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Forest Variant 短編集

「がぁるずとーく、だ!!!」
「なんですかぁ?ひめさまぁ〜」
「がーるず、とーく。きく、初めて。なに」
「……ガールズトークと言っても何を話すの」
二月も中頃。3人はトップである姫ことロストハートから直々に呼び出され、彼女の自室へと集まっていた。扉の外に貼られた張り紙には『男子禁制』の一言。
「ガールズトークたぁまーーた何を話す気だい?プリンセス。俺にもちょいと聞かせてくれよ」
呼び出されたのはアロエ、カサブランカ、イドの3人。呼び出した張本人のロストハートを含めれば4人しかいないはずだった。しかし今ここにいるのは5人。チェリーピンクの髪をしたあざとさ漂う読んでも居ない幼女、アスターがいた。彼女、いや彼は今でこそ幼い少女の姿だが、昔は男。もっと言うと中身は今も昔もおっさんである。今回ロストハートが呼んだのは最初から最後まで完全に根っからの女だけ、つまりは
「あすたーはよんでない。かえれー!」
アスターが追い出されたのは言うまでもないだろう。
「ちぇー、プリンセスもつれねーなぁ。そう思わねぇか?アホ弟子」
「てめぇみてぇな見た目だけで中身おっさんが混ざってたら困るだろ察してやれよこのクソ師匠」
追い出されてもなお懲りないのか猫耳を引くつかせているが、所詮お飾り。外から聞き耳を立てていれば聞こえそうなのにわざわざ姿を見せたのは喋ってる所、口の動きを見ていないと何を言っているのかが分からないからであって。
そんな外の様子はつゆ知らず、邪魔者が居なくなった4人は仕切りなおして話を再開していた。
「それでぇ〜ひめさまぁ?ガールズトークと言っても何を話すのです〜?」
そんなアロエからの質問にロストハートが待ってましたとばかりに食いついた。
「ばれんーたぁあああいん!お前達のなかにも想い人がいる者もいるであろー?」
「確かにそうだけど、それがロストハートに関係あるの」
イドのみがそう問いかけるが、最近増えたばかりの彼女が知らないのも無理はない。
「ひめさまはねぇ、色恋沙汰のお話聞くのが大好きなの〜」
「そういうことだ!だから!お前達!バレンタインを存分に楽しむがいいー!そしてあわよくば我に話を聞かせるのだー」

「とか言ってるよ」
「はぁーーーこりゃ男禁制も納得だな!助かるぜ、魔法使いの少年!」
「僕の名前いい加減覚えてよね、健忘症なの?エロリオヤジ」
どうやら余程諦めきれなかったのか、ゼラニウムに頼み込んでまで会話を覗き見たアスターは納得の声を上げた。
「んでまぁ。ちょっくら聞きてぇんだが?ここになんだ。いい感じになってる奴ってどんだけいるわけ???」
ここの恋愛事情の複雑さを知らない彼はいとも簡単にそう問うが、自分から喜び勇んで報告するような者は居ないわけで。
「僕」
訂正。割と事情としては複雑なのに自信を持っている人も中にはいた。堂々と宣言したエゴに興味を示したアスターは矢継ぎ早に質問を投げかけている。
「おっおっいいじゃねぇか!お相手は?両思い?片思い?ヤることやってる??」
下世話な質問が混ざってはいたがそれを意にも介さずあっさりと返す。
「相手は姉さん、イドだね。バッチリ両思いだしヤる事やってるよ」
「……近親相姦?」
「まぁ」
思ってもなかった事実なのかアスターの顔が唖然としたものへと変わる。
「なにこれ特殊ケース」
同意を求めるように周りを見ると気まずそうに視線を逸らす者ばかりで。
「え、待て待て待て!?何お前ら!もしかしてあれ??もっと複雑なの??嘘だろ??」
そんな質問とも言えないようなアスターの言葉に少し気まずそうにしながらもクリスマスローズが答えた。
「あぁと、その?センテンスはフォーチュンに片思い、リアがセンテンスに片思い。リアとセンテンス、僕とゼラニウムがヤることヤって」
「『お前ふざけんなよ!!!!』」
声にならない叫びが二人から上がマジどうなってんのないような事情までバラされたのだ、当然ではある。
「お前らまじどうなってんの」
「まぁそういう感じだからバレンタイン楽しみだね?」
1人落ち着いた様子のエゴは大騒ぎの男達を見ながら誰に向けるともなく飄々とそう呟いた。

Side 報われることのない黒い百合
「ハイドランジア」
『なんだ?』
「……」
静まりかえる部屋。褐色の肌が微かに赤いのはきっと気の所為ではないのだろう。
『バレンタインだな』
「チョコ、ない。うち、手ない。作れない」
そう彼女は告げ、少し寂しそうに笑う。作れないから、ただそれだけで寂しそうにしているのではないことをお互いは知っていた。
「……え、と。ん……難しい。頑張る」
若干気まずい空気の中、唐突にそんなつぶやきが聞こえふと視線を向けると目があった。
「チョコ、とか。作れないから、少し……勉強、した。振り向いて、くれなくてもいい。うちは、ハイドランジアが、好き。だから、辛かったら、頼って。抱きしめる、腕、は、ないけど」
たどたどしく紡がれる言葉。彼女は日頃から単語でしか上手く話すことができないことを知っていた、だからこそひどく驚いた。そして、その内容も。自分がどうしてもアロエへの思いを捨て切ることができず、その上で彼女の自分へ好意につけ込んでいるのを知っていながら。一番傷ついているのは彼女であるはずなのに。
(あー……くそ。こんなん)
ここまで真摯に向けられた思いを無下にするのは失礼というものであろう。その思いには嘘偽りない今の気持ちを伝えるべきであろう、と。
『俺はまだ、アロエが好きだ』
「知ってる」
『当分、その思いを捨てることは多分できない』
「いい。それでも」
『けど、こんなに思われて揺らがないだなんて言えない』
「知って、え」
自分の耳を疑うかのような視線を向けられて、喋れないことを呪った。
『アロエの事はまだ諦めきれない。でも、お前のことは真剣に考えたい。今までみたいじゃなく』
髪と同じように赤く頬を染める彼女を少し愛おしく思う辺り、いつかはそう遠くないのかもしれない。ハッとあることに気づき慌てて一文を書き足す。
『俺がアロエへの思いを捨てきれるまで待ってくれるなら、だけど』
「待つ、待てる。どれだけ、でも!うち、の、こと!だけ、好き、思わせる!」
そう言えば、彼女の心からの笑顔は初めてかもしれない。今までは自分のせいで無理をさせていたから。
『ありがとう、カサブランカ』

Side 赤くて白い二人
「ほっっんと!何考えてんだよふざけんなよ馬鹿ぁあああ!!!!」
彼が布団に引きこもってはや数時間。原因は言わずもがな、先程自分がバラしてしまったあれやこれやにほかならない。
「やっぱダメだった?」
「むしろダメじゃないと言うと思ったのお前!?」
「ご、ごめんって……」
彼のベッドに腰掛けるのも気まずく、手近な椅子に腰を下ろす。
「ほら、私男同士だし?私から無理やりと言うかそもそも付き合ってないじゃないか。バレンタインとは無縁だなぁと考えてたら思わず」
言い訳がましいな、とも思いつつそう呟いていた。彼が聞いているとは、ましてや聞いていたとしてもそれで彼が機嫌を直してくれるとも思ってはいなかったが。
「……ふーん。つまりお前はあれか。バレンタインは女だけだと思ってたってことだな」
そんな声でふと彼の方を見やると相変わらず布団の中からは出てきていなかったが、隙間からやたら不機嫌そうな目でこちらを見てきていた。
「うん?そうだからこそコルチカムはガールズトークなんて称して集まってたんじゃないのか?」
「あぁそうかよ!!」
そうイラついたように声を荒らげられてしまった。それと同時に彼はまた布団のなかに引っ込んでしまって。
「いたっ」
ふと後頭部に何かが当たりそこまででもなかったけれど思わず声をあげてしまった。何が当たったのかと振り返ると
「……赤い……袋?」
「バレンタインは男から贈ることもあんだよこのバカ」
「バレンタイン。え、誰から誰へ」
突然の事に状況が全く把握出来ない。呆けたように問いかけると、痺れを切らしたように今までずっと布団に引きこもってた彼が姿を現し睨みつけてきた。
「ボクが!!!!お前に!!!!」
それだけ言うと彼はそっぽを向いてしまった。けれどいつもなら血色が悪いほど白い彼の肌が薄く朱に染まっていて。
「……妻以外から、貰ったのは初めてだ……」
「お前の愛する妻じゃなくて悪かったな」
今は亡き自分の妻に嫉妬しているのかと思うとなんだか面白くて、つい笑い声をあげてしまった。
「なんだよほんと……いらなかったら返せ」
「違う違う。なんだか可愛くて?」
「男にかわいいとか褒め言葉じゃねぇからなてめぇ!」
自然と頬が緩むのを見られまいと後ろを向いて、早速かよと突っ込まれそうだなと思いつつも封を開ける。
「パウンドケーキにハンカチと……メッセージカード?」
中身は彼らしい素朴なパウンドケーキと、淡い色で炎の柄が入った白いガーゼのハンカチ。そして1枚のメッセージカードだった。
「はぁあああ!?本人の目の前で開けるバカがいるか!恥ずかしいからやめろ!!」
「あはは、ごめんごめん。なら部屋に戻ってからしっかり見ることにしよう」
実の所既にメッセージカードの内容は読んでしまったのだが、それは言わない方がいいだろう。そう思いつつ自室に戻りもう1度メッセージカードを見る。
(You're the only one for me.Happy Valentine's Day.……あなたはたった一人の大切な人、ねぇ)
妻への愛情とはまた違うけれど彼の事も疑うことなく好きなのだと再確認するに至った。
(こんなかわいいこと言ってくれるのに好きになるなという方が難しいだろう……)
彼がくれたケーキは、彼らしい素朴な甘さがあった。

Side 変わらない姉弟
「イドねぇ!今日!バレンタイン!」
「戦士さん見たいな話し方になってるよ。エゴ」
浮かれてしまうのも仕方がない。今までは「普通であれ」「出る杭は打たれる」それが暗黙のルールである世界で生きていたのだから。犯罪者は弾圧され、障害児はやっかまれ、同性愛者は異端の目で見られ、近親者の恋愛は禁じられるのが「普通」であったのだから。そんな世界で、姉からの本命チョコなんてもえるはずもなかったのだから。けれど、今は違う。さっきのアスターのように驚かれるこそすれ、それだけだ。なんと言ってもここは普通であることが異端なのだから。
「チョコはないよ」
「……えっ!?」
そのはずなのに。思わず耳を疑った。
「だって、エゴ、チョコ嫌いでしょ」
「イドねぇからのチョコは好きだよ!!」
この言葉に嘘はない。好きな相手から貰えるものはなんでも嬉しいのだから。
「あたしが好きだからなんて理由つけられても嬉しくないよ。それに何も用意してないとは言ってないし」
その言葉にほっと胸をなでおろした。確かにバレンタインはチョコというイメージが強いけれど、それ以外も存在するのだから。
「よ、よかった……イドねぇから貰えないのかと思って」
「そんなわけないでしょ。はい」
そんな心配してたことをばっさりと切る言葉と共に、手渡されたものは
「薔薇」
「そう、薔薇」
「薔薇の花束……」
「そう、薔薇の花束。あとこれも」
予想外過ぎて固まっていたところに追い討ちをかけるかのように頬に何か触れる感触とリップ音が、そして首元に何かを巻き付けられる感覚が。
「え、は。あ???」
「あたしに首輪を付けてるお返し。大事にしてね」
首元を確かめると細い皮の感触、今のセリフも踏まえて考えるにおそらくチョーカーであろう。
(イドねぇが男らしすぎる)
そんな初めて知る姉の意外な一面と共に、もっと男らしくなろうと決意した。

〜After〜
「さぁ君たち、われにバレンタインの話を聞かせよー」
「なんでだよ!あとなんでボクが呼ばれてんだよ!」
「そりゃあ、ゼラニウム。あげただろ?ニゲルに」
「なんで知ってんだよぉおおお!!!!!」
前回のガールズトークとは違い、バレンタインが過ぎた今日集められたのはカサブランカにイド、そしてゼラニウムだった。
「まぁまぁ〜。で、3人は何をあげたんだ」
そんなロストハートからの質問に騒いでたゼラニウムも含め3人はお互い顔を見合わせた。
「うち、手、ない。作る、書く、できない。言葉、メッセージ?あげた」
いつになく嬉しそうにカサブランカがまず答えた。
「薔薇の花束。それにチョーカー?後は多少のスキンシップ」
すました顔でイドがそう続く。
「…………なんでボクを見るんだよ」
そんな質問に答えるかのように期待の眼差しがゼラニウムに突き刺さる。そんな眼差しに耐えかねて渋々と言った顔でボソリとつぶやいた。
「パウンドケーキ……と、ハンカチ……あと、メッセージカード……」
「魔法使いさん、この中で一番やってる事が乙女チックですね」
「イドちゃんやかましい!!!!」
指摘された事で自覚したのか顔を抑えて呻くように
「確かになんかもうむちゃくちゃやってる事女子じゃんボクうわぁ思い出したら尚更恥ずかしくなってきた」
と後悔の念を吐き出しているゼラニウムをよそ目にカサブランカはイドの方を向いて雑談に花を咲かせていた。
「イド、男らしい。かっこいい」
「そう?そう言えば戦士さんがあたしに言葉教えてって言ったのはバレンタインの為だったんですね」
「うん。助かった。ありがとう」
ゼラニウムに限っては根掘り葉掘り聞かれていたが、そんな会話を続けて、数時間程たっただろうか。ようやくロストハートも満足したのかその場は解散となった。解散してもなお意気投合したのかイドとカサブランカは会話続けて、ゼラニウムは疲れ切った様子で部屋へと戻っていく。

そして彼女は次のイベント、ホワイトデーに胸を踊らせるのであった。
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