蝶ノ光

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「……あっ!?」

「ゲーム! 木手・平古場ペア5-4」

「はぁ、はぁ……」

審判がゲームカウントを告げる。
コーナーギリギリのコースを取ることが出来ず、ゲームを落とした。
だが、私たちがまだリードしている。

「東京もんぬくせんかい、ちゃーやるばーよ」

「お遊びの時間はここまでです」

手を顎にあて、比嘉中ペアの動きを思い返す。
ラインぎりぎりを狙っても簡単に拾われる。まるで瞬間移動をしているかのようだった。
ペアを組んでくれたリョーマのおかげでかろうじてリードしているが、少しでも気を抜けば逆転されかねない。

「……時雨、考え事?」

「えっ?」

顔を上げると、目の前にはいつの間にかリョーマがいた。

「次。俺がレシーバーなんだけど」

「あっ、そ、そっか、ゴメン」

ここが正念場だ。
気合いを入れ直して集中しよう。
木手のサーブから始まり、リョーマが難なく打ち返す。
しばらくラリーが続いたところで、平古場がポイントを決めようと必殺技を打ち込んだ。

「……飯匙倩!」

ボールに複雑な回転がかかっており、バウンド後、不規則に軌道が変化した。
なんなの、この打球は。返すのは難しそうだが食らいつきたい。
こちらも得意技で変球しようと構えた。

「桜吹雪の舞!」

「なっ、なにっ!?」

まさか返されると思っていなかったのか、平古場は驚いた表情で固まっている。
しかし、判定はアウト。僅かにコートの外に出てしまった。
もう少しでインコースだっただけに悔しい。
変球したときの感覚を脳内で再生していると、リョーマがこちらに近づいてきた。

「なに、今の技。桜なんとかってヤツ」

「桜吹雪の舞。相手の力を吸収するショットよ」

「へぇ……」

「えっ……な、なに? 私の顔に、なにかついてる?」

まじまじと見られて困惑する。

「別に。……この試合が終わったら、俺とも試合してよね」

リョーマがニヤリと笑った。

「ええ、もちろん!」

私もリョーマと試合がしたいと思っていたところだ。
今度は私がレシーバーなので、定位置につく。
木手からサーブが放たれた。
もう一度、先ほどの技――飯匙倩が見たい。
私は平古場が再び飯匙倩で決めてくると考え、彼の方へ向けてボールを打ち返す。

「もういっぺん、試してみれば分かるさぁ。……飯匙倩!」

ビンゴ。
期待通りに飯匙倩を打ってくれたので、密かにほくそ笑む。

「桜吹雪の舞!」

ボールの回転数、力加減、角度などを調整しながら繰り出した。

「15オール!」

今度はコート中に入り、ショットが決まった。
そして、飯匙倩の返し方だけではなく、もう一つ分かったことがある。
私はそれをリョーマに伝えるため、彼の元へ近づいた。

「ねえ、分かったわよ。飯匙倩の打ち方が!」

「打ち方? 返し方じゃなくて?」

「そう、打ち方。あの人と同じ球が打てるわ」

「ほんとに? じゃあ、聞かせてよ」

「ええ、あのね……」

リョーマに飯匙倩の打ち方を伝えた。
私の特技は、同じ技をニ回見れば、その技の打ち方を分析できることだ。
しかし、打ち方が分かっても、私には打てない技もある。
その場合は、ダブルスパートナーに打ち方を伝えて打ってもらう。不二とペア組んだときも、よくこの戦法使ったっけ。

「ほんとにそれで打てるの?」

「リョーマなら打てるはずよ。技は違うけど、不二くんができたのだから」

わざと不二の名をだし、リョーマの闘争心を煽る。
リョーマは負けず嫌いだから、恐らく乗ってくるだろう。

「いいよ、打ってあげる。そっちがその気なら、あとで聞きたいことたくさんあるし。覚悟しといてよね」

「……ははは、お手柔らかに」

挑発が少しあからさまだったかもしれないと反省。
リョーマがベースラインより二歩分後ろの位置に立って、ラケットを構える。

「何をコソコソ話してたかは知りませんが、調子に乗らないことです」

木手がセンターへサーブを打つ。
彼のサーブはパワーがあるが、リョーマは大したことないとばかりに、軽やかに返す。
しばらくラリー続くが、どこへ打っても比嘉の二人は一瞬でボールの近くに現れるので、中々チャンスボールが来ない。

「瞬間移動みたいの使えるようだけど……これでどう?」

リョーマが打ったボールは、不規則に曲がった。心なしかコピー元より、軌道が複雑である。

「これは、飯匙倩……!」

驚く木手と平古場の間をボールが横切った。

「まだまだだね」

動揺する彼らをそのまま押しきり、6-4で私たちが勝利したのだった。
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