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創作 短編集

ここに来て何年たっただろうか。少なくとも旦那様と過ごした日々よりは短いはずだ。けれど彼と過ごしていた時より多くを知った。まずは言葉を、そして外の世界の常識を。家事もつたないながらできるようになった。何より人の殺し方を覚えた。彼の命を奪った武器はハルバードと言うことを知ったのはここへ来てすぐだった。言葉と同じ時期にハルバードの扱い方も覚えた。体に刷り込まれた鎖の記憶が常人を超えた感知能力を生み出すようになったのはつい最近であったか。
そんな考えを巡らせながら彼女は日課となった場所へ足を運ぶ。ほんの少し開けた土地にこじんまりと佇む石には、彼女がだんなさまと呼んだ今は亡き彼の名前が刻まれている。
「だんなさま、ごめんなさい……」
笑わせてあげたかった彼はもういない。彼を真似てすっと目を細める。彼を幸せに出来なかった罪の意識からか、ここに来てから彼女はひたすら無邪気に笑い続けた。そうすることで周りも笑ってくれることを知ったから。しかしここではそれも出来ない。彼を殺した時の胸のモヤつきの名前を知った。後悔、悲しみ。笑うことで隠してた感情が溢れ出る。しかし彼女は涙を流さない。ひたすら冷たい、知ってるものから見たらまるで彼ソックリの瞳でほんの少し眉を潜める。
と、その時彼女の領域に誰かが入ってくるのを感じた。そっと振り返ると1人の青年が立っていた。薄く笑ったその顔から迷った人ではないとわかった。
「………………もしかして、仲間のさつじんき?」
そう問いかけると青年はその口角を先ほどより釣り上げ肯定した。

(あぁ……)
テンムと名乗る彼から感じる既視感

(だんなさま、みたい……)
彼女の主人とは違い貼り付けたような笑みを浮かべているが、彼女はそう感じた。
墓の前で感じる痛みがぶりかえす。ズキズキと痛む気持ちを表に出さないように彼女は笑顔を返す。いつも通りの無邪気な笑顔を

その笑顔の裏を見せてください
寂しそうなのを偽らないでください
嫌われてもいいから、彼の本心がみたい。それが例えどんなに醜いものだとしても、彼には気持ちを偽って欲しくない。

泣かせたい、悲しませたい、怒らせたい

笑わせて、あげたい

決意と共に彼女は恋に落ちた
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