蝶ノ光
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「手続きは以上です。いつでもご利用お待ちしております」
テニススクールの申し込みが終わり、書類を鞄の中にしまう。
腕時計を見ると、10時を過ぎたところだった。
仁王が他校との練習試合は9時からと言っていたから、すでに試合は始まっているかもしれない。
急いで立海に向かわなくては。柳と仁王が出る試合は特に観ておきたい。
受付所を後にし、入り口を通り抜けると、そこには見知った男――跡部がいた。
「ようやく手続きが終わったか」
「なんで跡部くんがここに?」
「用事に行く途中でお前の姿が見えたからな。様子が気になってここで待っていた」
「一昨日も来てたよね。跡部くんもここのスクール入ってるの?」
用事はともかく、なぜ東京に住む彼がわざわざ神奈川のテニススクールに来るのか気になった。
「ああ、このスクールは跡部財閥が経営しているからな。会員証を見せればいつでも利用できる」
「……え?」
見学したとき設備が全て最新式で驚いたが、まさか跡部財閥が経営していたとは。驚きつつも納得した。
「ところで時雨。これから立海に行く予定だが、お前も来るか?」
「ええ。試合見に来るよう誘われたから行く予定だったの」
「そうか、ならちょうどいい。俺様の車に乗っていけ」
そう言うと跡部はこちらの返事を待たずに、車を停めているであろう方向へ歩を進めてしまった。
私はため息をこぼし、彼の後を追いかけた。
「リムジン……」
テニススクールの駐車場に着くと、この場にそぐわない車が一台停まっていた。その車の側に樺地が立っているので、間違いなく今から乗る車だろう。
まったく跡部にはいつも驚かされてばかりだ。
氷帝の生徒はセレブなイメージがあるが、みな高級車に乗り慣れているのだろうか。いや、跡部だけだと思いたい。
思わず立ち尽くしていると、跡部が振り返って心配そうな顔をした。
「どうした、調子が悪いのか?」
「……大丈夫、なんでもないわ」
これ以上心配かけまいと、私は慌てて車に乗り込むのだった。
立海に着き、跡部と樺地と共にテニスコートへ向かう。
既に練習試合が始まっていた。
辺りを見渡すと、偵察の数が青学にいた頃の比ではなかった。さすが全国大会を二連覇しているだけのことはある。
今試合しているのは、丸井・ジャッカルペア。
試合カウントは4-0で立海の優勢。
二人の息の合ったコンビネーションを前に、相手ペアは手も足も出ない様子だった。
このまま1ゲームも落とさず、丸井とジャッカルが勝つだろう。
「ここにいましたか、白石さん。跡部くん、樺地くんと一緒に来たのですね」
試合の観戦に夢中になっていると、柳生が隣にやってきた。
「柳生くん! テニススクールの手続きが終わったら跡部くんがいてビックリしちゃった」
「そうだったんですね。白石さんが来てくれて、仁王くんや柳くんも喜ぶと思いますよ」
「そ、そうかな? 試合見に来るよう言われ、たからね。ところで柳生くんの試合はいつ?」
仁王という言葉を聞いた瞬間、私は昨日の出来事を思い出す。胸が高鳴り、それを誤魔化すかのように話を逸らした。
柳生が微笑ましい目で見てくるのは、きっと声が裏返ったからだろう。
跡部から興味深そうな視線を感じるのは気のせいだ。
「私はS2なので、午後一番の試合です」
「良かった。あれっ、S2ということは、S3は……?」
おそらく現在の試合はD2。
S2の柳生の試合が午後一ということは、すでにS3の試合が終わってしまったということである。
一試合目は観れないと覚悟していたが、実際観れなかったという事実に肩を落とした。
「S3は切原くんです。柳くんが試合を録画してますので、そう落ち込まないでください」
切原の試合が直接見れなかったのは残念だが、柳が録画をしていると聞いて安心した。
さすがデータマンである。
会ったときにでも頼んで見せてもらおう。
「……うん、ありがとう。あっ、そうだ!」
私はカバンの中からタッパーを取り出し、柳生に渡す。
「これは?」
「差し入れ。クッキー焼いてきたの。良かったら食べてほしいなと思って」
「わざわざありがとうございます。これは美味しそうですね」
タッパーの蓋を開け、嬉しそうにクッキーを眺める柳生。
テニス部の関係者でもない私が差し入れなんて迷惑ではないかと思ったが、柳生の喜ぶ姿を見てホッとした。
「こうして見ると、まるで立海のマネージャーのようだな」
「ええ、このままマネージャーになって頂きたいです」
「!! 跡部くん、何を言ってるの……? 私がマネージャーだなんて」
「思ったことを言ったまでだが。先日、まだテニス部に入部してないことに驚いたくらいだ。時雨の実力なら立海でもやっていけるだろう」
驚愕の眼差しを向けながら抗議すると、跡部にしれっと返されてしまった。
「何を悩んでるのかは知らねえが、柳生がマネージャーやってほしいと言ってるわけだし、素直に入部すればいいものの」
「まあまあ跡部くん、大事なのは白石さんの意思ですから。彼女が入部したくなければ、無理強いはしません。……そろそろ戻らないと皆さんに心配をかけてしまうので、私はこれで」
「あ……あの、柳生くん、午後の試合応援してるわ」
「ありがとうございます。このクッキー、皆で食べさせてもらいますね」
柳生はタッパーの蓋を閉めて軽く会釈をし、立海サイドのベンチへ走っていった。
きっと合間を縫って会いに来てくれたのだろう。そう思うと胸が一杯になった。
私は彼の後ろ姿を、見えなくなるまで目で追うのであった。
テニススクールの申し込みが終わり、書類を鞄の中にしまう。
腕時計を見ると、10時を過ぎたところだった。
仁王が他校との練習試合は9時からと言っていたから、すでに試合は始まっているかもしれない。
急いで立海に向かわなくては。柳と仁王が出る試合は特に観ておきたい。
受付所を後にし、入り口を通り抜けると、そこには見知った男――跡部がいた。
「ようやく手続きが終わったか」
「なんで跡部くんがここに?」
「用事に行く途中でお前の姿が見えたからな。様子が気になってここで待っていた」
「一昨日も来てたよね。跡部くんもここのスクール入ってるの?」
用事はともかく、なぜ東京に住む彼がわざわざ神奈川のテニススクールに来るのか気になった。
「ああ、このスクールは跡部財閥が経営しているからな。会員証を見せればいつでも利用できる」
「……え?」
見学したとき設備が全て最新式で驚いたが、まさか跡部財閥が経営していたとは。驚きつつも納得した。
「ところで時雨。これから立海に行く予定だが、お前も来るか?」
「ええ。試合見に来るよう誘われたから行く予定だったの」
「そうか、ならちょうどいい。俺様の車に乗っていけ」
そう言うと跡部はこちらの返事を待たずに、車を停めているであろう方向へ歩を進めてしまった。
私はため息をこぼし、彼の後を追いかけた。
「リムジン……」
テニススクールの駐車場に着くと、この場にそぐわない車が一台停まっていた。その車の側に樺地が立っているので、間違いなく今から乗る車だろう。
まったく跡部にはいつも驚かされてばかりだ。
氷帝の生徒はセレブなイメージがあるが、みな高級車に乗り慣れているのだろうか。いや、跡部だけだと思いたい。
思わず立ち尽くしていると、跡部が振り返って心配そうな顔をした。
「どうした、調子が悪いのか?」
「……大丈夫、なんでもないわ」
これ以上心配かけまいと、私は慌てて車に乗り込むのだった。
立海に着き、跡部と樺地と共にテニスコートへ向かう。
既に練習試合が始まっていた。
辺りを見渡すと、偵察の数が青学にいた頃の比ではなかった。さすが全国大会を二連覇しているだけのことはある。
今試合しているのは、丸井・ジャッカルペア。
試合カウントは4-0で立海の優勢。
二人の息の合ったコンビネーションを前に、相手ペアは手も足も出ない様子だった。
このまま1ゲームも落とさず、丸井とジャッカルが勝つだろう。
「ここにいましたか、白石さん。跡部くん、樺地くんと一緒に来たのですね」
試合の観戦に夢中になっていると、柳生が隣にやってきた。
「柳生くん! テニススクールの手続きが終わったら跡部くんがいてビックリしちゃった」
「そうだったんですね。白石さんが来てくれて、仁王くんや柳くんも喜ぶと思いますよ」
「そ、そうかな? 試合見に来るよう言われ、たからね。ところで柳生くんの試合はいつ?」
仁王という言葉を聞いた瞬間、私は昨日の出来事を思い出す。胸が高鳴り、それを誤魔化すかのように話を逸らした。
柳生が微笑ましい目で見てくるのは、きっと声が裏返ったからだろう。
跡部から興味深そうな視線を感じるのは気のせいだ。
「私はS2なので、午後一番の試合です」
「良かった。あれっ、S2ということは、S3は……?」
おそらく現在の試合はD2。
S2の柳生の試合が午後一ということは、すでにS3の試合が終わってしまったということである。
一試合目は観れないと覚悟していたが、実際観れなかったという事実に肩を落とした。
「S3は切原くんです。柳くんが試合を録画してますので、そう落ち込まないでください」
切原の試合が直接見れなかったのは残念だが、柳が録画をしていると聞いて安心した。
さすがデータマンである。
会ったときにでも頼んで見せてもらおう。
「……うん、ありがとう。あっ、そうだ!」
私はカバンの中からタッパーを取り出し、柳生に渡す。
「これは?」
「差し入れ。クッキー焼いてきたの。良かったら食べてほしいなと思って」
「わざわざありがとうございます。これは美味しそうですね」
タッパーの蓋を開け、嬉しそうにクッキーを眺める柳生。
テニス部の関係者でもない私が差し入れなんて迷惑ではないかと思ったが、柳生の喜ぶ姿を見てホッとした。
「こうして見ると、まるで立海のマネージャーのようだな」
「ええ、このままマネージャーになって頂きたいです」
「!! 跡部くん、何を言ってるの……? 私がマネージャーだなんて」
「思ったことを言ったまでだが。先日、まだテニス部に入部してないことに驚いたくらいだ。時雨の実力なら立海でもやっていけるだろう」
驚愕の眼差しを向けながら抗議すると、跡部にしれっと返されてしまった。
「何を悩んでるのかは知らねえが、柳生がマネージャーやってほしいと言ってるわけだし、素直に入部すればいいものの」
「まあまあ跡部くん、大事なのは白石さんの意思ですから。彼女が入部したくなければ、無理強いはしません。……そろそろ戻らないと皆さんに心配をかけてしまうので、私はこれで」
「あ……あの、柳生くん、午後の試合応援してるわ」
「ありがとうございます。このクッキー、皆で食べさせてもらいますね」
柳生はタッパーの蓋を閉めて軽く会釈をし、立海サイドのベンチへ走っていった。
きっと合間を縫って会いに来てくれたのだろう。そう思うと胸が一杯になった。
私は彼の後ろ姿を、見えなくなるまで目で追うのであった。