distance from you 🐍🍒





「麗奈先生!髪色ちょっと変えた?今日も可愛いなぁ!」



「アイラインもちょっと長めにひいたやろ。雰囲気違ってええなぁ。好きすぎる。付き合って!」


毎日麗奈先生に愛を伝え続けて数ヶ月がたった。


高校3年生になったばかりの4月。うちの高校にやってきた麗奈先生に恋をした。


「またそんなこと言ってー。だーめ!生徒なんだから。」



全力のアプローチも虚しく毎日生徒だからと同じ言葉で交わされる日々。


「なぁいい加減その呼び方やめてや。天でいいやろ天で。」


「だめ。山﨑さんだけ特別扱いなんてできないでしょ?」


またこれだ。

色んな生徒から人気のある麗奈先生は全員と平等に接するために苗字呼びしかしないらしい。真面目すぎる。



まぁそんなところに惚れたんだっけ。


ーーーー

毎日私に告白してくる生徒がいる。


最初はただからかわれてるだけだと思ってた。

けれど今まであまりちゃんとした愛を向けられてこなかった私はその真っ直ぐな言葉に少し揺れてしまっていたんだと思う。


だから生徒だからという言葉で上手く交わすしかなかった。


*


放課後夕日に照らされる教室で小テストの採点をしているといつにもまして真剣な顔をした山﨑さんが入ってきた。



「なぁ先生。」

「どうしたの〜?」


「ほんまに好きや。付き合ってください。」


「...っ」


珍しく敬語が混じったその聞きなれた言葉にこれは本気の告白だと、

そう直感的に思った。

でも、だからと言って先生が生徒に手を出すなどあってはならない。


「ごめんね...山﨑さん、、付き合えないの。」

「それは私が子供で生徒だから、?」




「そう、、あなたと私は生徒と先生。ただそれだけの関係なの。それにあなたはこれから大学に通うでしょ?きっともっといい人と出会える。先生なんかじゃなくて。もっと幸せになれる。」


私の言葉に眉毛を下げて寂しそうな顔をするあなた。

「ごめんね、、」


でもこれが私の答えで、これが世間の正解。




「なぁ私大学行かん。」

「え、?」

「モデルになる。この前オーディション受けてん。そしたら受かった。大阪出て頑張るわ」

「そっ..か....」


私の知らないところでこれから成長して行くんだとふと実感して心に霧がかかる。


突き放したのは自分なのにこれからもっと大人になって綺麗になるであろう山﨑さんの近くにいられる人を勝手に羨ましがって、嫉妬して。

私は最低な人間だ。



「じゃあな。麗奈先生。大好きだったよ。」


そう言い去っていく背中は明日も会えるはずなのにこれが最後と訴えかけているように感じて。

一人誰もいない教室で声を押し殺して泣いた。


ーーーー

麗奈先生に最後の告白をした。

最後にごめんねと謝ってくる先生の顔は少し悔しそうに見えてしまって

結果は分かっていたけれど、それでもやっぱり寂しくてまだ子供で麗奈先生より遅く生まれてきた自分を恨んだ。

*

「うっわ〜東京駅広すぎやろ、、、迷路やん、」

あの日から3日。私は東京にいた。

本当はあと1ヶ月大阪にいるはずだったけれどこのままでもズルズル引きづってしまいそうで。

事務所に連絡してだいぶ早く新幹線に乗った。

「よし!頑張るぞー!」

絶対に有名なモデルになって、麗奈先生に認めて貰えるような人間になる。

そう誓って歩き出した。



ーーーー

毎朝の習慣でポストを開けると一通の封筒が入っていた。


ー同窓会のお知らせ

山﨑天。その名前が真っ先に思い浮かんだ。

私が初めて高校三年生の担任を持ったクラスにいた生徒で、他の子は顔も名前もぼんやりとしてしまったけれどその子だけは絶対に忘れることは出来ない唯一の人。

彼女は今では次世代モデルとしてテレビにも沢山出ていて学校にだってポスターが貼ってある。

「はぁ...来るのかな」

*

同窓会当日。ベージュのカジュアルなスーツをきて扉を開ける。


「あー!!麗奈先生だ!!!久しぶりー!」

「変わってないねー!!」

名前も顔もぼんやりで間違えたらどうしようと思っていたけれど実際に会ってみると意外と覚えていたもので少し顔つきが大人になったみんなに成長を感じる反面、まだまだ内面は子供のままだなぁと愛おしく感じる。


そんなみんなとのお喋りに夢中になっているとふと思い出して山﨑さんを探す。


「やっぱり、来ないのかなぁ」


今では大忙しであろう彼女は同窓会に来れなくたっておかしくない。

けどやっぱり少し寂しくてもう会うことは出来ないのかと悔しくなる。

『あー!!!』

みんなの声が響く。


パッと扉の方に視線を向けるとそこには昔より数段背が高くなってスラッとした山﨑さんがいた。



「うわー!!久しぶりー!有名人だ〜」

「すげぇー」

「めっちゃ背たけーじゃん」


みんなに囲まれて照れくさそうにするあなた。

パッツンだった前髪も綺麗に分けられて昔から変わらないキリッとした眉毛が見える。パンツスタイルはより足の長さを際立てて思わず見惚れてしまう。


「ね!先生!」

「え!あっうん、」

「聞いてるぅ??」

「聞いてる聞いてる!」

本当は脳がそれどころじゃなくて全然聞いていなかった。


「ちょっと御手洗行ってくるね」


「はーい」

*

「あー、、どうやって声かけようかなぁあ」

あの日のあとすぐに東京へ行ってしまった山﨑さんとの最後の会話はあの告白なわけで。

まだ私の中には気まづさが残っている。


「麗奈先生....?」

手洗い場の前で考え事をしていると誰かに話しかけられる。

その何度も聞いてきた声で誰かはすぐに分かった。

「ひ、久しぶり」


「麗奈先生、、元気だった?」

「うん、。元気だったよ」




少しの間沈黙がつづく


「ちょっと来て」

急に腕を引かれずんずん進んでいく山﨑さん。

「ちょ、ちょっと」

会場の前に止まり急にバッグを持ってこいと言われる。


急いでバックをもって戻ってくるとまた手を引かれてついた先は普通の居酒屋。


「麗奈先生ビール飲める?」

「う、うん」

「店員さーん。生ビール2つ」

ビールなんてもう飲めるんだ、、と感心しているとすぐにビールがテーブルに置かれる。



「なぁ、ごめんな。何も言わずに東京行っちゃって」

「いいんだよ、、活躍ずっと見てた」

「ありがとう....//」

頬を赤らめた姿は高校生の山﨑さんから何も変わってなくて少し安心する。



その後も東京であった出来事や今何してるなど気まづさを忘れて長い時間沢山話した。


ーーーー

友達からメールで来た同窓会のお知らせ。

それを見た瞬間今でもずっと思い続けているあの人が思い浮かんだ。

「やっと会える、、、」

*

扉を開けると沢山の懐かしい人たちがいてみんなが声をかけてくれるから少し恥ずかしくなる。

けれど一番に探すのはあの人。
キョロキョロすると奥の方のテーブルで他の人と話をしていた先生がどこかに向かおうとしていた。


「ちょ、ちょっとごめん!」

急いでその後を追いかける。

麗奈先生が向かっていた先は御手洗。少し深呼吸をして中に入ると鏡の前で難しい顔をしている先生がいた。


「麗奈先生....?」

恐る恐る声をかけると久しぶりと少し気まづそうに言う先生。

そんな顔をさせてしまったのは私がYESと言える訳のない告白を毎日のようにしてしまっていたからだと思う。


左手の薬指には何もついていなかった。


ここで勇気を出さなきゃもうこの関係のままな気がして、先生の手を引いて居酒屋へ連れていく。


急いで頼んだ生ビール。ほんとは苦手だけどお酒の力を借りないと喋れない気がして我慢して飲む。


「え!先生東京住んでるの?!」

「そうそう、色々あって東京の学校で先生してるんだ〜」


「えー?!言ってよぉ〜」


久しぶりに話してみると意外と気まづさはなくて懐かしい思い出話や今の話を沢山した。


ーーーー

気づいたら3時間以上経っていて外はもう真っ暗

「そろそろ帰ろっか....」

「そうだね」

さすがに終電の時間もあるしと切り上げようとすると山﨑さんが口を開く。

「あのさ、ちょっと散歩したい。」

「ん。いいよ。」

年上としてお金を払い外に出て少し肌寒い風がふく中歩き出す。

30分くらい歩いた頃だろうか夜で誰もいない公園のベンチに腰掛けた。



「麗奈。。」

「えっ、?」

今までずっと麗奈先生呼びだったのに急に呼び捨てで呼ばれてドキッとする。

山﨑さんの顔を見ればあの時、最後に告白された時と同じように真剣な顔をしていた。

「ど、どうした?」

「私なずっと麗奈に認めて貰えるような人間になろうと思って頑張ってきたんよ。」

「う、うん....」

隣に座っていた山﨑さんに手を握られる。

....//


「好きや。ずっと。。やっぱり諦められん。付き合って」

あの頃より何倍も大人になった彼女に昔とは比べ物にならないくらいドキドキする。

「今の私でもだめ....かな....??」



不安そうな顔をする山﨑さんが可愛くて可愛くて笑みがこぼた。

もうこんなに我慢したんだからいいよね....

勢いよく山﨑さん、いや天ちゃんを抱きよせる。

「私も好きだよ!天ちゃん」

「....///」

「可愛いねぇ〜」

「子供扱いしないでよね!!!」



ーーーー


何年もの片思いは大阪という私たちが出会った場所で終わった。

東京に戻ってきてから数ヶ月後同棲を始めた。


「れなぁー!!!ただいまー」

パタパタとスリッパの音を立てて先に帰ってきていた麗奈が玄関にやってくる。

「おかえり!天ちゃん!!」


あー幸せだ。



あの頃は凄く遠く感じた彼女が今ではこんなに近くにいるという幸せをかみ締めながら数センチ下にある麗奈の唇にキスをした。















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