創作 短編集
私には好きな人がいます。彼も私を好いてくれています。けれど彼には奥さんがいて、私は彼の奥さんの侍女の1人です。そんな恋、許されるはずがありません。だから私は彼には奥さん事が大好きでありながら、彼を拒絶し続けました。
「アイリス、君の事が好きだ」
何度もそう言われました。
「……私には、好きな人がいるので」
好きな人は目の前にいて、好きな人から想われているのに、私はそう断り続けたのです。
お願いです。わかって下さい。私はあなたが大切なんです。奥さんがいるにも関わらず、私の様な侍女の1人と付き合ってしまうのは許されません。
「アイリス」
お願いです、私の名前を呼ばないで下さい。あなたに想いは告げないという、私の決心が揺らぎます。
もう、限界でした。このままでは、私はきっと彼の想いに答えてしまう。
「奥さま……どこか、遠くのお仕えに……変わっても、良いでしょうか」
彼女は、私の想いを知っていました。そして、断り続ける私をいつも気遣ってくれていました。だから簡単に新しいお仕え先を紹介して頂けました。
「アイリス!ここから……出ていくって、本当かい?行かないでくれ……」
最後の最後で、ほんの少し……私の決心が揺らいでしまいました
「……虹が……虹が、見えた時は……会いに、来ます」
そう言い残して、私は彼の元を離れました。
新しいお仕え先では、虹なんてほとんど見えないのを知っていながら。私は虹が見えることに賭けたのです。彼にもう一度会いたい一心で
新しいお仕え先になり、どれだけたったでしょうか。
ーーーー虹が、見えたのです。見えてしまったのです
建物に囲まれ、ほとんど空なんて見えないから。虹を見ることは到底不可能だと、だからこそ賭けたのに。
大雨によって建物の一部が崩れ、高く澄み渡った空には大きな虹がかかっていました。
私は我慢出来ず、虹を追うかのように彼の元へと走りました。
けれど、彼がいたはずのそこには何もありませんでした。あるのは大きな水鏡。
……彼の、いる所は窪地でした。大雨によって沈んでしまったのでしょう。
ゆっくりと水鏡に近寄りました。泥は底へ沈み、透き通ったそこには、彼がいた建物が見えました。
そこに行きたい一心で、私は鏡の中に身を落としました。沈みゆく中、私は神様を恨みました。
(なぜ……あの人を殺したのですか。私が決意を揺らがせたからですか)
(恨みます、神様……許しなんてしません。例え私への罰だとしても、この怒りが理不尽なものだとしても)
一向に、水底へつく気配がありませんでした。気づけば苦しかったはずの息も、普通にできるようになっていました。
神様を恨む気持ちが聞き届けられたからでしょうか。私は悪魔へとなっていました。
(あの人を取り戻すことなんて、出来ないのに)
悪魔となってから、私はずっとそう心を閉ざしていました。
「好きです」
どこからか聞こえる声、反射的に声のする方へ振り向くと一枚の鏡がありました。鏡には誰かもわからない2人の、報われない恋模様が映しだされていました。そんな2人に昔の私を見ました。思わず鏡に手を添えると、私が沈んだときの、あの水鏡のように鏡面が揺らぎました。
(みて、いられないな……)
口元には薄く笑みが浮かびました。
(悪魔のすることではない……けれど)
「少しでも、私みたいな人が居なくなるように」
そして、私は鏡の向こうへ踏み出しました。
「我はファントム!鏡に住まう悪魔なり!」
「アイリス、君の事が好きだ」
何度もそう言われました。
「……私には、好きな人がいるので」
好きな人は目の前にいて、好きな人から想われているのに、私はそう断り続けたのです。
お願いです。わかって下さい。私はあなたが大切なんです。奥さんがいるにも関わらず、私の様な侍女の1人と付き合ってしまうのは許されません。
「アイリス」
お願いです、私の名前を呼ばないで下さい。あなたに想いは告げないという、私の決心が揺らぎます。
もう、限界でした。このままでは、私はきっと彼の想いに答えてしまう。
「奥さま……どこか、遠くのお仕えに……変わっても、良いでしょうか」
彼女は、私の想いを知っていました。そして、断り続ける私をいつも気遣ってくれていました。だから簡単に新しいお仕え先を紹介して頂けました。
「アイリス!ここから……出ていくって、本当かい?行かないでくれ……」
最後の最後で、ほんの少し……私の決心が揺らいでしまいました
「……虹が……虹が、見えた時は……会いに、来ます」
そう言い残して、私は彼の元を離れました。
新しいお仕え先では、虹なんてほとんど見えないのを知っていながら。私は虹が見えることに賭けたのです。彼にもう一度会いたい一心で
新しいお仕え先になり、どれだけたったでしょうか。
ーーーー虹が、見えたのです。見えてしまったのです
建物に囲まれ、ほとんど空なんて見えないから。虹を見ることは到底不可能だと、だからこそ賭けたのに。
大雨によって建物の一部が崩れ、高く澄み渡った空には大きな虹がかかっていました。
私は我慢出来ず、虹を追うかのように彼の元へと走りました。
けれど、彼がいたはずのそこには何もありませんでした。あるのは大きな水鏡。
……彼の、いる所は窪地でした。大雨によって沈んでしまったのでしょう。
ゆっくりと水鏡に近寄りました。泥は底へ沈み、透き通ったそこには、彼がいた建物が見えました。
そこに行きたい一心で、私は鏡の中に身を落としました。沈みゆく中、私は神様を恨みました。
(なぜ……あの人を殺したのですか。私が決意を揺らがせたからですか)
(恨みます、神様……許しなんてしません。例え私への罰だとしても、この怒りが理不尽なものだとしても)
一向に、水底へつく気配がありませんでした。気づけば苦しかったはずの息も、普通にできるようになっていました。
神様を恨む気持ちが聞き届けられたからでしょうか。私は悪魔へとなっていました。
(あの人を取り戻すことなんて、出来ないのに)
悪魔となってから、私はずっとそう心を閉ざしていました。
「好きです」
どこからか聞こえる声、反射的に声のする方へ振り向くと一枚の鏡がありました。鏡には誰かもわからない2人の、報われない恋模様が映しだされていました。そんな2人に昔の私を見ました。思わず鏡に手を添えると、私が沈んだときの、あの水鏡のように鏡面が揺らぎました。
(みて、いられないな……)
口元には薄く笑みが浮かびました。
(悪魔のすることではない……けれど)
「少しでも、私みたいな人が居なくなるように」
そして、私は鏡の向こうへ踏み出しました。
「我はファントム!鏡に住まう悪魔なり!」