必然 🐍🍒(🎐 ?)





「この子、今日からバイトの天ちゃん。」


「山﨑天です。よろしくお願いします。」
 
 
朝のミーティングの時間に少しだけ時間を貰い、店長である由依さんの紹介の後挨拶をする。


全員女の人なんだ....


まぁまぁ大きいバーだからか今日いる従業員はだいたい10人くらい。全員が女の人だった。

そういえば、ウェブの口コミを書いているほとんどの人が女性で、女の人に人気のバーなんて珍しいなぁとは思っていた。多分、理由は従業員が全員女性ってこと。男性が居ないってだけに入りやすいんだろう。

 


そういう事ね....

 って、誰だ...あの人


2列目の一番端。全員が店長の話を真剣に聞く中1人だけ少し下を向いて相槌のひとつも打たない。髪は金髪でショート。独特な雰囲気を放つ人に目が惹かれた。


「はい!今日のミーティングはこれで終わり。天ちゃんはウェイトレスに入るから松田!色々教えてあげてね〜」

「はーい!!!!」



元気だな....

――――――



「今日は金曜だしだいぶ混むと思うからチャチャッと仕事覚えて、バリバリ働いてねー!」


「は、はい。」

すごく元気なこの人は松田里奈さんと言うらしい。私より6歳程上。


「ウェイトレス経験はありだっけ?」

「あ、はい。前のバーで。」

「じゃあ動きは大丈夫か!テーブル客の注文とって運ぶだけ。」

「なるほど、」

「料理はあそこのキッチンから。お酒はあそこのカウンターにいる藤吉夏鈴がつくるから。」

 

藤吉夏鈴....
 あの金髪の人はバーテンダーらしい。


「ははっ笑やっぱ気になる?笑」

「え、あぁ不思議な人だなって、思って...」

 

じっと見つめすぎた。


「夏鈴ね〜。新しく入ってきた人みんな気にするんだけど、仲良くなれた人ひとりもいないんだよね。」

「そうなんですか。」

「話しかけてあげて!!」

「はい。」

「極度の人見知りだからハードル高いよ〜????」


*

「ウェイトレスさーん。次こっち〜」

19時。だんだん人も増えてくるころ。見ている感じ年齢層は様々で大学生もいれば会社帰りの人もいる。でもやっぱり9割。いや、10割は女性だった。


働いてみて分かったことはあまり堅苦しいバーでは無いということ。会員制ではないからか沢山の人がいて、ガヤガヤしているしどちらかと言えばクラブと近い雰囲気。


前に働いていたあの息苦しいバーとは違って開放的で色々な人がいるから同じ仕事をこなしているとは思えない。


「店員さーん。次こっちお願いしまーす。」

「すぐお伺いします。」



「モヒート1とカシスウーロン1入ります。」

「……」

 
ちなみにあの人はと言うと何をするにも無表情。

口を開くのはカウンターのお客さんに話しかけられた時だけ。こっちがオーダーを出しても何も言わずに無言で作り始め無言で渡される。


 これは、人見、し、り....なのか、?


よく分からないけど松田さんが言った、ハードルが高いという言葉に間違いは無さそうだった。


*

「今日はここまででいいよ。」

少し裏に戻った時由依さんにそう言われ時計を見ると22時。ピークよりは減ったがまだお客さんはいる状態だった。

「まだ、働けますよ。」

「んーじゃあ明日からお願い。とりあえず今日はここまででいいよ。早く帰りな!」

由依さんに思いっきり背中を叩かれる。

「イデッ、、何するんですか....」

「彼女は怒らせたら怖いよ???」

「彼女、?いないですけど....」

「じゃあ。それなに???」

 彼女だとかよく分からないことを言ってにやにやする由依さんの視線を辿っていくと外に置き忘れていたスマホ。何故か画面が光っている。

なんだ...

スマホを手に取って画面を覗いてみると、そこには麗奈からの大量のLINE。

『今どこいるの!!!!』
『心配だから連絡して!!』
『ご飯たべるの????』
『誰かといる????』
『何時まで帰ってこないつもり!!』
『怒るよ!!!』

 ちょっと待てよ....

その一つ一つの文章をみて血の気が引く。

 今日初バイトって言うの忘れてた........かも、

「か、帰ります!!お疲れ様です!!!!!!!」


 急いでカバンを持って家にダッシュする。


「女の子怒らせちゃダメよーーー」

 遠くからそんな声が聞こえた気がした。

*

「麗奈!!!!」

リビングの電気はついているけど返事がない。

恐る恐る足を踏み入れるとソファに無言で座る麗奈がいた。

 これは…相当怒ってる、、

ゆっくり隣に座る。


「麗奈....あの、ほんとごめん。。今日初バイトだったんだけど、、言うの忘れてて....」

 チラチラと麗奈の方を見てみるけど目が合う様子は全くない。

「あ、あのっ」

「天ちゃん?」

「はい、、、」

「私がどれだけ心配したか分かってるの?」


 一点を見つめ無表情で言う麗奈に肩がすくむ。

 
「ほんとに...すみませ、、」
「分かってないでしょ!!!」

 
 謝罪をいい切る前に放たれた言葉は家中に響き渡る。


「悪い人に捕まってたらどうしようって!!事故にでもあってたらどうしようって!!私がどれだけ不安だったか!!」

「れ、麗奈。落ち着いっ」

「離さないって言ったのは天ちゃんでしょ!!!」

「....っ」

 目を潤ませながら訴えかける彼女をそっと抱きしめる。



「ほんと....ごめん、、、」

「天ちゃんのばか!」

「次からはちゃんと連絡するから...約束する....」


 落ち着かせようと背中を撫でる


 



しばらくすると彼女がガバッと腕の中から離れた。

「もう!いい加減にしてよねっ!」

 さっきとは裏腹に唇を尖らせ、せかせかとキッチンに戻って夜ご飯を温め直す麗奈。


その背中からぷりぷりと音が聞こえてきてくるようで思わず吹き出す。



「こら!!!まだ反省してなさい!!」
 

「は、はい....」




 こ、こえぇーーー....


女の人は怒らせたら怖いらしい、、、









 


 

 





 


 

 
 

 
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