蝶ノ光
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「なあ、時雨。お前の彼氏……どんなヤツなんだ?」
それは丸井の一言から始まった。
澄み渡る空の下、私は百合と仁王、丸井と屋上で円を描くように座り、お昼ご飯を食べていた。座った位置は私から時計回りに仁王、丸井、百合だ。
数分前まで今日こそ放課後捕まえてやるとかまた女テニにおいでよとか、主にテニス関係の話をしていたはず。
ところがちょうどご飯が食べ終わったタイミングで、ふと思い出したかのように丸井のこの発言。
横目で仁王を見ると、彼は瞳を大きく開いて固まっていた。いつもは飄々としてるだけに、珍しい光景だ。
一方、百合は目を輝かせながらそわそわしていて、今にも質問の嵐が飛んできそうな様子である。
「もしかしてその彼氏って柳くん?」
「れ、蓮二? 違」
「俺は見た。昨日、お前が彼氏と帰っているところを!」
丸井は私の言葉に被せ、人差し指を向けながら宣言した。
「……丸井くん、その話詳しく聞かせてもらえる?」
私はニッコリと微笑みながら、丸井の人差し指を握る。
後ほど仁王に聞いた話によると、そのときの私は背後に吹雪が見え、凍えるように寒かったらしい。
「つまり、私がその人といいムードで帰っていったと」
丸井の話を聞くと、昨日の帰り道に前を歩いていた男子生徒が突然私の名を呼び、駆けていったようだ。
立海の高等部の制服を身に纏っていたらしい。
そのまま男子生徒を目で追うと、確かに前方には私がいた。そして男子生徒は私の手を握る。
数分後、今度は私がその手を握り返し、手を繋いで歩いていたという。
「途中時雨がその男に何か渡してたし、これは彼氏に見えるだろい?」
「確かに話を聞いた感じ、仲のいいカップルに聞こえるね」
うんうんと頷く百合。
しかし、丸井の話に心当たりがありすぎる私は、目を輝かせる二人を前に申し訳なさを感じつつあった。
「期待させといて悪いんだけど、その丸井くんのいう男子生徒――私の兄さんなの」
「……時雨の、お兄さん?」
予想外の答えだったのか丸井は目をぱちくりさせ、なんとか絞り出すように声を発した。
「ええ。兄さんの名前は白石吹雪。私より年が二つ上で、テニス部に所属してるわ。私と同じくダブルスプレイヤーよ」
「ダブルスプレイヤーか。よし仁王、今度吹雪先輩に試合申し込みにいこうぜ!」
「どんなテニスをするか気になるし、付き合うぜよ」
「高等部とは時々合同練習してるんじゃなかったっけ。そもそも、誰が兄さんのパートナーやるの……?」
「それはもちろん時雨だろい」
「それはもちろん白石さんナリ」
息ピッタリと二人の声が綺麗にハモる。
しかし、テニス部見学者でもマネージャーでもない私がテニス部員と試合なんて目立つだけだろう。
大体どこで試合をするというのだ。
部外者であるのに、おいそれとテニス部のコートに入るメンタルを持ち合わせてはいない。
故に、答えは決まっている。
「慎んでお断りします」
「あはは、綺麗に断られっちゃったね。そういえばブン太の話だと何か渡したようだけど……いったい何を渡したの?」
「それは蓮二の頼み事で、懐紙を渡したんだ」
「ほうほう。前から思ってたんだけど、時雨と柳くんってどういう関係なの?」
「あれ、言ってなかったっけ? 幼馴染だよ。小学生のとき、同じテニススクール通ってて仲良くなったんだ」
「参謀と幼馴染ねぇ……そうか! だから見当たらなかったのか。これならジャッカルの証言とも合う」
「仁王、何か閃いた様子だけど、どうしたんだ?」
「別に何でもないぜよ」
丸井とのやり取りを見て、仁王が何か企んでいると直感が告げる。
彼の異名がコート上の詐欺師だから警戒しすぎだろうか。
じとりと仁王を見ると、彼は私にしか聞こえない声量で『お前さんに悪いことはしないから安心しんしゃい』と言った。
「もしかして前に言ってた知り合いって……」
百合の声で私はハッと我に返る。
「もちろん蓮二のことだよ」
「やっぱり! あのとき凄く嬉しそうだったら、そうだと思ったんだ」
「へー、そんなに仲がいいのか。鬼ごっこのとき匿ってもらってたりしてな」
「そんなことないよ。蓮二に匿ってもらってたら、最終日まで見つけられないんじゃない?」
「そうだよな、考えすぎか。は~、あと二日間頑張らねーと」
しれっと嘘を吐く。
今度は仁王から視線を感じるが、敢えて気づかないフリをする。
仁王くんにはバレても仕方ないけど、丸井くんにはそうはいかないもの。
「部活中の真田くんって、普段みたく自分にも他人にも厳しいの?」
「そうじゃのう、なかなかストイックな奴じゃ」
こうしてチャイムが鳴るまで、テニス部員の話を聞いたり、話に花を咲かせるのであった。
それは丸井の一言から始まった。
澄み渡る空の下、私は百合と仁王、丸井と屋上で円を描くように座り、お昼ご飯を食べていた。座った位置は私から時計回りに仁王、丸井、百合だ。
数分前まで今日こそ放課後捕まえてやるとかまた女テニにおいでよとか、主にテニス関係の話をしていたはず。
ところがちょうどご飯が食べ終わったタイミングで、ふと思い出したかのように丸井のこの発言。
横目で仁王を見ると、彼は瞳を大きく開いて固まっていた。いつもは飄々としてるだけに、珍しい光景だ。
一方、百合は目を輝かせながらそわそわしていて、今にも質問の嵐が飛んできそうな様子である。
「もしかしてその彼氏って柳くん?」
「れ、蓮二? 違」
「俺は見た。昨日、お前が彼氏と帰っているところを!」
丸井は私の言葉に被せ、人差し指を向けながら宣言した。
「……丸井くん、その話詳しく聞かせてもらえる?」
私はニッコリと微笑みながら、丸井の人差し指を握る。
後ほど仁王に聞いた話によると、そのときの私は背後に吹雪が見え、凍えるように寒かったらしい。
「つまり、私がその人といいムードで帰っていったと」
丸井の話を聞くと、昨日の帰り道に前を歩いていた男子生徒が突然私の名を呼び、駆けていったようだ。
立海の高等部の制服を身に纏っていたらしい。
そのまま男子生徒を目で追うと、確かに前方には私がいた。そして男子生徒は私の手を握る。
数分後、今度は私がその手を握り返し、手を繋いで歩いていたという。
「途中時雨がその男に何か渡してたし、これは彼氏に見えるだろい?」
「確かに話を聞いた感じ、仲のいいカップルに聞こえるね」
うんうんと頷く百合。
しかし、丸井の話に心当たりがありすぎる私は、目を輝かせる二人を前に申し訳なさを感じつつあった。
「期待させといて悪いんだけど、その丸井くんのいう男子生徒――私の兄さんなの」
「……時雨の、お兄さん?」
予想外の答えだったのか丸井は目をぱちくりさせ、なんとか絞り出すように声を発した。
「ええ。兄さんの名前は白石吹雪。私より年が二つ上で、テニス部に所属してるわ。私と同じくダブルスプレイヤーよ」
「ダブルスプレイヤーか。よし仁王、今度吹雪先輩に試合申し込みにいこうぜ!」
「どんなテニスをするか気になるし、付き合うぜよ」
「高等部とは時々合同練習してるんじゃなかったっけ。そもそも、誰が兄さんのパートナーやるの……?」
「それはもちろん時雨だろい」
「それはもちろん白石さんナリ」
息ピッタリと二人の声が綺麗にハモる。
しかし、テニス部見学者でもマネージャーでもない私がテニス部員と試合なんて目立つだけだろう。
大体どこで試合をするというのだ。
部外者であるのに、おいそれとテニス部のコートに入るメンタルを持ち合わせてはいない。
故に、答えは決まっている。
「慎んでお断りします」
「あはは、綺麗に断られっちゃったね。そういえばブン太の話だと何か渡したようだけど……いったい何を渡したの?」
「それは蓮二の頼み事で、懐紙を渡したんだ」
「ほうほう。前から思ってたんだけど、時雨と柳くんってどういう関係なの?」
「あれ、言ってなかったっけ? 幼馴染だよ。小学生のとき、同じテニススクール通ってて仲良くなったんだ」
「参謀と幼馴染ねぇ……そうか! だから見当たらなかったのか。これならジャッカルの証言とも合う」
「仁王、何か閃いた様子だけど、どうしたんだ?」
「別に何でもないぜよ」
丸井とのやり取りを見て、仁王が何か企んでいると直感が告げる。
彼の異名がコート上の詐欺師だから警戒しすぎだろうか。
じとりと仁王を見ると、彼は私にしか聞こえない声量で『お前さんに悪いことはしないから安心しんしゃい』と言った。
「もしかして前に言ってた知り合いって……」
百合の声で私はハッと我に返る。
「もちろん蓮二のことだよ」
「やっぱり! あのとき凄く嬉しそうだったら、そうだと思ったんだ」
「へー、そんなに仲がいいのか。鬼ごっこのとき匿ってもらってたりしてな」
「そんなことないよ。蓮二に匿ってもらってたら、最終日まで見つけられないんじゃない?」
「そうだよな、考えすぎか。は~、あと二日間頑張らねーと」
しれっと嘘を吐く。
今度は仁王から視線を感じるが、敢えて気づかないフリをする。
仁王くんにはバレても仕方ないけど、丸井くんにはそうはいかないもの。
「部活中の真田くんって、普段みたく自分にも他人にも厳しいの?」
「そうじゃのう、なかなかストイックな奴じゃ」
こうしてチャイムが鳴るまで、テニス部員の話を聞いたり、話に花を咲かせるのであった。