蝶ノ光
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部活が終わり、頭を冷やそうと一人でテニススクールへの道のりを歩く。
何故仁王が不二の姿になったのか気になって仕方がないが、このままではいつまで経っても気が静まらない。ひとまず先ほどの試合は忘れることにした。
T字路を曲がって真っ直ぐ進み、もうすぐでテニススクールというところで入り口付近に見覚えのある人物が。
幸い、こちらには気づいていない。私は慌てて来た道を戻り、T字路の角に身を潜める。
ラケットバッグを背負い、青学のジャージを纏った男――手塚国光が確かに見えた。
ダブルス大会の参加者は全国のテニススクールの使用権を与えられているが、試合する約束をしているわけでもないのに、ピンポイントで私の通ってるスクールを利用するだろうか。
胸に手をあて、ワイシャツをぎゅっと掴む。ゆっくり息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。
こっそり角から顔を出すと、手塚とバッチリ目が合ってしまった。すかさず彼がこちらに向かってくる。
どうしよう。まずは様子を見ようとしたのに逃げ場を失った。
私は手塚から目を反らし、彼が歩いてくる道に背を向けて俯く。視線がぐるぐる地面をさ迷った。
彼には転校することを告げずに青学を去ったので気まずいし、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ダブルス大会に参加した以上、いつか青学の選手たちと遭遇するとは予想していたが、こんなに早く再会するとは思わなかった。
「時雨、やっと見つけた」
彼の声には安堵したような、戸惑っているような、色んな感情が籠っていた。
覚悟を決め、ゆっくり顔を上げる。
「……どうしてここに? 貞治から聞いたの?」
何も言わずに去ってごめんなさい。みんな元気にしてる?
言いたいことは他にもあったが感情がごちゃごちゃになり、結局一番の疑問が口から溢れた。
「違う」
「じゃあ、リョーマ?」
「違う」
「ええ? 誰だろう……」
正直、乾とリョーマしか心当たりがなかった。その二人ではないとなると、立海の誰かが手塚に伝えたのだろうか。あまり想像できないけれど。
「それより、今まですまなかった」
手塚は両脇に腕をぴたりとつけ、頭を下げた。
「え……手塚くんは悪くないよ。むしろ助けてくれたじゃない」
青学にいた頃、手塚に気にかけてもらえなければ心が折れていたかもしれない。感謝こそあれど、謝罪される理由が分からず困惑した。
「だが、あの頃のお前はテニスを楽しめていなかっただろう」
確かにあの頃は疲弊していてテニスを楽しむどころではなかったのだが、彼が責任を感じることではない。
このままでは平行線を辿る一方だと感じ、私は一つ提案することにした。
「それなら今からテニスの練習に付き合ってくれないかしら?」
*
スクールのコートに心地よいストロークの音が響く。
こうして手塚とテニスをするのは二ヶ月ぶりくらいだろうか。
また一緒にテニスをする日が来るとは思わなかった。
青学テニス部を辞めてから立海テニス部に入るまでの間も練習していたおかげか、彼の打球に怯むことなくラリーを続けることができた。
「また腕を上げたな」
「毎日欠かさず練習しているからね。立海テニス部のマネージャーになったから、青学に負けないわよ!」
「望むところだ」
手塚が不敵に笑った。
普段練習では厳しい彼に褒められたのが嬉しく、私は口角を上げる。
一緒に練習しているうちに気まずかった気持ちはいつの間にか消え、夢中でボールを追いかけていた。やはりテニスをするのは楽しい。
早くみんなと仲直りして、彼らと心から楽しめると良いな。
それから数十分後。水分補給を兼ねて、休憩することに。
コートの近くのベンチに腰をかけ、スポーツドリンクを飲む。冷たいドリンクが火照った身体に染み渡った。
「ところで時雨。お前も跡部主催のダブルス大会に参加しているだろう?」
「ええ」
質問というより、確信めいた言い方だった。
私に確認するということは、テニススクールのことといい乾やリョーマから聞いたわけではなさそうだ。単に千夏が参加しているからかもしれないが。
「バッジを賭けた試合するときは男装をするのか?」
「へ?」
まさか手塚に男装を指摘されるとは思っていなかったので、声が裏返った。
「いや、こう言い直そう。昨日六角の佐伯と試合をしたか?」
「……試合したわ。でも何故手塚くんがそれを?」
きっと挑戦状とばかりにつばめ返しを打ったからだろう。
「そうか。佐伯から不二に連絡があってな。ゾーンやつばめ返しなどを使ったと聞いたが……プレイスタイルを変えたのか?」
「そうね。いつものプレイスタイルでいくと、私が青学にいた白石とすぐにバレてしまうから」
どうやら昨日、不二宛てに佐伯から電話があり、ちょうど彼と練習していたので知ったようだ。千夏や他の部員には教えてないそうで、ホッとする。
不二は私の正体にまだ確信は持てていないらしい。実際に彼と再会したら、見抜かれそうだけれど。
それから現状の青学の様子を聞いた。やはりというべきか、大会参加者は特に私を探しているとのこと。どうも本当に私が部室を荒らしたり盗みをしたりしたのか、疑問に思う部員が増えてきているらしい。乾やリョーマのおかげだろうか。
「あと時雨の噂を聞いて、試合したいと思う部員が増えてきていると感じる」
「それじゃあ、尚更負けないように練習しないとね」
それから練習を再開し、気づけば日が落ちるまで打ち合っていた。
雑談をしながら、駅まで手塚を送る。
「今日は手塚くんとテニスができて楽しかったわ」
「俺もだ。またテニスをしよう……今度はダブルスで」
「もちろん!」
手塚は満足げに頷き、また今度と改札へ入っていった。
わだかまりがなくなり、晴れやかな気持ちだ。
彼とダブルスをする機会は今までなかったので、ぜひ実現させたい。味方であれば、心強いだろう。
私は今日の出来事を振り返り、青学の大会参加者に負けないよう、これまで以上に練習に取り組もうと決意するのだった。
何故仁王が不二の姿になったのか気になって仕方がないが、このままではいつまで経っても気が静まらない。ひとまず先ほどの試合は忘れることにした。
T字路を曲がって真っ直ぐ進み、もうすぐでテニススクールというところで入り口付近に見覚えのある人物が。
幸い、こちらには気づいていない。私は慌てて来た道を戻り、T字路の角に身を潜める。
ラケットバッグを背負い、青学のジャージを纏った男――手塚国光が確かに見えた。
ダブルス大会の参加者は全国のテニススクールの使用権を与えられているが、試合する約束をしているわけでもないのに、ピンポイントで私の通ってるスクールを利用するだろうか。
胸に手をあて、ワイシャツをぎゅっと掴む。ゆっくり息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。
こっそり角から顔を出すと、手塚とバッチリ目が合ってしまった。すかさず彼がこちらに向かってくる。
どうしよう。まずは様子を見ようとしたのに逃げ場を失った。
私は手塚から目を反らし、彼が歩いてくる道に背を向けて俯く。視線がぐるぐる地面をさ迷った。
彼には転校することを告げずに青学を去ったので気まずいし、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ダブルス大会に参加した以上、いつか青学の選手たちと遭遇するとは予想していたが、こんなに早く再会するとは思わなかった。
「時雨、やっと見つけた」
彼の声には安堵したような、戸惑っているような、色んな感情が籠っていた。
覚悟を決め、ゆっくり顔を上げる。
「……どうしてここに? 貞治から聞いたの?」
何も言わずに去ってごめんなさい。みんな元気にしてる?
言いたいことは他にもあったが感情がごちゃごちゃになり、結局一番の疑問が口から溢れた。
「違う」
「じゃあ、リョーマ?」
「違う」
「ええ? 誰だろう……」
正直、乾とリョーマしか心当たりがなかった。その二人ではないとなると、立海の誰かが手塚に伝えたのだろうか。あまり想像できないけれど。
「それより、今まですまなかった」
手塚は両脇に腕をぴたりとつけ、頭を下げた。
「え……手塚くんは悪くないよ。むしろ助けてくれたじゃない」
青学にいた頃、手塚に気にかけてもらえなければ心が折れていたかもしれない。感謝こそあれど、謝罪される理由が分からず困惑した。
「だが、あの頃のお前はテニスを楽しめていなかっただろう」
確かにあの頃は疲弊していてテニスを楽しむどころではなかったのだが、彼が責任を感じることではない。
このままでは平行線を辿る一方だと感じ、私は一つ提案することにした。
「それなら今からテニスの練習に付き合ってくれないかしら?」
*
スクールのコートに心地よいストロークの音が響く。
こうして手塚とテニスをするのは二ヶ月ぶりくらいだろうか。
また一緒にテニスをする日が来るとは思わなかった。
青学テニス部を辞めてから立海テニス部に入るまでの間も練習していたおかげか、彼の打球に怯むことなくラリーを続けることができた。
「また腕を上げたな」
「毎日欠かさず練習しているからね。立海テニス部のマネージャーになったから、青学に負けないわよ!」
「望むところだ」
手塚が不敵に笑った。
普段練習では厳しい彼に褒められたのが嬉しく、私は口角を上げる。
一緒に練習しているうちに気まずかった気持ちはいつの間にか消え、夢中でボールを追いかけていた。やはりテニスをするのは楽しい。
早くみんなと仲直りして、彼らと心から楽しめると良いな。
それから数十分後。水分補給を兼ねて、休憩することに。
コートの近くのベンチに腰をかけ、スポーツドリンクを飲む。冷たいドリンクが火照った身体に染み渡った。
「ところで時雨。お前も跡部主催のダブルス大会に参加しているだろう?」
「ええ」
質問というより、確信めいた言い方だった。
私に確認するということは、テニススクールのことといい乾やリョーマから聞いたわけではなさそうだ。単に千夏が参加しているからかもしれないが。
「バッジを賭けた試合するときは男装をするのか?」
「へ?」
まさか手塚に男装を指摘されるとは思っていなかったので、声が裏返った。
「いや、こう言い直そう。昨日六角の佐伯と試合をしたか?」
「……試合したわ。でも何故手塚くんがそれを?」
きっと挑戦状とばかりにつばめ返しを打ったからだろう。
「そうか。佐伯から不二に連絡があってな。ゾーンやつばめ返しなどを使ったと聞いたが……プレイスタイルを変えたのか?」
「そうね。いつものプレイスタイルでいくと、私が青学にいた白石とすぐにバレてしまうから」
どうやら昨日、不二宛てに佐伯から電話があり、ちょうど彼と練習していたので知ったようだ。千夏や他の部員には教えてないそうで、ホッとする。
不二は私の正体にまだ確信は持てていないらしい。実際に彼と再会したら、見抜かれそうだけれど。
それから現状の青学の様子を聞いた。やはりというべきか、大会参加者は特に私を探しているとのこと。どうも本当に私が部室を荒らしたり盗みをしたりしたのか、疑問に思う部員が増えてきているらしい。乾やリョーマのおかげだろうか。
「あと時雨の噂を聞いて、試合したいと思う部員が増えてきていると感じる」
「それじゃあ、尚更負けないように練習しないとね」
それから練習を再開し、気づけば日が落ちるまで打ち合っていた。
雑談をしながら、駅まで手塚を送る。
「今日は手塚くんとテニスができて楽しかったわ」
「俺もだ。またテニスをしよう……今度はダブルスで」
「もちろん!」
手塚は満足げに頷き、また今度と改札へ入っていった。
わだかまりがなくなり、晴れやかな気持ちだ。
彼とダブルスをする機会は今までなかったので、ぜひ実現させたい。味方であれば、心強いだろう。
私は今日の出来事を振り返り、青学の大会参加者に負けないよう、これまで以上に練習に取り組もうと決意するのだった。