蝶ノ光
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はらり、はらり――――
また一枚、桜の花びらが舞う。
そっと手で器をつくると、そこに花びらが落ちてきた。
『来年もまた一緒に桜を見よう』
去年、そんな約束をリョーマとした。この約束は果たせるのだろうか。
ここ最近、朝早く学校に来ては、こうしてただただ桜を眺めている。
「君は桜が好きなの?」
桜に夢中になっていると、後ろから声がする。振り返ると肩にジャージを羽織っている男の人が立っていた。
「はい、好きです。大切な思い出がありますから」
「そうなんだ。ここの桜は綺麗だよね。白石さん毎日ここで眺めているから、気になって声かけてみたんだ」
たしかに頻繫に訪れていたが、なぜ私の名前を知っているのだろう。彼とは初対面だったはず。それが顔に出ていたのか、すぐに答えてくれた。
「ああ、びっくりさせちゃったね。ブン太や仁王に聞いたんだ。俺は、幸村精市。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「ははは、同級生なんだから敬語じゃなくていいのに」
「なんだか緊張しちゃって……」
丸井や仁王に聞いたということは、彼もテニス部の可能性が高い。だから無意識のうちに壁を作ろうとしたのだろう。
それに笑顔の下に底知れぬ力を持っていそうなところが、不二と似ている気がした。
「えーと……よ、よろしく、幸村くん」
「よろしく、白石さん」
敬語がとれて嬉しかったのか、先ほどより幸村の笑みは柔らかい。
「ところで、これから時間あるかい? 少し話したいことがあるんだ」
「うん、大丈夫だよ。話って?」
「単刀直入に言うと、白石さんにテニス部のマネージャーになってほしい。青学でマネージャーをしていたと聞いてね」
彼の口から出てきた言葉は予想していたものの、素直には頷けなかった。
ドクン、ドクン。
青学での出来事が脳裏をよぎり、鼓動が速くなる。
私は一度目を閉じて深呼吸をし、呼吸を整えた。そして、しっかり幸村を見据えて言い放つ。
「立海は全国大会をニ連覇していると聞きました。マネージャーがいなくても全国制覇していますし、私の力が役に立てるとは思えません」
「そうかな。とある部員から、君はスクールに通っていてテニスは強いと聞いたし、優秀なマネージャーがいたら、よりテニスに集中できると思うけど」
「誰に聞いたかは知りませんが、買い被りすぎです。あなたがたの方がよっぽど強いでしょう」
「思っていたより手ごわいね。はっきりと意見を言うところが好ましく思うけど。そうだな……それならレギュラー陣と鬼ごっこしよう」
「鬼ごっこ?」
予想外の展開に思わず目をぱちくりさせた。てっきりマネージャーになるまで説得させられるのかと思ったら違うらしい。
「そう、鬼ごっこ。期間は明日から平日五日間の放課後一時間。今日は月曜だから、土日を挟んで来週の月曜まで。鬼はレギュラー全員で、場所は学校の敷地内であればどこでも。ただし、白石さんを捕まえられるのはテニスウェアを着ているときのみ。もし捕まえることができたら、君にはマネージャーになってもらいたい」
「レギュラーは少なくとも七人いるでしょう。私が圧倒的に不利だと思いますが」
幸村から目を逸らし、地面に視線を向ける。思わず硬い声になってしまった。
仕方ないじゃない。体力に差があるし、あっという間に捕まる未来しか想像できないんだもの。
ちらりと幸村を見ると、右手を顎に添えて考えこんでいた。
「たしかに人数を考えれば君が不利だ。けれど、俺がレギュラー陣に鬼ごっこで君を捕まえてほしいと言っても、彼らにも選ぶ権利がある。君の意思を尊重したいのであれば、捕まえなくてもいい。俺は、別にそのことを咎めはしないよ」
「つまり、全員追いかけてくるわけではないってこと?」
「そういうこと。受けてもらえるかな」
「分かりました。受けて立ちましょう」
「勝負成立だね」
「はい」
勝負となると負けるわけにはいかない。場所の指定はないから逃げるだけではなく、隠れるのもありだ。
マネージャーうんぬんはおいといて、レギュラーと鬼ごっこなんて楽しそうだと思った。
「また敬語に戻ってる」
「あっ……」
「それと、なぜ頑なにマネージャーになりたくないのかは分からないけど、ここは青学ではなく立海だ。そのことは覚えておいて」
「……うん」
ドキリとした。もしかして、幸村は青学での出来事を知っているのではないかと感じる。先ほどの話に出てきた、とある部員とやらに聞いたのだろうか。
「それじゃあ、そろそろ朝練が始まるから行くね。レギュラーのみんなにも伝えないと」
「頑張って、幸村くん」
「ふふ、ありがとう」
そういって幸村は上機嫌で部室へ向かっていった。
その後、部員たちに恐れられるのは、また別のお話。
これが神の子、幸村精市との出会い。
また一枚、桜の花びらが舞う。
そっと手で器をつくると、そこに花びらが落ちてきた。
『来年もまた一緒に桜を見よう』
去年、そんな約束をリョーマとした。この約束は果たせるのだろうか。
ここ最近、朝早く学校に来ては、こうしてただただ桜を眺めている。
「君は桜が好きなの?」
桜に夢中になっていると、後ろから声がする。振り返ると肩にジャージを羽織っている男の人が立っていた。
「はい、好きです。大切な思い出がありますから」
「そうなんだ。ここの桜は綺麗だよね。白石さん毎日ここで眺めているから、気になって声かけてみたんだ」
たしかに頻繫に訪れていたが、なぜ私の名前を知っているのだろう。彼とは初対面だったはず。それが顔に出ていたのか、すぐに答えてくれた。
「ああ、びっくりさせちゃったね。ブン太や仁王に聞いたんだ。俺は、幸村精市。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「ははは、同級生なんだから敬語じゃなくていいのに」
「なんだか緊張しちゃって……」
丸井や仁王に聞いたということは、彼もテニス部の可能性が高い。だから無意識のうちに壁を作ろうとしたのだろう。
それに笑顔の下に底知れぬ力を持っていそうなところが、不二と似ている気がした。
「えーと……よ、よろしく、幸村くん」
「よろしく、白石さん」
敬語がとれて嬉しかったのか、先ほどより幸村の笑みは柔らかい。
「ところで、これから時間あるかい? 少し話したいことがあるんだ」
「うん、大丈夫だよ。話って?」
「単刀直入に言うと、白石さんにテニス部のマネージャーになってほしい。青学でマネージャーをしていたと聞いてね」
彼の口から出てきた言葉は予想していたものの、素直には頷けなかった。
ドクン、ドクン。
青学での出来事が脳裏をよぎり、鼓動が速くなる。
私は一度目を閉じて深呼吸をし、呼吸を整えた。そして、しっかり幸村を見据えて言い放つ。
「立海は全国大会をニ連覇していると聞きました。マネージャーがいなくても全国制覇していますし、私の力が役に立てるとは思えません」
「そうかな。とある部員から、君はスクールに通っていてテニスは強いと聞いたし、優秀なマネージャーがいたら、よりテニスに集中できると思うけど」
「誰に聞いたかは知りませんが、買い被りすぎです。あなたがたの方がよっぽど強いでしょう」
「思っていたより手ごわいね。はっきりと意見を言うところが好ましく思うけど。そうだな……それならレギュラー陣と鬼ごっこしよう」
「鬼ごっこ?」
予想外の展開に思わず目をぱちくりさせた。てっきりマネージャーになるまで説得させられるのかと思ったら違うらしい。
「そう、鬼ごっこ。期間は明日から平日五日間の放課後一時間。今日は月曜だから、土日を挟んで来週の月曜まで。鬼はレギュラー全員で、場所は学校の敷地内であればどこでも。ただし、白石さんを捕まえられるのはテニスウェアを着ているときのみ。もし捕まえることができたら、君にはマネージャーになってもらいたい」
「レギュラーは少なくとも七人いるでしょう。私が圧倒的に不利だと思いますが」
幸村から目を逸らし、地面に視線を向ける。思わず硬い声になってしまった。
仕方ないじゃない。体力に差があるし、あっという間に捕まる未来しか想像できないんだもの。
ちらりと幸村を見ると、右手を顎に添えて考えこんでいた。
「たしかに人数を考えれば君が不利だ。けれど、俺がレギュラー陣に鬼ごっこで君を捕まえてほしいと言っても、彼らにも選ぶ権利がある。君の意思を尊重したいのであれば、捕まえなくてもいい。俺は、別にそのことを咎めはしないよ」
「つまり、全員追いかけてくるわけではないってこと?」
「そういうこと。受けてもらえるかな」
「分かりました。受けて立ちましょう」
「勝負成立だね」
「はい」
勝負となると負けるわけにはいかない。場所の指定はないから逃げるだけではなく、隠れるのもありだ。
マネージャーうんぬんはおいといて、レギュラーと鬼ごっこなんて楽しそうだと思った。
「また敬語に戻ってる」
「あっ……」
「それと、なぜ頑なにマネージャーになりたくないのかは分からないけど、ここは青学ではなく立海だ。そのことは覚えておいて」
「……うん」
ドキリとした。もしかして、幸村は青学での出来事を知っているのではないかと感じる。先ほどの話に出てきた、とある部員とやらに聞いたのだろうか。
「それじゃあ、そろそろ朝練が始まるから行くね。レギュラーのみんなにも伝えないと」
「頑張って、幸村くん」
「ふふ、ありがとう」
そういって幸村は上機嫌で部室へ向かっていった。
その後、部員たちに恐れられるのは、また別のお話。
これが神の子、幸村精市との出会い。