青の結晶
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――ハートランド、カイトの部屋にて。
「貴様、俺以外の男とタッグを組むつもりなのか」
カイトは目の前を塞ぐように片腕を伸ばし、手のひらで勢いよく壁を叩いた。
「カイトはハートランド学園の生徒じゃないでしょ!?」
ナーシャは思わずびくりとするものの、睨んで言い返す。
「ならば璃緒と組めば良いだろう。なぜ凌牙と組む必要がある!」
「いつもデッキの相談にのってもらったりしてるから組みたかったの! もういい、カイトなんて嫌いっ……! じゃあね」
ナーシャはカイトの胸を押して逃げ出し、勢いよく扉を開けて去っていった。
涙声だったのは気のせいだろうか。
ナーシャもカイトも冷静ではなく、何を言っても火に油を注ぐだけだ。彼女は一度も振り返ることなく、家まで全力疾走した。
*
時は遡って一時間ほど前。
「一ヶ月後に校内でタッグデュエル大会を開催するから、参加したい人はそれまでにパートナーを探して参加登録するように」
ことの発端は、帰りのHRでの担任のこの言葉。デュエリストであるナーシャは、もちろん参加して優勝したかった。
パートナーのことを考えると、仲が良く、デッキ構築を把握している人が良いだろう。そうなると、凌牙か璃緒だ。同じクラスだし、いつも何かと相談にのってくれる凌牙と組んでみたい。
彼の席に目を向けるが、空席だった。おそらく屋上でサボっているのだろう。
そこでパートナーを頼もうと、HR後に屋上へ向かった。
案の定、凌牙は屋上で寝そべっていた。ナーシャの存在に気付くと起き上がり、ゆっくり近づいてきた。
「もう帰りのHR終わったのか?」
「うん。あのね、一ヶ月後に校内でタッグデュエル大会があるんだけど、良かったらパートナーになってもらえないかなって思って」
「璃緒じゃなくて良いのか?」
「璃緒とはタッグ組んだことあるけど、凌牙とはなかったし……ダメかな?」
「…………別にかまわないぜ」
「ありがとう!」
返答までに間があったのが気になったが、気のせいだろう。
今思い返すと、凌牙はこの後に起こる出来事を予想していたのかもしれない。しかし組んでもらえることになったので、ナーシャは気にしないことにしたのだった。
帰り道に二人でデッキ構築について話していると、途中で璃緒を見かけたので、一緒に帰ることになった。
「凌牙はナーシャと組むんですの。羨ましいですわ」
「一度もタッグ組んだことないなと思って頼んでみたの」
璃緒の隣でそれとなく聴いていた凌牙は、視界の片隅に見覚えのある姿を捉えた。金色の髪に黒のコート。よく見ると、だんだんこちらに向かってきているではないか。
「それでデッキ構築はどうするの?」
「うーん、普段はランク8中心としたデッキだけど、凌牙に合わせるならランク4も増やした方が良いよね」
「お、おい……!」
凌牙が璃緒の手首を掴み、前方に注意を促す。
「凌牙? そんなに慌ててどう……、あっ」
「?」
二人が視線を前に固定しながら足を止めたので、ナーシャも足を止める。怪訝に思いながら、顔を前方に向けてみると、そこにはカイトがいた。なぜだか分からないが、明らかに怒りのオーラを醸し出している。
「今日は迎えに来てくれたんだね。ありがとう」
凌牙と璃緒は、カイトが時々ナーシャを迎えに来ることは知っている。よりによってなぜ今日なんだ、と頭を抱えた。
「……ナーシャ、凌牙とタッグを組むのか」
「ええ。学校でタッグ大会が行われるから、組まないかって誘ってみたの」
「それはお前から頼んだのか?」
「そうよ。……っ!? カイト、どうしたの?」
カイトはナーシャの手を引き、無言を貫き通した。眉間にしわを寄せながら、ナーシャの顔を見ようとしない。
ナーシャは神代兄妹に「また、明日ね!」と言ったが、二人ともどこか遠い目をして手を振っていた。
そして、ハートランド――カイトの部屋に辿り着き、冒頭に到る。
*
「ただいま……」
ナーシャは自分の家に帰り、自室へ向かう。部屋に向かう途中でトーマスにケーキ買ってきたけど食べるか? と聞かれたが、いらないと答えた。カイトとケンカした直後で食欲なんてなかった。
制服にしわができることを気にせず、ベッドに顔を埋める。今までカイトと接していて多少ケンカすることはあったが、ここまで怒りをぶつけられたのは初めてだった。なぜ自分がこんなに怒りを向けられたのか分からず、謝るのも嫌だった。
好きな友達とタッグを組んで、何が悪いというのだ。
次第に我慢していた涙が零れ、枕が濡れていった。
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
枕から顔を上げて、時計を見る。針は17時12分を指していた。
「ナーシャ、そろそろ研究の時間だ。準備をしてくれ」
クリスの声だ。
いつもなら前もって支度をするが、今日は部屋に籠っていたので迎えに来たのだろう。
「研究室、行きたくない」
天城家の研究室に行けば、確実にカイトと顔を合わせることになる。なんとしてもそれは避けたい。
「……分かった。ゆっくり休め」
理由を聞かれるかと思ったが、それは杞憂に終わった。足音がどんどん遠ざかっていく。
ナーシャは、素直にクリスの気遣いに甘えることにした。
*
お腹が空いたので私服に着替えてリビングに行くと、ミハエルが晩御飯の準備をしていた。慌てて手伝おうとすると、「もうすぐできるから、ナーシャ姉様は座ってて大丈夫だよ」と止められた。
「あれ、トーマスは?」
いつもなら、ミハエルと一緒にご飯の支度をしているはずだ。
「トーマス兄様は、クリス兄様と研究室に向かいました」
「そうなんだ、珍しいね」
「どんな研究をやってるか、気になったのでしょう」
本当はナーシャが泣きそうな顔で帰ってきたので、カイトに問いただすためだが。ありのまま伝えてもナーシャを刺激するだけなので、やめておいた。
「さぁ、食べましょうか」
『いただきます』
食事を始める挨拶をしたものの、ナーシャが箸に手をつける気配がない。ミハエルは中々ご飯に手をつけないナーシャを不思議そうに見た。
「……姉様?」
「あのね、ミハエル」
「どうしましたか?」
「今日、カイトとケンカしたの……」
しどろもどろになってしまったが、要約するとこうだ。
タッグデュエル大会があるからパートナーを凌牙に頼んだこと。帰り道に璃緒とタッグについて話していたらカイトに会い、どこか不機嫌だったこと。そのまま天城家に連れていかれ、なぜ凌牙と組む必要があるか問われたこと。どうして凌牙とタッグを組んではいけないか分からないこと。そしてカイトに認めてもらえず、家を飛び出してきたこと。
たどたどしい説明だったが、ミハエルは黙って聴いていた。
「つまり、姉様はカイトがどうして怒っているか分からない、ということですね」
「うん……」
「それは姉様と凌牙がタッグ組むことに、カイトが嫉妬したんです」
「え?」
ナーシャは目をぱちくりさせた。
まさか、やきもちを妬いていたとは思わなかったからだ。
「姉様は友達として凌牙を誘ったのかもしれませんが、カイトだって男です。好きな人が他の男とタッグを組むなんて、良い気分じゃないでしょう」
たしかにカイトが他の女性とタッグを組むことを想像したら、モヤモヤしてきた。それと同時に自分のしたことを思い出して、血の気が引いた。
「ど、どうしよう。私、カイトに嫌いって言っちゃった……」
「明日ちゃんと謝れば大丈夫ですよ。カイトだって、姉様が本心でカイトのこと嫌いって思ってないと思いますし」
ミハエルはふんわり微笑む。
「ご飯も冷めてしまいますし、早く食べましょう」
「……ええ」
それからナーシャはご飯を味わいつつ、謝罪の言葉をじっくり考えるのだった。
*
「いってきます」
翌朝、ナーシャはタッグパートナーを考え直した方が良いと思い、いつもより早く家を出た。
学校までの道のりは、あと半分というところか。
ふわりと風が吹いたかと思ったら、そっと後ろから抱きしめられた。振り向かなくても温もりで分かる。カイトだ。
「…………」
カイトに謝ろうと決意したものの、いざ本人を前にすると言葉が出なかった。
「ナーシャ、俺が悪かった。お前が凌牙とタッグを組むと知ったとき、ついカッとして怒鳴ってしまった。いくら校内での大会とはいえ、他の男とタッグを組むのが耐えられなかった」
「私の方こそごめんなさい。カイトの気持ちを考えずに、タッグパートナーを決めてしまって……。仲のいい友達だし、一度組んでみたかったの」
「……分かっている」
「でも私のわがままでカイトに嫌な思いをさせたくないから、パートナー決めなおすね。それとあなたのこと嫌いって言ってしまった……。あなたに嫌われてもおかしくないのは私なのに。本当はあなたのことが好きなの」
だんだん悲しくなってきて涙が出てきた。ぽろり、と滴がカイトの手に零れ落ちると、抱きしめられている力が強くなった。
「そんなことで、ナーシャのことを嫌いになったりなどしない! それに凌牙と組んでも構わない。……Ⅳに言われたんだ。もっとお前のことを信じろ、と。俺はハートランド学園の生徒じゃないから、いつも一緒にいてやれるわけじゃない。いつか他の男のもとへ行ってしまうのではないか、と不安でしょうがなかったんだ」
ナーシャは体の向きを変えて、カイトと目を合わせる。
「不安にさせてごめんなさい。私が好きなのはカイトだけよ。あなたから離れるつもりなんてないわ」
「ナーシャ……」
カイトの身に纏う雰囲気が柔らかくなった。そして、そっと涙を拭った。
「俺もお前から離れるつもりなどない。幸せにするから、これからもずっと俺の傍にいてほしい」
「うん! 私もカイトの傍にいたい。これからも、ずっと……!」
「ありがとう」
ほっとして破顔したカイトの表情はいつになく幼く、ナーシャはとても愛しいと思った。
こうして仲直りをした二人は、手を繋ぎながら学校へ向かった。
この後、凌牙が災難に見舞われるのは、また別の話。
「貴様、俺以外の男とタッグを組むつもりなのか」
カイトは目の前を塞ぐように片腕を伸ばし、手のひらで勢いよく壁を叩いた。
「カイトはハートランド学園の生徒じゃないでしょ!?」
ナーシャは思わずびくりとするものの、睨んで言い返す。
「ならば璃緒と組めば良いだろう。なぜ凌牙と組む必要がある!」
「いつもデッキの相談にのってもらったりしてるから組みたかったの! もういい、カイトなんて嫌いっ……! じゃあね」
ナーシャはカイトの胸を押して逃げ出し、勢いよく扉を開けて去っていった。
涙声だったのは気のせいだろうか。
ナーシャもカイトも冷静ではなく、何を言っても火に油を注ぐだけだ。彼女は一度も振り返ることなく、家まで全力疾走した。
*
時は遡って一時間ほど前。
「一ヶ月後に校内でタッグデュエル大会を開催するから、参加したい人はそれまでにパートナーを探して参加登録するように」
ことの発端は、帰りのHRでの担任のこの言葉。デュエリストであるナーシャは、もちろん参加して優勝したかった。
パートナーのことを考えると、仲が良く、デッキ構築を把握している人が良いだろう。そうなると、凌牙か璃緒だ。同じクラスだし、いつも何かと相談にのってくれる凌牙と組んでみたい。
彼の席に目を向けるが、空席だった。おそらく屋上でサボっているのだろう。
そこでパートナーを頼もうと、HR後に屋上へ向かった。
案の定、凌牙は屋上で寝そべっていた。ナーシャの存在に気付くと起き上がり、ゆっくり近づいてきた。
「もう帰りのHR終わったのか?」
「うん。あのね、一ヶ月後に校内でタッグデュエル大会があるんだけど、良かったらパートナーになってもらえないかなって思って」
「璃緒じゃなくて良いのか?」
「璃緒とはタッグ組んだことあるけど、凌牙とはなかったし……ダメかな?」
「…………別にかまわないぜ」
「ありがとう!」
返答までに間があったのが気になったが、気のせいだろう。
今思い返すと、凌牙はこの後に起こる出来事を予想していたのかもしれない。しかし組んでもらえることになったので、ナーシャは気にしないことにしたのだった。
帰り道に二人でデッキ構築について話していると、途中で璃緒を見かけたので、一緒に帰ることになった。
「凌牙はナーシャと組むんですの。羨ましいですわ」
「一度もタッグ組んだことないなと思って頼んでみたの」
璃緒の隣でそれとなく聴いていた凌牙は、視界の片隅に見覚えのある姿を捉えた。金色の髪に黒のコート。よく見ると、だんだんこちらに向かってきているではないか。
「それでデッキ構築はどうするの?」
「うーん、普段はランク8中心としたデッキだけど、凌牙に合わせるならランク4も増やした方が良いよね」
「お、おい……!」
凌牙が璃緒の手首を掴み、前方に注意を促す。
「凌牙? そんなに慌ててどう……、あっ」
「?」
二人が視線を前に固定しながら足を止めたので、ナーシャも足を止める。怪訝に思いながら、顔を前方に向けてみると、そこにはカイトがいた。なぜだか分からないが、明らかに怒りのオーラを醸し出している。
「今日は迎えに来てくれたんだね。ありがとう」
凌牙と璃緒は、カイトが時々ナーシャを迎えに来ることは知っている。よりによってなぜ今日なんだ、と頭を抱えた。
「……ナーシャ、凌牙とタッグを組むのか」
「ええ。学校でタッグ大会が行われるから、組まないかって誘ってみたの」
「それはお前から頼んだのか?」
「そうよ。……っ!? カイト、どうしたの?」
カイトはナーシャの手を引き、無言を貫き通した。眉間にしわを寄せながら、ナーシャの顔を見ようとしない。
ナーシャは神代兄妹に「また、明日ね!」と言ったが、二人ともどこか遠い目をして手を振っていた。
そして、ハートランド――カイトの部屋に辿り着き、冒頭に到る。
*
「ただいま……」
ナーシャは自分の家に帰り、自室へ向かう。部屋に向かう途中でトーマスにケーキ買ってきたけど食べるか? と聞かれたが、いらないと答えた。カイトとケンカした直後で食欲なんてなかった。
制服にしわができることを気にせず、ベッドに顔を埋める。今までカイトと接していて多少ケンカすることはあったが、ここまで怒りをぶつけられたのは初めてだった。なぜ自分がこんなに怒りを向けられたのか分からず、謝るのも嫌だった。
好きな友達とタッグを組んで、何が悪いというのだ。
次第に我慢していた涙が零れ、枕が濡れていった。
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
枕から顔を上げて、時計を見る。針は17時12分を指していた。
「ナーシャ、そろそろ研究の時間だ。準備をしてくれ」
クリスの声だ。
いつもなら前もって支度をするが、今日は部屋に籠っていたので迎えに来たのだろう。
「研究室、行きたくない」
天城家の研究室に行けば、確実にカイトと顔を合わせることになる。なんとしてもそれは避けたい。
「……分かった。ゆっくり休め」
理由を聞かれるかと思ったが、それは杞憂に終わった。足音がどんどん遠ざかっていく。
ナーシャは、素直にクリスの気遣いに甘えることにした。
*
お腹が空いたので私服に着替えてリビングに行くと、ミハエルが晩御飯の準備をしていた。慌てて手伝おうとすると、「もうすぐできるから、ナーシャ姉様は座ってて大丈夫だよ」と止められた。
「あれ、トーマスは?」
いつもなら、ミハエルと一緒にご飯の支度をしているはずだ。
「トーマス兄様は、クリス兄様と研究室に向かいました」
「そうなんだ、珍しいね」
「どんな研究をやってるか、気になったのでしょう」
本当はナーシャが泣きそうな顔で帰ってきたので、カイトに問いただすためだが。ありのまま伝えてもナーシャを刺激するだけなので、やめておいた。
「さぁ、食べましょうか」
『いただきます』
食事を始める挨拶をしたものの、ナーシャが箸に手をつける気配がない。ミハエルは中々ご飯に手をつけないナーシャを不思議そうに見た。
「……姉様?」
「あのね、ミハエル」
「どうしましたか?」
「今日、カイトとケンカしたの……」
しどろもどろになってしまったが、要約するとこうだ。
タッグデュエル大会があるからパートナーを凌牙に頼んだこと。帰り道に璃緒とタッグについて話していたらカイトに会い、どこか不機嫌だったこと。そのまま天城家に連れていかれ、なぜ凌牙と組む必要があるか問われたこと。どうして凌牙とタッグを組んではいけないか分からないこと。そしてカイトに認めてもらえず、家を飛び出してきたこと。
たどたどしい説明だったが、ミハエルは黙って聴いていた。
「つまり、姉様はカイトがどうして怒っているか分からない、ということですね」
「うん……」
「それは姉様と凌牙がタッグ組むことに、カイトが嫉妬したんです」
「え?」
ナーシャは目をぱちくりさせた。
まさか、やきもちを妬いていたとは思わなかったからだ。
「姉様は友達として凌牙を誘ったのかもしれませんが、カイトだって男です。好きな人が他の男とタッグを組むなんて、良い気分じゃないでしょう」
たしかにカイトが他の女性とタッグを組むことを想像したら、モヤモヤしてきた。それと同時に自分のしたことを思い出して、血の気が引いた。
「ど、どうしよう。私、カイトに嫌いって言っちゃった……」
「明日ちゃんと謝れば大丈夫ですよ。カイトだって、姉様が本心でカイトのこと嫌いって思ってないと思いますし」
ミハエルはふんわり微笑む。
「ご飯も冷めてしまいますし、早く食べましょう」
「……ええ」
それからナーシャはご飯を味わいつつ、謝罪の言葉をじっくり考えるのだった。
*
「いってきます」
翌朝、ナーシャはタッグパートナーを考え直した方が良いと思い、いつもより早く家を出た。
学校までの道のりは、あと半分というところか。
ふわりと風が吹いたかと思ったら、そっと後ろから抱きしめられた。振り向かなくても温もりで分かる。カイトだ。
「…………」
カイトに謝ろうと決意したものの、いざ本人を前にすると言葉が出なかった。
「ナーシャ、俺が悪かった。お前が凌牙とタッグを組むと知ったとき、ついカッとして怒鳴ってしまった。いくら校内での大会とはいえ、他の男とタッグを組むのが耐えられなかった」
「私の方こそごめんなさい。カイトの気持ちを考えずに、タッグパートナーを決めてしまって……。仲のいい友達だし、一度組んでみたかったの」
「……分かっている」
「でも私のわがままでカイトに嫌な思いをさせたくないから、パートナー決めなおすね。それとあなたのこと嫌いって言ってしまった……。あなたに嫌われてもおかしくないのは私なのに。本当はあなたのことが好きなの」
だんだん悲しくなってきて涙が出てきた。ぽろり、と滴がカイトの手に零れ落ちると、抱きしめられている力が強くなった。
「そんなことで、ナーシャのことを嫌いになったりなどしない! それに凌牙と組んでも構わない。……Ⅳに言われたんだ。もっとお前のことを信じろ、と。俺はハートランド学園の生徒じゃないから、いつも一緒にいてやれるわけじゃない。いつか他の男のもとへ行ってしまうのではないか、と不安でしょうがなかったんだ」
ナーシャは体の向きを変えて、カイトと目を合わせる。
「不安にさせてごめんなさい。私が好きなのはカイトだけよ。あなたから離れるつもりなんてないわ」
「ナーシャ……」
カイトの身に纏う雰囲気が柔らかくなった。そして、そっと涙を拭った。
「俺もお前から離れるつもりなどない。幸せにするから、これからもずっと俺の傍にいてほしい」
「うん! 私もカイトの傍にいたい。これからも、ずっと……!」
「ありがとう」
ほっとして破顔したカイトの表情はいつになく幼く、ナーシャはとても愛しいと思った。
こうして仲直りをした二人は、手を繋ぎながら学校へ向かった。
この後、凌牙が災難に見舞われるのは、また別の話。