蝶ノ光
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ゴールデンウィーク初日。
午前中は全国大会に向けて、レギュラーメンバーが校内のテニスコートで練習するのをサポート。午後はいつものパターンなら、仁王か柳と練習するか、ダブルス大会のバッジをかけて試合をするところだ。
しかし、今日は違う。仁王とのお出かけと蔵ノ介への案内のために、先日調べた遊びスポットの下見をしたい。
そのためには部活が終わったら、仁王に気づかれずに学校から抜け出す必要がある。一人で仁王を出し抜くのは、なかなか難しい。
だが、いざ午前練が終わり、学校から抜け出そうとすると、仁王は柳生と話していたので、あっさり抜け出すことができた。
拍子抜けしたが気を引き締めて、ジャージのままテニススクールへ。
まずはスクール内にあるレストランで昼食だ。時間があれば、お気に入りの焼き菓子屋へ行ってフィナンシェを食べることを考え、BLTサンドとアイスティーを注文。
注文の品が乗ったトレーを持って、二人用のテーブル席へ着く。
レタスのシャキシャキ感を味わっていると、向かいの席にカタンと誰かが座った。立海メンバーは撒いてきたはずなのに、誰だろう。
不思議に思って顔を上げると、そこには眉目秀麗の男が座っていた。
「よう、時雨」
「……あ、跡部くん」
予想外の登場に、私は固まる。
「立海の奴らがいないから、珍しいと思ってな。一人で練習か?」
「それもあるけど……せっかくの休日だから、行きたかったお店に行こうと思って。それと、遊ぶ場所を紹介するための下見」
「ゴールデンウィーク中、誰かに案内でもするのか?」
「ええ……蔵兄に。私、神奈川へ引っ越してきたけど、遊びスポットは分からないから」
半分は蔵ノ介に案内する目的のため、嘘は言ってない。もう半分は仁王とお出かけのためだが、あえて言う必要はないだろう。
「それなら、オススメの場所を案内してやる」
「ホント!?」
「ただし、四天宝寺の白石じゃない奴と出かけるなら、素直に案内されときな」
仁王とお出かけすることは言っていないのに、どうやら跡部はお見通しらしい。
意味深に笑う跡部に、素直に頷くしかなかった。
*
スクール内で練習してから下見をする予定だったため、跡部と軽く打ち合うことに。
どうやら跡部がスクールに訪れたのは、私にダブルスパートナーを頼みたかったからだったらしい。
理由を聞いてみると、面白い噂を聞いたから、ダブルスを組んでみたかったとのこと。十中八九、私自身が他の人の必殺技を打つプレイスタイルのことだろう。
せっかく神奈川に来てくれたのに、ダブルスを組めないのは申し訳なく、今度ペアを組む約束をした。跡部は「俺がアポなしに来たから、気にしなくていい」と言っていたが、私も彼と組んでみたい。数回ラリーしただけで柳と氷帝に偵察した時より、跡部が力をつけているのが分かったから。実際に試合をすれば、さらに闘争心が刺激され、より練習に身が入るだろう。
「さて。練習もほどほどにして、そろそろお店の方に行きたいのだけど……」
「分かった。15分後に入り口のところで良いか?」
「ええ」
こうして練習を終えて、着替えた後にスクールの入り口で落ち合うこととなった。
更衣室でさっさと制服に着替え、スクールの入り口へ向かうと、既に扉手前に跡部の姿が。
「跡部くん、待たせてごめん!」
慌てて向かうと、跡部も今着いたとのこと。彼の場合、早く着いても同じことを言いそうだが、そういうことにしておいた。
「それじゃあ、俺様についてきな」
跡部の案内に従いながら隣を歩くと、紹介されたのは駅近くの商店街。よく使う道とは反対方向に位置し、駅を利用する時は賑わっているなあ、と眺めるだけだったので、特に探索したことはなかった。
わくわくしながら跡部についていくと、彼は行列のできているお店の前で立ち止まる。私も彼の隣で足を止めた。
お店のショーウィンドウを確認すると、どうやらカレーパンの専門店らしい。
跡部と共に行列の最終尾に並び、チラリと彼を見る。彼はどこで、このお店の知ったのだろうか。
「なんだ、どうした?」
視線を向けすぎたらしく、本人に気づかれてしまった。
「いや、跡部くんがこういうお店知っているの、意外だと思って……」
だってここ、東京じゃなくて神奈川だし。
正直に話すと、跡部は目をぱちくりさせた。
「フ、以前忍足と神奈川に来たときに、教えてもらった」
「そうなのね。確かに忍足くんなら詳しそう」
そんな雑談をしていると、私たちの番になり、カレーパンを二つ注文。
跡部が会計を済ませ、私は店員からカレーパンを受け取る。そして私たちはイートインスペースへ移動し、カウンター席に座った。
跡部にカレーパン渡し、テーブルの上に一人分の代金を置く。
「いきなりどうした。気にするほどの金額でもねーだろ、アーン?」
確かに跡部からしたら、大した金額ではないだろう。ただ、このまま奢ってもらうことは、私にはできない。
仁王の姿が頭をよぎった。
「それだと、その…………案内してもらっているのに、奢ってもらうのは……と、とにかく! 受け取ってください!」
今の状況が、なんだかデートみたいだとは言えず、口ごもる。
意識しているのは自分だけだと思うと、恥ずかしくて跡部と目を合わせることができない。
支離滅裂なのは承知だが、なんとかして跡部に代金を渡さねば。
「ククク、分かった。受け取っておこう」
ついさっきまで困惑していた雰囲気だったのに、顔を上げると、何故か跡部は肩を揺らして笑っていた。
「私が言うのもあれだけど、急にどうしたの?」
「……いや、悪い。時雨がテニス以外で、感情を露わにするのを久しぶりに見たもんでな。出かける予定の奴を思い浮かべたのだろう? この程度、インサイトを使うまでもねえ」
「!」
「せっかくのカレーパンが冷めちまうから、そろそろ食べようぜ」
「え、ええ……」
深く突っ込まれないのは、ありがたい。それだけ顔に出ていたのだろう。
素直に口に運んだカレーパンは、生地はカリカリ、中はカレーに加えてチーズも入っており、美味しく、食感も楽しめた。
カレーパンのお店の後は、オススメのカフェや、食べ歩きグルメを教えてもらった。
手焼きせんべいを買い、通りの端に寄る。醤油、のり、ざらめの三種類の焼き立てせんべいがあり、私も跡部も、のりせんべいを注文した。醤油の香ばしい匂いが、食欲をそそる。
「大会のバッジ集めは順調か?」
「ええ。跡部くんは?」
「俺様を誰だと思ってるんだ? 当然、順調だ」
「フフ、そうね。ところで、跡部くんは何で大会を誘ってくれたの?」
以前テニススクールで会ったときは、テニスで倒したい相手がいるのではないかと言われたが、それだけではない気がする。
「そうだな……大会の決勝戦で、お前が俺に勝ったら教えてやる」
「その言葉、忘れないでよね」
「ハッ、簡単に勝てると思うなよ」
私をシングルスではなく、ダブルス大会に誘ったことを後悔させてあげるんだから。
打倒跡部に向けて、闘志を燃やす。
ダブルスは個人の技量だけではなく、パートナーとの阿吽の呼吸も重要だ。誰とペアを組むか頭を悩ませながら、せんべいを齧るのだった。
午前中は全国大会に向けて、レギュラーメンバーが校内のテニスコートで練習するのをサポート。午後はいつものパターンなら、仁王か柳と練習するか、ダブルス大会のバッジをかけて試合をするところだ。
しかし、今日は違う。仁王とのお出かけと蔵ノ介への案内のために、先日調べた遊びスポットの下見をしたい。
そのためには部活が終わったら、仁王に気づかれずに学校から抜け出す必要がある。一人で仁王を出し抜くのは、なかなか難しい。
だが、いざ午前練が終わり、学校から抜け出そうとすると、仁王は柳生と話していたので、あっさり抜け出すことができた。
拍子抜けしたが気を引き締めて、ジャージのままテニススクールへ。
まずはスクール内にあるレストランで昼食だ。時間があれば、お気に入りの焼き菓子屋へ行ってフィナンシェを食べることを考え、BLTサンドとアイスティーを注文。
注文の品が乗ったトレーを持って、二人用のテーブル席へ着く。
レタスのシャキシャキ感を味わっていると、向かいの席にカタンと誰かが座った。立海メンバーは撒いてきたはずなのに、誰だろう。
不思議に思って顔を上げると、そこには眉目秀麗の男が座っていた。
「よう、時雨」
「……あ、跡部くん」
予想外の登場に、私は固まる。
「立海の奴らがいないから、珍しいと思ってな。一人で練習か?」
「それもあるけど……せっかくの休日だから、行きたかったお店に行こうと思って。それと、遊ぶ場所を紹介するための下見」
「ゴールデンウィーク中、誰かに案内でもするのか?」
「ええ……蔵兄に。私、神奈川へ引っ越してきたけど、遊びスポットは分からないから」
半分は蔵ノ介に案内する目的のため、嘘は言ってない。もう半分は仁王とお出かけのためだが、あえて言う必要はないだろう。
「それなら、オススメの場所を案内してやる」
「ホント!?」
「ただし、四天宝寺の白石じゃない奴と出かけるなら、素直に案内されときな」
仁王とお出かけすることは言っていないのに、どうやら跡部はお見通しらしい。
意味深に笑う跡部に、素直に頷くしかなかった。
*
スクール内で練習してから下見をする予定だったため、跡部と軽く打ち合うことに。
どうやら跡部がスクールに訪れたのは、私にダブルスパートナーを頼みたかったからだったらしい。
理由を聞いてみると、面白い噂を聞いたから、ダブルスを組んでみたかったとのこと。十中八九、私自身が他の人の必殺技を打つプレイスタイルのことだろう。
せっかく神奈川に来てくれたのに、ダブルスを組めないのは申し訳なく、今度ペアを組む約束をした。跡部は「俺がアポなしに来たから、気にしなくていい」と言っていたが、私も彼と組んでみたい。数回ラリーしただけで柳と氷帝に偵察した時より、跡部が力をつけているのが分かったから。実際に試合をすれば、さらに闘争心が刺激され、より練習に身が入るだろう。
「さて。練習もほどほどにして、そろそろお店の方に行きたいのだけど……」
「分かった。15分後に入り口のところで良いか?」
「ええ」
こうして練習を終えて、着替えた後にスクールの入り口で落ち合うこととなった。
更衣室でさっさと制服に着替え、スクールの入り口へ向かうと、既に扉手前に跡部の姿が。
「跡部くん、待たせてごめん!」
慌てて向かうと、跡部も今着いたとのこと。彼の場合、早く着いても同じことを言いそうだが、そういうことにしておいた。
「それじゃあ、俺様についてきな」
跡部の案内に従いながら隣を歩くと、紹介されたのは駅近くの商店街。よく使う道とは反対方向に位置し、駅を利用する時は賑わっているなあ、と眺めるだけだったので、特に探索したことはなかった。
わくわくしながら跡部についていくと、彼は行列のできているお店の前で立ち止まる。私も彼の隣で足を止めた。
お店のショーウィンドウを確認すると、どうやらカレーパンの専門店らしい。
跡部と共に行列の最終尾に並び、チラリと彼を見る。彼はどこで、このお店の知ったのだろうか。
「なんだ、どうした?」
視線を向けすぎたらしく、本人に気づかれてしまった。
「いや、跡部くんがこういうお店知っているの、意外だと思って……」
だってここ、東京じゃなくて神奈川だし。
正直に話すと、跡部は目をぱちくりさせた。
「フ、以前忍足と神奈川に来たときに、教えてもらった」
「そうなのね。確かに忍足くんなら詳しそう」
そんな雑談をしていると、私たちの番になり、カレーパンを二つ注文。
跡部が会計を済ませ、私は店員からカレーパンを受け取る。そして私たちはイートインスペースへ移動し、カウンター席に座った。
跡部にカレーパン渡し、テーブルの上に一人分の代金を置く。
「いきなりどうした。気にするほどの金額でもねーだろ、アーン?」
確かに跡部からしたら、大した金額ではないだろう。ただ、このまま奢ってもらうことは、私にはできない。
仁王の姿が頭をよぎった。
「それだと、その…………案内してもらっているのに、奢ってもらうのは……と、とにかく! 受け取ってください!」
今の状況が、なんだかデートみたいだとは言えず、口ごもる。
意識しているのは自分だけだと思うと、恥ずかしくて跡部と目を合わせることができない。
支離滅裂なのは承知だが、なんとかして跡部に代金を渡さねば。
「ククク、分かった。受け取っておこう」
ついさっきまで困惑していた雰囲気だったのに、顔を上げると、何故か跡部は肩を揺らして笑っていた。
「私が言うのもあれだけど、急にどうしたの?」
「……いや、悪い。時雨がテニス以外で、感情を露わにするのを久しぶりに見たもんでな。出かける予定の奴を思い浮かべたのだろう? この程度、インサイトを使うまでもねえ」
「!」
「せっかくのカレーパンが冷めちまうから、そろそろ食べようぜ」
「え、ええ……」
深く突っ込まれないのは、ありがたい。それだけ顔に出ていたのだろう。
素直に口に運んだカレーパンは、生地はカリカリ、中はカレーに加えてチーズも入っており、美味しく、食感も楽しめた。
カレーパンのお店の後は、オススメのカフェや、食べ歩きグルメを教えてもらった。
手焼きせんべいを買い、通りの端に寄る。醤油、のり、ざらめの三種類の焼き立てせんべいがあり、私も跡部も、のりせんべいを注文した。醤油の香ばしい匂いが、食欲をそそる。
「大会のバッジ集めは順調か?」
「ええ。跡部くんは?」
「俺様を誰だと思ってるんだ? 当然、順調だ」
「フフ、そうね。ところで、跡部くんは何で大会を誘ってくれたの?」
以前テニススクールで会ったときは、テニスで倒したい相手がいるのではないかと言われたが、それだけではない気がする。
「そうだな……大会の決勝戦で、お前が俺に勝ったら教えてやる」
「その言葉、忘れないでよね」
「ハッ、簡単に勝てると思うなよ」
私をシングルスではなく、ダブルス大会に誘ったことを後悔させてあげるんだから。
打倒跡部に向けて、闘志を燃やす。
ダブルスは個人の技量だけではなく、パートナーとの阿吽の呼吸も重要だ。誰とペアを組むか頭を悩ませながら、せんべいを齧るのだった。
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