まさか、また保乃に会うなんて思ってもなかった。



昔から彼女は私を守ってくれた。私に近寄ってくるいじめっ子を追い払って、不登校気味の私の手をひいてくれた。


どれだけ虐められても学校に行ったのは保乃がいたから。保乃さえいれば頑張れた。



保乃のことが好きだった。





あの日。彼女が私に謝った日。

なんて声をかければいいのか分からなかったんだ。


高校3年生の秋。私は何も言わずに姿を消した。ずっとそばに居てくれた彼女を裏切った。一言も感謝を伝えずに。


それなのに保乃が私に謝ってくるのはきっとあの時、手を伸ばしてしまったから。最後まで自分で戦おうとせずに保乃を頼ろうとした。


きっと保乃だって怖かっただろうに、誰だってあんな状況を目の前にしたら体が固まる。


保乃は何も悪くないのに。
　


私が弱い人間だったから。


保乃をあの時の記憶で苦しめてしまっている。


ふと顔をあげた保乃の目は私に向けられるには勿体ないくらい綺麗だった。




ごめんなさいと言って去っていくその背中を見つめるだけで、立ち尽くしてしまう。


「保乃....」

　

裏切ってごめんって、ずっと好きだったって伝えたいのに、あの頃から何も変わっていない。


弱い人間だから。

*
　

「夏鈴、隣いい？」
「うん、」


いつも通り隣に座って煙草に火をつける天。


「裏切っちゃったって言ってた人って、もしかして保乃さん？」

「うん、」

「そっかー。」



天が隣に座ると何でも話せる気がするのはなぜなんだろう。

　
「昔さ、ずっと言いたかったんだよね、保乃に。好きだって。けどさ、やっぱ自分に自信なくて、守られてばっかやったから。」

　

スっと煙草を吸った天が煙を吐き出したあと、ニコッと笑った。


「良かったね」



よかった、？


「え、？」

「良かったじゃん。また会えて。」


当たり前のようにそう言う天が何を考えているのかまったく理解できなかった。


「な、んで、、」

「だってさ、神様がチャンスくれたんでしょ？前に言えなかったこと、また言えるようにって。」

「.……」

「ねぇ。夏鈴はもう弱くないよ。」



あぁ..そうか、あの頃言えなかったことを言えるチャンス。私はそれを無駄にしようとした。


自分が弱い人間だと決めつけて。


「今度は夏鈴が守ってあげればいいじゃん。保乃さん、待ってるかもよ？」



じゃあねーと言って灰皿に煙草を押し付け去っていく天。

　

なんて強い子なんだろう。

　*


「天。行ってくるわ」
　
「うん。行っておいで。」


次の日。早めに仕事を終わらせ保乃のマンションへ向かう。


道はほとんど覚えてないけど、たまたま目に入ったマンションの名前だけは覚えていた。

「ここか....」

マンションの玄関前の階段に腰を下ろす。


いつ保乃が帰ってくるかは分からないけど、いくらでも待とう。

このチャンスをもう無駄にしたくないから。


*
　

どれくらい待っただろう。かれこれあれから3時間。月があたりを照らし始めている。


その時だった


「か、りんちゃん？！」


会社帰りでスーツを着た保乃が驚いた顔をしている。


「こんなとこで何してるの！寒いから、とりあえず家入ろっ....」


私の腕をひいて階段を上り始める保乃。

その腕を思い切り引き返す。


「ちょっ....かりんちゃん、？」


私の腕の中にすっぽりと収まる華奢な体。

昔は保乃の方が大きかったのに。いや大きいと勘違いしていただけなのかもしれない。昔から保乃から抱きしめられることはあっても私から抱きしめる事なんてなかった。


守られてばっかりだったから。


「保乃……ごめんな、、勝手にいなくなって....ありがとうって一回も伝えれんかった。。」


ぶらんと、行き場のなさそうにしていた手が腰にまわされる。



「んーん、、夏鈴ちゃんが幸せになる事が保乃の願いやったから、。」

　
だいぶ心配やったけど....笑と苦笑いする保乃。






違う。まだ、、


彼女の頬を両手で包んで目線を合わせる。



「まだ、幸せじゃない」
「え、？」

その綺麗な瞳の奥が少し揺いだ


「保乃が居らんと夏鈴は幸せになれん…」

「ずっと好きやった保乃、、あの頃からずっと、、｣


　
保乃の目から溢れる涙


「保乃もっ、、夏鈴ちゃんのことっ、好きやった、、！」


「ごめんなっ、、助けられんくて、、保乃ずっと後悔してた……、！ほんま、ごめっ･･･」



ごめんと言い続ける保乃の口を塞ぐ


「保乃……もういいんだよ、、夏鈴が弱かっただけやから、、」




　あの頃とは違うと証明しよう、





「ごめんな、あの日、何も言えんくて」

「もう、夏鈴ちゃんとあの頃みたいに過ごせないんだって、悲しかったんだから……」



「大好きだよ保乃....付き合ってください」

「… はい....//」





今度は、夏鈴が保乃を守る番だから._____