必然 🐍🍒(🎐 ?)




「バイト。初めるわ」

 「え?」



そう言われたのは私が読んでいた小説を置きベット横のライトを消そうとした時だった。


「な、なんで?」

「なんでって....ずっと何もしない訳にはいかないし」

「そんなの気にしなくていいよ、、」

「麗奈はそう言ってくれても、私が気にするよ。」

 
気にしなくていい。

そう言ってみても天ちゃんの意思は既に固まっているようで揺らぎそうにない。


「どこでするの、?」

「駅の近くにあるバー。」

「バーって、、大丈夫なの....」

「全然普通のバーだから大丈夫。会員制でもないし。店長優しかったし。」

「もう行ったの....?」

「今日面接行って前にウェイトレスしてたって言ったらOKもらえた。」

「そっか、、分かった....」

 
淡々と会話が進んでいく。

寝る前だったからか、早々に切り上げおやすみ〜っと言って天ちゃんは顔色一つ変えることなく自分の部屋に戻っていった。

 
 

正直、バイトはして欲しくない。そう思ってしまった。

 
きっと今まで色々な大人と関わって苦しんできたであろう彼女がまた1人で外に出るというのはかなり心配で、、


でも、、これがほんとの理由という訳では無い


ほんとの一番の理由は多分...怖いから。

あれから2ヶ月ほど、毎日仕事から帰ってくるとニコニコと出迎えてくれる天ちゃんが家にいて。きっとバイトを始めたら同じ時間に夜ご飯を食べながらたわいもない話をするのも、同じ時間にベットに入ることも毎日ではなくなる。

 いつか、そう遠くは無い未来に彼女は私の手を離れるかもしれない。
 

「そんなの、、寂しいじゃん....」


その事実が怖くて、怖くて仕方がない。

天ちゃんの声が聞こえない無音の家を想像しただけで息が詰まって枕に顔を埋める。

 

ついこの前まではそれが普通だったのに、既に彼女の存在は私の生活の一部で、思ってた以上に大切なもので、離したくなくて。

 そう思ってしまうのは、きっと彼女に微かに依存してしまっているから。

 勝手な理由というのは分かってる。

 天ちゃんはまだ子どもでまだまだ経験すべきことがある。もっと色々な人と関わって、この世は思ったよりも悪い世界ではないというのを知って欲しい。

大人の私が彼女を狭い世界に縛るべきでは無い。

自分が一番理解しているのに、、




あー麗奈やっぱり天ちゃんのこと好きなのかも....


考えれば考えるほど天ちゃんの温もりが、体温が恋しくなる。

 ベッド行ってもいいかな....

 音を立てないようにそっと足を下ろして部屋を出る。

向かい合わせるもう1つの部屋を開けるとスヤスヤと横になって眠る天ちゃんがいて、その寝顔はこの子がまだ子どもだということを麗奈に実感させる。


 起こさないようにそっと掛け布団に体を入れてその大きな背中に顔を埋めてお腹に手を回す。

 ビクッと肩が揺れた

「ん...麗奈、?どうしたの??」

「ちょっと…」

 目を丸くしながらこっち側に体を向けるから顔を見られないように向かい合わせで抱きつく。


「….寂しくなっちゃった?」


 ふわっと頭に添えられた手は麗奈のより何倍も大きくて安心する。

 
ーーーーーーー ・・・



少しの沈黙が続いた。

もう寝ちゃったかな、と少し抱きしめる力を緩めるとまだ起きていたのか無音を切り裂くように天ちゃんが口を開いた。

「ねぇ麗奈。」

「ん、」

「どこにも行かないよ。」

「....っ」


きっと私の気持ちを感じ取って安心させようと言ってくれた言葉。



 あぁ、この子には何も敵わない。


 私より、何倍もまだ子どもで何倍も大人だ。




 一度緩めた手にまた力を込めるとそれに応えるように同じくらいの力で抱きしめ返される。



「私が絶対離さないから。だから、麗奈もどこにも行かないでね?」

ニコっとしながら覗き込んできたその顔に思わず涙が溢れる。


「あーあ、泣かないでよ〜」

「だってぇっ....」


この子ならきっと離れていかない。

私がくよくよしてないで彼女の手をとって前に進まないと。




さっきまでの不安は嵐のように過ぎ去って、雲ひとつない暗い夜空のように心は晴れていった。
 
 
 
 

 
 
 
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