蝶ノ光
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チャイムが鳴り、三限目の体育の授業が始まった。
私たちはジャージに着替え、テニスコート前に集まっていた。
全体的に生徒たちは落ち着きがない。それもそのはず、今日は連休前日だからである。無理もない。
かういう私も、その一人だ。テニスの合同練習や仁王とお出かけなどが待っている。少しくらい浮かれても良いだろう。
閑話休題。
今日はテニスの授業の最終回ということで、初回と同じく自由に打っていいと体育の先生から説明があった。
「自由に打っていいなら、試合するしかないよね。どうかな?」
早速、百合から試合を申し込まれた。
合同練習で男子テニス部員と試合をすることはあっても、マネージャーである私は試合する機会はない。
私も百合とテニスをしたかったので、断る理由はなかった。
「それなら、俺たちも入れてくれよ」
返事をしようとしたら、待ったがかかった。丸井と仁王だ。
「……まあ、そうなるよね。ダブルスしよっか」
百合は残念そうに呟いた。おそらくシングルスで試合がしたかったのだろう。部活ならともかく体育の授業なので、限られた数のコートを使い続けるのは難しい。
初回の授業と同じメンバーで、ダブルスをすることになった。ペア分けも、あの時と同じくジャンケンだ。
しかし、ペアの相手は前回と違う結果となる。
「おっ、時雨とか! シクヨロ!」
「こちらこそ、よろしくね」
「俺は水澤とペアか」
「仁王は何度も時雨と組んでるから、良いだろい」
「私と組むのに文句あるの?」
「別にないぜよ」
「それじゃあ、五分後に試合開始ね」
百合と仁王は反対側のコートへ向かった。
試合前に作戦会議だ。
私がテニス経験者ということを踏まえて、今回は手加減して捕れるボールを打ってくることはないだろう。
「作戦は、どうする? ジャッカルくん並みに体力があるわけじゃないから、守備に徹することはできないよ」
「んー、そうだな」
丸井も分かっているので、右手を顎にあてて悩んでいる。そして、ちらりと私を見た。
「俺さ、時雨とダブルス組んだら、やってみたいことがあったんだ」
「……なんとなく想像できるけど、何かしら」
「他のプレイヤーの技、打ってみたい!」
「ふふ、やっぱり」
部活の時間、丸井が羨ましそうに仁王の話を聞いているところを、こっそり目撃したのだ。ダブルス大会の試合で私と組んだ時に、他のプレイヤーの技が打てて面白かった、と。
丸井とダブルスを組む機会があったら、きっと彼に必殺技の打ち方を教えることになるだろうと思った。
実際には、丸井が九割以上ジャッカルとペアを組むので、今日までその機会はなかったが。
「でも仁王くんも、それは予想してるんじゃない?」
「そうだな。ま、これは言っちゃなんだが体育の授業だし、気楽に行こうぜ?」
「それもそうね」
笑みが零れた。思った以上に、肩に力が入っていたらしい。
勝負なので負けたくはないが、必要以上に神経をすり減らす必要はない。
私は丸井にいくつか技の打ち方を教え、コートの中央へ向かった。
*
作戦タイムは終了し、試合が始まった。サーブは百合からだ。
レシーバーは私。左手でラケットを握り、右手をそえて構える。
「それじゃあ、いくよ!」
百合がボールを上に投げ、ラケットをスイングさせた。
ボールがこちらのコートに迫ってくる。
コーナーへ走り、返球。ボールは予想より軽く、難なく返せた。
以前、シングルスで試合した時ほどのパワーではない。どうやら最初は様子見のようだ。
それからラリーが続いた。
試合が動いたのは、第4ゲーム。
ラリーが続く中、仁王の口角が上がったように見えた。そろそろ必殺技を打ってくるだろうか。
だが、打たせはしない。私は咄嗟に、つばめ返しを打つ。
前衛の百合に打ち返されるものの、ボールは浅い。
丸井がネット際で、静かに返球する。ボールはネットの上を転がり、相手コートへ落ちた。
「どう、天才的?」
第4ゲームを制し、2-2で追いついた。
続いて第5ゲーム。サービスプレイヤーは私だ。
サーバーは百合。彼女にツイストサーブは通じない。ラケットを右手に持ち替えれば、警戒されるだろう。
強烈な縦回転をかけて、サーブを放つ。
バウンド後にボールが急激に跳ね上がったせいか、百合は目を見張った。おそらく、ボールが消えたように見えたのだろう。
そのまま神隠しを連続で決め、第5ゲームを先取した。
これで3-2。
だが相手チームも黙ってはいない。仁王がレーザービームを打つ構えをした。
「これで終わりぜよ」
レーザーを警戒して後ろに下がると、仁王がドロップショットを打った。
「なっ!」
前衛にいた私は、急いでボールに食らいついて返す。だが、慌てて返球したのでバランスを崩した。
「アデュー」
今度こそ仁王はレーザービームを打ち、私の横を抜いて決まった。
それからショットが決まったり決められたりしたが、なかなか決着がつかず、時間切れで引き分けとなった。
先生の号令に従い、試合で使ったボールやネットを片付け始める。
「体育での試合だから気楽にプレーしようと思ったのに、終盤は結構神経使ったわ」
「柄にもなく、熱くなってしまったのう」
「俺も」
「今日の部活は練習試合だから、その調子でよろしくね」
「了解ナリ」
「当然だろい」
ちなみに今日の対戦相手は、立海女子テニス部だ。
仁王も丸井も百合を見て、ニヤリと笑う。
「すっかり立海のマネージャーとして、板についてきたね。でも今日の練習試合は負けないから!」
「勝つのは私たちよ」
「ふふっ、楽しみね。時雨とも試合できれば良かったのに……」
「それなら今度、部活後に一緒にテニスする?」
「いいの!?」
「もちろん」
「やったあ!」
百合が目を輝かせて喜んでいる。私も彼女とテニスしたかったので嬉しい。
部活後はダブルス大会のバッジ集めがあるけれど、日程を調整すれば問題ないだろう。
隣から視線を感じたが。
「水澤、話があるぜよ」
「あら、何かしら?」
「今日の合同練習で――――」
百合と仁王が私と丸井から少し離れ、何故か火花を散らしている。
丸井を窺うと、彼は苦笑しながら頭を横に振った。
「あの二人は置いといて、片付け終わらせようぜ」
「え、ええ」
話が終わる気配がなくておろおろしたが、丸井に手を引かれ、片付けを再開した。
二人が何を話していたか知るのは、少し先の話である。
私たちはジャージに着替え、テニスコート前に集まっていた。
全体的に生徒たちは落ち着きがない。それもそのはず、今日は連休前日だからである。無理もない。
かういう私も、その一人だ。テニスの合同練習や仁王とお出かけなどが待っている。少しくらい浮かれても良いだろう。
閑話休題。
今日はテニスの授業の最終回ということで、初回と同じく自由に打っていいと体育の先生から説明があった。
「自由に打っていいなら、試合するしかないよね。どうかな?」
早速、百合から試合を申し込まれた。
合同練習で男子テニス部員と試合をすることはあっても、マネージャーである私は試合する機会はない。
私も百合とテニスをしたかったので、断る理由はなかった。
「それなら、俺たちも入れてくれよ」
返事をしようとしたら、待ったがかかった。丸井と仁王だ。
「……まあ、そうなるよね。ダブルスしよっか」
百合は残念そうに呟いた。おそらくシングルスで試合がしたかったのだろう。部活ならともかく体育の授業なので、限られた数のコートを使い続けるのは難しい。
初回の授業と同じメンバーで、ダブルスをすることになった。ペア分けも、あの時と同じくジャンケンだ。
しかし、ペアの相手は前回と違う結果となる。
「おっ、時雨とか! シクヨロ!」
「こちらこそ、よろしくね」
「俺は水澤とペアか」
「仁王は何度も時雨と組んでるから、良いだろい」
「私と組むのに文句あるの?」
「別にないぜよ」
「それじゃあ、五分後に試合開始ね」
百合と仁王は反対側のコートへ向かった。
試合前に作戦会議だ。
私がテニス経験者ということを踏まえて、今回は手加減して捕れるボールを打ってくることはないだろう。
「作戦は、どうする? ジャッカルくん並みに体力があるわけじゃないから、守備に徹することはできないよ」
「んー、そうだな」
丸井も分かっているので、右手を顎にあてて悩んでいる。そして、ちらりと私を見た。
「俺さ、時雨とダブルス組んだら、やってみたいことがあったんだ」
「……なんとなく想像できるけど、何かしら」
「他のプレイヤーの技、打ってみたい!」
「ふふ、やっぱり」
部活の時間、丸井が羨ましそうに仁王の話を聞いているところを、こっそり目撃したのだ。ダブルス大会の試合で私と組んだ時に、他のプレイヤーの技が打てて面白かった、と。
丸井とダブルスを組む機会があったら、きっと彼に必殺技の打ち方を教えることになるだろうと思った。
実際には、丸井が九割以上ジャッカルとペアを組むので、今日までその機会はなかったが。
「でも仁王くんも、それは予想してるんじゃない?」
「そうだな。ま、これは言っちゃなんだが体育の授業だし、気楽に行こうぜ?」
「それもそうね」
笑みが零れた。思った以上に、肩に力が入っていたらしい。
勝負なので負けたくはないが、必要以上に神経をすり減らす必要はない。
私は丸井にいくつか技の打ち方を教え、コートの中央へ向かった。
*
作戦タイムは終了し、試合が始まった。サーブは百合からだ。
レシーバーは私。左手でラケットを握り、右手をそえて構える。
「それじゃあ、いくよ!」
百合がボールを上に投げ、ラケットをスイングさせた。
ボールがこちらのコートに迫ってくる。
コーナーへ走り、返球。ボールは予想より軽く、難なく返せた。
以前、シングルスで試合した時ほどのパワーではない。どうやら最初は様子見のようだ。
それからラリーが続いた。
試合が動いたのは、第4ゲーム。
ラリーが続く中、仁王の口角が上がったように見えた。そろそろ必殺技を打ってくるだろうか。
だが、打たせはしない。私は咄嗟に、つばめ返しを打つ。
前衛の百合に打ち返されるものの、ボールは浅い。
丸井がネット際で、静かに返球する。ボールはネットの上を転がり、相手コートへ落ちた。
「どう、天才的?」
第4ゲームを制し、2-2で追いついた。
続いて第5ゲーム。サービスプレイヤーは私だ。
サーバーは百合。彼女にツイストサーブは通じない。ラケットを右手に持ち替えれば、警戒されるだろう。
強烈な縦回転をかけて、サーブを放つ。
バウンド後にボールが急激に跳ね上がったせいか、百合は目を見張った。おそらく、ボールが消えたように見えたのだろう。
そのまま神隠しを連続で決め、第5ゲームを先取した。
これで3-2。
だが相手チームも黙ってはいない。仁王がレーザービームを打つ構えをした。
「これで終わりぜよ」
レーザーを警戒して後ろに下がると、仁王がドロップショットを打った。
「なっ!」
前衛にいた私は、急いでボールに食らいついて返す。だが、慌てて返球したのでバランスを崩した。
「アデュー」
今度こそ仁王はレーザービームを打ち、私の横を抜いて決まった。
それからショットが決まったり決められたりしたが、なかなか決着がつかず、時間切れで引き分けとなった。
先生の号令に従い、試合で使ったボールやネットを片付け始める。
「体育での試合だから気楽にプレーしようと思ったのに、終盤は結構神経使ったわ」
「柄にもなく、熱くなってしまったのう」
「俺も」
「今日の部活は練習試合だから、その調子でよろしくね」
「了解ナリ」
「当然だろい」
ちなみに今日の対戦相手は、立海女子テニス部だ。
仁王も丸井も百合を見て、ニヤリと笑う。
「すっかり立海のマネージャーとして、板についてきたね。でも今日の練習試合は負けないから!」
「勝つのは私たちよ」
「ふふっ、楽しみね。時雨とも試合できれば良かったのに……」
「それなら今度、部活後に一緒にテニスする?」
「いいの!?」
「もちろん」
「やったあ!」
百合が目を輝かせて喜んでいる。私も彼女とテニスしたかったので嬉しい。
部活後はダブルス大会のバッジ集めがあるけれど、日程を調整すれば問題ないだろう。
隣から視線を感じたが。
「水澤、話があるぜよ」
「あら、何かしら?」
「今日の合同練習で――――」
百合と仁王が私と丸井から少し離れ、何故か火花を散らしている。
丸井を窺うと、彼は苦笑しながら頭を横に振った。
「あの二人は置いといて、片付け終わらせようぜ」
「え、ええ」
話が終わる気配がなくておろおろしたが、丸井に手を引かれ、片付けを再開した。
二人が何を話していたか知るのは、少し先の話である。
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