青の結晶
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「嘘、雨……?」
授業が終わり、下駄箱前で上履きからローファーに履き替え、昇降口を出ようとすると雨が降っていた。
朝は雲一つない青空だったので、傘は持ってきていない。
幸い土砂降りではないが、傘を差さないで帰るには無視できない雨の強さだ。
誰かに頼んで、傘に入れてもらうべきかしら?
雨の日はカイトが迎えに来てくれるが、研究の忙しい時期に彼の負担になりたくない。
普段、一緒に帰ることが多い人を思い浮かべる。
ミハエルはきっと、遊馬や小鳥たちと下校しているだろう。
凌牙や璃緒は元バリアン七皇の集まりがあるらしく、今日は一緒に帰れないと言っていた。ミザエルも集まりに参加するだろうから、一緒に帰れなさそうだ。
ところで、元バリアン七皇の集まりって何をするの……?
凌牙とベクターが同じ空間で、平和に話し合いをしているところが想像できない。
今度ミザエルに聞いてみよう。彼ならきっと教えてくれるはずだ。
閑話休題。
やはり学友と帰るのは難しいのでカイトを呼ぼうと思い、鞄から携帯を取り出そうとした。
何気なく前方を見ると人影が。
長傘を差し、片手に何かを持っている。顔は傘に隠れて見えない。
人影が徐々にこちらに近づいてくる。
黒いコート。片手にグローブ。少しずつシルエットが明らかになっていく。
私はその場から動けず、愛しい人をじっと見つめていた。
彼は昇降口の屋根下で足を止めて、傘を閉じる。
「カイト」
目が合うと、カイトは目を弓なりに細めた。
「お前のことだから、傘を持ってきていないだろうと思って早めに迎えに来た」
「ありがとう」
カイトが学校まで迎えに来てくれるのは研究の忙しさによるけれど、雨の日は連絡しなくても来てくれるのが嬉しい。
今日みたいに傘を持っていないと、授業が終わってからそう時間が経たないうちに来てくれるので、胸がじんわりと温かくなる。
「ところで、ミザエルの下駄箱はどこか知っているか? あいつも傘を持っていなくてな」
カイトが右手を持ち上げ、苦笑しながら言った。
手に持っていたのは、折り畳み傘だった。
きっとミザエルから連絡があったわけではないが、彼が傘を持っていないことに気づき、届けに来たのだろう。
ミザエルのクラス、出席番号は本人から聞いて知っていたので案内し、下駄箱の扉を開ける。
「ここよ」
「助かる」
カイトは下駄箱に折り畳み傘を入れ、携帯でミザエルに連絡を入れた。
「さあ、帰ろう」
携帯を仕舞い、カイトは手を差し出す。私は彼の手に自身の手を重ね、そっと握った。
しとり、しとり。
雨は相変わらず降っている。
カイトが差す傘に入れてもらい、手を繋ぎながら歩く。
雨の日には、あまり良い思い出がない。
トロンの復讐に協力するため、クリスが去った日。
父と再会し、バイロンがトロンとなってしまった原因を知った日。
トロンの紋章の力により記憶が書き換えられ、カイトのことを忘れてしまった日。
悲しい出来事が起こるのは、雨の日が多かった。
でも今は――――。
私は手を強く握った。
「ナーシャ……? どうした」
カイトが足を止め、不思議そうに私を見る。私も足を止めた。
「雨の日に良い思い出がなくて、以前は苦手だったの。……でも今は、こうしてカイトと一緒に帰ることができるから、雨の日も少しずつだけど、良いなと思って」
カイトは一瞬目を見開き、手を握り返した。
「雨の日は、どこか憂いを帯びた目をするから、研究が忙しかろうと必ず迎えに行くと決めていた。だから少しでも、ナーシャの悲しみを取り除くことができれば嬉しい。だから遠慮せずに俺を呼べ。そうすれば、いつでも駆けつける」
「カイト……」
いつの日からか、雨の日は必ず迎えに来てくれるようになった。
私が雨の日に過去のことを思い出し、一人になりたくなかったことは、きっとお見通しだったのだろう。
けれども、素直にカイトを呼べなかったことも。
涙腺が刺激され、涙が零れそうになる。
「一人で抱え込むのはナーシャの悪い癖だ。もっと頼ってくれて良い」
「うん……」
これからは、悩み事があったら相談しよう。また誰かが離れていってしまうからと怯えずに。
晴れやかな気持ちになり、自然と笑みがこぼれると、カイトも満足そうに笑った。
「さて。今日はRUMの研究する日だし、このまま家に来るか? クリスに連絡を入れれば、問題ないだろう」
「ええ、そうする」
再び歩き始め、カイトの家に着くと、紅茶を入れてもらえた。
外で冷えた体が温まり、心もぽかぽかする。
研究を始めるまで時間があるので、カイトとクッキーを作ることになった。
クッキーを作るのは初めてなので、作り方を覚えてアークライト家でも作ったら、兄弟や父様に喜んでもらえるかしら?
私は初めてのクッキー作りに苦戦しつつも、カイトと一緒に過ごせる幸せを噛み締める。
雨の日に大切な思い出が、また一つ増えた。
授業が終わり、下駄箱前で上履きからローファーに履き替え、昇降口を出ようとすると雨が降っていた。
朝は雲一つない青空だったので、傘は持ってきていない。
幸い土砂降りではないが、傘を差さないで帰るには無視できない雨の強さだ。
誰かに頼んで、傘に入れてもらうべきかしら?
雨の日はカイトが迎えに来てくれるが、研究の忙しい時期に彼の負担になりたくない。
普段、一緒に帰ることが多い人を思い浮かべる。
ミハエルはきっと、遊馬や小鳥たちと下校しているだろう。
凌牙や璃緒は元バリアン七皇の集まりがあるらしく、今日は一緒に帰れないと言っていた。ミザエルも集まりに参加するだろうから、一緒に帰れなさそうだ。
ところで、元バリアン七皇の集まりって何をするの……?
凌牙とベクターが同じ空間で、平和に話し合いをしているところが想像できない。
今度ミザエルに聞いてみよう。彼ならきっと教えてくれるはずだ。
閑話休題。
やはり学友と帰るのは難しいのでカイトを呼ぼうと思い、鞄から携帯を取り出そうとした。
何気なく前方を見ると人影が。
長傘を差し、片手に何かを持っている。顔は傘に隠れて見えない。
人影が徐々にこちらに近づいてくる。
黒いコート。片手にグローブ。少しずつシルエットが明らかになっていく。
私はその場から動けず、愛しい人をじっと見つめていた。
彼は昇降口の屋根下で足を止めて、傘を閉じる。
「カイト」
目が合うと、カイトは目を弓なりに細めた。
「お前のことだから、傘を持ってきていないだろうと思って早めに迎えに来た」
「ありがとう」
カイトが学校まで迎えに来てくれるのは研究の忙しさによるけれど、雨の日は連絡しなくても来てくれるのが嬉しい。
今日みたいに傘を持っていないと、授業が終わってからそう時間が経たないうちに来てくれるので、胸がじんわりと温かくなる。
「ところで、ミザエルの下駄箱はどこか知っているか? あいつも傘を持っていなくてな」
カイトが右手を持ち上げ、苦笑しながら言った。
手に持っていたのは、折り畳み傘だった。
きっとミザエルから連絡があったわけではないが、彼が傘を持っていないことに気づき、届けに来たのだろう。
ミザエルのクラス、出席番号は本人から聞いて知っていたので案内し、下駄箱の扉を開ける。
「ここよ」
「助かる」
カイトは下駄箱に折り畳み傘を入れ、携帯でミザエルに連絡を入れた。
「さあ、帰ろう」
携帯を仕舞い、カイトは手を差し出す。私は彼の手に自身の手を重ね、そっと握った。
しとり、しとり。
雨は相変わらず降っている。
カイトが差す傘に入れてもらい、手を繋ぎながら歩く。
雨の日には、あまり良い思い出がない。
トロンの復讐に協力するため、クリスが去った日。
父と再会し、バイロンがトロンとなってしまった原因を知った日。
トロンの紋章の力により記憶が書き換えられ、カイトのことを忘れてしまった日。
悲しい出来事が起こるのは、雨の日が多かった。
でも今は――――。
私は手を強く握った。
「ナーシャ……? どうした」
カイトが足を止め、不思議そうに私を見る。私も足を止めた。
「雨の日に良い思い出がなくて、以前は苦手だったの。……でも今は、こうしてカイトと一緒に帰ることができるから、雨の日も少しずつだけど、良いなと思って」
カイトは一瞬目を見開き、手を握り返した。
「雨の日は、どこか憂いを帯びた目をするから、研究が忙しかろうと必ず迎えに行くと決めていた。だから少しでも、ナーシャの悲しみを取り除くことができれば嬉しい。だから遠慮せずに俺を呼べ。そうすれば、いつでも駆けつける」
「カイト……」
いつの日からか、雨の日は必ず迎えに来てくれるようになった。
私が雨の日に過去のことを思い出し、一人になりたくなかったことは、きっとお見通しだったのだろう。
けれども、素直にカイトを呼べなかったことも。
涙腺が刺激され、涙が零れそうになる。
「一人で抱え込むのはナーシャの悪い癖だ。もっと頼ってくれて良い」
「うん……」
これからは、悩み事があったら相談しよう。また誰かが離れていってしまうからと怯えずに。
晴れやかな気持ちになり、自然と笑みがこぼれると、カイトも満足そうに笑った。
「さて。今日はRUMの研究する日だし、このまま家に来るか? クリスに連絡を入れれば、問題ないだろう」
「ええ、そうする」
再び歩き始め、カイトの家に着くと、紅茶を入れてもらえた。
外で冷えた体が温まり、心もぽかぽかする。
研究を始めるまで時間があるので、カイトとクッキーを作ることになった。
クッキーを作るのは初めてなので、作り方を覚えてアークライト家でも作ったら、兄弟や父様に喜んでもらえるかしら?
私は初めてのクッキー作りに苦戦しつつも、カイトと一緒に過ごせる幸せを噛み締める。
雨の日に大切な思い出が、また一つ増えた。