蝶ノ光
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昼食を食べ終えて雑談していると、予鈴が鳴った。
A組前の廊下で柳生と別れ、仁王と共にB組へ向かう。
仁王は午前中教室にいなかったので、当然ながらラケットバッグを背負っていた。いつも朝練の後なら私もラケットバッグを背負っているので、なんだか不思議な感じだ。
彼の鞄をチラリと見ると、どうやら視線に気付いたようで「もう朝練はサボらないぜよ」と頭を撫でられた。
B組の教室に入り、席に着く。仁王も鞄を机の横に置いて、席に着いた。
「おい、仁王。今までどこにいたんだよ? 珍しく朝練いなかったから、ビックリしただろい」
「さあ、どこだったかのう」
「そうそう、三年になってからサボることなかったのに驚いたよ!」
「もうサボることは、なかろうよ」
仁王が席に着くや否や、丸井と百合が午前中いなかったことについて問う。
彼はのろりくらりと躱すが、口元が綻んでいた。
「お前がいないと時雨が心配するから、ちゃんと部活は出ろよ」
「ちょっ、丸井くん……!」
「ホントのことだろい」
いきなり何を言い出すの。部員がいなかったら、心配するのは当たり前じゃない。
とはいえ、中休みに柳生から指摘を受けた内容を思い出すと、墓穴を掘りそうなので口をつぐむ。
仁王くんが満面の笑みを浮かべながら、こちらを見てるし。
「ほーう、それはちゃんと部活に参加しないとな」
「……仁王くんは朝練サボったから、放課後の基礎練はいつもより多めね」
「まあ、仕方ないかのう。白石さんが練習付き合ってくれるんじゃろ?」
「そうだけど……?」
練習メニューが増えるのに、なぜか仁王は嬉しそうであった。
そんなに基礎練好きだったかしら……?
本鈴が鳴り、担任が教室に入る。
五限目はHR。
もうすぐ五月になるので、席替えをするようだ。大体一ヶ月経つと席替えをするのは、どこの学校も同じらしい。
二人の学級委員が黒板の前に出てきて、一人は黒板に座席表を書き、もう一人は裏紙を利用してくじを作り始めた。
その間に現在の四隅の席の人は、ジャンケンでくじを引く順番を決めることに。窓側の最後列なので、私もジャンケンに参加した。
廊下側の最後列の子が最も勝利し、私は二番目に勝利。そのため、くじを引く順番は、廊下側最後列から窓側最後列に進み、端になったら一つ前に進むことになった。
学級委員がくじを作り終わったので、くじが入った袋を持って廊下側最後列から回っていく。
百合がくじを引いたので、次は私が引く番になり、袋の中から一つ摘まむ。
学級委員は、そのまま仁王、丸井の順番に袋を差し出した。
全員がくじを引いたところで、私は紙を開封。
黒板の座席表を確認すると、右に一つ移動――現在の百合の席だった。窓側ではないのは残念だが、最後列なので中々良い席ではないだろうか。
「時雨はどこの席だった?」
ホクホクしながら新しい席に机と椅子を動かそうとすると、百合にどこの席だったか問われる。
今の百合の席だと答えると驚かれた。
彼女の新しい席は廊下側の真ん中あたりだから、結構離れてしまった。仲良い子が離れてしまって寂しいが、そういう時もあるだろう。
休み時間は、百合のところに遊びにいこう。
みんなで新しい席に移動させていると、あることに気付いた。
「あら……?」
「珍しいこともあるもんよ」
左隣の席が仁王だった。つまり、彼の席は窓側の最後列である。
こんな偶然あるだろうか。
でも誰かと席を交換している様子はなかったし、くじに細工を施すのは難しいはず。
きっと仁王の隣になったのは偶然だ。
そう思うことにした。
「またよろしく頼むぜよ、白石さん。それにしても、丸井も水澤も席が遠くなってしまったのう」
左手を額に当てながら、仁王が黒板の方を眺める。
ちなみに丸井の新しい席は、教卓の前だった。
「そうね。こちらこそよろしくね、仁王さん」
「…………お前さん、今なんて?」
仁王がぎょっとしながら振り返る。
仁王さんのところはかなり小さめに言ったのだが、聞こえたらしい。
「こちらこそよろしくね」
「その後」
「仁王くん」
「ダウト」
「……仁王さん」
「なんで、さん付け?」
「仁王さ……くんが、私のこと白石さんって呼ぶから良いかなと思って」
「ダメじゃ。柳生や幸村たちだって白石さんって呼ぶじゃろう」
仁王が私の両肩に手を乗せて必死に訴えてくるので、今後はさん付けで呼ぶのはやめておこうと心に誓った。
「分かったわ、仁王くん」
「……それで、本当の理由は?」
やはり流されてくれないか。
これは仁王が納得するまで、尋問から逃れられなさそうだ。
「仁王くんが百合のこと、水澤さんじゃなくて水澤って呼んでいるから……」
段々恥ずかしくなってきて、声が尻すぼみになった。
本人には言えないが、さん付けがない方が距離が近い気がして羨ましかったのである。
「つまり白石さん、じゃなくて白石と呼ばれたいのか」
「ええ」
「んー、白石だと四天宝寺の白石を呼んでいる感じがするからのう……」
仁王が腕を組ながら唸っている。
確かに中学テニス界だと白石蔵ノ介は有名だし、テニス部所属の人は白石といえば、彼を思い浮かべる人が多いのかもしれない。
「難しければ、今のままでも――」
「そうじゃ。お前さんのこと、時雨と呼んでも良いか?」
「え?」
これまで通りの呼び方でも構わないと言おうとしたら、名前を呼ばれた気がする。
「柳や丸井、赤也も呼んでるし……ダメか?」
「えと、仁王くんが呼びたければ、どうぞ……?」
頼んでいるようではあるが、呼びたそうに言われると断りづらい。
「ん、それじゃあ改めて。よろしく頼むぜよ、時雨」
「こ、こちらこそよろしく、仁王くん」
その後、名前呼びに慣れるのに時間がかかったのは、言うまでもない。
A組前の廊下で柳生と別れ、仁王と共にB組へ向かう。
仁王は午前中教室にいなかったので、当然ながらラケットバッグを背負っていた。いつも朝練の後なら私もラケットバッグを背負っているので、なんだか不思議な感じだ。
彼の鞄をチラリと見ると、どうやら視線に気付いたようで「もう朝練はサボらないぜよ」と頭を撫でられた。
B組の教室に入り、席に着く。仁王も鞄を机の横に置いて、席に着いた。
「おい、仁王。今までどこにいたんだよ? 珍しく朝練いなかったから、ビックリしただろい」
「さあ、どこだったかのう」
「そうそう、三年になってからサボることなかったのに驚いたよ!」
「もうサボることは、なかろうよ」
仁王が席に着くや否や、丸井と百合が午前中いなかったことについて問う。
彼はのろりくらりと躱すが、口元が綻んでいた。
「お前がいないと時雨が心配するから、ちゃんと部活は出ろよ」
「ちょっ、丸井くん……!」
「ホントのことだろい」
いきなり何を言い出すの。部員がいなかったら、心配するのは当たり前じゃない。
とはいえ、中休みに柳生から指摘を受けた内容を思い出すと、墓穴を掘りそうなので口をつぐむ。
仁王くんが満面の笑みを浮かべながら、こちらを見てるし。
「ほーう、それはちゃんと部活に参加しないとな」
「……仁王くんは朝練サボったから、放課後の基礎練はいつもより多めね」
「まあ、仕方ないかのう。白石さんが練習付き合ってくれるんじゃろ?」
「そうだけど……?」
練習メニューが増えるのに、なぜか仁王は嬉しそうであった。
そんなに基礎練好きだったかしら……?
本鈴が鳴り、担任が教室に入る。
五限目はHR。
もうすぐ五月になるので、席替えをするようだ。大体一ヶ月経つと席替えをするのは、どこの学校も同じらしい。
二人の学級委員が黒板の前に出てきて、一人は黒板に座席表を書き、もう一人は裏紙を利用してくじを作り始めた。
その間に現在の四隅の席の人は、ジャンケンでくじを引く順番を決めることに。窓側の最後列なので、私もジャンケンに参加した。
廊下側の最後列の子が最も勝利し、私は二番目に勝利。そのため、くじを引く順番は、廊下側最後列から窓側最後列に進み、端になったら一つ前に進むことになった。
学級委員がくじを作り終わったので、くじが入った袋を持って廊下側最後列から回っていく。
百合がくじを引いたので、次は私が引く番になり、袋の中から一つ摘まむ。
学級委員は、そのまま仁王、丸井の順番に袋を差し出した。
全員がくじを引いたところで、私は紙を開封。
黒板の座席表を確認すると、右に一つ移動――現在の百合の席だった。窓側ではないのは残念だが、最後列なので中々良い席ではないだろうか。
「時雨はどこの席だった?」
ホクホクしながら新しい席に机と椅子を動かそうとすると、百合にどこの席だったか問われる。
今の百合の席だと答えると驚かれた。
彼女の新しい席は廊下側の真ん中あたりだから、結構離れてしまった。仲良い子が離れてしまって寂しいが、そういう時もあるだろう。
休み時間は、百合のところに遊びにいこう。
みんなで新しい席に移動させていると、あることに気付いた。
「あら……?」
「珍しいこともあるもんよ」
左隣の席が仁王だった。つまり、彼の席は窓側の最後列である。
こんな偶然あるだろうか。
でも誰かと席を交換している様子はなかったし、くじに細工を施すのは難しいはず。
きっと仁王の隣になったのは偶然だ。
そう思うことにした。
「またよろしく頼むぜよ、白石さん。それにしても、丸井も水澤も席が遠くなってしまったのう」
左手を額に当てながら、仁王が黒板の方を眺める。
ちなみに丸井の新しい席は、教卓の前だった。
「そうね。こちらこそよろしくね、仁王さん」
「…………お前さん、今なんて?」
仁王がぎょっとしながら振り返る。
仁王さんのところはかなり小さめに言ったのだが、聞こえたらしい。
「こちらこそよろしくね」
「その後」
「仁王くん」
「ダウト」
「……仁王さん」
「なんで、さん付け?」
「仁王さ……くんが、私のこと白石さんって呼ぶから良いかなと思って」
「ダメじゃ。柳生や幸村たちだって白石さんって呼ぶじゃろう」
仁王が私の両肩に手を乗せて必死に訴えてくるので、今後はさん付けで呼ぶのはやめておこうと心に誓った。
「分かったわ、仁王くん」
「……それで、本当の理由は?」
やはり流されてくれないか。
これは仁王が納得するまで、尋問から逃れられなさそうだ。
「仁王くんが百合のこと、水澤さんじゃなくて水澤って呼んでいるから……」
段々恥ずかしくなってきて、声が尻すぼみになった。
本人には言えないが、さん付けがない方が距離が近い気がして羨ましかったのである。
「つまり白石さん、じゃなくて白石と呼ばれたいのか」
「ええ」
「んー、白石だと四天宝寺の白石を呼んでいる感じがするからのう……」
仁王が腕を組ながら唸っている。
確かに中学テニス界だと白石蔵ノ介は有名だし、テニス部所属の人は白石といえば、彼を思い浮かべる人が多いのかもしれない。
「難しければ、今のままでも――」
「そうじゃ。お前さんのこと、時雨と呼んでも良いか?」
「え?」
これまで通りの呼び方でも構わないと言おうとしたら、名前を呼ばれた気がする。
「柳や丸井、赤也も呼んでるし……ダメか?」
「えと、仁王くんが呼びたければ、どうぞ……?」
頼んでいるようではあるが、呼びたそうに言われると断りづらい。
「ん、それじゃあ改めて。よろしく頼むぜよ、時雨」
「こ、こちらこそよろしく、仁王くん」
その後、名前呼びに慣れるのに時間がかかったのは、言うまでもない。