蝶ノ光
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「本日からマネージャーを務めます、白石時雨です。よろしくお願いします」
晴れ渡る青空の下、テニスコートの脇に立つ。
正式にマネージャーになることが決まり、部員の前で自己紹介をした。
部員の顔を見ると反応は様々だ。
どういうことか、今まで幸村はマネージャーを募集していなかったらしい。
四月に転校してきたばかりの人がマネージャーになったら驚くだろう。戸惑っている部員がいるのも頷ける。
「今日から白石さんには、みんなのサポートを行ってもらう。だけど彼女が困っていたら、みんなもサポートしてあげてほしい。部員同士で切磋琢磨し、全国三連覇を目指していこう!」
幸村が一呼吸置く。
部員たちはやる気に満ち溢れていて、良い関係を築いていけそうだと感じた。
「それでは、準備運動してから練習メニューに移ろう。球出しメニューのコートの割り当てについては、プリントした紙を前に置いておくから、各自一枚ずつ取っておくように。蓮二は白石さんにマネージャーの指導してあげて。以上、解散!」
幸村の合図で部員たちは練習に入る。
私はというと、青学でマネージャーをやっていたものの、立海の練習メニューやテニス用品の場所などを把握できていないため、柳に教えてもらうことに。
「用具の収納場所を教えるからついてきてくれ。それと説明が早く終われば、打ち合いをしていいと精市に許可を貰ったのだが……もし時雨がよければどうだ?」
「ええ、そういうことなら喜んで」
早速柳に案内してもらうため、私はノートとペンを用意して、倉庫へ移動した。
倉庫はコートの近くにあり、三分もかからず着いた。
柳が倉庫の扉を開け、中に入る。私も後に続き、辺りを見渡すと、ボールやカラーコーンなどが綺麗に収納されていた。
青学テニス部に入部して最初の仕事は用具整理だったことを思い出す。
物が散乱して大変だったが、貞治たちと片付けるのは楽しかったなぁ。
思わず苦笑いがこぼれる。
「……時雨、具合が悪いのか?」
「え?」
はっと我にかえると、若干焦っている様子の柳が目に入った。どうやら心配をかけてしまったらしい。
「体調に問題はないわ。用具が綺麗に整頓されてるなって思っただけ」
「それならいいんだが……。もし体調が悪くなったら、遠慮なく言ってくれ」
「ええ、心配かけてごめんなさい」
「それでは、用具について説明だが――」
私は柳の説明を忘れないよう、用具の場所や片付け方をノートに記していく。彼の説明は分かりやすく、ノートにまとめるのに苦労をしなかった。
立海での初仕事は整理整頓にならずにすみそうだ。
倉庫の次は、部室に案内してもらった。椅子に座り、柳から配られた資料に目を通す。
さすが蓮二、用意周到である。
「部活のスケジュールや練習メニューについては、その紙に記載されている通りだ。基礎練習と試合形式の練習を繰り返し行っている」
「合同練習の相手のところに立海大附属高校テニス部と書かれているけど、これは兄さんと蓮二が試合する可能性があるということかしら?」
「そうだな。高校生とダブルスを組む時もあるから、吹雪さんとペアを組む可能性もある」
「それは面白そうね。この前、仁王くんと丸井くんが兄さんに試合申し込みに行くって言ってたから、合同練習のオーダーが楽しみだわ」
「ふ、誰が相手だろうと負けるわけにはいかないな。……さて、他に質問はあるか?」
「今は大丈夫かな。分からないことがあったら、そのとき聞くわ」
「そうか」
柳が壁にかけられている時計を見る。
時刻はもうすぐ16時15分。
彼の表情が和らいだ。おそらく予定より説明が早く終わったのだろう。
そして、声を弾ませて言った。
「では、コートで打ち合おう」
こうして私たちは準備運動をしてから、ラケットを片手にコートへ向かった。
*
今日はレギュラー陣も一般部員も基礎練習中心の日。コート周りランニング十周を終え、レギュラー陣以外はくたびれた様子だった。
やれやれ、これから白石さんに特訓してもらう必要があるかのう。
スポーツドリンクを片手に休憩していると、一番端にあるコートから、テニスボールの打撃音が聞こえた。コートに目を向けると、そこには時雨と柳の姿が。説明が早く終わったのだろうか。
他の部員たちも時雨と柳がラリーをしているのに気づき、コートの周りに集まっていく。
俺も近くで彼らの打ち合いを見ようとコートに近づいた。
「すっげー! あの柳先輩相手に難なく返球してるよ」
「マネージャーだけどテニスが強いなんて……普段どんな練習してるのか知りたいな」
部員たちを観察していると、目を輝かせたり、時雨のことを褒めていた。
なぜ時雨と柳に試合をさせたか疑問だったが、部員たちの反応から答えを導き出せた。
「なるほど、これが目的だったのか」
「目的って?」
小さく呟いたつもりだったが、隣にやってきた丸井には聞こえたらしい。彼は目をきょとんとさせていた。
「俺たちは白石さんと水澤が試合しているのを見たから、白石さんの実力を知ってるが、他の部員は知らないはずじゃ。白石さんが参謀と互角に打ち合っているのを見せることで、彼女の実力をみんなに認めさせるってことぜよ」
「まー、確かに実際にテニスしてるところ見た方が受け入れやすいもんな。幸村くん、今までマネージャー募集しようともしなかったし」
そう、幸村はこれまでマネージャーを募集したことはなかった。だから柳との試合を見せることで、時雨の実力を部員に認めさせて迎え入れようと考えたのだろう。
試合を見れば、きっと彼女が真剣にテニスに向き合う人だと伝わるはずだ。そうすれば下手に騒ぎは起こらない。
コートに視線を戻す。
時雨の打ったボールがネットをかすり、軌道が変わった。予想外だったものの、柳は食らいついて返球したが、ボールは緩く上がる。
チャンスボールだ。
時雨はネットに詰めより、スマッシュを鮮やかに決めた。
「そこまで!」
幸村が手を叩くと、辺りが静まり返った。
「今ので分かったと思うけど、白石さんは前の学校でもマネージャーをやっていて、テニスの腕も確かだ。心強い存在になると思う。だから、今までよりテニスに集中して取り組んでほしい。……さて、ランニングが終わったから、次は球出しメニューやるよ。みんな、指定されたコートについて。白石さんもB番コートの球出し、よろしくね」
「ええ、任せて!」
「ふむ、白石さんはB番コート担当なのか」
俺はポケットの中に入れていた紙を取り出し、何番コートなのか確認する。
レギュラー陣は球出し役になることが多いが、前回は球出し役だったので、今回はプレイヤー側だろう。
自分の名前を見つけ、思わず口角が上がる。
俺は時雨の元へと駆け寄った。
「お前さん、B番コート担当なのか。俺もB番コートじゃきに、楽しみじゃのう」
「仁王くんも同じコートだったのね。気合いを入れて球出しするから!」
彼女は片腕に力こぶを作る動作をする。
出会った頃は壁を作られている気がしたが、最近は距離が近くなってきて心地いい。
少しずつ打ち解けられていると感じ、口元が緩んだ。
「ほどほどに頼むぜよ」
俺は、時雨とともにB番コートへ向かった。
晴れ渡る青空の下、テニスコートの脇に立つ。
正式にマネージャーになることが決まり、部員の前で自己紹介をした。
部員の顔を見ると反応は様々だ。
どういうことか、今まで幸村はマネージャーを募集していなかったらしい。
四月に転校してきたばかりの人がマネージャーになったら驚くだろう。戸惑っている部員がいるのも頷ける。
「今日から白石さんには、みんなのサポートを行ってもらう。だけど彼女が困っていたら、みんなもサポートしてあげてほしい。部員同士で切磋琢磨し、全国三連覇を目指していこう!」
幸村が一呼吸置く。
部員たちはやる気に満ち溢れていて、良い関係を築いていけそうだと感じた。
「それでは、準備運動してから練習メニューに移ろう。球出しメニューのコートの割り当てについては、プリントした紙を前に置いておくから、各自一枚ずつ取っておくように。蓮二は白石さんにマネージャーの指導してあげて。以上、解散!」
幸村の合図で部員たちは練習に入る。
私はというと、青学でマネージャーをやっていたものの、立海の練習メニューやテニス用品の場所などを把握できていないため、柳に教えてもらうことに。
「用具の収納場所を教えるからついてきてくれ。それと説明が早く終われば、打ち合いをしていいと精市に許可を貰ったのだが……もし時雨がよければどうだ?」
「ええ、そういうことなら喜んで」
早速柳に案内してもらうため、私はノートとペンを用意して、倉庫へ移動した。
倉庫はコートの近くにあり、三分もかからず着いた。
柳が倉庫の扉を開け、中に入る。私も後に続き、辺りを見渡すと、ボールやカラーコーンなどが綺麗に収納されていた。
青学テニス部に入部して最初の仕事は用具整理だったことを思い出す。
物が散乱して大変だったが、貞治たちと片付けるのは楽しかったなぁ。
思わず苦笑いがこぼれる。
「……時雨、具合が悪いのか?」
「え?」
はっと我にかえると、若干焦っている様子の柳が目に入った。どうやら心配をかけてしまったらしい。
「体調に問題はないわ。用具が綺麗に整頓されてるなって思っただけ」
「それならいいんだが……。もし体調が悪くなったら、遠慮なく言ってくれ」
「ええ、心配かけてごめんなさい」
「それでは、用具について説明だが――」
私は柳の説明を忘れないよう、用具の場所や片付け方をノートに記していく。彼の説明は分かりやすく、ノートにまとめるのに苦労をしなかった。
立海での初仕事は整理整頓にならずにすみそうだ。
倉庫の次は、部室に案内してもらった。椅子に座り、柳から配られた資料に目を通す。
さすが蓮二、用意周到である。
「部活のスケジュールや練習メニューについては、その紙に記載されている通りだ。基礎練習と試合形式の練習を繰り返し行っている」
「合同練習の相手のところに立海大附属高校テニス部と書かれているけど、これは兄さんと蓮二が試合する可能性があるということかしら?」
「そうだな。高校生とダブルスを組む時もあるから、吹雪さんとペアを組む可能性もある」
「それは面白そうね。この前、仁王くんと丸井くんが兄さんに試合申し込みに行くって言ってたから、合同練習のオーダーが楽しみだわ」
「ふ、誰が相手だろうと負けるわけにはいかないな。……さて、他に質問はあるか?」
「今は大丈夫かな。分からないことがあったら、そのとき聞くわ」
「そうか」
柳が壁にかけられている時計を見る。
時刻はもうすぐ16時15分。
彼の表情が和らいだ。おそらく予定より説明が早く終わったのだろう。
そして、声を弾ませて言った。
「では、コートで打ち合おう」
こうして私たちは準備運動をしてから、ラケットを片手にコートへ向かった。
*
今日はレギュラー陣も一般部員も基礎練習中心の日。コート周りランニング十周を終え、レギュラー陣以外はくたびれた様子だった。
やれやれ、これから白石さんに特訓してもらう必要があるかのう。
スポーツドリンクを片手に休憩していると、一番端にあるコートから、テニスボールの打撃音が聞こえた。コートに目を向けると、そこには時雨と柳の姿が。説明が早く終わったのだろうか。
他の部員たちも時雨と柳がラリーをしているのに気づき、コートの周りに集まっていく。
俺も近くで彼らの打ち合いを見ようとコートに近づいた。
「すっげー! あの柳先輩相手に難なく返球してるよ」
「マネージャーだけどテニスが強いなんて……普段どんな練習してるのか知りたいな」
部員たちを観察していると、目を輝かせたり、時雨のことを褒めていた。
なぜ時雨と柳に試合をさせたか疑問だったが、部員たちの反応から答えを導き出せた。
「なるほど、これが目的だったのか」
「目的って?」
小さく呟いたつもりだったが、隣にやってきた丸井には聞こえたらしい。彼は目をきょとんとさせていた。
「俺たちは白石さんと水澤が試合しているのを見たから、白石さんの実力を知ってるが、他の部員は知らないはずじゃ。白石さんが参謀と互角に打ち合っているのを見せることで、彼女の実力をみんなに認めさせるってことぜよ」
「まー、確かに実際にテニスしてるところ見た方が受け入れやすいもんな。幸村くん、今までマネージャー募集しようともしなかったし」
そう、幸村はこれまでマネージャーを募集したことはなかった。だから柳との試合を見せることで、時雨の実力を部員に認めさせて迎え入れようと考えたのだろう。
試合を見れば、きっと彼女が真剣にテニスに向き合う人だと伝わるはずだ。そうすれば下手に騒ぎは起こらない。
コートに視線を戻す。
時雨の打ったボールがネットをかすり、軌道が変わった。予想外だったものの、柳は食らいついて返球したが、ボールは緩く上がる。
チャンスボールだ。
時雨はネットに詰めより、スマッシュを鮮やかに決めた。
「そこまで!」
幸村が手を叩くと、辺りが静まり返った。
「今ので分かったと思うけど、白石さんは前の学校でもマネージャーをやっていて、テニスの腕も確かだ。心強い存在になると思う。だから、今までよりテニスに集中して取り組んでほしい。……さて、ランニングが終わったから、次は球出しメニューやるよ。みんな、指定されたコートについて。白石さんもB番コートの球出し、よろしくね」
「ええ、任せて!」
「ふむ、白石さんはB番コート担当なのか」
俺はポケットの中に入れていた紙を取り出し、何番コートなのか確認する。
レギュラー陣は球出し役になることが多いが、前回は球出し役だったので、今回はプレイヤー側だろう。
自分の名前を見つけ、思わず口角が上がる。
俺は時雨の元へと駆け寄った。
「お前さん、B番コート担当なのか。俺もB番コートじゃきに、楽しみじゃのう」
「仁王くんも同じコートだったのね。気合いを入れて球出しするから!」
彼女は片腕に力こぶを作る動作をする。
出会った頃は壁を作られている気がしたが、最近は距離が近くなってきて心地いい。
少しずつ打ち解けられていると感じ、口元が緩んだ。
「ほどほどに頼むぜよ」
俺は、時雨とともにB番コートへ向かった。