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創作 短編集

『手や体が冷たい人は、代わりに心がとても温かいんですよ』
近寄るだけでも辺りを凍てつかせてしまう私を抱きしめて、あの人はそうやって言ってくれたの。あとから知ったけれど、お日様みたいに温かった彼は、私と同じ童話の力を貰っていたみたい。温見ひざしと名乗った彼は、本来私と関わるべきではないのだと思いました。温かな彼と体の芯まで冷えきった私では、どう考えで真逆なのだから。それだと言うのに、彼はいつまでも私のそばに居てくれました。温かな日差しに照らされていれば、解けてしまうのが雪というもの。彼は私の呪いを、名前に囚われた運命を、書き換えてしまいました。雪の王ではなくなった私は、少しずつ人の温もりを取り戻すことが出来ました。けれど、雪の王として生きるべくして生まれた私の体が、温もりに耐えきれるはずもありませんでした。
それでも、私は……私は、生きた証を残すことができました。愛しい愛しい愛娘。娘の名は、冬姫。私は、私のように何か呪いを背負ってしまいそうで、この名前には反対しました。けれど彼は言うのです。
『雪が解けてしまっても、冬はきっと雪を思い出させてくれるから』
と。彼は、私の命が幾ばくも無いことを知っていました。だからこそ……なのでしょう。そう言われてしまえば反対は出来ません。そんな私を安心させるかのように、彼はこう続けました。
「大丈夫。冬のお姫様は太陽がちゃんと見守っているから」
初めて会った時から、本当に彼は変わりません。キザな物言いも、優しさや気遣いも。

もう先は短い命を、私は「雪の王」としてではなく、1人の母親として終えたいと思います。そして、冬のお姫様……大事な我が子には、いつか私のような呪いに囚われてしまったとしてもきっとまた温もりを取り戻すことができる言葉を贈りましょう。

『手や体が冷たい人はね?代わりに心がとーーってもあったかいのよ』

私に初めて温もりを教えてくれた彼の言葉を。
……私は、母親として幕を閉じれたでしょうか。冷えた私の手を、体を……母親として見てくれていたでしょうか。
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