青の結晶
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これはまだ私が幼少期だったの頃の話。
私は父バイロン、兄クリスについていき、天城家の研究室に訪問した。父と兄がしている研究に興味があったからついていったものの、世間話ばかりで中々研究が始まらない。
幼かった私は難しい話についていけなくて、途中で飽きてしまった。
クリスに「ちょっと家の中、お散歩してくる」と言い残し、返事を待たずに研究室から飛び出したのだった。
*
「……あれ?」
研究室を出て、いくつか部屋を探索できたのは良かったものの、家の中が予想外に広くて帰り道が分からなくなってしまった。
「そこで何をしている」
廊下をうろうろしていると、突然後ろから声をかけられた。まさか誰かに話しかけられるとは思わず、ビクりと肩が跳ねる。
振り返ると、私より少し背の高い男の子がいた。
「研究室への戻り方が分からなくて……」
「研究室なら、あっちだ。俺が連れてってやる」
素直に迷子になったことを白状すると、目の前の男の子は私の手を取り、研究室まで案内してくれることに。
ちなみに研究室までの道のりは、来た道と逆だった。
「ありがとう。あなたの名前は?」
「俺は天城カイト。お前の名は?」
「私はナーシャ・アークライト」
「! そうか。それじゃあ、ナーシャ。ついてきて」
「うん!」
こうして私はカイトと手を繋ぎながら、研究室へ向かった。
*
「ナーシャ! なかなか戻ってこないから、探しに行こうと思っていたところだよ」
無事研究室に着くと、自然とカイトと繋いでいた手が離れた。
慌てた様子でクリスが近寄ってきて、優しく抱きしめられた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと迷子になってしまって……でもね、カイトに案内してもらったの!」
安心させようと抱きしめ返すと、クリスはホッと息を吐いた。
「そうだったのか。ありがとう、カイト」
「フン……別に、当然のことをしたまでだ」
照れくさそうな声音だった。
カイトは私の斜め後ろにいるので、彼の表情が見れなかったのが残念だ。
「カイト。良かったら、ナーシャと一緒に遊んでくれないか? 父さんたちが、まだ何を研究するか話し合っててね。もう少し時間がかかりそうなんだ」
「分かった。それじゃあ、邪魔にならないように研究室から移動する」
「ああ、よろしく頼む」
「行くぞ、ナーシャ」
クリスの腕の中から抜け出すと、カイトに手を差しのべられる。
手を重ねると、心臓がトクンと高鳴った。私は緊張して声を出すことができず、うなずくことで精一杯だった。
*
カイトと並んで廊下を歩いていると、次第に心が落ち着いていき、周りの様子に意識を向けることができた。
『――――』
通り過ぎようとした部屋から声が聞こえた。おそらく精霊の声だろう。
思わず足を止めた。
「そこは俺の部屋だが、どうかしたのか?」
「あ……」
そうだ、基本的に他の人には精霊の声は聞こえないんだった。クリスやトーマスたちには聞こえないし。
いきなり立ち止まったら怪しいだろう。
しかも声が聞こえてきたのは、カイトの部屋かららしい。
視線が地をさ迷った。
どうやって、この状況を切り抜けよう。……いや、ここは素直に言うべきだ。
「あの、この部屋から声が聞こえて……それで思わず足を止めてしまったの」
私は腹を括って正直に話した。
チラリと視線を上げると、カイトが驚いて固まっていた。
その後、彼は手を顎にあてて考え込んだ。引かれただろうか。
「い、いきなり変なこと言ってごめんね」
どう思われたか不安で、声が震えた。
「……それは精霊の声というものか?」
「え!? そうだけど、もしかしてカイトも聞こえるの?」
「いや、俺には聞こえないが、以前クリスと約束した。ナーシャは精霊の声が聞こえる、と。そして、それをナーシャが口にした時は、否定しないでほしいと」
「……そうだったの」
クリスのおかげで、カイトに受け入れてもらえてホッとした。
よくよく考えると、兄と約束していたということは、カイトは以前から私のことを知っていたのだろうか。
「どうかしたか?」
「カイトは以前から、私のこと知っていたのかなって思って」
「名前だけだ。だから、いつか会えたらと思っていた。……せっかくだから、声の主を探そう」
「う、うん」
カイトが私の手を引いて、部屋へ向かおうとする。
さらりと胸がときめく言葉を言われたが、カイトの様子は先程と変わらない。
だが、部屋に入る時こっそり彼の顔を伺うと、耳が赤くて頬が緩んだ。
部屋に入ると、声がさらに明確に聞こえるようになった。
右手の棚からだろうか。
『青氷の使い手よ。私の名は、青氷の白夜龍。どうか私のマスターとなってくれないだろうか』
「私があなたのマスターに……?」
『ああ』
「ナーシャ、声の正体は分かったか?」
カイトの問いかけに、我に返った。彼に精霊の声は聞こえない。
右手の棚から声が聞こえること、声の主が青氷の白夜龍であること、そして私にマスターになってほしいことを伝えた。
するとカイトは棚にあったケースをテーブルの上に置き、中に入っているカードを漁った。
そして一枚のカードを私に差し出す。カードの名は『青氷の白夜龍』。
「このカードをナーシャに託そう」
「良いの?」
「ああ。このカードが、ナーシャを呼んでいるんだろう? 俺が持っているよりもナーシャが持っていた方が、このカードを活躍させられると思ってな」
「分かった。……ありがとう」
私はおそるおそるカードを受け取る。
カードに触れた瞬間、白夜龍が実体化した。
「あ」
嬉しさのあまり、力をコントロールするのを忘れた。
カイトを見ると、目を見開いていた。
「デュエルディスクがなくても、モンスターを実体化できるのか」
「え、ええ……」
「クリスから聞いていたが驚いたな。いつか俺のカードも、実体化してもらいたいものだ」
「カイトなら、いつでも良いよ!」
「フ、そうか」
カイトの笑顔を見ると、胸がぽかぽかした。
頬が熱くなるのを誤魔化すように、白夜龍を撫でる。ひんやりとしてて、気持ちがいい。
『良かったな。それで、私のマスターになってもらえるだろうか』
(もちろんよ。これからよろしくね。あなたのことは、サンと呼んでも良いかしら)
『こちらこそ、よろしく頼む。マスターの呼びやすいように呼んで構わない』
(じゃあ、サンと呼ぶわね)
カイトを戸惑わせないように、サンとのやりとりは念話で行った。
「そうだ、俺とデュエルしないか?」
「デュエル? もちろん受けて立つよ」
早速、白夜龍をデッキに入れる。
カイトはクリスからデュエルを教わっていると、研究室に向かうまでに聞いた。クリスは強いから、恐らくカイトも強いだろう。
負けたくないし、カイトから譲り受けた白夜龍を活躍させたい。
(それじゃあ、いくよサン!)
『はい、マスター!』
それからクリスが呼びに来るまで、私たちはデュエルするのだった。
私は父バイロン、兄クリスについていき、天城家の研究室に訪問した。父と兄がしている研究に興味があったからついていったものの、世間話ばかりで中々研究が始まらない。
幼かった私は難しい話についていけなくて、途中で飽きてしまった。
クリスに「ちょっと家の中、お散歩してくる」と言い残し、返事を待たずに研究室から飛び出したのだった。
*
「……あれ?」
研究室を出て、いくつか部屋を探索できたのは良かったものの、家の中が予想外に広くて帰り道が分からなくなってしまった。
「そこで何をしている」
廊下をうろうろしていると、突然後ろから声をかけられた。まさか誰かに話しかけられるとは思わず、ビクりと肩が跳ねる。
振り返ると、私より少し背の高い男の子がいた。
「研究室への戻り方が分からなくて……」
「研究室なら、あっちだ。俺が連れてってやる」
素直に迷子になったことを白状すると、目の前の男の子は私の手を取り、研究室まで案内してくれることに。
ちなみに研究室までの道のりは、来た道と逆だった。
「ありがとう。あなたの名前は?」
「俺は天城カイト。お前の名は?」
「私はナーシャ・アークライト」
「! そうか。それじゃあ、ナーシャ。ついてきて」
「うん!」
こうして私はカイトと手を繋ぎながら、研究室へ向かった。
*
「ナーシャ! なかなか戻ってこないから、探しに行こうと思っていたところだよ」
無事研究室に着くと、自然とカイトと繋いでいた手が離れた。
慌てた様子でクリスが近寄ってきて、優しく抱きしめられた。
「ご、ごめんなさい。ちょっと迷子になってしまって……でもね、カイトに案内してもらったの!」
安心させようと抱きしめ返すと、クリスはホッと息を吐いた。
「そうだったのか。ありがとう、カイト」
「フン……別に、当然のことをしたまでだ」
照れくさそうな声音だった。
カイトは私の斜め後ろにいるので、彼の表情が見れなかったのが残念だ。
「カイト。良かったら、ナーシャと一緒に遊んでくれないか? 父さんたちが、まだ何を研究するか話し合っててね。もう少し時間がかかりそうなんだ」
「分かった。それじゃあ、邪魔にならないように研究室から移動する」
「ああ、よろしく頼む」
「行くぞ、ナーシャ」
クリスの腕の中から抜け出すと、カイトに手を差しのべられる。
手を重ねると、心臓がトクンと高鳴った。私は緊張して声を出すことができず、うなずくことで精一杯だった。
*
カイトと並んで廊下を歩いていると、次第に心が落ち着いていき、周りの様子に意識を向けることができた。
『――――』
通り過ぎようとした部屋から声が聞こえた。おそらく精霊の声だろう。
思わず足を止めた。
「そこは俺の部屋だが、どうかしたのか?」
「あ……」
そうだ、基本的に他の人には精霊の声は聞こえないんだった。クリスやトーマスたちには聞こえないし。
いきなり立ち止まったら怪しいだろう。
しかも声が聞こえてきたのは、カイトの部屋かららしい。
視線が地をさ迷った。
どうやって、この状況を切り抜けよう。……いや、ここは素直に言うべきだ。
「あの、この部屋から声が聞こえて……それで思わず足を止めてしまったの」
私は腹を括って正直に話した。
チラリと視線を上げると、カイトが驚いて固まっていた。
その後、彼は手を顎にあてて考え込んだ。引かれただろうか。
「い、いきなり変なこと言ってごめんね」
どう思われたか不安で、声が震えた。
「……それは精霊の声というものか?」
「え!? そうだけど、もしかしてカイトも聞こえるの?」
「いや、俺には聞こえないが、以前クリスと約束した。ナーシャは精霊の声が聞こえる、と。そして、それをナーシャが口にした時は、否定しないでほしいと」
「……そうだったの」
クリスのおかげで、カイトに受け入れてもらえてホッとした。
よくよく考えると、兄と約束していたということは、カイトは以前から私のことを知っていたのだろうか。
「どうかしたか?」
「カイトは以前から、私のこと知っていたのかなって思って」
「名前だけだ。だから、いつか会えたらと思っていた。……せっかくだから、声の主を探そう」
「う、うん」
カイトが私の手を引いて、部屋へ向かおうとする。
さらりと胸がときめく言葉を言われたが、カイトの様子は先程と変わらない。
だが、部屋に入る時こっそり彼の顔を伺うと、耳が赤くて頬が緩んだ。
部屋に入ると、声がさらに明確に聞こえるようになった。
右手の棚からだろうか。
『青氷の使い手よ。私の名は、青氷の白夜龍。どうか私のマスターとなってくれないだろうか』
「私があなたのマスターに……?」
『ああ』
「ナーシャ、声の正体は分かったか?」
カイトの問いかけに、我に返った。彼に精霊の声は聞こえない。
右手の棚から声が聞こえること、声の主が青氷の白夜龍であること、そして私にマスターになってほしいことを伝えた。
するとカイトは棚にあったケースをテーブルの上に置き、中に入っているカードを漁った。
そして一枚のカードを私に差し出す。カードの名は『青氷の白夜龍』。
「このカードをナーシャに託そう」
「良いの?」
「ああ。このカードが、ナーシャを呼んでいるんだろう? 俺が持っているよりもナーシャが持っていた方が、このカードを活躍させられると思ってな」
「分かった。……ありがとう」
私はおそるおそるカードを受け取る。
カードに触れた瞬間、白夜龍が実体化した。
「あ」
嬉しさのあまり、力をコントロールするのを忘れた。
カイトを見ると、目を見開いていた。
「デュエルディスクがなくても、モンスターを実体化できるのか」
「え、ええ……」
「クリスから聞いていたが驚いたな。いつか俺のカードも、実体化してもらいたいものだ」
「カイトなら、いつでも良いよ!」
「フ、そうか」
カイトの笑顔を見ると、胸がぽかぽかした。
頬が熱くなるのを誤魔化すように、白夜龍を撫でる。ひんやりとしてて、気持ちがいい。
『良かったな。それで、私のマスターになってもらえるだろうか』
(もちろんよ。これからよろしくね。あなたのことは、サンと呼んでも良いかしら)
『こちらこそ、よろしく頼む。マスターの呼びやすいように呼んで構わない』
(じゃあ、サンと呼ぶわね)
カイトを戸惑わせないように、サンとのやりとりは念話で行った。
「そうだ、俺とデュエルしないか?」
「デュエル? もちろん受けて立つよ」
早速、白夜龍をデッキに入れる。
カイトはクリスからデュエルを教わっていると、研究室に向かうまでに聞いた。クリスは強いから、恐らくカイトも強いだろう。
負けたくないし、カイトから譲り受けた白夜龍を活躍させたい。
(それじゃあ、いくよサン!)
『はい、マスター!』
それからクリスが呼びに来るまで、私たちはデュエルするのだった。
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