蝶ノ光
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仁王が部活へ行くのを見送った後、私はトイレで変装を解いて今度こそ昇降口へと足を運ぶ。
下駄箱で上履きから運動靴に履き替え、校門へ行くと一人の男子生徒が待ち構えていた。
脇にテニスラケットを挟み、ポケットに手を入れている。どこか機嫌が悪そうだ。
私の存在に気づくと、彼はこちらを見据えながら距離を詰めてきた。
「あんたが白石さんっスか?」
「そうだけど。あなたは?」
「俺はテニス部2年、切原赤也。幸村部長がスカウトしたって聞いたからスゲーやつかと思ったら……案外普通だな」
「…………」
カチンと来たが、ここで怒らなかった自分を褒めたい。
冷静さを取り戻すため一度目を閉じて深呼吸をする。
瞳を開けて再び切原を見ると、背後の木に丸井が隠れていることに気づく。バッチリと目が合うと、丸井は慌てて人差し指を口の前にあてた。
黙っていてくれ、ということか。
「切原くんは、私にマネージャーをやってほしくないと捉えても?」
「ぶっちゃけ、マネージャーになってほしいかは分からない。部長にあんたを捕まえろと言われても、俺はあんたのことよく知らないからな。だから、手っ取り早く試合を申し込みに来た」
そう言いながら、ラケットを私に向ける。
突如、後ろから凄みのある声が響き渡った。
「ここにいたのか、赤也」
「げっ、真田副部長!」
切原の顔がみるみるうちに青くなる。
対する真田は表情こそいつもと変わらないが怒りのオーラが見え、今にも喝が飛んできそうな様子だ。
そこで私は切原から気をそらすため、あえて真田に話しかけた。
「真田くん、私が切原くんに声をかけたの。練習の邪魔をしてしまったならば、ごめんなさい」
まさか私が割り込んでくると思わなかったのか彼は瞠目し、しばし考えこんだ。
「……そうか。赤也」
「は、はい」
「今日は自主練だから練習配分は個人に任せるが、あまり休憩しすぎるなよ」
「了解っス!」
すっかり怒りのオーラが消えた真田は、静かにその場を離れた。
完全に真田の姿が見えなくなると、切原はくるりと振り向いて私の手を取った。先ほどとは打って変わり、目を輝かせている。
「さっき言ったことは撤回します。俺、先輩にマネージャーやってほしいです! 明日から全力で捕まえにいくので覚悟してください!!」
「はははっ、赤也の態度変わりすぎだろぃ」
お腹を抱えながら木の陰から丸井が姿を現した。あまりの変わりっぷりが面白かったのか、軽く涙が出ている。
「丸井先輩、いつの間に……!?」
「いや~、赤也って好戦的なところがあるから、ちょっと時雨が心配でさ。でも、その調子ならもう気にしなくて平気だな」
「余計なお世話っスよ! それより丸井先輩も見たでしょ。あの真田副部長がいつもなら『たるんどる!』って言うのに、今日はあっさり引き下がったところを!」
「そうだな。なら、明日から時雨を捕まえるのに協力してくれるな?」
丸井が切原の肩にポンと手を置いた。
「もちろん! テニスの実力は先輩らのお墨付きみたいだし、副部長に意見できる人なんて部内でなかなかいないっスからね」
「だとよ、時雨。明日から大変だな」
他人事のように言うが、ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべているのが腹立たしい。
今日、あなたは私の姿を見つけることすらできなかったでしょう。
その言葉は口の中で呑み込み、最終日までどうやって逃げ切ろうとぼんやりと考えるのであった。
これが2年生エース、切原赤也との出会い。
下駄箱で上履きから運動靴に履き替え、校門へ行くと一人の男子生徒が待ち構えていた。
脇にテニスラケットを挟み、ポケットに手を入れている。どこか機嫌が悪そうだ。
私の存在に気づくと、彼はこちらを見据えながら距離を詰めてきた。
「あんたが白石さんっスか?」
「そうだけど。あなたは?」
「俺はテニス部2年、切原赤也。幸村部長がスカウトしたって聞いたからスゲーやつかと思ったら……案外普通だな」
「…………」
カチンと来たが、ここで怒らなかった自分を褒めたい。
冷静さを取り戻すため一度目を閉じて深呼吸をする。
瞳を開けて再び切原を見ると、背後の木に丸井が隠れていることに気づく。バッチリと目が合うと、丸井は慌てて人差し指を口の前にあてた。
黙っていてくれ、ということか。
「切原くんは、私にマネージャーをやってほしくないと捉えても?」
「ぶっちゃけ、マネージャーになってほしいかは分からない。部長にあんたを捕まえろと言われても、俺はあんたのことよく知らないからな。だから、手っ取り早く試合を申し込みに来た」
そう言いながら、ラケットを私に向ける。
突如、後ろから凄みのある声が響き渡った。
「ここにいたのか、赤也」
「げっ、真田副部長!」
切原の顔がみるみるうちに青くなる。
対する真田は表情こそいつもと変わらないが怒りのオーラが見え、今にも喝が飛んできそうな様子だ。
そこで私は切原から気をそらすため、あえて真田に話しかけた。
「真田くん、私が切原くんに声をかけたの。練習の邪魔をしてしまったならば、ごめんなさい」
まさか私が割り込んでくると思わなかったのか彼は瞠目し、しばし考えこんだ。
「……そうか。赤也」
「は、はい」
「今日は自主練だから練習配分は個人に任せるが、あまり休憩しすぎるなよ」
「了解っス!」
すっかり怒りのオーラが消えた真田は、静かにその場を離れた。
完全に真田の姿が見えなくなると、切原はくるりと振り向いて私の手を取った。先ほどとは打って変わり、目を輝かせている。
「さっき言ったことは撤回します。俺、先輩にマネージャーやってほしいです! 明日から全力で捕まえにいくので覚悟してください!!」
「はははっ、赤也の態度変わりすぎだろぃ」
お腹を抱えながら木の陰から丸井が姿を現した。あまりの変わりっぷりが面白かったのか、軽く涙が出ている。
「丸井先輩、いつの間に……!?」
「いや~、赤也って好戦的なところがあるから、ちょっと時雨が心配でさ。でも、その調子ならもう気にしなくて平気だな」
「余計なお世話っスよ! それより丸井先輩も見たでしょ。あの真田副部長がいつもなら『たるんどる!』って言うのに、今日はあっさり引き下がったところを!」
「そうだな。なら、明日から時雨を捕まえるのに協力してくれるな?」
丸井が切原の肩にポンと手を置いた。
「もちろん! テニスの実力は先輩らのお墨付きみたいだし、副部長に意見できる人なんて部内でなかなかいないっスからね」
「だとよ、時雨。明日から大変だな」
他人事のように言うが、ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべているのが腹立たしい。
今日、あなたは私の姿を見つけることすらできなかったでしょう。
その言葉は口の中で呑み込み、最終日までどうやって逃げ切ろうとぼんやりと考えるのであった。
これが2年生エース、切原赤也との出会い。