青の結晶
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授業が終わり帰りの支度をしていると、ミハエルが息を切らして教室に入ってきた。
「姉様、姉様はいますか!?」
「そんなに慌ててどうしたの?」
「大変な事態になったので、一緒に来てください!」
「ちょっと……!?」
スクールバッグを肩にかけたところで、ぐいぐいと手を引っ張られ、外に連れていかれる。普段大人しいミハエルが強引な手段に出るのは珍しい。
首をかしげながらついていくと、校門前でミハエルが足を止める。
そこには遊馬、小鳥、ベクター、凌牙、璃緒、そしてカイトがいた。カイトはハートランド学園の生徒ではないが、いつも学校が終わる時間帯に迎えに来てくれるのだ。
そのため、ミハエルが何故わざわざ呼びに来たのか分からなかった。
次の言葉を聞くまでは。
「小鳥、好きだ。俺と付き合ってくれ」
聞き間違いだと思いたかった。
カイトが小鳥の手を握り、告白をした。恋人であるナーシャの前で。
「どうやらカイトは惚れ薬を浴びてしまったようで……」
肩にかけていたバッグが地面に滑り落ちた。
ミハエルが慌てて説明するが、ナーシャの耳には入ってこない。それほどカイトの言葉は、ナーシャの頭を思考停止させるには十分だった。
そして気づけばカイトに近づき、頬に平手打ちを食らわせていた。
「……っ!?」
カイトは何をする、と眉間にしわを寄せて見てきたが気にしない。
「しばらく顔見たくないから、アークライト家に来ないで!」
これ以上カイトのことを考えたくない一心で、ナーシャは走ってその場から逃げ去った。
全力で走ったので息が苦しい。
人気が少ない道で一度足を止め、呼吸を整える。
目があつくなり、だんだん視界がぼやけてきた。目を軽く擦ると袖が濡れて、ここで自分が泣いていることに気付く。
こんな胸が張り裂ける想いをするなら、カイトに恋をしなければ良かった。
「ナーシャ、今日は一人なのか?」
名前を呼ばれたので振り返ってみると、そこにはクリスがいた。夕飯の買い出し中だったのだろう、エコバッグを抱えている。
いつもなら兄と可愛らしい鞄の組み合わせに和むところだが、今はそれどころではない。
クリスはナーシャと目が合うと、瞠目した。
「泣いているのか?」
「クリス……!」
ナーシャがクリスの腰に抱きつくと、彼は優しく抱き返してくれた。
「家に帰ってゆっくり休もうか」
「……うん」
服濡らしてしまってごめんなさい、と謝る。すると、クリスは「悲しいときは落ち着くまで泣くといい。いつでも胸を貸すから」と言った。
*
家に着いてソファーの上でクリスに膝枕をしてもらったら、だいぶ落ち着いてきた。
「姉様、帰ってきてますか!?」
勢いよく開けられた扉の向こうには、ミハエルが立っていた。
よく見ると、二人分の鞄を持っている。正直カイトのことで頭がいっぱいで、鞄の存在を忘れていた。
「ごめんなさい。鞄、私の分まで……」
慌てて受け取りに行くと、ミハエルは困ったように笑った。
「そういえば、今日はカイトと一緒じゃなかったのか? ナーシャを迎えに行ったはずなのだが」
カイトという単語にナーシャは固まる。
「それが彼は惚れ薬を浴びてしまい、姉様の前で小鳥に告白してしまったんです」
「あれはトロンが遊び心で作ったもので、本当に効果が出るとは……」
クリスは右手を額にあてて、ため息をつく。
彼は父が研究の片手間に、時々予想外のものを生み出すことを知っていたため驚かなかった。呆れはしたが。
ナーシャが惚れ薬について聞こうとした瞬間。
「貴様、さっきのはどういうことだ」
突如部屋の扉が開かれ、話題の人物が現れた。
ナーシャとカイトは、よくお互いの家を行き来するので鍵を渡している。カイトがアークライト家に訪れてもおかしくはない。
そう、普段の状態であれば。
このときミハエルとクリスは部屋の温度が下がったように感じた。否、ナーシャを中心として冷気が漂っていた。
「私は先程、アークライト家に来るなと言ったはずだけど?」
ナーシャの言い方には棘があった。
惚れ薬のせいとはいえ、目の前で恋人が告白しているところを見て、平常心でいるのは無理な話である。
「理由も分からず平手打ちされるとは気が済まない。デュエルだ! 俺が勝ったら理由を聞かせてもらう!」
「臨むところよ、私に挑んだことを後悔させてあげるわ!」
カイトとナーシャはデュエルディスクを展開させて構えた。
「「デュエル!!」」
「……クリス兄様、二人がデュエルを始めてしまいましたが良いのでしょうか?」
「前にデュエリストの生存本能で解毒したことがあったし、惚れ薬もデュエルでなんとかなるのではないか?」
頭に血が上っている彼らを止めることは不可能だ。
ミハエルとクリスはデュエルを止めることを諦め、観戦に徹することにした。
「俺のターン、ドロー!
自分フィールド上にモンスターが存在しないので【フォトン・スラッシャー】を特殊召喚。さらに【フォトン・クラッシャー】を通常召喚。
レベル4のモンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! ランク4、【輝光帝ギャラクシオン】!」
二体のフォトンモンスターを素材に召喚されるエクシーズモンスター。【ギャラクシオン】の効果は、【光子竜】の特殊召喚。
早速エースモンスターの登場の予感に、ナーシャは心が震える。
「オーバーレイ・ユニットを二つ取り除き、デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚する。
闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、【銀河眼の光子竜】!」
カイトの相棒であるドラゴンがフィールドに召喚された。
今まで何度も光子竜に助けられたが、このドラゴンの壁を越えないとナーシャに勝機はない。
「俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド」
「私のターン、ドロー」
「ナーシャ、お前のデュエルはもう見切っている。青氷モンスターを何体召喚しようとも、銀河眼が粉砕してくれる!」
「それはどうかしら?
――私は【RR-バニシング・レイニアス】を召喚!」
「RRだと……?」
普段は青氷デッキを華麗に操るが、目の前に現れたのはメカメカしい鳥だった。
見たことないモンスターにカイトは戸惑った様子だったが、ナーシャは気にせず展開を始める。
「さらに【バニシング・レイニアス】の効果で手札から【トリビュート・レイニアス】を特殊召喚。
【トリビュート・レイニアス】の効果でデッキから【ミミクリー・レイニアス】を墓地に送るわ。
そして、【ミミクリー・レイニアス】を除外し【RR-ネスト】を加え、発動。デッキから【トリビュート・レイニアス】を手札に加える」
フィールドにモンスターを揃えつつ、次に備えてカードを呼び寄せる。
「私はレベル4のモンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 【RR-フォース・ストリクス】!
オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、デッキから【バニシング・レイニアス】を手札に加えるわ」
「守りを固めても、俺には無意味だぞ」
そんなの分かっている、とばかりにナーシャはうっすらと笑った。
「まだまだ行くわよ! 【RUM-レイド・フォース】を発動! 【フォース・ストリクス】よりランクが1つ高いRRモンスターをその上に重ねて、X召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する!
獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 現れろ、ランク5! 【RR-ブレイズ・ファルコン】!
そして効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える!」
【ブレイズ・ファルコン】の翼から放たれた稲妻状のビームが、【ギャラクシオン】と【光子竜】を焼き払う。カイトのフィールドには特殊召喚されたモンスターは二体。つまり、1000ポイントライフが削られた。
「くっ……」
カイト LP 4000→3000
「バトル。【ブレイズ・ファルコン】でカイトにダイレクトアタック! 私が受けた痛み、思い知りなさい!」
「リバースカードオープン! 【デステニー・ブレイク】! 相手モンスターの直接攻撃宣言時に自分のデッキからカードを一枚ドローし、お互い確認する。確認したカードがモンスターだった場合、その攻撃を無効にし、ドローしたカードを手札に加える。
俺がドローしたカードは【銀河騎士】! よって、【ブレイズ・ファルコン】の攻撃は無効になる」
「あなたにこの痛みすら、受け止めてもらうことができないのね……」
怒りが薄れ、押し込めていた悲しい気持ちが膨れ上がってきた。ぽろぽろ涙が零れて、泣き止もうと思っても涙が止まらない。
「カイト、君のナーシャ姉様に対する愛は、惚れ薬で忘れる程度のものだったの?」
姉の泣く姿を前に、ミハエルは黙っていられなかった。もし忘れていたら姉様はお前には渡さないぞ、とばかりに。
「ナーシャへの愛……? 俺は小鳥が」
「お前の想い人は小鳥だったのか?」
クリスに間髪入れずに投げ掛けられ、カイトは固まった。
自分が好きだったのは小鳥だったのか?
数時間前、小鳥に告白したが、果たして俺は本当に彼女のことが好きなのか?
自問自答してみると、本能が違うと告げている。
では、自分が真に愛する人は誰なのか――。
「バトルフェイズ終了時、【デステニー・ブレイク】を破壊し、この効果で加えた【銀河騎士】を効果を無効にして特殊召喚……いや、俺はサレンダーする。
ナーシャ、薬が作用してたとはいえ、すまなかった。俺は……」
デュエルディスクの上に手をかざすと、ARヴィジョンが解除された。
カイトはナーシャに近づき、彼女の前に立った。
「……誰に浴びさせられたの?」
ナーシャは俯いたままカイトに問う。
「小瓶を持った遊馬がベクターに足を取られて、中身が俺にかかった」
「…………」
なんで遊馬が惚れ薬を持っているのよ。
父様が遊馬に渡したの?
いや渡すならベクター?
ナーシャは言いたいことがたくさんあったが、嗚咽で言葉にならなかった。
「ナーシャ?」
俯いたままだったのでナーシャの顔を覗こうとすると、カイトは勢いよく抱きしめられた。
「次こんなことあったら、許さないんだから……!」
「ああ、もうこんな過ちは犯さない」
そう言いながら、そっと抱きしめ返した。二度と自分からナーシャを離さないと誓いながら。
最も彼女から離れていっても、逃がすつもりはないのだが。
*
次の日。
ミハエルと一緒に学校に登校すると、遊馬に全力で謝られた。
気にしなくて良いと言ったが、それだと納得のいかない様子だったので、今度デュエルする約束をした。
「それにしてもよー、ナーシャって青氷デッキ以外にもデッキ持ってたんだな! 今度そのデッキとデュエルしたいぜ!」
「……え? なんで遊馬がそのことを知っているの?」
RRデッキは、まだカイトとのデュエルでしか使用していないはずだ。
「さっきまでカイトがいて、その時に教えてもらったんだ。青氷デッキとは違った動きをするって言ってたから気になってさ」
「カイトが学校に来ていたの」
自分のデッキに興味を持ってもらえて嬉しいが、恋人が学校に来ていたことに驚いた。
それなら会いたかったな、とナーシャは思う。
学校が終われば会えるものの、朝からカイトに会える日は少ない。
「なんでカイトが学校に?」
「あー、それは……」
ミハエルが問うと、遊馬は視線をさまよわせた。
「無論、ベクターをデュエルで叩きのめすためだ」
彼らの背後から歩み寄り、恋人の隣に立つカイト。
「カイト! まだいたんだな」
「当たり前だ。せっかく学校に来たのに、ナーシャに会わないで帰るなどありえん」
「すっかり元通りだね」
遊馬と苦笑するミハエル。
ナーシャを見ると、昨日のデュエルは中断されたため、カイトとRRデッキでまたデュエルしたいと話している。
きっと今日の午後にでもデュエルするだろう。
姉が笑っているならば、それでいい。彼女は笑顔が似合うのだから。
バリアン侵攻時みたいな悲しい想いは、もうさせたくない。
ミハエルはナーシャの笑顔が失われることにならなくて良かったと思うのだった。
「姉様、姉様はいますか!?」
「そんなに慌ててどうしたの?」
「大変な事態になったので、一緒に来てください!」
「ちょっと……!?」
スクールバッグを肩にかけたところで、ぐいぐいと手を引っ張られ、外に連れていかれる。普段大人しいミハエルが強引な手段に出るのは珍しい。
首をかしげながらついていくと、校門前でミハエルが足を止める。
そこには遊馬、小鳥、ベクター、凌牙、璃緒、そしてカイトがいた。カイトはハートランド学園の生徒ではないが、いつも学校が終わる時間帯に迎えに来てくれるのだ。
そのため、ミハエルが何故わざわざ呼びに来たのか分からなかった。
次の言葉を聞くまでは。
「小鳥、好きだ。俺と付き合ってくれ」
聞き間違いだと思いたかった。
カイトが小鳥の手を握り、告白をした。恋人であるナーシャの前で。
「どうやらカイトは惚れ薬を浴びてしまったようで……」
肩にかけていたバッグが地面に滑り落ちた。
ミハエルが慌てて説明するが、ナーシャの耳には入ってこない。それほどカイトの言葉は、ナーシャの頭を思考停止させるには十分だった。
そして気づけばカイトに近づき、頬に平手打ちを食らわせていた。
「……っ!?」
カイトは何をする、と眉間にしわを寄せて見てきたが気にしない。
「しばらく顔見たくないから、アークライト家に来ないで!」
これ以上カイトのことを考えたくない一心で、ナーシャは走ってその場から逃げ去った。
全力で走ったので息が苦しい。
人気が少ない道で一度足を止め、呼吸を整える。
目があつくなり、だんだん視界がぼやけてきた。目を軽く擦ると袖が濡れて、ここで自分が泣いていることに気付く。
こんな胸が張り裂ける想いをするなら、カイトに恋をしなければ良かった。
「ナーシャ、今日は一人なのか?」
名前を呼ばれたので振り返ってみると、そこにはクリスがいた。夕飯の買い出し中だったのだろう、エコバッグを抱えている。
いつもなら兄と可愛らしい鞄の組み合わせに和むところだが、今はそれどころではない。
クリスはナーシャと目が合うと、瞠目した。
「泣いているのか?」
「クリス……!」
ナーシャがクリスの腰に抱きつくと、彼は優しく抱き返してくれた。
「家に帰ってゆっくり休もうか」
「……うん」
服濡らしてしまってごめんなさい、と謝る。すると、クリスは「悲しいときは落ち着くまで泣くといい。いつでも胸を貸すから」と言った。
*
家に着いてソファーの上でクリスに膝枕をしてもらったら、だいぶ落ち着いてきた。
「姉様、帰ってきてますか!?」
勢いよく開けられた扉の向こうには、ミハエルが立っていた。
よく見ると、二人分の鞄を持っている。正直カイトのことで頭がいっぱいで、鞄の存在を忘れていた。
「ごめんなさい。鞄、私の分まで……」
慌てて受け取りに行くと、ミハエルは困ったように笑った。
「そういえば、今日はカイトと一緒じゃなかったのか? ナーシャを迎えに行ったはずなのだが」
カイトという単語にナーシャは固まる。
「それが彼は惚れ薬を浴びてしまい、姉様の前で小鳥に告白してしまったんです」
「あれはトロンが遊び心で作ったもので、本当に効果が出るとは……」
クリスは右手を額にあてて、ため息をつく。
彼は父が研究の片手間に、時々予想外のものを生み出すことを知っていたため驚かなかった。呆れはしたが。
ナーシャが惚れ薬について聞こうとした瞬間。
「貴様、さっきのはどういうことだ」
突如部屋の扉が開かれ、話題の人物が現れた。
ナーシャとカイトは、よくお互いの家を行き来するので鍵を渡している。カイトがアークライト家に訪れてもおかしくはない。
そう、普段の状態であれば。
このときミハエルとクリスは部屋の温度が下がったように感じた。否、ナーシャを中心として冷気が漂っていた。
「私は先程、アークライト家に来るなと言ったはずだけど?」
ナーシャの言い方には棘があった。
惚れ薬のせいとはいえ、目の前で恋人が告白しているところを見て、平常心でいるのは無理な話である。
「理由も分からず平手打ちされるとは気が済まない。デュエルだ! 俺が勝ったら理由を聞かせてもらう!」
「臨むところよ、私に挑んだことを後悔させてあげるわ!」
カイトとナーシャはデュエルディスクを展開させて構えた。
「「デュエル!!」」
「……クリス兄様、二人がデュエルを始めてしまいましたが良いのでしょうか?」
「前にデュエリストの生存本能で解毒したことがあったし、惚れ薬もデュエルでなんとかなるのではないか?」
頭に血が上っている彼らを止めることは不可能だ。
ミハエルとクリスはデュエルを止めることを諦め、観戦に徹することにした。
「俺のターン、ドロー!
自分フィールド上にモンスターが存在しないので【フォトン・スラッシャー】を特殊召喚。さらに【フォトン・クラッシャー】を通常召喚。
レベル4のモンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! ランク4、【輝光帝ギャラクシオン】!」
二体のフォトンモンスターを素材に召喚されるエクシーズモンスター。【ギャラクシオン】の効果は、【光子竜】の特殊召喚。
早速エースモンスターの登場の予感に、ナーシャは心が震える。
「オーバーレイ・ユニットを二つ取り除き、デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚する。
闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、【銀河眼の光子竜】!」
カイトの相棒であるドラゴンがフィールドに召喚された。
今まで何度も光子竜に助けられたが、このドラゴンの壁を越えないとナーシャに勝機はない。
「俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド」
「私のターン、ドロー」
「ナーシャ、お前のデュエルはもう見切っている。青氷モンスターを何体召喚しようとも、銀河眼が粉砕してくれる!」
「それはどうかしら?
――私は【RR-バニシング・レイニアス】を召喚!」
「RRだと……?」
普段は青氷デッキを華麗に操るが、目の前に現れたのはメカメカしい鳥だった。
見たことないモンスターにカイトは戸惑った様子だったが、ナーシャは気にせず展開を始める。
「さらに【バニシング・レイニアス】の効果で手札から【トリビュート・レイニアス】を特殊召喚。
【トリビュート・レイニアス】の効果でデッキから【ミミクリー・レイニアス】を墓地に送るわ。
そして、【ミミクリー・レイニアス】を除外し【RR-ネスト】を加え、発動。デッキから【トリビュート・レイニアス】を手札に加える」
フィールドにモンスターを揃えつつ、次に備えてカードを呼び寄せる。
「私はレベル4のモンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! 飛来せよ、ランク4! 【RR-フォース・ストリクス】!
オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、デッキから【バニシング・レイニアス】を手札に加えるわ」
「守りを固めても、俺には無意味だぞ」
そんなの分かっている、とばかりにナーシャはうっすらと笑った。
「まだまだ行くわよ! 【RUM-レイド・フォース】を発動! 【フォース・ストリクス】よりランクが1つ高いRRモンスターをその上に重ねて、X召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する!
獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し寄せ来る敵を打ち破れ! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 現れろ、ランク5! 【RR-ブレイズ・ファルコン】!
そして効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、相手フィールドに特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える!」
【ブレイズ・ファルコン】の翼から放たれた稲妻状のビームが、【ギャラクシオン】と【光子竜】を焼き払う。カイトのフィールドには特殊召喚されたモンスターは二体。つまり、1000ポイントライフが削られた。
「くっ……」
カイト LP 4000→3000
「バトル。【ブレイズ・ファルコン】でカイトにダイレクトアタック! 私が受けた痛み、思い知りなさい!」
「リバースカードオープン! 【デステニー・ブレイク】! 相手モンスターの直接攻撃宣言時に自分のデッキからカードを一枚ドローし、お互い確認する。確認したカードがモンスターだった場合、その攻撃を無効にし、ドローしたカードを手札に加える。
俺がドローしたカードは【銀河騎士】! よって、【ブレイズ・ファルコン】の攻撃は無効になる」
「あなたにこの痛みすら、受け止めてもらうことができないのね……」
怒りが薄れ、押し込めていた悲しい気持ちが膨れ上がってきた。ぽろぽろ涙が零れて、泣き止もうと思っても涙が止まらない。
「カイト、君のナーシャ姉様に対する愛は、惚れ薬で忘れる程度のものだったの?」
姉の泣く姿を前に、ミハエルは黙っていられなかった。もし忘れていたら姉様はお前には渡さないぞ、とばかりに。
「ナーシャへの愛……? 俺は小鳥が」
「お前の想い人は小鳥だったのか?」
クリスに間髪入れずに投げ掛けられ、カイトは固まった。
自分が好きだったのは小鳥だったのか?
数時間前、小鳥に告白したが、果たして俺は本当に彼女のことが好きなのか?
自問自答してみると、本能が違うと告げている。
では、自分が真に愛する人は誰なのか――。
「バトルフェイズ終了時、【デステニー・ブレイク】を破壊し、この効果で加えた【銀河騎士】を効果を無効にして特殊召喚……いや、俺はサレンダーする。
ナーシャ、薬が作用してたとはいえ、すまなかった。俺は……」
デュエルディスクの上に手をかざすと、ARヴィジョンが解除された。
カイトはナーシャに近づき、彼女の前に立った。
「……誰に浴びさせられたの?」
ナーシャは俯いたままカイトに問う。
「小瓶を持った遊馬がベクターに足を取られて、中身が俺にかかった」
「…………」
なんで遊馬が惚れ薬を持っているのよ。
父様が遊馬に渡したの?
いや渡すならベクター?
ナーシャは言いたいことがたくさんあったが、嗚咽で言葉にならなかった。
「ナーシャ?」
俯いたままだったのでナーシャの顔を覗こうとすると、カイトは勢いよく抱きしめられた。
「次こんなことあったら、許さないんだから……!」
「ああ、もうこんな過ちは犯さない」
そう言いながら、そっと抱きしめ返した。二度と自分からナーシャを離さないと誓いながら。
最も彼女から離れていっても、逃がすつもりはないのだが。
*
次の日。
ミハエルと一緒に学校に登校すると、遊馬に全力で謝られた。
気にしなくて良いと言ったが、それだと納得のいかない様子だったので、今度デュエルする約束をした。
「それにしてもよー、ナーシャって青氷デッキ以外にもデッキ持ってたんだな! 今度そのデッキとデュエルしたいぜ!」
「……え? なんで遊馬がそのことを知っているの?」
RRデッキは、まだカイトとのデュエルでしか使用していないはずだ。
「さっきまでカイトがいて、その時に教えてもらったんだ。青氷デッキとは違った動きをするって言ってたから気になってさ」
「カイトが学校に来ていたの」
自分のデッキに興味を持ってもらえて嬉しいが、恋人が学校に来ていたことに驚いた。
それなら会いたかったな、とナーシャは思う。
学校が終われば会えるものの、朝からカイトに会える日は少ない。
「なんでカイトが学校に?」
「あー、それは……」
ミハエルが問うと、遊馬は視線をさまよわせた。
「無論、ベクターをデュエルで叩きのめすためだ」
彼らの背後から歩み寄り、恋人の隣に立つカイト。
「カイト! まだいたんだな」
「当たり前だ。せっかく学校に来たのに、ナーシャに会わないで帰るなどありえん」
「すっかり元通りだね」
遊馬と苦笑するミハエル。
ナーシャを見ると、昨日のデュエルは中断されたため、カイトとRRデッキでまたデュエルしたいと話している。
きっと今日の午後にでもデュエルするだろう。
姉が笑っているならば、それでいい。彼女は笑顔が似合うのだから。
バリアン侵攻時みたいな悲しい想いは、もうさせたくない。
ミハエルはナーシャの笑顔が失われることにならなくて良かったと思うのだった。