青の結晶
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これは、まだ私が失った記憶を取り戻していない頃の話。
学校の授業が終わり、一人で緑道を歩いていると妙な気配を感じた。
足を止めて、右手をじっと見つめる。この先には、公園へと続く階段があるだけだ。
――何だか嫌な予感がする。
私は階段を降り、公園へと足を踏み入れた。そこには男が一人佇んでいた。
足元の砂の音が響き、男が振り返る。
「おやおや? あなたは天城シロナさんじゃありませんカァ」
白がベースのワイシャツに、紺色のズボン。
面識はないが、ハートランド学園の制服を纏っているから、おそらく同じ学校に通う生徒なはずだ。
だが様子がおかしい。まるで、凌牙がリバイス・ドラゴンを手にした時と似ているような。
それに男の手に握られているカードから、禍々しい気配を感じる。
『マスター。あのカードからナンバーズの気配がする』
私の相棒、青氷の白夜龍――私はサンと呼んでいる――が念話で私に伝える。
やはり彼はナンバーズの所持者。
ならばやることは一つだ。ナンバーズの回収。
「ねえ、そこのあなた。そのカードをどこで手に入れたの?」
「それは秘密だヨォ。でもこのカードを手にしてから、気分がとっても良いんだァ。もしかして天城さんは、この特別なカード欲しいの? と言っても渡せませんがねェ」
「ならば、デュエルに勝って回収するまでよ」
「ハハハ、僕にデュエルを? 良いでしょう、受けて立ちますヨォ」
「「デュエル!!」」
勝敗はすぐさまついた。私の勝利で。
普段はあまりデュエルをしないけれど、記憶が朧気であるが長髪の人物とカイトにデュエルを教えてもらったのだ。
教えは厳しかったが、その分実力がついた。ナンバーズが相手でも引けを取らないくらいに。
男に向けて手を翳す。私はナンバーズを回収する時、カイトように相手の魂ごと引きずり出す必要はない。
「もう一度聞くけれど。そのナンバーズ、どうやって手に入れたの?」
「天城さんがここに来る前に、髪が桃色の男に渡され、て……」
「……そう」
髪が桃色。
その言葉を聞いた瞬間、脳裏に一人の人物が浮かんだ。
溢れんばかりの笑顔を私に向けており、懐かしい感覚を抱く。
『マスター?』
サンの呼び掛けで、はっと我に返った。
「大丈夫よ、なんでもないわ」
ナンバーズカードが男の元から離れて私の手に渡ると、男は無理に力を使ったせいか、その場に崩れ落ちた。
サンの力を借りて、男をベンチに寝かせる。このまま寝かせておけば、そのうち目を覚ますだろう。
今日は暖かいし、風邪を引く心配はない。
男が言っていた桃色の髪の人物は気になるが、それよりも。
『回収したナンバーズは、どうする?』
「うっ……」
サンの言う通り、ナンバーズを回収したのは良いものの、その後の管理に頭を抱えていた。
カイトに渡すべきか、それともアストラルに渡すべきか。
ハルトの治療のためか、アストラルの記憶のピース集めのためか。
私にはどちらも大事で、天秤に掛けることはできない。
「このナンバーズ、隠してもらえないかしら?」
『分かった』
結局どちらに渡すか決められず、サンに頼んで異空間に隠してもらった。
しばらくは、カイトに見つからないだろう。
そう思っていたのだが――。
「ナーシャ。俺に隠し事をしてないか?」
天城家に帰宅早々、カイトに問い詰められた。
普段なら彼に本名で呼ばれると心が落ち着くのだが、今は後ろめたいせいか罪悪感が増した。
いつも通りに振る舞ったつもりだったが、態度に出ていたのだろうか。
「……してないわ」
カイトの目を見て言えなかった。これでは嘘を言っているようなものだが、正直にナンバーズのことを話すことはできない。
「……そうか」
若干眉間に皺が寄ったが、カイトはそれ以上言及することはなかった。
彼は用事があるからと言い、オービタルと共に外へ。おそらくナンバーズ集めだろう。
ナンバーズを集める理由を知っているため、ナンバーズハントは体に負荷がかかると分かっていても、私には止めることはできなかった。
天城シロナと名乗り、天城家で過ごしているが、時々胸が締め付けられる。
記憶を失っても、心の中で覚えているからだろうか?
決して天城家での生活に不満があるわけではない。
でも、いつか。
いつか記憶を取り戻し、家族と再会できないかと願わずにはいられなかった。
*
「シロナ、顔色が悪い。休んだ方が良いんじゃないか?」
移動教室のため、凌牙と廊下を並んで歩いていた。
昨日はナンバーズや家族のことをあれこれ悩んだせいか、あまり眠れなかった。眠気を感じ、頭痛がするのは寝不足の影響だろう。
「だい、じょう――――」
大丈夫よ、凌牙。
そう言葉にしたいのに、音にならない。
気が緩んだせいか、身体がぐらりと傾く。
「あ、れ……?」
足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになる。
頭がふわふわし、思考もままならない。
目の前が真っ暗になり意識が遠のく中、凌牙が私の名前を呼んでいる声が聞こえた気がした。
目を覚ますと、真っ白な天井が広がっていた。
私はどこかに寝かされていたらしい。少し寝たおかげか、朝より意識が冴えている。
ここはどこだろう。
記憶の糸を探ると、確か廊下で気を失ったはず。
視線を彷徨わせると、薬品や書類が収納されている棚が目に入った。
どうやらここは保健室のようだ。
なぜか近くの椅子に、カイトが両腕を組んで座っているけれど。彼は外の景色を眺めているのか、遠い目をしている。
「…………カイト?」
「! 目が覚めたか。体調はどうだ?」
声を掛けると、カイトはすぐさまベッドに近づき、私の手を握った。
「良くなったと思うわ」
そう答えると、カイトはほっと息を吐いた。
「そうか。お前が倒れたのは、昨日のことと関係しているのか?」
「うん……」
私は、重い口を開く。
下校中にナンバーズ所持者に遭遇したので、デュエルをして回収したこと。
回収したカードをカイトに渡すか、アストラルに渡すか悩んだこと。
記憶を取り戻し、家族と会いたいと思ったこと。
ぽつりぽつりと昨日の出来事を話した。
「俺のせいで悩ませてしまって、すまない。そのナンバーズは、ナーシャが回収したものだ。お前の好きなようにすればいい。無理強いはしない」
カイトに優しく抱き締められ、頬がじわりと熱くなる。
背中をポンポンと撫でられると、胸のつかえが少しずつ取れていった。
「本当にナンバーズが必要に迫られたときは話す。それに俺は、ナーシャを大切な存在だと想っている。今みたいに胸のうちを話してくれると嬉しい。色んなことをお前と分かち合いたい」
カイトの温もりに優しく包み込まれると、気持ちが安らいでいく。
血が繋がっていなくても、わかりあうことはできる。
私も楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと――様々な感情や出来事を共有したい。
カイトにとって心が安らげる存在でありたい。
本当の家族と再会するのは難しくても、心の中のモヤモヤを小さくできるかもしれない。
私はカイトの肩に頭を埋めた。
「今日はいつもより積極的だな」
頭上でくつくつと喉を鳴らして笑う、カイトの声が聞こえた。
今すぐ家族と再会できなくても、焦る必要はない。諦めなければ、きっと会えるはず。
また気分が沈み込みそうになったら、カイトに相談しよう。
「たまには甘えたいときもあるのよ」
私は腕をカイトの背に回し、抱き締め返した。
学校の授業が終わり、一人で緑道を歩いていると妙な気配を感じた。
足を止めて、右手をじっと見つめる。この先には、公園へと続く階段があるだけだ。
――何だか嫌な予感がする。
私は階段を降り、公園へと足を踏み入れた。そこには男が一人佇んでいた。
足元の砂の音が響き、男が振り返る。
「おやおや? あなたは天城シロナさんじゃありませんカァ」
白がベースのワイシャツに、紺色のズボン。
面識はないが、ハートランド学園の制服を纏っているから、おそらく同じ学校に通う生徒なはずだ。
だが様子がおかしい。まるで、凌牙がリバイス・ドラゴンを手にした時と似ているような。
それに男の手に握られているカードから、禍々しい気配を感じる。
『マスター。あのカードからナンバーズの気配がする』
私の相棒、青氷の白夜龍――私はサンと呼んでいる――が念話で私に伝える。
やはり彼はナンバーズの所持者。
ならばやることは一つだ。ナンバーズの回収。
「ねえ、そこのあなた。そのカードをどこで手に入れたの?」
「それは秘密だヨォ。でもこのカードを手にしてから、気分がとっても良いんだァ。もしかして天城さんは、この特別なカード欲しいの? と言っても渡せませんがねェ」
「ならば、デュエルに勝って回収するまでよ」
「ハハハ、僕にデュエルを? 良いでしょう、受けて立ちますヨォ」
「「デュエル!!」」
勝敗はすぐさまついた。私の勝利で。
普段はあまりデュエルをしないけれど、記憶が朧気であるが長髪の人物とカイトにデュエルを教えてもらったのだ。
教えは厳しかったが、その分実力がついた。ナンバーズが相手でも引けを取らないくらいに。
男に向けて手を翳す。私はナンバーズを回収する時、カイトように相手の魂ごと引きずり出す必要はない。
「もう一度聞くけれど。そのナンバーズ、どうやって手に入れたの?」
「天城さんがここに来る前に、髪が桃色の男に渡され、て……」
「……そう」
髪が桃色。
その言葉を聞いた瞬間、脳裏に一人の人物が浮かんだ。
溢れんばかりの笑顔を私に向けており、懐かしい感覚を抱く。
『マスター?』
サンの呼び掛けで、はっと我に返った。
「大丈夫よ、なんでもないわ」
ナンバーズカードが男の元から離れて私の手に渡ると、男は無理に力を使ったせいか、その場に崩れ落ちた。
サンの力を借りて、男をベンチに寝かせる。このまま寝かせておけば、そのうち目を覚ますだろう。
今日は暖かいし、風邪を引く心配はない。
男が言っていた桃色の髪の人物は気になるが、それよりも。
『回収したナンバーズは、どうする?』
「うっ……」
サンの言う通り、ナンバーズを回収したのは良いものの、その後の管理に頭を抱えていた。
カイトに渡すべきか、それともアストラルに渡すべきか。
ハルトの治療のためか、アストラルの記憶のピース集めのためか。
私にはどちらも大事で、天秤に掛けることはできない。
「このナンバーズ、隠してもらえないかしら?」
『分かった』
結局どちらに渡すか決められず、サンに頼んで異空間に隠してもらった。
しばらくは、カイトに見つからないだろう。
そう思っていたのだが――。
「ナーシャ。俺に隠し事をしてないか?」
天城家に帰宅早々、カイトに問い詰められた。
普段なら彼に本名で呼ばれると心が落ち着くのだが、今は後ろめたいせいか罪悪感が増した。
いつも通りに振る舞ったつもりだったが、態度に出ていたのだろうか。
「……してないわ」
カイトの目を見て言えなかった。これでは嘘を言っているようなものだが、正直にナンバーズのことを話すことはできない。
「……そうか」
若干眉間に皺が寄ったが、カイトはそれ以上言及することはなかった。
彼は用事があるからと言い、オービタルと共に外へ。おそらくナンバーズ集めだろう。
ナンバーズを集める理由を知っているため、ナンバーズハントは体に負荷がかかると分かっていても、私には止めることはできなかった。
天城シロナと名乗り、天城家で過ごしているが、時々胸が締め付けられる。
記憶を失っても、心の中で覚えているからだろうか?
決して天城家での生活に不満があるわけではない。
でも、いつか。
いつか記憶を取り戻し、家族と再会できないかと願わずにはいられなかった。
*
「シロナ、顔色が悪い。休んだ方が良いんじゃないか?」
移動教室のため、凌牙と廊下を並んで歩いていた。
昨日はナンバーズや家族のことをあれこれ悩んだせいか、あまり眠れなかった。眠気を感じ、頭痛がするのは寝不足の影響だろう。
「だい、じょう――――」
大丈夫よ、凌牙。
そう言葉にしたいのに、音にならない。
気が緩んだせいか、身体がぐらりと傾く。
「あ、れ……?」
足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになる。
頭がふわふわし、思考もままならない。
目の前が真っ暗になり意識が遠のく中、凌牙が私の名前を呼んでいる声が聞こえた気がした。
目を覚ますと、真っ白な天井が広がっていた。
私はどこかに寝かされていたらしい。少し寝たおかげか、朝より意識が冴えている。
ここはどこだろう。
記憶の糸を探ると、確か廊下で気を失ったはず。
視線を彷徨わせると、薬品や書類が収納されている棚が目に入った。
どうやらここは保健室のようだ。
なぜか近くの椅子に、カイトが両腕を組んで座っているけれど。彼は外の景色を眺めているのか、遠い目をしている。
「…………カイト?」
「! 目が覚めたか。体調はどうだ?」
声を掛けると、カイトはすぐさまベッドに近づき、私の手を握った。
「良くなったと思うわ」
そう答えると、カイトはほっと息を吐いた。
「そうか。お前が倒れたのは、昨日のことと関係しているのか?」
「うん……」
私は、重い口を開く。
下校中にナンバーズ所持者に遭遇したので、デュエルをして回収したこと。
回収したカードをカイトに渡すか、アストラルに渡すか悩んだこと。
記憶を取り戻し、家族と会いたいと思ったこと。
ぽつりぽつりと昨日の出来事を話した。
「俺のせいで悩ませてしまって、すまない。そのナンバーズは、ナーシャが回収したものだ。お前の好きなようにすればいい。無理強いはしない」
カイトに優しく抱き締められ、頬がじわりと熱くなる。
背中をポンポンと撫でられると、胸のつかえが少しずつ取れていった。
「本当にナンバーズが必要に迫られたときは話す。それに俺は、ナーシャを大切な存在だと想っている。今みたいに胸のうちを話してくれると嬉しい。色んなことをお前と分かち合いたい」
カイトの温もりに優しく包み込まれると、気持ちが安らいでいく。
血が繋がっていなくても、わかりあうことはできる。
私も楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと――様々な感情や出来事を共有したい。
カイトにとって心が安らげる存在でありたい。
本当の家族と再会するのは難しくても、心の中のモヤモヤを小さくできるかもしれない。
私はカイトの肩に頭を埋めた。
「今日はいつもより積極的だな」
頭上でくつくつと喉を鳴らして笑う、カイトの声が聞こえた。
今すぐ家族と再会できなくても、焦る必要はない。諦めなければ、きっと会えるはず。
また気分が沈み込みそうになったら、カイトに相談しよう。
「たまには甘えたいときもあるのよ」
私は腕をカイトの背に回し、抱き締め返した。