創作 短編集
真名の元に下記の内容は一切手が加えられていないことを誓います────代筆記録者 樹 槐
非常に珍しい個体を発見した。個体名はルジェカシス・シルバー。彼の類まれなる点は彼の持つ強運である。
そもそも運とは?幸運と言っても様々な形がある。例えば本人にとって喜ばしいことが偶然舞い降りることであったり、はたまたランダムな選ぶべき何かで最善を引き当てることであったり。しかしルジェカシス・シルバー、彼は全くもって違う。望んだものが、望んだ事柄が舞い降りる。言うなればそれは偶然ではなく必然だろうか。偶然に愛される者、偶然を引き寄せる者は少なからず存在する。しかし望みを必然とする者はこの個体が初めての例である。本来それは人ならざる者の領分なのだから当然とも言える。
では彼の望みを必然とするこの才の原理は?これは推測に過ぎないが、彼は無意識のうちに魔術を──術式も何も無いこれを魔術と呼んでいいのかは分からないが──行使しているのではないだろうか。本来そんなことはあるはずもないのだがそうとしか考えようがない。今後も調査が必要だろう。
現在彼は霊感などを持ち合わせていないものでも幽霊などを視認出来るようにする為の研究を進めているようだ。はっきり言ってしまえば、それは不可能だ。“本来ならば”。そう、本来ならば彼が成そうとしていることは本来我々の領分、つまりは人ならざる者の領分である。だが望みを必然としうる彼ならば、本来人では成しえない事だとしても不可能ではないだろう。もちろん、今までとは規模が違う。人類が長い時間をかければ可能ではあることを彼自身のみで成し遂げるのと、人には到底手の届かない領域を実現するのでは差がありすぎる。何かしらの弊害がないとも限らない。今後とも経過観察が必要だろう。
「……ねぇダンタリオン?この最初の署名に意味なんてあるのかしら」
ふとそう書く手を止めて槐が不貞腐れたような顔をこちらへと向けてくる。
「そうでもせんとお前さん、色々内容改ざんするやろ」
「ダンタリオンが私以外に興味を持つの嫌だもの!当たり前じゃない!」
予想通りの反応が帰ってきて思わず苦笑してしまったが、それすらも彼女は愛おしそうに見てくるのだから面白いものだ。
「そうすねなさんな、なんだかんだと言いつつも働き者のお前さんは偉いなぁ」
「ふふっ、ダンタリオンの為だもの!」
彼女は気分良くしないだろうが、彼は非常に興味深い。彼が無意識のうちに魔術を行使していると仮定した場合、傍らに寄り添うあの幽霊に何ら影響がないと言えるだろうか。おそらく、そう。おそらくだが……何かしらの影響はあってしかるべきだろう。彼女がなんと言おうと今後も観察をやめる気は毛頭ない。なんと言っても類を見ない個体、それに関わるケースに思考を巡らせるだけでも非常に楽しいのだから。
非常に珍しい個体を発見した。個体名はルジェカシス・シルバー。彼の類まれなる点は彼の持つ強運である。
そもそも運とは?幸運と言っても様々な形がある。例えば本人にとって喜ばしいことが偶然舞い降りることであったり、はたまたランダムな選ぶべき何かで最善を引き当てることであったり。しかしルジェカシス・シルバー、彼は全くもって違う。望んだものが、望んだ事柄が舞い降りる。言うなればそれは偶然ではなく必然だろうか。偶然に愛される者、偶然を引き寄せる者は少なからず存在する。しかし望みを必然とする者はこの個体が初めての例である。本来それは人ならざる者の領分なのだから当然とも言える。
では彼の望みを必然とするこの才の原理は?これは推測に過ぎないが、彼は無意識のうちに魔術を──術式も何も無いこれを魔術と呼んでいいのかは分からないが──行使しているのではないだろうか。本来そんなことはあるはずもないのだがそうとしか考えようがない。今後も調査が必要だろう。
現在彼は霊感などを持ち合わせていないものでも幽霊などを視認出来るようにする為の研究を進めているようだ。はっきり言ってしまえば、それは不可能だ。“本来ならば”。そう、本来ならば彼が成そうとしていることは本来我々の領分、つまりは人ならざる者の領分である。だが望みを必然としうる彼ならば、本来人では成しえない事だとしても不可能ではないだろう。もちろん、今までとは規模が違う。人類が長い時間をかければ可能ではあることを彼自身のみで成し遂げるのと、人には到底手の届かない領域を実現するのでは差がありすぎる。何かしらの弊害がないとも限らない。今後とも経過観察が必要だろう。
「……ねぇダンタリオン?この最初の署名に意味なんてあるのかしら」
ふとそう書く手を止めて槐が不貞腐れたような顔をこちらへと向けてくる。
「そうでもせんとお前さん、色々内容改ざんするやろ」
「ダンタリオンが私以外に興味を持つの嫌だもの!当たり前じゃない!」
予想通りの反応が帰ってきて思わず苦笑してしまったが、それすらも彼女は愛おしそうに見てくるのだから面白いものだ。
「そうすねなさんな、なんだかんだと言いつつも働き者のお前さんは偉いなぁ」
「ふふっ、ダンタリオンの為だもの!」
彼女は気分良くしないだろうが、彼は非常に興味深い。彼が無意識のうちに魔術を行使していると仮定した場合、傍らに寄り添うあの幽霊に何ら影響がないと言えるだろうか。おそらく、そう。おそらくだが……何かしらの影響はあってしかるべきだろう。彼女がなんと言おうと今後も観察をやめる気は毛頭ない。なんと言っても類を見ない個体、それに関わるケースに思考を巡らせるだけでも非常に楽しいのだから。