蝶ノ光
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リョーマを見送った後、私は家へ帰るため、使いなれた道を選んで歩いていた。
テニススクールを見学するだけのつもりが色々なことがあった。
ビジター用テニスコートを訪れたら比嘉中の二人に乗っ取られていたし、それを取り戻すためリョーマとダブルスを組むことになるなんて。とどめには、跡部主催の大会に出場することに。
なかなか濃い一日だったと思う。
「時雨!」
テニススクールでの出来事を振り返っていると、私を呼び掛ける声が聞こえた。この声は間違いなく兄、吹雪だ。
一度足を止めて振り返る。
「兄さん! 部活お疲れ様」
吹雪は走って私の隣に追いついたが、息は上がっていない。さすが毎日筋トレをしているだけのことはある。
「ああ。時雨はスクールの見学に行ってたんだっけ。もう申し込んだのか?」
「ううん、まだ。実はアクシデントがあって、週末に申し込む予定なの」
ビジター用テニスコートに行ったらコートが占領されてて、リョーマと取り戻すべくダブルスを組んだことを説明する。
「へぇー、リョーマが! 投函したのは一昨日だから、届いてすぐ来たのか」
「兄さん……?」
吹雪は自分の世界に飛び立ってしまったかのように、腕を組ながら宙を眺めている。
途中から小声で言うので、聞き取ることができなかった。
「悪い、こっちの話。それにしても、リョーマがダブルス。見てみたかったな」
「前よりダブルスの戦術が身についていたわ。地区大会でダブルスの試合やったみたい」
「地区大会か。誰か試合映像持っているといいが……」
「……あっ、そうだ!」
試合データを持っていそうな人に心当たりがある。
私は鞄から連絡先が書かれた懐紙を取り出した。
「これ、蓮二の連絡先。兄さんに渡すよう頼まれたの。蓮二なら地区大会の試合映像持ってるんじゃないかしら」
「確かに。挨拶するがてら、持ってないか聞いてみるよ。ありがとな」
吹雪が私の頭を撫でる。兄にポンポンと撫でられる動作は落ち着くので好きだ。
この手はいつだって私を守ってくれた。
だから兄に背中を押してもらえれば、前に進める気がする。
「ねぇ、兄さん。もし、袂を分かったチームメイトが同じ大会に出場して、相見えることになったらどうする?」
跡部の主催する大会には青学のレギュラー陣も出場するはずだ。リョーマや手塚に声を掛けたのだから。
「お互い譲れないものがあると思うから、そいつと試合したとき後悔しないように練習するかな。かつてのチームメイトってことは、おそらく今のチームメイトもいるだろうから……一人で抱え込まずに仲間に相談してみると思う」
吹雪がそっと私の手を握る。
「もし何かあったら俺が話を聞くし、蓮二やリョーマだっている。……な?」
ああ、いつだって兄は、私の欲しい言葉をくれる。
もしもの話をしたが、きっと兄は現実の話だとお見通しなのだ。
「ええ。ありがとう、兄さん」
いつまでも目を背けてはいられないだろう。
始めから全て上手くいくと思わなくてもいい。
自分のペースで進めばいいんだ。
私は兄の手を握り返し、再び前へ一歩踏み出した。
テニススクールを見学するだけのつもりが色々なことがあった。
ビジター用テニスコートを訪れたら比嘉中の二人に乗っ取られていたし、それを取り戻すためリョーマとダブルスを組むことになるなんて。とどめには、跡部主催の大会に出場することに。
なかなか濃い一日だったと思う。
「時雨!」
テニススクールでの出来事を振り返っていると、私を呼び掛ける声が聞こえた。この声は間違いなく兄、吹雪だ。
一度足を止めて振り返る。
「兄さん! 部活お疲れ様」
吹雪は走って私の隣に追いついたが、息は上がっていない。さすが毎日筋トレをしているだけのことはある。
「ああ。時雨はスクールの見学に行ってたんだっけ。もう申し込んだのか?」
「ううん、まだ。実はアクシデントがあって、週末に申し込む予定なの」
ビジター用テニスコートに行ったらコートが占領されてて、リョーマと取り戻すべくダブルスを組んだことを説明する。
「へぇー、リョーマが! 投函したのは一昨日だから、届いてすぐ来たのか」
「兄さん……?」
吹雪は自分の世界に飛び立ってしまったかのように、腕を組ながら宙を眺めている。
途中から小声で言うので、聞き取ることができなかった。
「悪い、こっちの話。それにしても、リョーマがダブルス。見てみたかったな」
「前よりダブルスの戦術が身についていたわ。地区大会でダブルスの試合やったみたい」
「地区大会か。誰か試合映像持っているといいが……」
「……あっ、そうだ!」
試合データを持っていそうな人に心当たりがある。
私は鞄から連絡先が書かれた懐紙を取り出した。
「これ、蓮二の連絡先。兄さんに渡すよう頼まれたの。蓮二なら地区大会の試合映像持ってるんじゃないかしら」
「確かに。挨拶するがてら、持ってないか聞いてみるよ。ありがとな」
吹雪が私の頭を撫でる。兄にポンポンと撫でられる動作は落ち着くので好きだ。
この手はいつだって私を守ってくれた。
だから兄に背中を押してもらえれば、前に進める気がする。
「ねぇ、兄さん。もし、袂を分かったチームメイトが同じ大会に出場して、相見えることになったらどうする?」
跡部の主催する大会には青学のレギュラー陣も出場するはずだ。リョーマや手塚に声を掛けたのだから。
「お互い譲れないものがあると思うから、そいつと試合したとき後悔しないように練習するかな。かつてのチームメイトってことは、おそらく今のチームメイトもいるだろうから……一人で抱え込まずに仲間に相談してみると思う」
吹雪がそっと私の手を握る。
「もし何かあったら俺が話を聞くし、蓮二やリョーマだっている。……な?」
ああ、いつだって兄は、私の欲しい言葉をくれる。
もしもの話をしたが、きっと兄は現実の話だとお見通しなのだ。
「ええ。ありがとう、兄さん」
いつまでも目を背けてはいられないだろう。
始めから全て上手くいくと思わなくてもいい。
自分のペースで進めばいいんだ。
私は兄の手を握り返し、再び前へ一歩踏み出した。