このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

創作 短編集

「ねーちゃーーん!お腹すいたぁ」
部屋から弟の声が聞こえた
「あー、ちょっと待ってろ。今作るから」
余っていた野菜の皮などで手早く味噌汁やきんぴらを作る。育ち盛りの弟には少々足りないように思える白米。自分の分はいつもの如く用意しない、代わりにポケットに入っていた飴を口に放り込む。
(今月……食費やら家賃やら足りっかな……)
貯金の残りはわずかだったはずた。食費どころか家賃も怪しいだろう

体裁を気にするあの母は弟と自分を学校にだけは通わせてくれていた。けれど邪魔だと家は追い出された。一応住む場所は用意して貰えたが当然、食費や家賃はくれるはずもなかった。弟はまだバイトができる年ではない。必然的に私は家計を支えるため働くことになった。
父が生きていた頃はまだ良かった。父が自分達を母から守ってくれていた。けれどそんな父が他界したらあっという間に家には居られなくなった。

(バイト……じゃやっぱたんねぇよな。またいつものあれしかない、か)
携帯を取り出し、ある所へ連絡を入れようとしてふと気づく。
(やっべ、学校の時間だ)
連絡は後にし、準備を済ませる。
「弁当もったかー!」
「大丈夫!もったよー!」
弟には欠かさず弁当を用意した。ちゃんと持ったことを確認すると2人は学校へ向かった


教室の扉を開けて入ると静まり返る教室、いつものように向けられる視線。こそこそと交わされるささやき声。もはや日課となったそれに構うことなく自分の席へと向かう
『クソビッチ』『淫売』『エンコーしてるド変態』『死ね』『消えろ』
(……油性、か。もういいや、ほっとこ)
机に書かれた落書きをちらりと見るが、無視して座る。引き出しに教科書を入れようとして違和感に気づく。
(はぁ……この感じは……カエルの死体……かな。後で捨てなきゃ)
手でそっと避けてそのまま教科書をいれる。

日常、そう。日常だ

「弟切さぁん、ちょっといい?」
帰ろうとした自分を呼び止める声。振り向くと何人かの男女。抵抗する方が時間がかかることは既に知っていた。小さく頷き彼らへついて行く
「あんたさぁ……援交してんでしょ?知ってんだよ」
……事実だった。この事は彼らからこうやって呼び出されたときの決まり文句だ。
(今日はなんだろな、いつもの如く殴る蹴るあたりか)
「この淫乱、キモイんだよ!」
髪を掴まれ、そのまま壁に打ち付けられる。
(血は……出てないし大丈夫か)
その後は良くあるパターンだった。殴られ、蹴られ。髪をハサミで乱暴に切られもした。
「……今日はこんくらいでいいや。明日もまた遊んでね、あざみちゃん?」
そう言って彼らは去った。

(連絡、入れなきゃ)
出来たばかりの傷を見下ろし確認しながら携帯を取りだし、連絡先を開く。
(今月やばいし……報酬大きいとこ…明日休みだよな。負担大きいけどここでいっか)
ある1件を選び、メール送信画面へうつる。文面は今までと大差ない。
『おじさま、今月結構大変なんです。明日休みだからキツイのも大丈夫なんで報酬はずんでくれませんか?今夜いつもの場所でお待ちしてます』
ざっと確認して送信する。
返信は早かった。
『もちろん構わないよ。では今夜10時に』

指定された時間にいつものホテル前へついた。弟はもう寝ているから外出も気づかれないだろう。すぐに身なりのいい男が現れる。
「久しぶりだね、あざみ。怪我しているようだけど大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫ですよ。さ、行きましょう?」
もう何度目になるだろうか。ホテルへ入るのもなれたものだった。

彼は毎回、呼ぶ度に48手と有名な体位を要求した。きついものもあるがその分報酬はよく、贔屓にしていた。
「今日は少しキツイかもしれないよ?」
「大丈夫です、その分報酬ははずんでくれるんでしょう?」
もう言葉は交わさなかった。前戯を簡単に済ませ、以前と同じように口でゴムをつける。最初は上手くいかなかったが最近はあっさりできるようになっていた。
やせ細り軽く、小さい自分の体が軽く持ち上げられた。息付く間もなく中へと入ってくる感覚。
下手に緊張するのは無意味だ。彼や、彼以外の相手に調教された体は簡単に感じるようになっていた。そのまま理性のタガをはずす。そして快楽に身を任せていった。

「……ふぅ……。ありがとう。今日も良かったよ。報酬は……はい」
疲れきった体を起こし、封筒を受け取る。厚みからして相当だろう。
「っはぁ、こちら、こそ……はっ……あり、がとう、はぁ……ございます」
息が整わないが、礼だけは述べる。
(回復したら、戻ろう……)
もう、明け方ちかくなっていた

帰りがけに弟の朝食用に惣菜を買い、帰宅する。
(これで……今月も大丈夫、かな……)
弟がまだ寝ていることを確認し、自分も布団へ横になる。あっという間に睡魔は訪れ眠りへと落ちた


その日もいつものように学校へ行っていた。もうなれていたから全く気にしていない、と言えば嘘になるが、それほどいじめも苦にしていなかった。
「おーとぎーりさぁん」
よばれたのは人のいない理科室だった。
「ねーえあざみちゃん?弟くんに君のお姉さんはこーーんなことしてるんだよって教えてあげたら、どんな顔するかなぁ?」
今までと違う脅し方だった。
(脅し、だ……今までこいつらが実行したことなんてなかったから……大丈夫だ、大丈夫……)
「あんたがこんなことしてるってばれたらぁ……弟くんまでいじめられちゃったりし、て……♡」
自分なら耐えられた。けれど弟のことを出されて、冷静でいることなんて無理だった。
横にあるゴミ箱のフチに手をかける。カチャリと音がした。他の教室のゴミ箱と違って、ここのゴミ箱には割れたビーカーやフラスコが入っている。フチを握る手に力が入るの。もう、目の前の相手が言っていることなんて聞こえていなかった。何か言い続けてスキだらけのこのゴミはゴミ箱へ……
ゴミ箱を振り上げて、勢いよく被せる。否、ゴミをゴミ箱へ戻しただけだ。赤い液体がゴミ箱からあふれだす。
(ゴミは……ゴミ箱、へ…………なんてね)
「あは、は……もう、家には帰れねーな……」
乾いた笑いを零しながら、そっとその場を立ち去った
5/24ページ
スキ