……です」
「白石さん、ね。俺は仁王雅治。テニス部だとよくコート上の詐欺師と言われとる。よろしく頼むぜよ」
「コート上の詐欺師……?」
「まっ、試合を見れば分かるナリ」
「は、はぁ……」
詐欺師というのだから、対戦相手を欺くプレイスタイルなのだろうか。
仁王のテニスに興味をそそられるが、放課後にテニス部の練習を覗いてみれば、いずれ分かるであろう。
今、深く追求すべきことではない。
ここまでは良かった。しかし、次の百合の一言で私は固まる。
「今日は自由に打っていいらしいから、時雨、一緒に打とうよ」
「せっかくテニス部がいるんだから、ニ人と打ってきたら?」
「え~、時雨も打とうよ~。あっ、そうだ! 四人いるし、ダブルスをしよう!」
「えっ!?」
「おっ、賛成!」
どうやら丸井もやる気満々のようだ。
「仁王もいいよね?」
「構わんよ」
こうなると断るわけにもいかない。
ジャンケンでペア分けをした結果、私は仁王と組むことになった。
「白石さんはテニス部じゃないきに、水澤たちも加減はすると思うが、返せなさそうなボールは俺がフォローするぜよ」
「ありがとう」
どうやら返せなさそうなボールはスルーしても良さそうだが、無意識のうちに返してしまうかもしれない。青学でマネージャーをしていた頃は球出しをしていたし、テニススクールで試合もしたりした。
下手したらテニス経験者とバレるのではないか、と内心ヒヤリとする。
そこで、利き手の逆である右手で打つことにした。
2ゲーム目に入ったが特に怪しまれることもなく、試合は順調に進んだ。私は普段試合をするときの半分以下の力で、打球を返していた。
ラリーが5分くらい続いたころだろうか。そろそろいいよな、と前衛にいる丸井は得意技を披露する。
「見てろよ、時雨。妙技・鉄柱当て!」
打球がポールに当たり、私の真横を抜こうとする。百合や丸井、仁王もこれは決まったと思った。私自身、スルーしようと思った。
しかし、全身の血が騒ぐ。気づけば身体が動き、ラケットを左手に持ち変えていた。
「――つばめ返し」
一瞬、水を打ったように静まりかえり、誰もが動くのを忘れた。
丸井がはっと我にかえり、口を開く。
「時雨……、それ青学、不二の……?」
どうやら、テニス経験者だとバレてしまったようだ。
「なんで白石さんが、不二の技を打てるんじゃ?」
仁王が驚くのも、尤もであろう。授業でテニスをしたくらいの人が、跳ねないボールで返球したのだから。
「……実は青学にいたとき、マネージャーをやっておりまして」
バレてしまったものはしょうがない。潔く白状した。
「嘘ついてごめんなさい……」
呆れられただろうと思う。向こうからしてみれば、特に隠す必要のないことだからだ。
しかし、百合たちの反応は違った。
「すごい、すごいよ! あの不二くんの技ができるなんて! こんなに上手いなら、ぜひ女テニに入ろう!」
「いいや、マネージャー経験あるなら、そっちの方が適性だろい?」
「白石さんみたいにテニス上手い人がマネージャーなら、とても助かるぜよ」
どうやら怒ってはいないらしい。むしろ、真逆の反応だ。
「ええと……?」
予想外の展開に、私は戸惑った。しかも、女テニやマネージャーというワードが聞こえた気がする。
「そうだ! 幸村くんに相談しよう!」
「それがいいじゃき」
「ええ~、精市くんがOKしたら時雨、マネージャー確定じゃない!」
私の意思は置いてけぼりに、3人で話が盛り上がる。
そこで、こっそりコートを後にすることにした。すでに授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったので、問題もないだろう。
それにしても、女テニにマネージャーか……。
なんとしても回避しないとな、と思うのだった。