蝶ノ光
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月曜日。
普段なら週の始めで晴れやかな気持ちでいることが多いけれど、今日は憂鬱だった。
何故なら、仁王とどう接すれば良いか分からないからである。部活の片付けの時、彼の視線に気づいていないふりをしてしまっただけに後ろめたい。
私は朝練で仁王に謝ろうと心に誓いながら、ラケットバッグを片手に学校へ向かった。
「あれ……?」
女テニの部室でジャージに着替え、気を張りながらテニスコートに向かったが、肝心の仁王がいなかった。
休みなのかしら? ……いや、私に会いたくないからだろうか。
完全に自業自得なわけだが、現実を突きつけられると落ち込む。
その日の朝練は悶々としながら球出しをしたせいか、柳や切原に心配されてしまったので、なんとか誤魔化した。
一限が始まる時間になれば、席にはいるのではと思っていたが、仁王の姿は教室にない。たとえ目が合わなかったとしても、後ろ姿なら見られると期待していたのに。
「あれ、仁王休み? いやサボりかな?」
右隣の席の百合が、不思議そうに左斜め前の空席を見つめている。
「朝練もいなかったけど……仁王くんって授業サボるの?」
「たまにサボるよ。三年になってからは、ちゃんと授業出てたから真面目になったのかなって思ってたけど、そんなことはなかったようね」
「そう、なんだ」
平静を装いつつ、内心は滝のように汗を流していた。
やはり昨日の試合で、氷の女王と呼ばれたプレイスタイルで挑んだのは良くなかったのだ。
ちゃんと謝ろう。
しかし彼が何処にいるのか分からないので、私は中休みに柳生のところへ相談しに行くのだった。
「ああ、そろそろ来る頃かと思ってましたよ」
なんとか一、二限の授業を乗り切ってA組の教室へ足を運ぶと、教室の前で柳生が待っていた。
「そんなに分かりやすかったかしら?」
「そうですね、朝練のときの様子を見たら心配になりますよ」
柳生は右手を顎に当てて苦笑した。
なんでも一応球出しは形になっていたものの、ノートにデータを記入している時や球拾いしている時は、自分で思っている以上に上の空だったらしい。
も、申し訳ない……。
「後悔するくらいなら、仁王くんに凍てついた眼差しを送らなければ良かった」
すると柳生は意外そうに瞠目した。
彼曰く、私が氷の女王と呼ばれたプレイスタイルで来るのは予想外だったが、仁王も自分の気持ちが整理できていないようだ。
「確かに冷たい瞳で射抜かれたことに動揺していましたが……それ以上に白石さんが、がむしゃらなプレイスタイルになると思わなかったようです」
「――え?」
そして思考が置いてけぼりの私に、柳生は告げた。
「恐らく仁王くんは、屋上でサボっているのでしょう。白石さんさえ良ければ、昼休みに行ってみますか?」
*
昼休みになり、柳生と屋上へ向かった。
ただし屋上に足を踏み入れるのは、まずは柳生だけだ。私がいると仁王が逃げるかもしれないので、私は屋上の扉の裏で待機。
「やはり、ここにいたのですね。昨日のことが原因ですか?」
柳生が仁王に話しかける。
扉を少し開けて隙間から覗くと、仁王は屋上で寝そべっていた。
近くにシャボン玉の容器が置いてあったから、授業中に時々吹いていたと予想。
「まあ、そうじゃな。白石さんに合わせる顔がなくてのう」
仁王は上体を起こすが、扉の方は見ない。屋上の安全柵の方に体を向けたままだ。
「何故、不二くんにイリュージョンを?」
私が一番気になっていたことを、柳生は直球で聞いた。
案外ダブルスパートナーに容赦ないのね。
耳を澄ましていると、仁王はぽつりぽつりと語り始めた。
試合中に凍てついた眼差しで見られた瞬間、頭が真っ白になったこと。
ふとした時に私と壁を感じることがあり、自分を見てほしいと感じること。青学の奴らが羨ましいと思うこと。
咄嗟に不二にイリュージョンしてしまったが、私のプレイを見て後悔したこと。
「片付けの時間に目も合わなかったし、嫌われ」
「そんなことない!」
気づいたら扉の影から飛び出していた。
「正直、仁王くんが不二くんの姿になってから記憶はないけど……仁王くんのこと嫌いになるなんてないわ!」
「お、お前さん、いつからいたんじゃ」
突然私が仁王の隣に姿を現したので、彼はぎょっとしている。彼が慌てるなんて、珍しいかもしれない。
「最初からよ」
「最初から……。白石さん、怒ってないんか?」
「そもそも、私がいけなかったの。ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げた。
仁王がふとしたときに壁を感じるのは、時々青学での出来事が頭をよぎって、私がテニス部員と距離を置いてしまうから。
大切な仲間を信頼しなくてどうするのだ。
「俺の方こそ、すまんかった。……また俺とテニスしてくれるかのう?」
「もちろん! またダブルス組んでくれると嬉しいわ」
私は身を起こして、顔を綻ばせた。
仁王も口元をゆるませ、表情が柔らかくなる。
「さて、仲直りしたところでお昼食べに行きましょう」
柳生の言葉で、お昼を食べていないことを思い出した。
仁王のことで頭がいっぱいで、それどころではなかったのもあるけれど。
安心したらお腹が空いてきた。
放課後目一杯テニスを楽しむためにも、食べておかないとね。
私は仁王と柳生と共に、仲良く食堂へ向かうのだった。
普段なら週の始めで晴れやかな気持ちでいることが多いけれど、今日は憂鬱だった。
何故なら、仁王とどう接すれば良いか分からないからである。部活の片付けの時、彼の視線に気づいていないふりをしてしまっただけに後ろめたい。
私は朝練で仁王に謝ろうと心に誓いながら、ラケットバッグを片手に学校へ向かった。
「あれ……?」
女テニの部室でジャージに着替え、気を張りながらテニスコートに向かったが、肝心の仁王がいなかった。
休みなのかしら? ……いや、私に会いたくないからだろうか。
完全に自業自得なわけだが、現実を突きつけられると落ち込む。
その日の朝練は悶々としながら球出しをしたせいか、柳や切原に心配されてしまったので、なんとか誤魔化した。
一限が始まる時間になれば、席にはいるのではと思っていたが、仁王の姿は教室にない。たとえ目が合わなかったとしても、後ろ姿なら見られると期待していたのに。
「あれ、仁王休み? いやサボりかな?」
右隣の席の百合が、不思議そうに左斜め前の空席を見つめている。
「朝練もいなかったけど……仁王くんって授業サボるの?」
「たまにサボるよ。三年になってからは、ちゃんと授業出てたから真面目になったのかなって思ってたけど、そんなことはなかったようね」
「そう、なんだ」
平静を装いつつ、内心は滝のように汗を流していた。
やはり昨日の試合で、氷の女王と呼ばれたプレイスタイルで挑んだのは良くなかったのだ。
ちゃんと謝ろう。
しかし彼が何処にいるのか分からないので、私は中休みに柳生のところへ相談しに行くのだった。
「ああ、そろそろ来る頃かと思ってましたよ」
なんとか一、二限の授業を乗り切ってA組の教室へ足を運ぶと、教室の前で柳生が待っていた。
「そんなに分かりやすかったかしら?」
「そうですね、朝練のときの様子を見たら心配になりますよ」
柳生は右手を顎に当てて苦笑した。
なんでも一応球出しは形になっていたものの、ノートにデータを記入している時や球拾いしている時は、自分で思っている以上に上の空だったらしい。
も、申し訳ない……。
「後悔するくらいなら、仁王くんに凍てついた眼差しを送らなければ良かった」
すると柳生は意外そうに瞠目した。
彼曰く、私が氷の女王と呼ばれたプレイスタイルで来るのは予想外だったが、仁王も自分の気持ちが整理できていないようだ。
「確かに冷たい瞳で射抜かれたことに動揺していましたが……それ以上に白石さんが、がむしゃらなプレイスタイルになると思わなかったようです」
「――え?」
そして思考が置いてけぼりの私に、柳生は告げた。
「恐らく仁王くんは、屋上でサボっているのでしょう。白石さんさえ良ければ、昼休みに行ってみますか?」
*
昼休みになり、柳生と屋上へ向かった。
ただし屋上に足を踏み入れるのは、まずは柳生だけだ。私がいると仁王が逃げるかもしれないので、私は屋上の扉の裏で待機。
「やはり、ここにいたのですね。昨日のことが原因ですか?」
柳生が仁王に話しかける。
扉を少し開けて隙間から覗くと、仁王は屋上で寝そべっていた。
近くにシャボン玉の容器が置いてあったから、授業中に時々吹いていたと予想。
「まあ、そうじゃな。白石さんに合わせる顔がなくてのう」
仁王は上体を起こすが、扉の方は見ない。屋上の安全柵の方に体を向けたままだ。
「何故、不二くんにイリュージョンを?」
私が一番気になっていたことを、柳生は直球で聞いた。
案外ダブルスパートナーに容赦ないのね。
耳を澄ましていると、仁王はぽつりぽつりと語り始めた。
試合中に凍てついた眼差しで見られた瞬間、頭が真っ白になったこと。
ふとした時に私と壁を感じることがあり、自分を見てほしいと感じること。青学の奴らが羨ましいと思うこと。
咄嗟に不二にイリュージョンしてしまったが、私のプレイを見て後悔したこと。
「片付けの時間に目も合わなかったし、嫌われ」
「そんなことない!」
気づいたら扉の影から飛び出していた。
「正直、仁王くんが不二くんの姿になってから記憶はないけど……仁王くんのこと嫌いになるなんてないわ!」
「お、お前さん、いつからいたんじゃ」
突然私が仁王の隣に姿を現したので、彼はぎょっとしている。彼が慌てるなんて、珍しいかもしれない。
「最初からよ」
「最初から……。白石さん、怒ってないんか?」
「そもそも、私がいけなかったの。ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げた。
仁王がふとしたときに壁を感じるのは、時々青学での出来事が頭をよぎって、私がテニス部員と距離を置いてしまうから。
大切な仲間を信頼しなくてどうするのだ。
「俺の方こそ、すまんかった。……また俺とテニスしてくれるかのう?」
「もちろん! またダブルス組んでくれると嬉しいわ」
私は身を起こして、顔を綻ばせた。
仁王も口元をゆるませ、表情が柔らかくなる。
「さて、仲直りしたところでお昼食べに行きましょう」
柳生の言葉で、お昼を食べていないことを思い出した。
仁王のことで頭がいっぱいで、それどころではなかったのもあるけれど。
安心したらお腹が空いてきた。
放課後目一杯テニスを楽しむためにも、食べておかないとね。
私は仁王と柳生と共に、仲良く食堂へ向かうのだった。