青の結晶
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思い返してみれば、その日はお皿を割ってしまったり、電柱に頭をぶつけたり、調子が良くなかったと思う。
学校が終わり、天城家へ向かうと、カイトが出迎えてくれた。
家にお邪魔すると、すぐさまカイトに手を取られた。心なしか眉間に皺が寄ってる気がする。
いつも通り研究室へ行くと思いきや、なぜかリビングにあるソファーへと座らされた。
「ナーシャ、顔色が悪いから休んだほうが良い」
大丈夫よ、早く研究をはじめましょう――。
そう言おうと思ったのに、言葉にすることができない。
ソファーから立とうとした瞬間、前に崩れ落ち、世界が暗転した。
*
身体の芯がマグマのように熱い。
目を覚まし上体を起こすと、額に乗ってたと思われるタオルが膝に落ちた。どうやらベッドに寝かされていたらしい。
辺りを見渡してみると、部屋の至るところに雪の結晶が目に入った。
「力が漏れてる?」
普段ならサイコパワーを制御でき、力が乱れることはない。暴走しつつあるのは、体調が良くないからだろうか。
目を走らせるが、近くにカイトの姿は見当たらない。おそらく研究室にいるはずだ。
このままでは周りを傷つけてしまう。そう思ったナーシャは、ベッドから抜け出し、こっそり外へ出た。
*
「なっ……!?」
研究の休憩時間になり、カイトが研究室から寝室へ戻ると、ベッドは脱け殻だった。
ベッドに手をあてるが、温もりが感じられない。抜け出して時間が経つのだろう。
目を覚ますまで側にいるべきだった、と後悔してももう遅い。
一歩下がると足元からサクッと音がしたので、視線を落とす。部屋の至るところに、雪の結晶が散らばっているのが目に入った。通常であれば、室内では見かけないもの。
「これは……」
この結晶は見覚えがある。ナーシャが天城家で暮らし始めた時――クリスがフェイカーの下を去った頃によく見たものだ。
彼女のサイコパワーなら、生み出すことが可能であろう。
精神状態が不安定だと、力が暴走しやすい。カイトは、ナーシャが力が制御できないと悟り、この場を去ったと考える。
急いで研究室へ戻り、クリスにこの事を伝え、手分けをしてナーシャを探すこととなった。
オービタルを凧へ変形させ、空からナーシャを探す。
高熱のため遠くにはいけないと思い、シティの中心部を重点的に探しているが一向に見当たらない。
「どこにいる!?」
少し外れに飛行すると、冷風が肌を撫でた。
すぐさま風が吹いた方向へ振り向くと、一ヶ所だけ不自然に吹雪が舞っている。
カイトは吹雪が発生している箇所に向かって急降下し、倉庫の前で着地した。
入り口から冷気が漏れ、中からは荒れ狂う風の音が聞こえた。
迷わずシャッターを開ける。その瞬間、暴風雪がカイトを襲った。
辺りに散らばる結晶。その中心に目的の人物――ナーシャがいた。
ナーシャは天城家から抜け出し、倉庫で身を隠していた。
サイコパワーは暴走する一方で、ナーシャを中心に雪が荒れ狂う。
壁に背を預けて呼吸を整えていたが、しばらくすると人の気配を感じた。
「ナーシャ、そこにいるのか?」
愛しい人の声。
自分を探してくれたのは嬉しいが、タイミングが悪かった。
「カイト、来ないで! このままではあなたのこと傷つけてしまう……!」
悲痛な叫びが倉庫内に響き渡る。
意識が朦朧とする中、ナーシャはカイトに出会って間もない日のことを思い出していた。
あの頃は、精神状態が不安定で、サイコパワーを制御することができなかった。その度クリスに宥めてもらい、次第に力を制御できるようになった。
しかし今は頭がふわふわして、制御どころか暴走する一方だ。
誰も傷つけたくないと、人気のない場所に逃げてきたのに、目の前の男は追いかけてきた。おそらく、どこへ行ってもナーシャを見つけ出すだろう。
カイトは襲いかかってくる吹雪を気にもせず、ゆっくりナーシャへ近づき、優しく抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だ。ゆっくり深呼吸しろ。お前がどこに消えようと、必ず見つけ出して連れ戻す。――だから、俺の側を離れるな」
「……うん」
いつからか、カイトの側にいることが心地よくなった。
記憶が戻って行方を眩ましても連れ戻してくれたり、ナンバーズに呼ばれて洞窟をさ迷った時も探しだしてくれたりした。
いつだって帰るべき場所は、カイトの腕の中であった。
ナーシャは彼の温もりに安心して目を瞑り、意識を手放した。
*
瞼を開けると、目の前に星が広がっていた。星を掴もうと、天に向けて左手を伸ばす。すると手のひらが優しく包まれた。
「目が覚めたか」
「カイト……?」
目の前に広がっているように見えた星は、どうやら天井の模様だったらしい。
ここでようやくナーシャは、自身が天城家のベッドで寝ていたことを理解した。
もう部屋に結晶が散らばっている様子はない。
「身体の調子はどうだ?」
「もう大丈夫。心配かけて、ごめんなさい」
上体を起こす。
きちんと休んだおかげで身体が軽い。ここ数日の疲労も一緒に回復したようだ。
「何かあったら周りを頼れ。オレは決してお前を一人にしない」
「うん」
「……たとえ離れても、必ず探して連れ戻す」
まるで自分自身に言い聞かせるように。心なしか声が小さくなり、手を握る力が強くなった。
「もしかして……拗ねてる?」
「それはお前が姿を眩ました回数を数えてから聞くんだな」
「むう……」
意図的に消えたわけではないのだが、前科があるため反論ができない。思わず頬を膨らませてしまった。
ナーシャも決してカイトの側を離れたいわけではないのだ。
ただ、彼に心配をかけているのも事実なわけで。
「……そんな顔するな。ナーシャが無事戻ってきてくれればいい」
カイトはナーシャを抱きしめ、優しく微笑んだ。
「うん、約束する」
ナーシャも抱きしめ返し、肩に顔を埋めるのだった。
学校が終わり、天城家へ向かうと、カイトが出迎えてくれた。
家にお邪魔すると、すぐさまカイトに手を取られた。心なしか眉間に皺が寄ってる気がする。
いつも通り研究室へ行くと思いきや、なぜかリビングにあるソファーへと座らされた。
「ナーシャ、顔色が悪いから休んだほうが良い」
大丈夫よ、早く研究をはじめましょう――。
そう言おうと思ったのに、言葉にすることができない。
ソファーから立とうとした瞬間、前に崩れ落ち、世界が暗転した。
*
身体の芯がマグマのように熱い。
目を覚まし上体を起こすと、額に乗ってたと思われるタオルが膝に落ちた。どうやらベッドに寝かされていたらしい。
辺りを見渡してみると、部屋の至るところに雪の結晶が目に入った。
「力が漏れてる?」
普段ならサイコパワーを制御でき、力が乱れることはない。暴走しつつあるのは、体調が良くないからだろうか。
目を走らせるが、近くにカイトの姿は見当たらない。おそらく研究室にいるはずだ。
このままでは周りを傷つけてしまう。そう思ったナーシャは、ベッドから抜け出し、こっそり外へ出た。
*
「なっ……!?」
研究の休憩時間になり、カイトが研究室から寝室へ戻ると、ベッドは脱け殻だった。
ベッドに手をあてるが、温もりが感じられない。抜け出して時間が経つのだろう。
目を覚ますまで側にいるべきだった、と後悔してももう遅い。
一歩下がると足元からサクッと音がしたので、視線を落とす。部屋の至るところに、雪の結晶が散らばっているのが目に入った。通常であれば、室内では見かけないもの。
「これは……」
この結晶は見覚えがある。ナーシャが天城家で暮らし始めた時――クリスがフェイカーの下を去った頃によく見たものだ。
彼女のサイコパワーなら、生み出すことが可能であろう。
精神状態が不安定だと、力が暴走しやすい。カイトは、ナーシャが力が制御できないと悟り、この場を去ったと考える。
急いで研究室へ戻り、クリスにこの事を伝え、手分けをしてナーシャを探すこととなった。
オービタルを凧へ変形させ、空からナーシャを探す。
高熱のため遠くにはいけないと思い、シティの中心部を重点的に探しているが一向に見当たらない。
「どこにいる!?」
少し外れに飛行すると、冷風が肌を撫でた。
すぐさま風が吹いた方向へ振り向くと、一ヶ所だけ不自然に吹雪が舞っている。
カイトは吹雪が発生している箇所に向かって急降下し、倉庫の前で着地した。
入り口から冷気が漏れ、中からは荒れ狂う風の音が聞こえた。
迷わずシャッターを開ける。その瞬間、暴風雪がカイトを襲った。
辺りに散らばる結晶。その中心に目的の人物――ナーシャがいた。
ナーシャは天城家から抜け出し、倉庫で身を隠していた。
サイコパワーは暴走する一方で、ナーシャを中心に雪が荒れ狂う。
壁に背を預けて呼吸を整えていたが、しばらくすると人の気配を感じた。
「ナーシャ、そこにいるのか?」
愛しい人の声。
自分を探してくれたのは嬉しいが、タイミングが悪かった。
「カイト、来ないで! このままではあなたのこと傷つけてしまう……!」
悲痛な叫びが倉庫内に響き渡る。
意識が朦朧とする中、ナーシャはカイトに出会って間もない日のことを思い出していた。
あの頃は、精神状態が不安定で、サイコパワーを制御することができなかった。その度クリスに宥めてもらい、次第に力を制御できるようになった。
しかし今は頭がふわふわして、制御どころか暴走する一方だ。
誰も傷つけたくないと、人気のない場所に逃げてきたのに、目の前の男は追いかけてきた。おそらく、どこへ行ってもナーシャを見つけ出すだろう。
カイトは襲いかかってくる吹雪を気にもせず、ゆっくりナーシャへ近づき、優しく抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だ。ゆっくり深呼吸しろ。お前がどこに消えようと、必ず見つけ出して連れ戻す。――だから、俺の側を離れるな」
「……うん」
いつからか、カイトの側にいることが心地よくなった。
記憶が戻って行方を眩ましても連れ戻してくれたり、ナンバーズに呼ばれて洞窟をさ迷った時も探しだしてくれたりした。
いつだって帰るべき場所は、カイトの腕の中であった。
ナーシャは彼の温もりに安心して目を瞑り、意識を手放した。
*
瞼を開けると、目の前に星が広がっていた。星を掴もうと、天に向けて左手を伸ばす。すると手のひらが優しく包まれた。
「目が覚めたか」
「カイト……?」
目の前に広がっているように見えた星は、どうやら天井の模様だったらしい。
ここでようやくナーシャは、自身が天城家のベッドで寝ていたことを理解した。
もう部屋に結晶が散らばっている様子はない。
「身体の調子はどうだ?」
「もう大丈夫。心配かけて、ごめんなさい」
上体を起こす。
きちんと休んだおかげで身体が軽い。ここ数日の疲労も一緒に回復したようだ。
「何かあったら周りを頼れ。オレは決してお前を一人にしない」
「うん」
「……たとえ離れても、必ず探して連れ戻す」
まるで自分自身に言い聞かせるように。心なしか声が小さくなり、手を握る力が強くなった。
「もしかして……拗ねてる?」
「それはお前が姿を眩ました回数を数えてから聞くんだな」
「むう……」
意図的に消えたわけではないのだが、前科があるため反論ができない。思わず頬を膨らませてしまった。
ナーシャも決してカイトの側を離れたいわけではないのだ。
ただ、彼に心配をかけているのも事実なわけで。
「……そんな顔するな。ナーシャが無事戻ってきてくれればいい」
カイトはナーシャを抱きしめ、優しく微笑んだ。
「うん、約束する」
ナーシャも抱きしめ返し、肩に顔を埋めるのだった。