蝶ノ光
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ゲーム! 越前・白石ペア6-4」
無事勝利することができ、私は拳を握りしめた。
「……まさか我々が敗れるとは思いませんでしたよ」
木手は試合には負けたものの、清々しい表情をしている。
私は意を決して彼に近づき、試合する発端となったコートについて尋ねた。
「このコートの使用権は……」
「約束ですからね。お返しします」
「あいひゃー。もうこんな時間さー! 集合時間に遅れるとまた監督にどやされるさぁ!」
「そうですね。急ぎましょう。ああ、そっちのキミ……」
言い忘れていたことがあったのか、木手はリョーマの方へ向き直る。
「またいつか、もっと大きな舞台で勝負したいものですね」
「次もオレが勝つけどね」
「フッ……」
比嘉中の二人を見送り、リョーマと勝利を分かち合う。初めは不安だった部分もあったが、勝つことができた。これも全部、ペアを組んでくれたリョーマのおかげである。
「お疲れ。また腕上げたんじゃない?」
「あ、ありがとう……」
素直に褒められたことが嬉しく、こそばゆくなった。
「それにしても凄かったわ、リョーマ。平古場くんの飯匙倩より軌道が複雑だったし」
「誰かさんが不二先輩の名前を出してまで、飯匙倩を打ってと言ったからね」
リョーマにジト目で見られて、私はたじろいた。
「うっ……根に持ってる?」
「冗談だよ。……ま、結構楽しかったし、また時雨と一緒に組んでみるのもいいかも」
「ほんと!? ありがとう」
「フン、確かになかなか面白い見せ物だったぜ。今日は行く先々で俺様を楽しませてくれるじゃねぇか」
突如聞こえた自信に満ち溢れた声。
私たちがいるコート面の反対側を見ると、そこには予期せぬ人物がいた。
「えっ? ……跡部くん?」
颯爽と現れたのは、氷帝学園テニス部の部長である跡部景吾だった。その後ろには、常に彼に付き従っている樺地もいた。
今日は木曜日だというのにリョーマといい、部活はどうしたのだろう。
「へぇ、跡部さんと知り合いだったんだ」
「都大会で毎年あたるからね」
「久しぶりだな、時雨。青学テニス部に入っていたんじゃなかったのか? ……そうだろ、樺地?」
「……ウス」
「最近、立海に転校したの。まだテニス部に入ってないし、テニススクールで練習しようと思って」
「そうか。だったら、ちょうどいい。近いうちに俺様が開催するとっておきの大会に、お前もノミネートしておいてやる」
「えっ、大会!? で、でも、私……」
「お前、テニスで倒したいやつがいるんじゃないか?」
「えっ?」
跡部に真剣な眼差しを向けられ、ドキリとする。
テニスで試合をするなら、誰だって勝ちたいと思う。しかし彼の言う倒したいやつというのは、特定の誰かを指している気がする。思い当たる節はあるけれど。
まさか、青学での出来事を知っているとでもいうのだろうか。
「まぁ、なんにせよ、この大会は……真のナンバーワンを決めるのにふさわしい大会になるだろう。越前。手塚にも、そう伝えておけ」
「俺は、あんたのメッセンジャーじゃないんだけど」
「フン。相変わらず、可愛いげのない1年だぜ。まぁ、いい。行くぞ、樺地」
「ウス……」
言いたいことを言えて満足したのか、跡部たちは早々に去っていった。
少し強引だったが、彼らしいなと思う。
それにしても、大会を開催することだけを伝えにわざわざ来たとでもいうのか。いや、深く考えるのは、やめておこう。
ようやくリョーマと二人で落ち着いて話せる状況になり、ホッとため息をつく。
「ねぇ、時雨。桜見に行く約束、覚えてる?」
「ええ、もちろん。リョーマも覚えていてくれて嬉しいわ」
「よかった。なら、日曜日見に行かない? 去年見に行った桜、もうすぐ満開だし」
「いいわよ。またあの場所でテニスもしたいな」
「そうこなくっちゃ。……そうだ、連絡先教えてよ。この前みたいにいきなり姿眩ませられたら困るし」
鞄からすっと携帯を取り出すリョーマ。アドレスを交換するまで絶対に逃がさないぞという気迫を感じる。
「……怒ってる?」
「怒ってはいないけど。突然いなくなるから焦ったよ」
ごめんなさい、とあの日、一方的に別れを告げて去ったことを謝りつつ、リョーマと連絡先を交換した。
「ところで、どうやって家まで来たの? 住所教えてなかったような……?」
たしか神奈川に引っ越すことしか伝えていなかったはず。どうやって調べたのだろうか。
「吹雪さんから手紙が来た。またテニスしようって」
「そうだったの。ふふ、兄さんらしいな」
「それに……いや、なんでもない。そろそろ日が暮れる時間だし、帰りながら話そう」
「え、もうこんな時間! リョーマともう少し話したかったな」
携帯で時刻を確認すると、すでに18時を過ぎていた。
せっかくリョーマに会えたのに、あまり話す時間がなくて残念だ。
慌てて帰りの支度をし、スクールの受付で申込書をもらう。
設備は充実していたし、コートの状態が良くて気持ち良く打てたので、ぜひ入会したい。土曜日に記入した申込書を持っていこう。
スクールから外に出ると、空は赤色から紫色にグラデーションしていて綺麗だった。
リョーマを見送るため、駅へと歩く。
「さっきのテニススクール入るんだ?」
「ええ、学校からも近いし放課後打ちに行けるかと思って」
「新しい学校では、マネージャーやらないの?」
「あー……実はマネージャーをやるかやらないかをかけて、勝負してる最中なの」
私は思わず苦笑いをした。
テニス部の部長にマネージャーにならないかと誘われ、断ったら勝負を持ちかけられたこと。レギュラー陣と鬼ごっこをして、捕まったらマネージャーになること。期間は五日間であり、今日が三日目で逃げ切れていることを説明した。
「俺だったら一日目で捕まえるけどね」
「ありえそうで否定できないわ」
リョーマなら私の弱点や癖を知っているだろうし、すぐに捕まってしまいそうだ。
そんなことを話しているうちに、目的地である駅に着いた。
リョーマと過ごしていると、時が経つのが早いと感じる。
「それじゃあ、待ち合わせとかはメールで知らせるから」
「了解。日曜日楽しみにしてるね」
積もる話は桜の木の下で。
私はリョーマの後ろ姿が見えなくなるまで、彼を目で追うのだった。
無事勝利することができ、私は拳を握りしめた。
「……まさか我々が敗れるとは思いませんでしたよ」
木手は試合には負けたものの、清々しい表情をしている。
私は意を決して彼に近づき、試合する発端となったコートについて尋ねた。
「このコートの使用権は……」
「約束ですからね。お返しします」
「あいひゃー。もうこんな時間さー! 集合時間に遅れるとまた監督にどやされるさぁ!」
「そうですね。急ぎましょう。ああ、そっちのキミ……」
言い忘れていたことがあったのか、木手はリョーマの方へ向き直る。
「またいつか、もっと大きな舞台で勝負したいものですね」
「次もオレが勝つけどね」
「フッ……」
比嘉中の二人を見送り、リョーマと勝利を分かち合う。初めは不安だった部分もあったが、勝つことができた。これも全部、ペアを組んでくれたリョーマのおかげである。
「お疲れ。また腕上げたんじゃない?」
「あ、ありがとう……」
素直に褒められたことが嬉しく、こそばゆくなった。
「それにしても凄かったわ、リョーマ。平古場くんの飯匙倩より軌道が複雑だったし」
「誰かさんが不二先輩の名前を出してまで、飯匙倩を打ってと言ったからね」
リョーマにジト目で見られて、私はたじろいた。
「うっ……根に持ってる?」
「冗談だよ。……ま、結構楽しかったし、また時雨と一緒に組んでみるのもいいかも」
「ほんと!? ありがとう」
「フン、確かになかなか面白い見せ物だったぜ。今日は行く先々で俺様を楽しませてくれるじゃねぇか」
突如聞こえた自信に満ち溢れた声。
私たちがいるコート面の反対側を見ると、そこには予期せぬ人物がいた。
「えっ? ……跡部くん?」
颯爽と現れたのは、氷帝学園テニス部の部長である跡部景吾だった。その後ろには、常に彼に付き従っている樺地もいた。
今日は木曜日だというのにリョーマといい、部活はどうしたのだろう。
「へぇ、跡部さんと知り合いだったんだ」
「都大会で毎年あたるからね」
「久しぶりだな、時雨。青学テニス部に入っていたんじゃなかったのか? ……そうだろ、樺地?」
「……ウス」
「最近、立海に転校したの。まだテニス部に入ってないし、テニススクールで練習しようと思って」
「そうか。だったら、ちょうどいい。近いうちに俺様が開催するとっておきの大会に、お前もノミネートしておいてやる」
「えっ、大会!? で、でも、私……」
「お前、テニスで倒したいやつがいるんじゃないか?」
「えっ?」
跡部に真剣な眼差しを向けられ、ドキリとする。
テニスで試合をするなら、誰だって勝ちたいと思う。しかし彼の言う倒したいやつというのは、特定の誰かを指している気がする。思い当たる節はあるけれど。
まさか、青学での出来事を知っているとでもいうのだろうか。
「まぁ、なんにせよ、この大会は……真のナンバーワンを決めるのにふさわしい大会になるだろう。越前。手塚にも、そう伝えておけ」
「俺は、あんたのメッセンジャーじゃないんだけど」
「フン。相変わらず、可愛いげのない1年だぜ。まぁ、いい。行くぞ、樺地」
「ウス……」
言いたいことを言えて満足したのか、跡部たちは早々に去っていった。
少し強引だったが、彼らしいなと思う。
それにしても、大会を開催することだけを伝えにわざわざ来たとでもいうのか。いや、深く考えるのは、やめておこう。
ようやくリョーマと二人で落ち着いて話せる状況になり、ホッとため息をつく。
「ねぇ、時雨。桜見に行く約束、覚えてる?」
「ええ、もちろん。リョーマも覚えていてくれて嬉しいわ」
「よかった。なら、日曜日見に行かない? 去年見に行った桜、もうすぐ満開だし」
「いいわよ。またあの場所でテニスもしたいな」
「そうこなくっちゃ。……そうだ、連絡先教えてよ。この前みたいにいきなり姿眩ませられたら困るし」
鞄からすっと携帯を取り出すリョーマ。アドレスを交換するまで絶対に逃がさないぞという気迫を感じる。
「……怒ってる?」
「怒ってはいないけど。突然いなくなるから焦ったよ」
ごめんなさい、とあの日、一方的に別れを告げて去ったことを謝りつつ、リョーマと連絡先を交換した。
「ところで、どうやって家まで来たの? 住所教えてなかったような……?」
たしか神奈川に引っ越すことしか伝えていなかったはず。どうやって調べたのだろうか。
「吹雪さんから手紙が来た。またテニスしようって」
「そうだったの。ふふ、兄さんらしいな」
「それに……いや、なんでもない。そろそろ日が暮れる時間だし、帰りながら話そう」
「え、もうこんな時間! リョーマともう少し話したかったな」
携帯で時刻を確認すると、すでに18時を過ぎていた。
せっかくリョーマに会えたのに、あまり話す時間がなくて残念だ。
慌てて帰りの支度をし、スクールの受付で申込書をもらう。
設備は充実していたし、コートの状態が良くて気持ち良く打てたので、ぜひ入会したい。土曜日に記入した申込書を持っていこう。
スクールから外に出ると、空は赤色から紫色にグラデーションしていて綺麗だった。
リョーマを見送るため、駅へと歩く。
「さっきのテニススクール入るんだ?」
「ええ、学校からも近いし放課後打ちに行けるかと思って」
「新しい学校では、マネージャーやらないの?」
「あー……実はマネージャーをやるかやらないかをかけて、勝負してる最中なの」
私は思わず苦笑いをした。
テニス部の部長にマネージャーにならないかと誘われ、断ったら勝負を持ちかけられたこと。レギュラー陣と鬼ごっこをして、捕まったらマネージャーになること。期間は五日間であり、今日が三日目で逃げ切れていることを説明した。
「俺だったら一日目で捕まえるけどね」
「ありえそうで否定できないわ」
リョーマなら私の弱点や癖を知っているだろうし、すぐに捕まってしまいそうだ。
そんなことを話しているうちに、目的地である駅に着いた。
リョーマと過ごしていると、時が経つのが早いと感じる。
「それじゃあ、待ち合わせとかはメールで知らせるから」
「了解。日曜日楽しみにしてるね」
積もる話は桜の木の下で。
私はリョーマの後ろ姿が見えなくなるまで、彼を目で追うのだった。