蝶ノ光
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1ゲーム獲得しては、1ゲーム落とす。拮抗した試合が続いている。
現在のゲームカウントは、4-3で蔵ノ介・謙也ペアがリード。
このゲームは何としてでも獲得し、流れを持っていきたい。
「へぇ、即席ペアにしては強いやないか、侑士」
「そりゃあ、謙也に負けるわけにいかへんからな」
暫く侑士と謙也の後衛同士でラリーが続いていたが、前衛の私にボールが回ってきた。
向こうの前衛は蔵ノ介。
少々揺さぶりをかけてみよう。
私はコーナーギリギリにボールが落ちるよう、ロブを打った。
「謙也、任せたで!」
「おおっと、危ない危ない」
謙也がいた場所とは反対側を狙ったが、浪速のスピードスターと呼ばれるだけあり、追い付かれてしまった。
しかし、返された打球の威力は弱い。チャンスとばかりに、侑士が前衛に出る。
「S・S・A・S」
強烈なサイドスピンがかかったボールが、蔵ノ介を綺麗に躱して逆コーナーへ。
「くっ……!」
謙也の顔が悔しげに歪められる。今度はボールに追い付けず、ショットが決まった。
これで4-4。
私は侑士に近づき、右手でハイタッチした。
「忍足さん、ナイスショットです」
「ありがとさん、お嬢ちゃんのお陰やで。さてそろそろ正念場やけど、どないする?」
「そうですね、次のゲームで仕掛けていきましょう。これまでのゲームを振り返ると、蔵兄が青学について調べている節があるので、作戦を変更して青学の選手の技を時折繰り出してもらって良いですか?」
「了解や。このまま引き離したるで」
私は侑士にボールを渡す。第9ゲームのサーブは侑士だ。彼はボールを受けとると、口角を上げた。
普段は冷静沈着だが、珍しく闘志むき出しである。
私は気合いを入れ直し、前衛についた。
「ほな、いくで」
侑士が打ったサーブはバウンド後、ボールが不規則に曲がった。
「なんや、蛇のようにクネクネと曲がった……?」
謙也は信じられないとばかりに、目を大きく見開いていた。
驚くのも無理はないだろう。侑士が打ったのは、比嘉中・平古場の飯匙倩なのだから。
「次、どんどんいくで」
再び飯匙倩が放たれる。
「そう何度も決めさせへん!」
蔵ノ介はボールの跳ねぎわを打ち返した。
さすが、蔵兄。冷静に対処してくる。
ボールは侑士のもとへ向かった。
「ほう、なら次はこれや」
侑士はラケットを前に大きくスイングさせ、ボールに回転をかけた。ボールは蔵ノ介のいるポジションの逆サイドへ。
「青学・海堂くんのスネイクかいな」
蔵ノ介は逆サイドへ走り、ボールに食らいついて返球。再び侑士のところへボールが行った。
「大阪の学校なのに、青学の選手のこと詳しいんやな」
今度は通常のショットを打った。
いや、違う。ボールの勢いが殺され、ネット際に落ちる。
「F&D」
ふう、と侑士はため息をついた。そして呼吸を整えてから、サーブを打つ。
「白石、侑士にボールを渡したらアカン!」
「分かっとる!」
侑士へボールを渡さないとなると、集中的に狙われるのは私だ。
蔵ノ介が打ったボールが、前衛の私のもとへ。
ネットの向こうの二人は、きっと私が侑士に技の打ち方を教えていることを知っている。
ならば、これならどうだ。
私はネットを貼るポールへボールを当てる。ネットの近くに落ちると思ったのだろう、蔵ノ介がネット際に走った。しかし、ボールは彼の頭上を抜ける。蔵ノ介と謙也の中間あたりにボールは落下し、転がった。
「これは、立海・丸井くんの……」
「妙技・鉄柱当て」
「君はパートナーに、必殺技の打ち方を教えるだけじゃなかったんやな」
「ええ、あなたに負けるわけにはいかないのでね。全力でいかせてもらいます」
「望むところや」
サーバーとレシーバーが入れ替わり、第10ゲームは謙也がサーブを打つ。レシーバーは私だ。サーブのスピードは速かったが、なんとか返す。
しばらくラリーが続いた。侑士はいくつか異なる技を打つが、蔵ノ介と謙也が対処法を熟知しているのか、ポイントが決まりづらくなった。
「そろそろいかせてもらうで」
先に仕掛けたのは蔵ノ介だった。
彼は左手を上げ、振り下ろす。強烈な横回転がかかり、打球が円運動を行っていた。
蔵ノ介の得意技、円卓ショット。
幼い頃から蔵ノ介とテニスをする度に打たれたが、一度もちゃんと返せたことがない。
さて、どう攻略しようか。
「桜吹雪の舞」
まずは、こちらも得意技で返してみる。しかし、ボールは相手コートに入らなかった。
一度深呼吸をする。
ここで焦ってはダメだ。相手のペースに飲まれたくない。
コートの定位置に戻ろうとすると、侑士が近づいてきた。
「今の打球どう返そうとしたん?」
「打球の威力を吸収しようとしました。力負けして、アウトになりましたが……」
「お嬢ちゃんは相手の打球を利用して返すのが得意やったな。今の白石の打球、ボールに回転がかなりかかっとったけど、それを利用することはできるんか?」
「ボールの回転数を利用……」
脳裏に一筋の閃光が走る。
円卓ショットを返すのは、不可能ではない。
しかし大きな問題がある。
「できなくは、ありません。ただ試合では使ったことがない技なので、返球されたときはフォローをお願いします」
「もちろん、任せとき。でもお嬢ちゃんなら、ちゃんと決められるで」
侑士がにこりと笑う。
彼の表情を見ていると、不思議と技が成功するような気がしてきた。
これで落ち着いて臨める。
「さあ、もうひと踏ん張りや」
侑士が私の頭をポンポンと撫で、ベースラインへ向かった。
試合が再開される。
謙也がサーブを打ち、侑士が難なく返す。そのボールは蔵ノ介のもとへ。そして彼は私に挑発的な視線を投げた。
「君にこれが返せるか?」
「今日こそ返してみせます!」
蔵ノ介が円卓ショットを放つ。ボールが十二個に分身し、円を描きながらこちらへ向かってきた。
「――いくよ!」
私はラケットの表面にボールを滑らせる。回転数をさらに増やして返球した。
先程もボールを打ち返すことはできたせいか、蔵ノ介は冷静にボールを追う。しかし、ラケットを構えたところで固まった。
ボールを返そうとしたところで消えたのだ。
「なっ……!?」
蔵ノ介の目が大きく見開かれる。
カシャン。
ボールは蔵ノ介の背後のフェンスにぶつかり、落下した。
謙也は転がるボールを目で追った後、慌てて蔵ノ介に近づいた。
「白石、今のは千歳の神隠しか!?」
「いや、違う。バウンド前に見えたボールが、いくつもブレて見えた」
「なんやて。でも何で白石嬉しそうなんや」
「……謙也には教えてあげへん」
「なんでやねん」
「いいから、はよサーブ打ちや」
「ふーん。試合の後、聞かせてもらうで」
謙也は少々不満げながらもベースラインの後ろに立ち、サーブを放つ。
私はコートの後ろ側にボールを返し、ネット際へ走った。
侑士がコートの後ろ側に下がり、前衛、後衛が入れ替わる。
ボールは再び私のもとへ返ってきた。先程の技を警戒してか、ボールに回転がかかっていない。しかし私には好都合だ。
だって、あれが打ちやすくなるのだから――。
私は、ボールをネットの白帯にあてた。ボールは宙に浮かび、また白帯へ落下。
ここで蔵ノ介がしまったとばかりに、顔が歪むのが見えた。
ボールが白帯の上を転がり、相手コートへポトリと落ちる。
「ゲームセット、ウォンバイ氷帝、忍足・立海、白石6-4」
白熱とした試合だったが、最後は静かに決まったのだった。
現在のゲームカウントは、4-3で蔵ノ介・謙也ペアがリード。
このゲームは何としてでも獲得し、流れを持っていきたい。
「へぇ、即席ペアにしては強いやないか、侑士」
「そりゃあ、謙也に負けるわけにいかへんからな」
暫く侑士と謙也の後衛同士でラリーが続いていたが、前衛の私にボールが回ってきた。
向こうの前衛は蔵ノ介。
少々揺さぶりをかけてみよう。
私はコーナーギリギリにボールが落ちるよう、ロブを打った。
「謙也、任せたで!」
「おおっと、危ない危ない」
謙也がいた場所とは反対側を狙ったが、浪速のスピードスターと呼ばれるだけあり、追い付かれてしまった。
しかし、返された打球の威力は弱い。チャンスとばかりに、侑士が前衛に出る。
「S・S・A・S」
強烈なサイドスピンがかかったボールが、蔵ノ介を綺麗に躱して逆コーナーへ。
「くっ……!」
謙也の顔が悔しげに歪められる。今度はボールに追い付けず、ショットが決まった。
これで4-4。
私は侑士に近づき、右手でハイタッチした。
「忍足さん、ナイスショットです」
「ありがとさん、お嬢ちゃんのお陰やで。さてそろそろ正念場やけど、どないする?」
「そうですね、次のゲームで仕掛けていきましょう。これまでのゲームを振り返ると、蔵兄が青学について調べている節があるので、作戦を変更して青学の選手の技を時折繰り出してもらって良いですか?」
「了解や。このまま引き離したるで」
私は侑士にボールを渡す。第9ゲームのサーブは侑士だ。彼はボールを受けとると、口角を上げた。
普段は冷静沈着だが、珍しく闘志むき出しである。
私は気合いを入れ直し、前衛についた。
「ほな、いくで」
侑士が打ったサーブはバウンド後、ボールが不規則に曲がった。
「なんや、蛇のようにクネクネと曲がった……?」
謙也は信じられないとばかりに、目を大きく見開いていた。
驚くのも無理はないだろう。侑士が打ったのは、比嘉中・平古場の飯匙倩なのだから。
「次、どんどんいくで」
再び飯匙倩が放たれる。
「そう何度も決めさせへん!」
蔵ノ介はボールの跳ねぎわを打ち返した。
さすが、蔵兄。冷静に対処してくる。
ボールは侑士のもとへ向かった。
「ほう、なら次はこれや」
侑士はラケットを前に大きくスイングさせ、ボールに回転をかけた。ボールは蔵ノ介のいるポジションの逆サイドへ。
「青学・海堂くんのスネイクかいな」
蔵ノ介は逆サイドへ走り、ボールに食らいついて返球。再び侑士のところへボールが行った。
「大阪の学校なのに、青学の選手のこと詳しいんやな」
今度は通常のショットを打った。
いや、違う。ボールの勢いが殺され、ネット際に落ちる。
「F&D」
ふう、と侑士はため息をついた。そして呼吸を整えてから、サーブを打つ。
「白石、侑士にボールを渡したらアカン!」
「分かっとる!」
侑士へボールを渡さないとなると、集中的に狙われるのは私だ。
蔵ノ介が打ったボールが、前衛の私のもとへ。
ネットの向こうの二人は、きっと私が侑士に技の打ち方を教えていることを知っている。
ならば、これならどうだ。
私はネットを貼るポールへボールを当てる。ネットの近くに落ちると思ったのだろう、蔵ノ介がネット際に走った。しかし、ボールは彼の頭上を抜ける。蔵ノ介と謙也の中間あたりにボールは落下し、転がった。
「これは、立海・丸井くんの……」
「妙技・鉄柱当て」
「君はパートナーに、必殺技の打ち方を教えるだけじゃなかったんやな」
「ええ、あなたに負けるわけにはいかないのでね。全力でいかせてもらいます」
「望むところや」
サーバーとレシーバーが入れ替わり、第10ゲームは謙也がサーブを打つ。レシーバーは私だ。サーブのスピードは速かったが、なんとか返す。
しばらくラリーが続いた。侑士はいくつか異なる技を打つが、蔵ノ介と謙也が対処法を熟知しているのか、ポイントが決まりづらくなった。
「そろそろいかせてもらうで」
先に仕掛けたのは蔵ノ介だった。
彼は左手を上げ、振り下ろす。強烈な横回転がかかり、打球が円運動を行っていた。
蔵ノ介の得意技、円卓ショット。
幼い頃から蔵ノ介とテニスをする度に打たれたが、一度もちゃんと返せたことがない。
さて、どう攻略しようか。
「桜吹雪の舞」
まずは、こちらも得意技で返してみる。しかし、ボールは相手コートに入らなかった。
一度深呼吸をする。
ここで焦ってはダメだ。相手のペースに飲まれたくない。
コートの定位置に戻ろうとすると、侑士が近づいてきた。
「今の打球どう返そうとしたん?」
「打球の威力を吸収しようとしました。力負けして、アウトになりましたが……」
「お嬢ちゃんは相手の打球を利用して返すのが得意やったな。今の白石の打球、ボールに回転がかなりかかっとったけど、それを利用することはできるんか?」
「ボールの回転数を利用……」
脳裏に一筋の閃光が走る。
円卓ショットを返すのは、不可能ではない。
しかし大きな問題がある。
「できなくは、ありません。ただ試合では使ったことがない技なので、返球されたときはフォローをお願いします」
「もちろん、任せとき。でもお嬢ちゃんなら、ちゃんと決められるで」
侑士がにこりと笑う。
彼の表情を見ていると、不思議と技が成功するような気がしてきた。
これで落ち着いて臨める。
「さあ、もうひと踏ん張りや」
侑士が私の頭をポンポンと撫で、ベースラインへ向かった。
試合が再開される。
謙也がサーブを打ち、侑士が難なく返す。そのボールは蔵ノ介のもとへ。そして彼は私に挑発的な視線を投げた。
「君にこれが返せるか?」
「今日こそ返してみせます!」
蔵ノ介が円卓ショットを放つ。ボールが十二個に分身し、円を描きながらこちらへ向かってきた。
「――いくよ!」
私はラケットの表面にボールを滑らせる。回転数をさらに増やして返球した。
先程もボールを打ち返すことはできたせいか、蔵ノ介は冷静にボールを追う。しかし、ラケットを構えたところで固まった。
ボールを返そうとしたところで消えたのだ。
「なっ……!?」
蔵ノ介の目が大きく見開かれる。
カシャン。
ボールは蔵ノ介の背後のフェンスにぶつかり、落下した。
謙也は転がるボールを目で追った後、慌てて蔵ノ介に近づいた。
「白石、今のは千歳の神隠しか!?」
「いや、違う。バウンド前に見えたボールが、いくつもブレて見えた」
「なんやて。でも何で白石嬉しそうなんや」
「……謙也には教えてあげへん」
「なんでやねん」
「いいから、はよサーブ打ちや」
「ふーん。試合の後、聞かせてもらうで」
謙也は少々不満げながらもベースラインの後ろに立ち、サーブを放つ。
私はコートの後ろ側にボールを返し、ネット際へ走った。
侑士がコートの後ろ側に下がり、前衛、後衛が入れ替わる。
ボールは再び私のもとへ返ってきた。先程の技を警戒してか、ボールに回転がかかっていない。しかし私には好都合だ。
だって、あれが打ちやすくなるのだから――。
私は、ボールをネットの白帯にあてた。ボールは宙に浮かび、また白帯へ落下。
ここで蔵ノ介がしまったとばかりに、顔が歪むのが見えた。
ボールが白帯の上を転がり、相手コートへポトリと落ちる。
「ゲームセット、ウォンバイ氷帝、忍足・立海、白石6-4」
白熱とした試合だったが、最後は静かに決まったのだった。