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創作 短編集

「槐は貴方様の贄でございます。どうぞ、この身はお好きになさって下さい」
「うぅん…………わっし、1度も贄なんて求めたことないんやけどなぁ……。むしろ直接人に手を出すことになるから白い目で見られるわ、てなわけで嬢ちゃん。好きに生きてくとええ」
「……貴方様、お名前は?」
「そうそう軽々しく名を教える訳にゃあいかんのや。大人しく帰り」
「ダンタリオン」
「っ……!?」
「師達がそう申しておりますのを耳にしたことがあります。それは、貴方様の名でございますか」
「……さぁのぅ、どうやろか」
「貴方様の先程の反応を見る限り、ダンタリオンは貴方様の名で間違いないようでございますね。そして、悪魔は真名で縛られるとも存じております」
「はぁ……降参や、やるやないか嬢ちゃん」
「悪魔である貴方様に褒められるなんて光栄でございます」
「して、わっしを真名で縛り……嬢ちゃんはどうする?」
「師達は、真名と……槐と言う贄を用意して貴方様をここにお呼び立てしました。しかし、贄はいらないと貴方様はおっしゃる」
「どんな悪魔であろうと贄なんぞ要求せんよ」
「ええ、でしょうね。悪魔とは対価を、代償を求めるもの。師達はそれの解釈を誤ったのでしょう」
「ほぅ、やたら頭が回るやないか。嬢ちゃん、それで?」
「貴方様の真に求めるものは何でございますか」
「ふーむ……本来なら自分で突き止めぇや、というところやけども。わっしの真名を握る嬢ちゃんにはサービスや、教えたる」
「ありがとうございます」
「わっしが望むのは、存在や。姿、経験、声に口調、性格……そいつが生きてきた証全て」
「では師達全てを貴方様に捧げましょう」
「仮にも師と呼ぶ奴らなんやろ?ええんか?」
「こんなあちこち間違えてるような方陣をかき、真名の看破も完全ではないような方々ですし。ダンタリオンだけでは不十分でございましょう?むしろこんな出来損ないの方法で貴方がいらっしゃった事に驚きでございます」
「……ほんま頭の回る嬢ちゃんやな。ええやないか、願いは」
「槐の願いは……貴方様の花嫁になることでございます」
「……はい?」
「ですから、貴方様の花嫁に……」
「ちゃんと聞こえとるわ!とち狂った内容過ぎて驚いただけや……」
「では槐を貴方様の花嫁に」
「願いはわかった。叶えられるか否かで言えば、もちろん叶えられる。だがな嬢ちゃん」
「なんでございましょう?」
「わっしは人間のような学の浅いもんを嫁にとる気はない。お前さん見たいに多少頭が回ろうて、自身の名を隠す気もないようなアホは尚更や」
「真名で縛られるのは悪魔だけでは?」
「そういう所がアホや。どんな存在であろうと名はそのものを縛る。人だって例外やない」
「そうなのでございますか……」
「だから例えばこう、わっしが『槐よ、その足をわっしに差し出せ』とでも命じれば……」
「えん……私の足ならばいくらでも差し上げますわ」
「ちょい待ぃや嬢ちゃん!?お前さん自分が今何をしようとしてんのかわかっとんのか」
「ええ、もちろんですわ。貴方様が私の足を欲するのであれば。足だけとは言わず、目だろうと腕だろうと、心の臓や魂をよこせと言われても私は喜んで差し出しますわ」
「……そういう、イカれた奴は今までも見てはきた。だが大抵が狂信者なりだったわ」
「私は別に狂信者などではございませんが?ただ貴方様に惚れ込んでしまっただけで」
「年端もいかぬガキだと言うのにイカれとんのぅ……」
「ところで、私を貴方様の花嫁にして頂くことはどうなったのでございますか」
「ちゃっかりわっしが言ってから一人称なおしとるし……せやな、お前さんが人であるうちは何を言われようとノーや」
「では今すぐ人をやめ……て、しまいたいところなのですが」
「(やはり子供。人の身を捨てるのは恐ろしいか)」
「方法がわかりませんわ?」
「そこかいな!」
「貴方様の為であれば命ですら惜しくないというのに、今更私が人の身を捨てるのを恐れるとでも?」
「そうやったな……嬢ちゃんはそういうやっちゃ……あって間もないというのによう分かるわ」
「そういう事なので、人の身を捨てる方法を教えて欲しいですわ」
「あー……わっしはまだお前さんのことを嫁に取るとは」
「ではどうしたらよいのでございますか?」
「……わかった。お前さんが自力で人の身を捨て、わっしをもう一度呼び出せたら考えちゃろう」
「……!!わかりましたわ!」
「おう、ほなさいなら」
「しばしのお別れですわね。また会いましょう?ダンタリオン」

「全く……けったいな嬢ちゃんやったわ……」
「そーんな変な子だったの?イベリス」
「今はキャンディタフトや、ブエル」
「キャンディって柄じゃないじゃん、あんた」
「そう言うな、っと。どっかからまた呼ばれとんなぁ。阿呆じゃないとええが」
「名の知れた知識の悪魔さんは需要がたかくて大変ねー」
「真名をひけらかしてるお前さんに言われたくはないがな」

「さぁて、わっしを呼び出したのは誰かいな」
「私ですわ、ダンタリオン」
「お前さん、は……」
「貴方様の花嫁にして頂く約束、果たして貰います」
「なっ……まだ人の世でも数年しかたっとらんやろ!?」
「そうでございますね?およそ1年と三ヶ月でございましょうか」
「(それで人の身を捨てる方法も、わっしの正しい呼び方も学んだっちゅうんか……末恐ろしいのぅ)」
「約束通り、私を花嫁にして頂きますわ」
「……とりあえず確認や。まずは人の身を捨てるという点」
「貴方様ともあろう方が、まだお気づきになっていないのでございますか?」
「う、ん…………って、は!?お前さんまさか」
「ええ、そのまさかでございますわ。今は貴方様と同じ悪魔ですもの」
「なるほどな……そしてわっしを正しく呼び出す点もクリア……か」
「今度こそは私を貴方様の花嫁にして頂けますか?」
「……なんやこうも思われるのは初めてで気恥しいのぅ。わっしは嘘をつかん、約束は果たそうやないか」
「……うふふふふ!光栄でございますわ」
「ただし、や」
「なんでございましょう?」
「その堅苦しい喋りはやめーや」
「……あら、そういうことなら。これでいいかしら、ダンタリオン」
「切り替え早いなぁお前さん……あとそうやって気軽にわっしの名を呼ぶのもやめんかい」
「む……まぁ私以外にそうそう貴方の名を知られるのはいささか気分が悪いわ、それは仕方ないことね。なんて呼べばいいかしら?」
「今まであったのだと……イベリスやキャンディタフト、フローライト……月桃なんてのもあったかいな」
「ふぅん……?3月14日にまつわるものばかりなのね」
「……やっぱりと言うかなんというか、お前さん博識やな」
「そりゃあ、あなたがアホは嫌いと言ったから?学んだまでよ」
「ほんまお前さんって奴は……」
「話がそれてるわ、ダンタリオン。……そうねぇ?なら二人きりの時以外は……ラムダでどうかしら?」
「……お前さん分かって言ってるやろ」
「あら、バレた?師達は看破出来ていなかったけれど、ラムダはあなたの真名だものね」
「そこまでわかってんやったら別のにしてくれんかいな」
「もちろんよ。んー……そうね。ヒゴイ……かしら」
「ヒゴイとな?こりゃまたなんで」
「3月14日に関わりのある、かつあなたのその緋色の髪と名前がぴったりかと思って。それに和名の方が私は馴染みあるもの。そこらじゅうを転々としてる根無し草のあなたにはぴったりの意味だしね?」
「散々な言いようやなぁ……。そういうことならま、好きに呼びーや。んで、お前さんは?」
「槐でもいいのよ?」
「はいはい、二人きりの時はな」
「うふふ!実は今はアカシア・ティートリーを名乗っているの。だから外ではそう呼んでくれればいいわ」
「そうけぇ、ならティートリー。これからよろしゅうな」
「ええ!いつまでも一緒よ!愛しのダンタリオン!」
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