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創作 短編集

「もう、もう……貴方みたいな不気味な子は散々です!出ていきなさい!!」
当たり前と言えば当たり前だった。蝶よ花よと丁寧に、名家のお嬢様らしく品位ある行動をするように、育てたはずの娘が山を駆け回ってはカエルや蛇を持ち帰っては解剖するのだから。それだけでは飽き足らず、動物の死体を拾ってきては何やら怪しい儀式紛いのことまでしている。存在自体が家の恥、気が触れたということにしようとしてもお転婆極まりない自分が大人しく家の中に閉じ込められる訳も無いことも周知の事実。ならば急な病で死んだことにして家を追い出すのが最も賢いと言えるだろう。その場で殺されなかっただけで儲けものだ。
「はぁい、わかりましたわ?お母様。それでは未来永劫サヨウナラ!あーア。ようやくこんナ堅苦しイのからおサラバできるナ。生んでくれタことニハ感謝してるゼ?グッバイマイマム☆」
どうやらおふざけが過ぎたようで、母親『だった』人が最早聞き取れないような口調で何かまくし立てていた。あまり長居をしてふっと彼女の気が変わり殺されては溜まったものではない。ここは早々に荷物を持って出ていくべきであろう。慣れた手つきで枝から枝へと飛び移り自室へと戻る。いつかこうなるだろうとは思っていたため、荷物は一纏めにしてあった。
「Hey!ハイド!起きてルカ!」
動きにくい服を着替えて荷物を背負い、仕上げに引っ掛けられていた帽子を被ってそう問いかける。
「やかましいですね、ジキル。起きていますよ」
見るからに喋りだしそうな見た目をした怪しげな魔女帽子は期待を裏切らず当たり前のようにそう返事をした。しかし驚くようなことはない、なんと言ってもこの帽子を作ったのは自分自身なのだから。
「もう目をごまカす幻術はいらネェ!」
声が弾むのが自分でも分かるが仕方がない。お淑やかな女の子であれ受けた教育のどれもがめんどくさく煩わしいものだった。そんな生活からようやく解放されるのだ、多少浮かれてしまうのは当然だろう。
「とうとう勘当されましたか。で?どうするんです」
何を分かりきったことをと思ったが、今の自分はとても気分がいい。

「ンなもん……出ていくノサ!どっカ遠く、面白ロおかしイ所ニ!」

ハイドという名の魔女帽子が、呆れたようにため息をついたのはきっと聞き間違いではないだろう。
「それはもちろん私も一緒ですよね?」
「当たり前だロ」
そんな質問を一言で一蹴するとひどく面白そうにハイドが笑う。その笑い方はひど自分にそっくりで。
「ジキルならそう言ってくれると思いました。で?魔術でどこがに飛ぶにしても代償は何にする気です」
死体やらをかき集めてくるような時間はもうない。かと言って手足をぶった切るのはハイドが許さないだろうし、そもそも今後がめんどくさい。
「あっ、髪ならどウダ?」
ん……と頭の上から思案する声が漏れ聞こえる。
「まぁ、国外は余裕ですね……って貴方まさか」
疑いたくなるほどトントン拍子に進みそうだが、どうやら事実らしい。髪を伸ばしていた事がまさかこんな時に役に立つとは思わなかった。好都合だと言わんばかりに手近なハサミで躊躇いなく腰まで伸びた髪を断ち切る。40センチ弱はある髪束がふわりと辺りに散らばるのを満足げに見ていたら、上からつんざくような大声が響いた。
「あ゛ぁああああ!!バカジキル!せっかく似合ってたし綺麗な髪だったのにもったいない……」
そうは言われても、自分はそもそも髪を伸ばすのには反対だったのだから仕方がない。
「ハー……スッキリしたナ!長いノハ邪魔くさクテしかたなかったンだヨ!」
心做しかがっかりしてるようなハイドをよそに飄々と返した。何はともあれ、これで準備は整った。
「さァ。さっさと行こうゼ!」
「はぁあ……全く、貴方って人は……。行きますよ!」
そんなハイドの声を合図に周りが暗転していく。闇に消える中、別段思い入れはないと言ってはそれまでだが仮にも生まれ育った家だから、そう考えて一言だけ言い残すことにした。

「この家の品位をこれ以上下げても申し訳ないですし、グロブナーの名は置いていきますわ。じゃあナ!これから、オレさマは架空のジキルを追い求める者……ジキル・シーカーだ!!!」

そんな口上を聞いていた人は誰もいない。静まり返った屋敷の中を笑い声がこだまして、二人はその場をあとにした。
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