「天ちゃーん。ご飯出来てるよー」

いつも通りの朝。のはずなのに中々天ちゃんが起きてこない....

「天ちゃーん。お部屋入るよ〜」

「…って、ふふっ笑」
　
最近寒くなってきたからか掛け布団を口元まで引き上げ、ハリネズミのように丸くなっている姿に笑ってしまう。

　
かわいいなぁ


そっと天ちゃんの顔と同じ高さになるようにベットの端にしゃがむ。

いつもはかっこいいのにこうやってたまに幼くなるんだから心臓がもたない。

　
バイト先で色んな女の子に言い寄られてるんだろうなぁ、、
　

別にバイト先を見に行ったことはないけど私だってこの子に一目惚れしたんだから根拠にしては十分


「他の女の子にこんな顔見せちゃだめだよ、？」

そっと顔にかかった髪の毛を耳にかけ頬をなでる。

「んーー、、麗奈....？」

「朝だよ」


寝すぎたーーと言って体をぐっと伸ばす姿に愛おしさが溢れた。

「何でそんなにニコニコしてるの」

「ん〜？何でもないよ〜」

まだ怪しそうにこっちを見てくる天ちゃん。

「ねぇ天ちゃん。バイトしてるとこ、見に行ってもいい？」

「えーなんで、、」

「見てみたいの！だめかな、？」

「んー。じゃあ来る時連絡してよ、？1人でバー入るのその、、危ないから....」

「分かった！やったー！」


そう言うと少し困った眉毛をしていた天ちゃんがニコッと笑う。

　

まぁ天ちゃんに変な虫がついてないか、偵察しに行くだけなんだけどさ....

ーーーーーーー


今電車乗ったから30分後くらいには着く〜。


そう連絡が来たのは15分前。
来てくれるのは嬉しいんだけど、バーに麗奈を1人にするわけにはいかない。私はウェイトレスだからずっと目を離さないというのは無理だし、、

　変な人に絡まれたりしたらなぁ....


「ねぇ夏鈴」

「なに」

「あと少しで麗奈来るんだけどさ、そこの席座らせるから麗奈のこと見ててもらっていい？」


目の前に夏鈴が来るカウンターの席を指さす

「あーこの前言ってた人。別にええけど、」

「良かったー。じゃあよろしく。」


ーーーーーーー

「麗奈ー」

　入口の前で黒シャツを身にまとった人がこっちに手を振っている。

　
え、？天ちゃん？い、イケメンすぎない....？


「お、お待たせ、。」


「ん？麗奈？どうした？」


不思議そうに首を傾げる天ちゃん


かっこよすぎて緊張してるなんて、、言えない....

「な、なんでもないから！早く行こう」

「あ、ちょっと麗奈！1人で入らないで〜」

*
「ここ、麗奈の席だから」


案内されたのはカウンター席。両脇の席には何故か使用禁止と張り紙がされている。



「この人が夏鈴！この店のバーテンダー。無口だけど怖い人じゃないから安心して！あっあと麗奈と同い年だから」

　

天ちゃんから紹介されたこの人は夏鈴さんと言うらしい。

　無口で金髪でつり気味の目。怖い人感満載だけど....


『てんー！！混んできたからこっち手伝ってー！！』

　
「はーい！じゃあ！夏鈴あとはよろしく！」

そう言って去っていく天ちゃん。

「こんにちは。守屋麗奈です。」

「ども....」

　


そ、それだけ、？
　
　え、えぇ、、麗奈絶対仲良くなれないよぉ....

*
　

夏鈴さんにおまかせでお酒を用意してもらって酔いが回りすぎないようにゆっくり飲む。


お店の中はバーにしてはかなり広めでオシャレな音楽がかかっている。お客さんは女性ばかりできっと敵だらけ。

　
天ちゃんかっこいいなぁ


慣れた手つきで接客をする彼女はいつにも増してかっこよく麗奈の目に映る


「天のこと好きなんですか？」

「なっ！」

急にそんなことを言われて声がした方へバッと顔を向けると

　わ、わらってる、....

にやにやしながらこっちを見てくる夏鈴さんがいた。

「な、なんでですか....?」

「いや、見すぎやもん....」

　やってしまったぁ、、、ずっと天ちゃんを目で追ってしまっていたらしい。


「い、いやぁ笑」

「図星ですね」

　
な、何なんのこの人は....もぉ...


*
　
このお店に入ってから40分ほど。
彼女はまだ忙しそうでしょうがないのは分かってるけどかまってくれないなぁなんてちょっと寂しくなる。

　
この金髪バーテンダーにバレたならもういいやと気にせずにじっと天ちゃんを見つめる


「うぇ！？」

「ど、どうしたんですか....」

急に大声を出したからか夏鈴さんに目を丸くしてびっくりされる


「あ、あれ！何ですかあれ！」

　
そう。そこには露出度高めのお姉さんから白く綺麗に折りたたまれた紙を受け取りポケットに入れる天ちゃんがいた。


「あぁあれですか。いつもですけど」

「いつも？！いつもですか、！？」

　
いつも、、、何か満更でも無さそうだし....



　結局誰でもいいんじゃん....麗奈なんかより綺麗なお姉さんがいいんでしょ....

　怒りよりも悲しみが湧いてくる。

　見にこなきゃ良かった、、

偵察と言って見に来たのは自分なのにいざこの状況を目の前にするとすごく、、嫌だ。


「もぅ...帰ります！」

夏鈴さんにそう言ってカバンをもちお金を置いてバーを出る。



「ちょっと待っ、、いっつも受け取ってからすぐ捨ててますよ！」

　その声は麗奈の耳には届かなかった。

ーーーーーー



やっと人が落ち着いてきて麗奈に声をかけようとカウンター席を見ると誰もいなくて、夏鈴だけが気まづそうにこっちを見ていた。

「夏鈴？麗奈どこいった？」

「帰ったけど....」

「へ、？？帰ったの？」

な、なんで何も言わずに？

「なぁ、、」


何かを言いたそうにしている夏鈴に耳を傾ける

　「あんな、めっちゃ怒ってたで、、」
　
　
　*


　何した？何したっけぇ、？


何故か夏鈴は麗奈が怒っていた理由を教えてくれなくて帰り道その理由をぐるぐると考える。


　全然話しかけに行かなかったこと、？

でも仕事中だって分かってるし麗奈はそんなことで怒んないよね.......なんだ、、、

　
そうこうしているうちに見えてくるマンション。

　
ちょうど誰かがエレベーターに乗ろうとしていたけれど走る気にもなれず、一度見送る。





普通だったら一番に謝るのが正解。でも怒っている理由が分からない時、それは逆に相手の逆鱗にふれる危険性があるのでかなりリスクがある行為にかわる。

　あぁもうどうにでもなれ...！

考えてもしょうがないとドアノブに手をかけ思いっきりドアを開ける。

　ｶﾞﾁｬｯ

　……

「え、？」

　
ドアを開けた先には何故か私のパーカーをギュッと抱きしめて体育座りをする麗奈がちょこんと座っていた。

　
こ、れは、怒ってるのか、？いや、怒ってるんだろうけど、何と言うか、なんだ....、？



リュックを置き靴を履いたまましゃがんで麗奈に目線を合わせる


「麗奈、？怒ってる？」

「怒ってる」

「ごめん、。何で怒ってるのか分からなくて....教えて貰えるかな、？直すからさ、」

「紙...」

「紙、？」

「女の人から紙貰ってた」


　紙....。あーあれか。麗奈に見られてしまっていたらしい。


「ごめん。麗奈、、。でもね、ちゃんと、」

「知ってる。貰ったあと捨ててるんでしょ。さっき夏鈴さんから電話で聞いた....」

「え？」

　

どうやら私が怒られないように夏鈴が伝えてくれたらしい。前に私がスマホを家に忘れた時夏鈴のスマホから麗奈に電話をかけたから履歴が残っていたのだろう。

　


ナイスすぎるよ、、夏鈴！！


「ごめんね、、何も言わずに帰っちゃって、、」

「いいんだよ。こっちもごめんね、これからは受け取らないで断るから」

「うん、//」


私のパーカーに顔を埋める麗奈。

　かわいい....


「キャッ、！」

「軽っ」

　
ずっと玄関で話しているのもあれなので麗奈を正面から抱き上げそのままリビングのソファに座る。


「ちょっと天ちゃん、、恥ずかしいよ....」

　
照れながら、肩を押してくるけどその体からはまったく力を感じない。

　
それよりも、、


「ねぇ麗奈？このパーカーどうしたの？」

　
彼女と私の間にあるグレーのパーカー


「え、？いや、これは、その、ちょっと....寂しくなっちゃって、、」

　
顔を赤くして慌てながらそう言う麗奈に心臓がギュッと押し潰される。

「ほんとにっ、、」


その細い腰をギュッと抱き寄せそっと首筋に顔を埋める。

「て、天ちゃん....」

「ねぇ麗奈、あんま可愛いことしないで....」

「へっ、！？//」

　


　誰にも、、渡したくないからさ....