蝶ノ光
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黒羽・佐伯ペアからバッジを受け取った後、太陽が沈んできたので駅まで蔵ノ介を送った。
四天宝寺中の大会参加者は、私の家の最寄りから数駅先のホテルに休日は滞在するらしい。
「六角とのさっきの試合、つばめ返し打ってたけど……あれって不二くんの技やろ? 打って良かったんか?」
「それは私からのメッセージだから良いの。今日の試合が不二くんや手塚くんたちに伝わっても、そこから千夏に伝わる可能性は低いからね。それに、もしかしたら彼らが神奈川に試合しに来るかもしれないし、そしたら……」
「そしたら?」
「私のテニスで返り討ちにするの」
私はニヤリと笑った。
試合の情報が伝わっていれば、今頃プレイスタイルに困惑するだろう。もしかしたら立海に乗り込んでくるかもしれない。
でも、もうあの頃の私ではない。
試合形式はダブルス。一人では敵わなくても二人で挑めば良いのだ。
「その意気や! 今日は時雨と試合できて楽しかったで。また機会があったらペア組んでや」
「ええ、もちろん! 私も蔵兄とテニスできて楽しかったわ」
改札に入っていく蔵ノ介の背中を見つめる。
最後に一緒にテニスをしたのは、一年前くらいだっただろうか。
隣に並ぶと彼は背が高くなったし、声が低くなったと感じる。部長という大きな役目を果たしているし、テニスだって更に強くなっていた。
それに対して私はどうだ。立海に転校して自分のテニスを取り戻して、ようやく前が向けるようになって。
蔵ノ介にテニス強くなったと言われたが、まだまだ足りない。
彼が少し遠い存在のように感じたのは秘密だ。気持ちの問題だろう。
彼を追い越す勢いで練習に励もう。
そう決意し、私は帰路についた。
*
「それじゃあ、時雨によろしく言っといて」
「ああ。だが本人に会わなくて良かったのか? 直接言った方が喜ぶだろう」
「今日は神奈川に先輩たちが来てないか、様子を見に来ただけだからね」
帰り道に近所の公園を通りかかると、そこには見覚えのある二人が話していた。会話の内容は聞き取れない。
一方は黒帽子、一方は白帽子を被っていた。
珍しい組み合わせである。
ダブルスの相性は置いといて、個人のスキルを評価した場合、二人ともトップクラスだろう。
「リョーマに真田くん。今日は二人でダブルス組んだの?」
公園の敷地内に入り、普段の調子で声をかけるとリョーマは目を見開き、真田は固まった。
「噂をすれば……。神奈川に来たら真田さんに会ったから、練習に付き合ってもらっただけだよ。試合はしてない」
「そうなんだ」
「その声……白石か?」
「そうよ。この前仁王くんに変装指導もらって自信あったのだけど、分かりやすかったかしら?」
「いや、俺は姿だけでは分からなかった」
蔵ノ介やリョーマには一目で見破られてしまったし、特に親しいテニス仲間には分かりやすいかもしれない。
「今日は誰と組んだのだ」
「午前中は氷帝の忍足くんとで、午後は蔵兄よ」
「蔵兄? 時雨のお兄さんは、吹雪さんだけじゃなかったっけ」
リョーマは首を傾げる。
「それはもしかして、四天宝寺の白石蔵ノ介ではないか?」
「ええ、従兄なの。四天宝寺といえば、昨年度の全国大会で立海と準決勝で当たったのよね」
「決勝の牧ノ藤より苦しめられたな」
真田は腕を組みながら頷く。
苦しめられたと言いつつ、ストレートで勝利しているから、本当かとつい胡乱な目を向けてしまうのは許してほしい。
「ふーん。でも今年勝つのは青学だから」
「いや、今年も俺たち立海だ」
「! ええ、青学に負けるわけにはいかないわ」
俺たち立海。
真田は無意識に言ったのかもしれないが、立海テニス部として認められたような感じがして嬉しかった。
「上等!」
リョーマは不敵な笑みを浮かべた。
青学と戦う舞台は関東大会――いや、私自身が試合するならダブルス大会だ。
どちらにせよ、全力で立ち向かうまで。
もう私は、後悔のしないテニスをしようと決めたのだから。
四天宝寺中の大会参加者は、私の家の最寄りから数駅先のホテルに休日は滞在するらしい。
「六角とのさっきの試合、つばめ返し打ってたけど……あれって不二くんの技やろ? 打って良かったんか?」
「それは私からのメッセージだから良いの。今日の試合が不二くんや手塚くんたちに伝わっても、そこから千夏に伝わる可能性は低いからね。それに、もしかしたら彼らが神奈川に試合しに来るかもしれないし、そしたら……」
「そしたら?」
「私のテニスで返り討ちにするの」
私はニヤリと笑った。
試合の情報が伝わっていれば、今頃プレイスタイルに困惑するだろう。もしかしたら立海に乗り込んでくるかもしれない。
でも、もうあの頃の私ではない。
試合形式はダブルス。一人では敵わなくても二人で挑めば良いのだ。
「その意気や! 今日は時雨と試合できて楽しかったで。また機会があったらペア組んでや」
「ええ、もちろん! 私も蔵兄とテニスできて楽しかったわ」
改札に入っていく蔵ノ介の背中を見つめる。
最後に一緒にテニスをしたのは、一年前くらいだっただろうか。
隣に並ぶと彼は背が高くなったし、声が低くなったと感じる。部長という大きな役目を果たしているし、テニスだって更に強くなっていた。
それに対して私はどうだ。立海に転校して自分のテニスを取り戻して、ようやく前が向けるようになって。
蔵ノ介にテニス強くなったと言われたが、まだまだ足りない。
彼が少し遠い存在のように感じたのは秘密だ。気持ちの問題だろう。
彼を追い越す勢いで練習に励もう。
そう決意し、私は帰路についた。
*
「それじゃあ、時雨によろしく言っといて」
「ああ。だが本人に会わなくて良かったのか? 直接言った方が喜ぶだろう」
「今日は神奈川に先輩たちが来てないか、様子を見に来ただけだからね」
帰り道に近所の公園を通りかかると、そこには見覚えのある二人が話していた。会話の内容は聞き取れない。
一方は黒帽子、一方は白帽子を被っていた。
珍しい組み合わせである。
ダブルスの相性は置いといて、個人のスキルを評価した場合、二人ともトップクラスだろう。
「リョーマに真田くん。今日は二人でダブルス組んだの?」
公園の敷地内に入り、普段の調子で声をかけるとリョーマは目を見開き、真田は固まった。
「噂をすれば……。神奈川に来たら真田さんに会ったから、練習に付き合ってもらっただけだよ。試合はしてない」
「そうなんだ」
「その声……白石か?」
「そうよ。この前仁王くんに変装指導もらって自信あったのだけど、分かりやすかったかしら?」
「いや、俺は姿だけでは分からなかった」
蔵ノ介やリョーマには一目で見破られてしまったし、特に親しいテニス仲間には分かりやすいかもしれない。
「今日は誰と組んだのだ」
「午前中は氷帝の忍足くんとで、午後は蔵兄よ」
「蔵兄? 時雨のお兄さんは、吹雪さんだけじゃなかったっけ」
リョーマは首を傾げる。
「それはもしかして、四天宝寺の白石蔵ノ介ではないか?」
「ええ、従兄なの。四天宝寺といえば、昨年度の全国大会で立海と準決勝で当たったのよね」
「決勝の牧ノ藤より苦しめられたな」
真田は腕を組みながら頷く。
苦しめられたと言いつつ、ストレートで勝利しているから、本当かとつい胡乱な目を向けてしまうのは許してほしい。
「ふーん。でも今年勝つのは青学だから」
「いや、今年も俺たち立海だ」
「! ええ、青学に負けるわけにはいかないわ」
俺たち立海。
真田は無意識に言ったのかもしれないが、立海テニス部として認められたような感じがして嬉しかった。
「上等!」
リョーマは不敵な笑みを浮かべた。
青学と戦う舞台は関東大会――いや、私自身が試合するならダブルス大会だ。
どちらにせよ、全力で立ち向かうまで。
もう私は、後悔のしないテニスをしようと決めたのだから。