「天ちゃ〜ん」

「なんですか？」


バイト終わり、荷物をまとめて帰ろうとすると2枚の紙をヒラヒラさせながら走ってくる由依さん。


「これ。観覧車のペアチケットなんだけどさ、この前スーパーの抽選で当たっちゃって。私はそうゆう相手いないから天ちゃんにあげようと思って！」

　

ペアチケット？？？？


いや、だから....


「私だっていませんって」

「いいから！いいから！とりあえず持っときなよ！」

「え、、」


無理やり握らされた2枚の紙。

【クリスマスご招待！恋人と夜景を見ながら素敵な夜をお過ごしください！気になる人と来てもいいかも？🫣】

と書かれている。

　
いや……クリスマスバイトしようと思ったんだけどなぁ、、


「あ。夏鈴！」


帰ろうとしたのか丁度通りかかったので声をかける

「なんや」

「これさ、由依さんから貰ったんだけど私も相手いないから夏鈴にあげるよ。保乃さんと行って。」


2枚のチケットを差し出すと素直に受け取り眉間に皺を寄せる夏鈴。

「おるやろ」

「え？」

「麗奈ちゃん。おるやん」

「いや、だって麗奈は」

「天も鈍感やな。由依さんも天にだから渡したんやろ」

　
私にだから？


「あっ！ちょっ....」

「じゃ。頑張って誘いな〜」

　

そそくさと帰っていく夏鈴を見送り、押し返されたチケットを見つめる

　

麗奈……誘ってみるか〜


――――――

「ただいまー」
　
「お帰り〜お疲れ様！」
　
「麗奈もお疲れ様」

「そろそろご飯できるよ」
　

ありがと〜と言ってソファに倒れる天ちゃん


こうして彼女の声を聞くだけで仕事の疲れもあっという間に吹き飛ぶ。

　「もう1人の生活なんて考えられないな……」


なんて独り言をつぶやいているとキッチンに少し硬い表情をした天ちゃんが立っていた。

「どうした？」

「麗奈さ、25日ってあいてる？」


25日……ってクリスマスだよね、？

「仕事はないけど……」

「店長の由依さんから貰ったんだけどさ、、一緒に行かない？」


渡された紙に目線を落とす


観覧車……クリスマス……夜景…気になる人……


え、？

「え、麗奈でいいの？」

「あーうん。無理そうだったらいいけど....」


不安そうに目線を外して頭の後ろを掻く天ちゃん。


好きな人とクリスマスなんて、、断る理由ないけど、、緊張しちゃうな....




でも…こんなチャンス。。

「行く。」

「ほんと、？」

「うん！」

「やった！」


先程の顔から一変パーッと嬉しそうな顔をするから思わず麗奈まで顔が緩む。

　
「楽しみだね」

「う、うん..//」


　天ちゃんと、、一緒に？観覧車、？

　

　やっぱ緊張して楽しめないかもぉ、、、


――――――――




「よしっ」
　
「あれ〜。何か気合い入ってんじゃん」


更衣室で身だしなみを整えていると松田さんが入ってくる。


「あはぁ〜、、そういう事ね〜〜～。。いつも夜にシフト入れてるのに今日はこの時間までなのおかしいと思ったんだよねーーー」

「いや、別にそういう訳じゃっ」

「いいの。いいの。楽しんできな！あとは私に任せて！」



だから何度言ったら…………


やっば！時間！

「すみません！あとよろしくお願いします！」


急いでバックを持ちバーを出る


「はーい。頑張ってねーーー！」


何なんだあの人は、、、

　*

「人多っ」


さすがクリスマス。イルミネーションで有名な場所ということもあってか、カップルやらなんやらで人が溢れかえっている。


麗奈との約束は確か、ここら、、へん....


いた！

「麗奈！」

「あ！天ちゃん」

　

てくてくと走ってきた麗奈。いつもよりメイクは濃いめで真っ白なマフラーをつけている。


普段と違う雰囲気に思わず息が止まる


冬の女の子ってこんな可愛いっけ....


「天ちゃん？」

「あぁ、ごめん。」

「疲れてる、？？」

私がぼーっとしてしまったからか少し不安そうな顔。


「違うよ。疲れてない。」

「ほんと、？」

「うん。ほんと。行こう！」


「えっ、」

「え？あっ！ごめん。嫌だった？」


あまり考えずに握ってしまった手を、パッと離す


「いや！あの、ちょっとびっくりしちゃっただけで…嫌、じゃないです....//」


恥ずかしそうにそう言い、恐る恐る小さな手を伸ばしてくる彼女。

マフラーが白いからか頬が赤くなっているのがよくわかる。


　
　なんか、、調子狂うな……

　*



麗奈と手を繋いだまま列に並ぶ。

「カップルの人ばっかりだね....」

「うん、」


そりゃそうだ。ペアチケットだし……


あまりの寒さに長くは喋ってられず時々言葉を交わしながら順番を待つ


「次の方どうぞ〜」


どこに座ろうか迷ったがわざわざ隣に座るのも変かと麗奈の向かい側に腰を下ろすことにした。

　

徐々に高度をあげる観覧車

思っていたよりも綺麗な景色で思わず窓から目が離せなくなる。


「綺麗だね....」

「そうだね、、」

…

麗奈の言葉に返事をした時、幸せそうにライトで飾られたツリーを眺めている4人家族が目に入った。

家族....


そういえば、今まで一度もクリスマスを人と過ごした記憶が無い。
　

いつもしーんとした店で一人、外を行き交う人を眺めていた。


全員で手を繋いで歩く家族。子供が待っているのか足早に帰るサラリーマン。友達とふざけ合う女子高生。


羨ましくなんかないと、強がって。


麗奈に出会ってなかったらきっと今年もまた独りだった。



「麗奈。ありがとね」

「どうしたの？急に、」

「いや、幸せかもって、思って」

「ふふ笑 麗奈も幸せだよ？天ちゃんと過ごすクリスマスが今までで1番幸せ。」

　
観覧車が1番上に登る


外を眺めながら少しはにかむ麗奈の横顔をイルミネーションの光が照らす


少しでも目を逸らしたらあっという間に消えてしまいそうで、この顔を、表情を自分以外の誰にも見せたくないと思った。

　
これが、恋ってことなんだろうな....


恋なんかした事ないけど今なら分かる。


気づいたら口に出していたんだ


「好き」


って。

　――――――
　


「……え？」


まさかそんなはずないと信じられなかった。だって、今までそんな素振り見せなかったから。


「麗奈。好きだよ」

「うそ、でしょ……」


きっと、天ちゃんにとって麗奈は恋愛対象になど入ってないんだとずっと思ってた。


「嘘じゃない。本気。」


真剣な顔でそう言う彼女の目の奥に嘘などなかった。

疑う必要なんて1ミリもない。

　

「麗奈、も……好き」


向かいにいた天ちゃんが立ち上がり下り始めた観覧車が揺れる


少し震えたその手は口を覆っていたマフラーを下にずらした。




ふたりの唇がゆっくりと重なる。




「付き合ってください」

「はいっ…！」

*


「麗奈のこと、、離さないでね？」

「離すわけないよ」



そういって包まれた手はその言葉を証明しているようで、鼓動を早める。






12月25日。


多くの人の幸せで溢れるその空間に2人でそっと溶け込んだ. ———