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創作 短編集

人を模倣して作られたからだろうか。飾り、愛されるだけの人形に意識が宿るのにそう時間はかからなかった。
所有者は動く彼女に恐れおののいた。だが流石コレクターと言ったところか。そんな彼女に驚いたのは初めだけで彼女を見る目はすぐに好奇のものへと変わった。
いつしか彼女は主の数ある収集品……主に人に使うと致命的な傷を負わせかねない拷問器具を試すためのおもちゃになっていた。別にそれを嫌と感じたことはない。なんといっても痛みなどないのだから。むしろ飾られ、退屈な日々を過ごすより余程刺激的だった。
今日もいつものように拷問器具を試されていた。ガロットと言うらしい。首にはめられ、ゆっくりと主人がネジを回してゆく。ギシリと嫌な音をたてて人形ならではの硬い肌がきしむ。いつもはただ乱雑に人ならば致命傷になるであろう所を破壊するはずの器具ばかりだったが、今回は違った。感じるはずの無い息苦しさが襲う。今までなかった、存在するはずのなかった死への恐怖が湧き上がる。けれど、それ以上に生の実感がこみ上げるのが分かった。
この時、彼女は意思の宿った人形から生き人形となった。
それからというもの彼女はただ破壊されるものより、締め上げ苦しくなるようなものを好むようになった。締め上げられると酷く苦しくて……それなのにとても心地がよいのだ。締めあげられた時の命なき人形であったはずの自分が本能として生を実感する瞬間の喜ばしさといったら……

出来心だったのだ、あの生の充実感を主人にも教えたくて、ガロットを眠る彼の首へはめた。
ゆっくり、ゆっくりとネジをまく
自分のようにその肌がきしむことはなく、少しずつくい込んでいくのが見える。違和感と息苦しさ、目を覚まさないはずがなかった。薄く空いた彼と目が合う。
「気持ちいいでしょう?」
「心地よいでしょう?」
「苦しくて、苦しくて仕方が無いのに、これ以上となく生にすがり付きたくなる……」

ーーーー教えてくださってありがとうございます……

怯えた目がこちらを見つめる。何か言いたげだがその首は締めあげられて声を出すことを許さない。恐怖でか、生理的なものでか、その目から涙がとめどなくこぼれ落ちる。しかし彼女はネジをまく手を止めない。首元を掻き毟る彼の手から力が抜け、ついにこと切れた。

「あら、死んでしまったのですか?」

小首を傾げて彼女は冷えゆく主人だったものを見る

ーーーーこんなに気持ちがいいのに
そう呟くも、それを聞くものはもう居ない
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