蝶ノ光
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ラケットバッグを持って女子テニス部が使用するコートへ向かうと、百合は手を振って私を歓迎してくれた。
「おっ、やっときた! 鬼ごっこはどうだった?」
「今日は結構ギリギリだったけど、なんとか……」
「お疲れ様! 今日の時雨、いつもよりなんだか嬉しそう。いいことあった?」
「そ、そうかな……? 実は立海に知り合いがいることが分かったの」
慌てて自分の頬をペタペタと触る。
柳と再会できて浮かれているのが友人にバレていると分かり、少々恥ずかしい気持ちになった。
「そっか~、時雨の知り合いとなるとテニス強そう……。今度その人いたら教えてよ」
「分かった。多分、百合も知っている人だと思う」
「楽しみにしてるわ。……それじゃあ、女テニの説明するね」
「お願いします」
部員の練習姿を見学しながら、活動日や普段の練習メニューなどを教えてもらう。
立海の女子テニス部は男子テニス部同様、全国常連ということもあり選手のレベルが高い。時々男子テニス部と合同練習をするらしい。
「せっかくだから、少し試合しない? この前の試合は余り時間なかったし、時雨の実力見たいな」
「使うかと思ってテニスラケット持ってきたからいいけど……コート使っていいの?」
「大丈夫だよ! それに、今日、時雨が来るの楽しみにしてた部員もたくさんいるんだから!」
「そ、そうなの?」
全くもって初耳だ。どうして、ただのマネージャーだった人が立海・女子テニス部の目にかかっているのだろう。
すると、百合がポケットから紙を取り出した。
「じゃーん! 月刊プロテニスの記事を切り取ったものなんだけど、これって時雨のことでしょ?」
記事に目を通すと、昨年度行われた混合ダブルス全国大会でのことが書かれていた。
優勝は不二・白石ペア。
顧問の竜崎に勧められて出場した大会だ。おぼろげに優勝後、記者の井上にインタビューを受けたことを思い出す。
「あー……。よく、その記事見つけたね」
「部活で時雨のこと話したら、後輩が持ってきてくれてさ。この記事読んだら、また打ち合ってみたくなっちゃって。……どうかな?」
「分かった、私でよければ試合しよう」
「ほんと!? 部員たちをあまり待たせるといけないから、特別ルールでサーブは交互、5ポイント先取したほうが勝ちっていうのはどう?」
「OK」
準備運動をしてからコートに入ると、周りにテニス部員がちらほらと見える。
なるほど、先ほどの百合の言葉は嘘ではないらしい。
「それじゃあ、サーブは時雨からで。いつでもいいよ!」
コートのライン際に立ち、深呼吸をする。
相手は全国常連校の部長だ。生半可な強さでは太刀打ちできないだろう。ならばどんどん攻めていくのみ。
ラケットを右手で握り、散々リョーマと練習して覚えたサーブを打つ。ボールは百合側のテニスコートに着地した後、彼女に向って高くバウンドした。
「なっ……これはツイストサーブ!」
百合は自分の顔に向かってくるボールをかわすことに精一杯で、リターンできなかった。
まずは1ポイント先取。
「さすが、大会優勝者。少しの油断が命取りになりそう。私も負けてはいられない!」
百合のラケットからボールが放たれた。
私は、すかさずサービスコートに入ったボールを拾いに行く。
「っ!」
打球が重く、ラケットが手から離れそうになる。青学の河村や桃城を連想させるパワーボールだった。
ラケットを両手で握ってなんとか返球するが、バランスを崩してしまう。
その隙に空いているスペースを狙われ、ポイントを決められた。
「1-1」
次は私のサーブ。先ほどと同様にツイストサーブを打つ。
今度は打ち返されたがネットにかかり、ボールはこちらのコートに入らなかった。
「全く怖いなぁ……」
2ポイント目を獲得したが、すでにツイストサーブを攻略されつつある。もうこのサーブでポイントを取ることは難しいだろう。
再び百合からパワーサーブを受けるが、両手で打ち返し、ラリーが続く。
今のままでは彼女のパワーに押し切られてしまう。ならば、この流れを断ち切るのみ。
私はつばめ返しを打った。
「――悪いけど、その技もう見切ったわ!」
「!?」
百合はコート前にダッシュし、ボールがバウンドする前に返球。そのままポイントを決められた。
まだ彼女の前では一球しか打ったことないのに、攻略されたことに動揺する。
どうしよう。身体が上手く動かない。
続けて2ポイント取られ、百合のマッチポイントとなった。もう後がない。
強い。
経験値の差を肌で感じる。やはり私が百合に挑むことは無謀だったのだろうか。
ダメだ。思考回路がマイナスの方に引っ張られていく。
「時雨せんぱーい!! 水澤先輩なんかに負けないでください!」
後ろの観客席から心強い声援が聞こえた。
聞き間違いではなければ、この声は。
「切原くん……どうしてここに?」
切原は男子テニス部なのに、なぜか女子テニス部の使用するコートにいる。
彼の周辺を見渡すと、仁王や柳、幸村に真田……どうやらレギュラー陣が全員来ているらしい。
思わず首をかしげる。
すると百合がこの状況を説明してくれた。
「さっきコート見学してるとき、たまに男テニと合同練習するって言ったよね? 実はそれ今日なんだ。これから女テニのレギュラーと試合するんだ」
「え? えー!? なにそれ聞いてない」
「うん、先に言ったら試合受けてもらえないと思って言わなかった」
「さすがにそれはないと思うけど……」
したり顔で言われ、ため息が出る。
それにしてもレギュラー同士の対決か。少し見てみたいかも。いや、その前に今は目の前の試合をどうにかしないと。
なんとしても勝ちたい。しかし、どうやって?
「時雨、お前の実力はこんなものではないだろう。大丈夫、いつもの調子でプレーすれば勝てるさ」
決して大きな声ではなかったが、凛とした声が私の耳に届く。聴きなれた声が私を落ち着かせてくれる。
観客席側に振り向き、声の主――柳の顔を見据えた。彼は私の勝利を確信しているのか、口角を上げていた。
「簡単に言ってくれるじゃない」
ぽそりと呟く。でも彼が期待してくれているなら、それに応えないと。
私はラケットを左手に持ち替えた。
こちらのサーブから始まり、ストロークの応酬。相変わらず百合の打球は重く、鉛を打っているかのよう。返球するのも一苦労である。ならば、この力を利用させてもらおう。
「氷刃の舞――!」
相手コートに入ったボールが地面を抉った。予想以上の威力だ。
百合は、ボールの威力が増して返ってきたことが衝撃的だったせいか固まっている。
一瞬辺りが静まり返った後、観客席から切原が興奮気味に口を開いた。
「すっげー!! 柳先輩、なんすか今の技! 時雨先輩があんなパワーボール打つなんて!」
「氷刃の舞。相手のボールを倍返しするカウンターショットだ。水澤がパワープレイヤーだからこそ、凄まじい威力となったのだろう」
「へー! 俺もいつか時雨先輩と試合してみたいっス」
それから連続で氷刃の舞を決める。返球を試みた百合は構えるが、ボールはラケットを弾き飛ばす威力だった。
「ゲームセット、ウォンバイ白石」
こうして私は百合に逆転勝利した。
「おっ、やっときた! 鬼ごっこはどうだった?」
「今日は結構ギリギリだったけど、なんとか……」
「お疲れ様! 今日の時雨、いつもよりなんだか嬉しそう。いいことあった?」
「そ、そうかな……? 実は立海に知り合いがいることが分かったの」
慌てて自分の頬をペタペタと触る。
柳と再会できて浮かれているのが友人にバレていると分かり、少々恥ずかしい気持ちになった。
「そっか~、時雨の知り合いとなるとテニス強そう……。今度その人いたら教えてよ」
「分かった。多分、百合も知っている人だと思う」
「楽しみにしてるわ。……それじゃあ、女テニの説明するね」
「お願いします」
部員の練習姿を見学しながら、活動日や普段の練習メニューなどを教えてもらう。
立海の女子テニス部は男子テニス部同様、全国常連ということもあり選手のレベルが高い。時々男子テニス部と合同練習をするらしい。
「せっかくだから、少し試合しない? この前の試合は余り時間なかったし、時雨の実力見たいな」
「使うかと思ってテニスラケット持ってきたからいいけど……コート使っていいの?」
「大丈夫だよ! それに、今日、時雨が来るの楽しみにしてた部員もたくさんいるんだから!」
「そ、そうなの?」
全くもって初耳だ。どうして、ただのマネージャーだった人が立海・女子テニス部の目にかかっているのだろう。
すると、百合がポケットから紙を取り出した。
「じゃーん! 月刊プロテニスの記事を切り取ったものなんだけど、これって時雨のことでしょ?」
記事に目を通すと、昨年度行われた混合ダブルス全国大会でのことが書かれていた。
優勝は不二・白石ペア。
顧問の竜崎に勧められて出場した大会だ。おぼろげに優勝後、記者の井上にインタビューを受けたことを思い出す。
「あー……。よく、その記事見つけたね」
「部活で時雨のこと話したら、後輩が持ってきてくれてさ。この記事読んだら、また打ち合ってみたくなっちゃって。……どうかな?」
「分かった、私でよければ試合しよう」
「ほんと!? 部員たちをあまり待たせるといけないから、特別ルールでサーブは交互、5ポイント先取したほうが勝ちっていうのはどう?」
「OK」
準備運動をしてからコートに入ると、周りにテニス部員がちらほらと見える。
なるほど、先ほどの百合の言葉は嘘ではないらしい。
「それじゃあ、サーブは時雨からで。いつでもいいよ!」
コートのライン際に立ち、深呼吸をする。
相手は全国常連校の部長だ。生半可な強さでは太刀打ちできないだろう。ならばどんどん攻めていくのみ。
ラケットを右手で握り、散々リョーマと練習して覚えたサーブを打つ。ボールは百合側のテニスコートに着地した後、彼女に向って高くバウンドした。
「なっ……これはツイストサーブ!」
百合は自分の顔に向かってくるボールをかわすことに精一杯で、リターンできなかった。
まずは1ポイント先取。
「さすが、大会優勝者。少しの油断が命取りになりそう。私も負けてはいられない!」
百合のラケットからボールが放たれた。
私は、すかさずサービスコートに入ったボールを拾いに行く。
「っ!」
打球が重く、ラケットが手から離れそうになる。青学の河村や桃城を連想させるパワーボールだった。
ラケットを両手で握ってなんとか返球するが、バランスを崩してしまう。
その隙に空いているスペースを狙われ、ポイントを決められた。
「1-1」
次は私のサーブ。先ほどと同様にツイストサーブを打つ。
今度は打ち返されたがネットにかかり、ボールはこちらのコートに入らなかった。
「全く怖いなぁ……」
2ポイント目を獲得したが、すでにツイストサーブを攻略されつつある。もうこのサーブでポイントを取ることは難しいだろう。
再び百合からパワーサーブを受けるが、両手で打ち返し、ラリーが続く。
今のままでは彼女のパワーに押し切られてしまう。ならば、この流れを断ち切るのみ。
私はつばめ返しを打った。
「――悪いけど、その技もう見切ったわ!」
「!?」
百合はコート前にダッシュし、ボールがバウンドする前に返球。そのままポイントを決められた。
まだ彼女の前では一球しか打ったことないのに、攻略されたことに動揺する。
どうしよう。身体が上手く動かない。
続けて2ポイント取られ、百合のマッチポイントとなった。もう後がない。
強い。
経験値の差を肌で感じる。やはり私が百合に挑むことは無謀だったのだろうか。
ダメだ。思考回路がマイナスの方に引っ張られていく。
「時雨せんぱーい!! 水澤先輩なんかに負けないでください!」
後ろの観客席から心強い声援が聞こえた。
聞き間違いではなければ、この声は。
「切原くん……どうしてここに?」
切原は男子テニス部なのに、なぜか女子テニス部の使用するコートにいる。
彼の周辺を見渡すと、仁王や柳、幸村に真田……どうやらレギュラー陣が全員来ているらしい。
思わず首をかしげる。
すると百合がこの状況を説明してくれた。
「さっきコート見学してるとき、たまに男テニと合同練習するって言ったよね? 実はそれ今日なんだ。これから女テニのレギュラーと試合するんだ」
「え? えー!? なにそれ聞いてない」
「うん、先に言ったら試合受けてもらえないと思って言わなかった」
「さすがにそれはないと思うけど……」
したり顔で言われ、ため息が出る。
それにしてもレギュラー同士の対決か。少し見てみたいかも。いや、その前に今は目の前の試合をどうにかしないと。
なんとしても勝ちたい。しかし、どうやって?
「時雨、お前の実力はこんなものではないだろう。大丈夫、いつもの調子でプレーすれば勝てるさ」
決して大きな声ではなかったが、凛とした声が私の耳に届く。聴きなれた声が私を落ち着かせてくれる。
観客席側に振り向き、声の主――柳の顔を見据えた。彼は私の勝利を確信しているのか、口角を上げていた。
「簡単に言ってくれるじゃない」
ぽそりと呟く。でも彼が期待してくれているなら、それに応えないと。
私はラケットを左手に持ち替えた。
こちらのサーブから始まり、ストロークの応酬。相変わらず百合の打球は重く、鉛を打っているかのよう。返球するのも一苦労である。ならば、この力を利用させてもらおう。
「氷刃の舞――!」
相手コートに入ったボールが地面を抉った。予想以上の威力だ。
百合は、ボールの威力が増して返ってきたことが衝撃的だったせいか固まっている。
一瞬辺りが静まり返った後、観客席から切原が興奮気味に口を開いた。
「すっげー!! 柳先輩、なんすか今の技! 時雨先輩があんなパワーボール打つなんて!」
「氷刃の舞。相手のボールを倍返しするカウンターショットだ。水澤がパワープレイヤーだからこそ、凄まじい威力となったのだろう」
「へー! 俺もいつか時雨先輩と試合してみたいっス」
それから連続で氷刃の舞を決める。返球を試みた百合は構えるが、ボールはラケットを弾き飛ばす威力だった。
「ゲームセット、ウォンバイ白石」
こうして私は百合に逆転勝利した。