蝶ノ光
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放課後になり、部活の時間になった。空は雲一つなく、太陽が優しく輝いていて絶好の部活日和だ。
部員たちがテニスコートに集まり、ミーティングが開始される。
幸村がみんなの前に立ち、ホワイトボードを用いながらスケジュールを説明した。今日の部活内容は基礎練習である。
「まずは校内ランニングから。終わったら、ホワイトボードに貼ってある紙を見て、素振りや球出し練習などに移ってほしい。それじゃあ、始め!」
「「「はい!」」」
部員たちは気合いの入った返事をし、ストレッチをしてから校内ランニングへ。
私はというと、部員たちを見送ってからドリンク作りだ。
以前まではマネージャーがいなかったので、ローテーションで作っていたと聞いた。何でも柳の番だった時は、部員から不評だったとか。何処かで似たような話を聞いた覚えがあるが、気のせいだと思う。柳は乾と違い、変な飲み物は作らないだろうから。
*
ミーティングが終わり、校内の決められたコースを走る。
今日は基礎練習の日のため、部活中に試合することはないし、跡部主催の大会バッジをかけて試合できる日でもない。
「はあ~、ダブルスの試合がしたいぜよ」
基礎が大事なのは承知しているが、時雨とダブルスを組んで試合がしたい気分だった。昼休みに青学と合同練習の話を聞いたからだろう。
ダブルスの練習試合をするなら時雨と組みたいし、青学に負けたくない。跡部主催の大会では時雨とペアを組みたいと考えているのだが、どうも彼女に柳生と組むと思われている節がある。予選期間中にペアを組みたいことを伝えなければ。
骨が折れそうだと思うと、ため息が出た。
「仁王くん。ため息をついて、どうしたのですか?」
マイペースに走っていたら、いつの間にか柳生が並走していた。
「ダブルス大会で、どうしたら時雨と組めるかと思ってのう」
柳や切原に質問されていたら警戒していたが、柳生ならデータを取ったり、誰かに言いふらしたりしないだろう。素直に答えられた。
「そうですね……白石さんと組みたい人は多そうなようですので、日頃からさりげなく練習や試合に誘ってみてはいかがでしょうか」
「……そうじゃのう」
青学の連中を筆頭に彼女と組みたい人は多いだろうから、最後は向こうから誘ってくれるように日頃からアピールしてみよう。
胸のつかえが取れると、心なしか足が軽くなった。
*
部員たちが校内ランニングを終える前に無事ドリンクを作り終え、ウォータージャグを部室棟前の水道からコート付近に一つずつ運ぶ。取っ手がついているタイプだが、私の筋力では一気に運ぶのは難しい。
ウォータージャグをまた一つせっせとコートの端へ運び、部室棟前へ戻ると真田がウォータージャグを持っていた。しかも片手に一つずつ。
さすが日頃から鍛えている人は違う。じゃなくて。
「ランニング終えたばかりなのに、手伝わせてしまってごめんなさい。すぐ運ぶから!」
「いや、疲れているわけではないし問題ない。むしろこういう力仕事は、どんどん頼んでくれて構わん」
「そうなの……? それじゃあ、お願いしようかしら」
「分かった。テニスコートまで運ぼう」
「ありがとう」
真田と協力してウォータージャグをコートに運び、最後にコップの入った籠を運ぶ。手伝ってもらえたおかげで、レギュラー以外の部員たちが校内を走り終える前に運び終えた。
籠からコップを取り、部員たちは順番にスポーツドリンクを注ぐ。皆、ごくごくと良い飲みっぷりだ。
あっという間に作ったドリンクは消えたのだった。
部員たちが全員練習に戻ったのを確認し、洗ったコップとウォータージャグを部室に片す。戻す時はウォータージャグが軽いので、両手に持ってさくさく運べた。
さて、次は基礎練習の手伝いだ。
今の時期は、基本的に三年生が中心に一、二年生の指導をしている。ホワイトボードに貼られている練習表で担当者を確認すると、球出し担当は前半→ジャッカル、仁王、柳生、幸村/後半→切原、真田、丸井、柳と記載されていた。
相手とボールを打ち合うためにはストロークを身につける必要があるが、コートの数は限られている。そのためグループ分けをし、時間交代制でコートを使う練習を行う。
新入部員の中には初心者もおり、ボールを打ち返せなかったり、打てても狙った場所に返せなかったり。
コートに転がるボールがまだ多い時期なので、球拾い係に混ざって手伝うことにした。
球出し担当側のコートへ行き、転がっているボールを籠の中へ入れる。一定数ボールが集まれば、球出し担当の横に置いてある籠と交換するのを繰り返す。
特に問題なく、練習が進んでいた。
「――――危ない!」
その時、私はネットに背を向けて片膝をつき、ボールを拾っていた。
切羽詰まった声が聞こえ、振り返ると目の前にボールが迫ってきている。
スピードが落ちない。避けられない。ラケットはベンチに置いてきた。
間違いなくボールにぶつかるだろう。直感的に当たると悟った。
私は腕を顔の前でクロスさせて、咄嗟に目を閉じた。
風が頬を掠める。
「…………?」
いつまで経っても腕に衝撃がやってこない。
さすがに変だなと思ったので恐る恐る目を開けると、目の前には仁王の後ろ姿が。
「に、仁王くん……?」
驚きのあまり声が掠れた。心臓の鼓動が速くなる。
「時雨、怪我はないか?」
「え? ええ……」
仁王が振り返ってしゃがみ、私が怪我をしてないか確認する。
普段飄々としている彼の焦っている姿を見ていると、早鐘を打っていた心臓が落ち着いてきた。
「大丈夫そうじゃな……って、お前さんボールが当たりそうだったのに、冷静すぎんか?」
「アワアワしてる仁王くん見てたら、逆に落ち着いてきてしまって……。助けてくれて、ありがとう」
何があったか聞くと、新入部員が打ったボールがコースを外れ、私に向かっていたらしい。
すぐさま近くにいた仁王が駆けつけ、いなしたので事なきを得た。
「まったく、お前さんは目を離すと危なっかしいのう」
「ご、ごめんなさい」
「……まあ、申し訳ないと思っているなら、部活後に練習付き合いんしゃい」
「分かったわ」
助けてもらったお礼だ。とことん仁王の練習に付き合おう。
「約束ぜよ」
「ええ」
仁王は立ち上がり、右手で私の手首を掴んで上へ持ち上げる。反動で私も立ち上がった。
「さあ、基礎練に戻るぜよ」
仁王がコートへ戻っていく。
足取りが軽い彼の後ろ姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
部員たちがテニスコートに集まり、ミーティングが開始される。
幸村がみんなの前に立ち、ホワイトボードを用いながらスケジュールを説明した。今日の部活内容は基礎練習である。
「まずは校内ランニングから。終わったら、ホワイトボードに貼ってある紙を見て、素振りや球出し練習などに移ってほしい。それじゃあ、始め!」
「「「はい!」」」
部員たちは気合いの入った返事をし、ストレッチをしてから校内ランニングへ。
私はというと、部員たちを見送ってからドリンク作りだ。
以前まではマネージャーがいなかったので、ローテーションで作っていたと聞いた。何でも柳の番だった時は、部員から不評だったとか。何処かで似たような話を聞いた覚えがあるが、気のせいだと思う。柳は乾と違い、変な飲み物は作らないだろうから。
*
ミーティングが終わり、校内の決められたコースを走る。
今日は基礎練習の日のため、部活中に試合することはないし、跡部主催の大会バッジをかけて試合できる日でもない。
「はあ~、ダブルスの試合がしたいぜよ」
基礎が大事なのは承知しているが、時雨とダブルスを組んで試合がしたい気分だった。昼休みに青学と合同練習の話を聞いたからだろう。
ダブルスの練習試合をするなら時雨と組みたいし、青学に負けたくない。跡部主催の大会では時雨とペアを組みたいと考えているのだが、どうも彼女に柳生と組むと思われている節がある。予選期間中にペアを組みたいことを伝えなければ。
骨が折れそうだと思うと、ため息が出た。
「仁王くん。ため息をついて、どうしたのですか?」
マイペースに走っていたら、いつの間にか柳生が並走していた。
「ダブルス大会で、どうしたら時雨と組めるかと思ってのう」
柳や切原に質問されていたら警戒していたが、柳生ならデータを取ったり、誰かに言いふらしたりしないだろう。素直に答えられた。
「そうですね……白石さんと組みたい人は多そうなようですので、日頃からさりげなく練習や試合に誘ってみてはいかがでしょうか」
「……そうじゃのう」
青学の連中を筆頭に彼女と組みたい人は多いだろうから、最後は向こうから誘ってくれるように日頃からアピールしてみよう。
胸のつかえが取れると、心なしか足が軽くなった。
*
部員たちが校内ランニングを終える前に無事ドリンクを作り終え、ウォータージャグを部室棟前の水道からコート付近に一つずつ運ぶ。取っ手がついているタイプだが、私の筋力では一気に運ぶのは難しい。
ウォータージャグをまた一つせっせとコートの端へ運び、部室棟前へ戻ると真田がウォータージャグを持っていた。しかも片手に一つずつ。
さすが日頃から鍛えている人は違う。じゃなくて。
「ランニング終えたばかりなのに、手伝わせてしまってごめんなさい。すぐ運ぶから!」
「いや、疲れているわけではないし問題ない。むしろこういう力仕事は、どんどん頼んでくれて構わん」
「そうなの……? それじゃあ、お願いしようかしら」
「分かった。テニスコートまで運ぼう」
「ありがとう」
真田と協力してウォータージャグをコートに運び、最後にコップの入った籠を運ぶ。手伝ってもらえたおかげで、レギュラー以外の部員たちが校内を走り終える前に運び終えた。
籠からコップを取り、部員たちは順番にスポーツドリンクを注ぐ。皆、ごくごくと良い飲みっぷりだ。
あっという間に作ったドリンクは消えたのだった。
部員たちが全員練習に戻ったのを確認し、洗ったコップとウォータージャグを部室に片す。戻す時はウォータージャグが軽いので、両手に持ってさくさく運べた。
さて、次は基礎練習の手伝いだ。
今の時期は、基本的に三年生が中心に一、二年生の指導をしている。ホワイトボードに貼られている練習表で担当者を確認すると、球出し担当は前半→ジャッカル、仁王、柳生、幸村/後半→切原、真田、丸井、柳と記載されていた。
相手とボールを打ち合うためにはストロークを身につける必要があるが、コートの数は限られている。そのためグループ分けをし、時間交代制でコートを使う練習を行う。
新入部員の中には初心者もおり、ボールを打ち返せなかったり、打てても狙った場所に返せなかったり。
コートに転がるボールがまだ多い時期なので、球拾い係に混ざって手伝うことにした。
球出し担当側のコートへ行き、転がっているボールを籠の中へ入れる。一定数ボールが集まれば、球出し担当の横に置いてある籠と交換するのを繰り返す。
特に問題なく、練習が進んでいた。
「――――危ない!」
その時、私はネットに背を向けて片膝をつき、ボールを拾っていた。
切羽詰まった声が聞こえ、振り返ると目の前にボールが迫ってきている。
スピードが落ちない。避けられない。ラケットはベンチに置いてきた。
間違いなくボールにぶつかるだろう。直感的に当たると悟った。
私は腕を顔の前でクロスさせて、咄嗟に目を閉じた。
風が頬を掠める。
「…………?」
いつまで経っても腕に衝撃がやってこない。
さすがに変だなと思ったので恐る恐る目を開けると、目の前には仁王の後ろ姿が。
「に、仁王くん……?」
驚きのあまり声が掠れた。心臓の鼓動が速くなる。
「時雨、怪我はないか?」
「え? ええ……」
仁王が振り返ってしゃがみ、私が怪我をしてないか確認する。
普段飄々としている彼の焦っている姿を見ていると、早鐘を打っていた心臓が落ち着いてきた。
「大丈夫そうじゃな……って、お前さんボールが当たりそうだったのに、冷静すぎんか?」
「アワアワしてる仁王くん見てたら、逆に落ち着いてきてしまって……。助けてくれて、ありがとう」
何があったか聞くと、新入部員が打ったボールがコースを外れ、私に向かっていたらしい。
すぐさま近くにいた仁王が駆けつけ、いなしたので事なきを得た。
「まったく、お前さんは目を離すと危なっかしいのう」
「ご、ごめんなさい」
「……まあ、申し訳ないと思っているなら、部活後に練習付き合いんしゃい」
「分かったわ」
助けてもらったお礼だ。とことん仁王の練習に付き合おう。
「約束ぜよ」
「ええ」
仁王は立ち上がり、右手で私の手首を掴んで上へ持ち上げる。反動で私も立ち上がった。
「さあ、基礎練に戻るぜよ」
仁王がコートへ戻っていく。
足取りが軽い彼の後ろ姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。