Forest Variant 短編集
今日は酷く天気が悪い。そのせいなのか、今はもうない筈の足にズキリと痛みが走る。そう言えばボクが死んだあの日も今日みたいな天気だったような……。記憶自体はモヤがかかったようにイマイチ思い出せばしないけれど、無意識のうちにその時のことを思い出しているのかもしれない。
「……起きるのやだなぁーー……」
起きたくないのなら起きない。こういう時は寝るに限る。ロストストレンジャーズには特にやらなければならないことなどは──今の所ではあるが──無いのだから。やるべき事があったとしてもこういう時は必要にかられない限り、無理やり起こされることは無い。姫さまに見初められたボクを含めたロストストレンジャーズのメンバーはみんな、酷い死に方をしている。つまりはメンバーの誰しもがきっかけは違えど今日のボクみたいな状態になる時があるという事で。それをみんな重々承知しているから、こういう時は余程じゃないとほっといてくれる。
そんな事を考えつつ布団に包まりなおしつつ、二度寝をきめこむためまぶたを閉じた。
「ゼラニウム、起きてるかい?」
前言撤回。ほっといてくれない嫌な奴もいる。無視してそのまま寝ようかとも思ったが、扉に鍵をかけていなかったことを思い出してしまった。この声の主は、まごうことなきボクの嫌ってやまない“アイツ”だろう。アイツなら、どうせ無視した所で鍵がかかってないのをいいことに入ってきて起こされるのが目に見えている。諦めて扉の向こうにいるアイツへと声をかける。
「起きてる。鍵空いてるけど帰れ。寝かせろ。」
ダメで元々、そう言ってみるが案の定アイツは遠慮なく扉を開けて中へと入ってきた。
「そろそろ起きてる頃だと思ったよ。どうせ死に際の事思い出して起きる気しないんだろう?」
違う所も多いはずなのにどこか自分によく似たアイツは、そう言いながら勝手に椅子に腰かけて柔らかく微笑みかけてきた。どう見ても居座る気満々としかともえない。
「わかってんなら帰れよ……お前見てると尚更不快だぁ……」
見るのもいやでアイツから目をそらすように壁の方へ寝返りをうち、布団の中に潜り込んだ。悪化していく痛みに呻く声も、これならアイツには聞こえまい。
ふと、ベッドの隅に誰かが腰掛けたのを感じた。もちろん、この部屋に今いるのは自分以外に1人しか居ないため腰掛けたのはアイツにほかならない。
「ホットミルクをね、用意したんだよ」
アイツは今なんと言った?ホットミルク?布団越しで聞き間違えでもしたのだろうか、布団から頭を出してアイツの方をちらりと見やる。
「今、なんて?」
今のボクはさぞかし信じられないものを見るかのような目をしていたことだろう。ボクの問いかけにアイツは至極当然かのように
「ホットミルクを用意したんだ」
と、告げた。信じられないことにさっき聞こえたのは聞き間違いなどではないようだ。
「ホットミルク。それに、ゼラニウムの好きなくるみパンも。ジャムはブルーベリー」
何でコイツがボクの好みをここまで把握しているのかと驚き以上に気持ち悪さを感じるが、そもそもコイツがボクの好物を用意した意図がわからない。
「なんで知ってんだよ気持ち悪っ!てかそれ以前にどうしてわざわざそんなん用意してんの」
そう尋ねると、アイツは当たり前だろと言わんばかりの顔で軽く首を傾げた。
「だって、ゼラニウム。今日は調子よくないだろ?好きな物でも食べたら落ち着くかなぁ、って。あぁ、ちなみに好物はみんなに聞いた」
コイツの事は見るだけでもイラつく位に嫌いだ。それは揺らがない。でも、ここまで気を遣われると無視する訳にもいかない。寝かせておいてもらえるのが1番良かったけど。渋々体を起こし、机の方を見るとアイツが言う通りパンやコップを乗せたトレーが置いてあった。
「はぁ……分かった。貰うよ……って、ボクの杖知らない?」
机までは多少距離がある。這って行けないことは無い距離だが……アイツがいる手前上、そんな見苦しい真似はしたくなくて移動手段である杖を探すが、いつも置いてある場所にない。
「杖なら私が持っているよ」
「は!?」
よく見ると確かにアイツの手にはボクの杖が握られていた。アイツは何がしたいのか、どう考えても嫌がらせでしかない。
「なっっんでてめぇがボクの杖持ってんのさ!!!返せ!!」
けれどアイツはえ?みたいな顔をしたまま返す気がないようだ。やっぱりアイツ頭おかしいんじゃないだろうか、語り継がれてた通り。
「机に行くためにわざわざ杖使わなくていいだろう?」
「這って行けってかクソ先祖」
「いや、私が机までゼラニウムを運ぶよ?」
ボクの耳がおかしくなったんだろうか。またしても信じられない、いや、信じたくないようなことをアイツは言い出した。
「ちょっ、おま、やめろ!!!」
言い出しただけでなく、実行に移してきた。しかも1番最悪な形で。正直、ボクは杖がなければ出来ることはほとんどないと言っても過言ではない。力も、多分メンバーの中で1番弱いだろう。あのどでかい剣を振り回すアイツになんて、到底かなうはずもなく。
「最悪だ……そもそもなんで!あえて!!この運び方選んだわけ!????もっと別の方法あっただろ!気持ち悪っ!!!」
そうやって、アイツに“お姫様抱っこ”されながら叫ぶも言われている本人はどこ吹く風と聞き流していた。何が楽しくて大嫌いな、しかも男に、お姫様抱っこされて運ばれなければならないのだろうか。
「1番楽だったんだよ、悪かった。とりあえずほら、食べて機嫌なおしてくれないかい?」
そんな簡単に機嫌がなおるか!と言いたいところだが、目の前の食事はボクの好物ばかりで。機嫌をなおすかはとりあえず置いておいて折角用意してくれた食事だと食べることにした。アイツが用意したって所が癪だが。
「……うまい」
「そりゃあ君の好物だしねぇ」
言いたくないから口には出さなかったけれど、美味しく感じたのにはそれ相応の理由がある。
今まで、というか生前。こうやってまともな食事を用意された事は1度たりともなかった。それどころか、ボクをボクとして見て、気にかけてもらえることすらなかった。ボクの為に用意された食事、しかも好物を選んで。それが、とても嬉しかった。
……きっと、アイツはそれがわかっていたんだろう。1番嫌っている奴が、1番わかってくれているとはなんとも皮肉なものだ。
「美味しかったようでなにより」
ボクがこうやって考えてるのも、おそらくアイツはわかっている。それ以上なにも言わずボクが食べ終わるのを微笑みながら見ていた。ボクが食べ終わると先程ボクがさんざん嫌がったのを気遣ってか、今度は背中に背負ってベッドまで運んでくれた。そのまま、ボクが布団をかぶるのを確認すると、食器を持って
「じゃ、おやすみ」
そう言い残して部屋をさった。風邪を引いて家族に看病されるのはこういう感じなのではないだろうか。
血は、一応繋がっているけれど。これではまるで父親か兄のようではないか。嫌いで嫌いで仕方ない筈のアイツでも、いないと寂しくなるもんだな。そう思いつつ、今度こそ二度寝することにした。不思議と足の痛みは落ち着いていたから、二度寝する必要はなかったのかもしれないけれど…………
「……起きるのやだなぁーー……」
起きたくないのなら起きない。こういう時は寝るに限る。ロストストレンジャーズには特にやらなければならないことなどは──今の所ではあるが──無いのだから。やるべき事があったとしてもこういう時は必要にかられない限り、無理やり起こされることは無い。姫さまに見初められたボクを含めたロストストレンジャーズのメンバーはみんな、酷い死に方をしている。つまりはメンバーの誰しもがきっかけは違えど今日のボクみたいな状態になる時があるという事で。それをみんな重々承知しているから、こういう時は余程じゃないとほっといてくれる。
そんな事を考えつつ布団に包まりなおしつつ、二度寝をきめこむためまぶたを閉じた。
「ゼラニウム、起きてるかい?」
前言撤回。ほっといてくれない嫌な奴もいる。無視してそのまま寝ようかとも思ったが、扉に鍵をかけていなかったことを思い出してしまった。この声の主は、まごうことなきボクの嫌ってやまない“アイツ”だろう。アイツなら、どうせ無視した所で鍵がかかってないのをいいことに入ってきて起こされるのが目に見えている。諦めて扉の向こうにいるアイツへと声をかける。
「起きてる。鍵空いてるけど帰れ。寝かせろ。」
ダメで元々、そう言ってみるが案の定アイツは遠慮なく扉を開けて中へと入ってきた。
「そろそろ起きてる頃だと思ったよ。どうせ死に際の事思い出して起きる気しないんだろう?」
違う所も多いはずなのにどこか自分によく似たアイツは、そう言いながら勝手に椅子に腰かけて柔らかく微笑みかけてきた。どう見ても居座る気満々としかともえない。
「わかってんなら帰れよ……お前見てると尚更不快だぁ……」
見るのもいやでアイツから目をそらすように壁の方へ寝返りをうち、布団の中に潜り込んだ。悪化していく痛みに呻く声も、これならアイツには聞こえまい。
ふと、ベッドの隅に誰かが腰掛けたのを感じた。もちろん、この部屋に今いるのは自分以外に1人しか居ないため腰掛けたのはアイツにほかならない。
「ホットミルクをね、用意したんだよ」
アイツは今なんと言った?ホットミルク?布団越しで聞き間違えでもしたのだろうか、布団から頭を出してアイツの方をちらりと見やる。
「今、なんて?」
今のボクはさぞかし信じられないものを見るかのような目をしていたことだろう。ボクの問いかけにアイツは至極当然かのように
「ホットミルクを用意したんだ」
と、告げた。信じられないことにさっき聞こえたのは聞き間違いなどではないようだ。
「ホットミルク。それに、ゼラニウムの好きなくるみパンも。ジャムはブルーベリー」
何でコイツがボクの好みをここまで把握しているのかと驚き以上に気持ち悪さを感じるが、そもそもコイツがボクの好物を用意した意図がわからない。
「なんで知ってんだよ気持ち悪っ!てかそれ以前にどうしてわざわざそんなん用意してんの」
そう尋ねると、アイツは当たり前だろと言わんばかりの顔で軽く首を傾げた。
「だって、ゼラニウム。今日は調子よくないだろ?好きな物でも食べたら落ち着くかなぁ、って。あぁ、ちなみに好物はみんなに聞いた」
コイツの事は見るだけでもイラつく位に嫌いだ。それは揺らがない。でも、ここまで気を遣われると無視する訳にもいかない。寝かせておいてもらえるのが1番良かったけど。渋々体を起こし、机の方を見るとアイツが言う通りパンやコップを乗せたトレーが置いてあった。
「はぁ……分かった。貰うよ……って、ボクの杖知らない?」
机までは多少距離がある。這って行けないことは無い距離だが……アイツがいる手前上、そんな見苦しい真似はしたくなくて移動手段である杖を探すが、いつも置いてある場所にない。
「杖なら私が持っているよ」
「は!?」
よく見ると確かにアイツの手にはボクの杖が握られていた。アイツは何がしたいのか、どう考えても嫌がらせでしかない。
「なっっんでてめぇがボクの杖持ってんのさ!!!返せ!!」
けれどアイツはえ?みたいな顔をしたまま返す気がないようだ。やっぱりアイツ頭おかしいんじゃないだろうか、語り継がれてた通り。
「机に行くためにわざわざ杖使わなくていいだろう?」
「這って行けってかクソ先祖」
「いや、私が机までゼラニウムを運ぶよ?」
ボクの耳がおかしくなったんだろうか。またしても信じられない、いや、信じたくないようなことをアイツは言い出した。
「ちょっ、おま、やめろ!!!」
言い出しただけでなく、実行に移してきた。しかも1番最悪な形で。正直、ボクは杖がなければ出来ることはほとんどないと言っても過言ではない。力も、多分メンバーの中で1番弱いだろう。あのどでかい剣を振り回すアイツになんて、到底かなうはずもなく。
「最悪だ……そもそもなんで!あえて!!この運び方選んだわけ!????もっと別の方法あっただろ!気持ち悪っ!!!」
そうやって、アイツに“お姫様抱っこ”されながら叫ぶも言われている本人はどこ吹く風と聞き流していた。何が楽しくて大嫌いな、しかも男に、お姫様抱っこされて運ばれなければならないのだろうか。
「1番楽だったんだよ、悪かった。とりあえずほら、食べて機嫌なおしてくれないかい?」
そんな簡単に機嫌がなおるか!と言いたいところだが、目の前の食事はボクの好物ばかりで。機嫌をなおすかはとりあえず置いておいて折角用意してくれた食事だと食べることにした。アイツが用意したって所が癪だが。
「……うまい」
「そりゃあ君の好物だしねぇ」
言いたくないから口には出さなかったけれど、美味しく感じたのにはそれ相応の理由がある。
今まで、というか生前。こうやってまともな食事を用意された事は1度たりともなかった。それどころか、ボクをボクとして見て、気にかけてもらえることすらなかった。ボクの為に用意された食事、しかも好物を選んで。それが、とても嬉しかった。
……きっと、アイツはそれがわかっていたんだろう。1番嫌っている奴が、1番わかってくれているとはなんとも皮肉なものだ。
「美味しかったようでなにより」
ボクがこうやって考えてるのも、おそらくアイツはわかっている。それ以上なにも言わずボクが食べ終わるのを微笑みながら見ていた。ボクが食べ終わると先程ボクがさんざん嫌がったのを気遣ってか、今度は背中に背負ってベッドまで運んでくれた。そのまま、ボクが布団をかぶるのを確認すると、食器を持って
「じゃ、おやすみ」
そう言い残して部屋をさった。風邪を引いて家族に看病されるのはこういう感じなのではないだろうか。
血は、一応繋がっているけれど。これではまるで父親か兄のようではないか。嫌いで嫌いで仕方ない筈のアイツでも、いないと寂しくなるもんだな。そう思いつつ、今度こそ二度寝することにした。不思議と足の痛みは落ち着いていたから、二度寝する必要はなかったのかもしれないけれど…………
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