黒板に触れるチョークの音。コソコソと話をするクラスメイトの声。少し開いた窓から流れる風。


毎分毎秒。何も変わらない。毎日同じ景色。





「山﨑さーん？？？集中してるー？？？？」


「してます……」



嘘。集中なんて1ミリもしてない。

けれどこの場面で「してません」とはっきり言う人はいるのだろうか。メリットなんてひとつもないのに。

強いて言うなら正直者という称号を得られるということだろうか。果たしてその称号を得て何になるのか私にはさっぱり分からないけど。


「もぉ、、この前の授業のレポートも出し忘れてたやろ？？」


「放課後居残りね」


「、、、」


「この授業終わったらプリント取りに来て」


「はい……」


いつも通りのやりとり。あれも。これも。いつも通り。

　
*

「保乃先生ばいばーい」


「ばいばい。気をつけて帰るんやで〜」


プリントから目を離すことはなくペンを紙の上で滑らせているとｶﾞﾀﾝと扉の音がする。

最後の一人が出ていったようだった。


静まり返る教室に響く段々と近づいてくる足音。1つ前の席の椅子が床と擦れ、ガガガッと音を立てた。


「もぉ。居残り何回目〜？？毎回ちゃんと課題出せばええのに。」


座りながら呆れたようにそう言う田村先生。


「そうですね」

「またその空返事。もう慣れたけどな」


えくぼを作り少し微笑む。

窓の隙間から流れた風が田村先生の綺麗に染まった茶髪を揺らし、甘い香りが鼻を掠めた。





「ねぇ天ちゃん、、」


彼女の細く、長く、そして真っ白な指先がペンを持つ手に遠慮気味に触れる。


「その呼び方。学校ではしない約束ですよね」


「だってぇ、、構ってくれないんやもん……」


先程触れた指先がスルスルと手の甲を撫でる



「これだと書けないんですけど」


「キスしてくれたら離してあげる」

　
….何を言ってるんだこの人は。


「学校ですよ」

「…やけどさ、、2人っきりだよ、？」


少し潤んだ目。揺れる瞳孔。

私がその顔に弱いのを知っててやっているのか、はたまた無意識か。


「バレたら困るの先生ですよ。」


「天ちゃんは、どうしたい、？」


ズルい。いつもそうだ。自分は誘うだけ誘っといて、最終的な判断はこっちに委ねる。


いつも1枚上手でいつも私より少し大人。

その少しの差が遠く感じてイライラする。

だからこそめちゃくちゃにしてその顔を崩したいという衝動に駆られてしまうのだろう。


「教師失格ですね」


「んふふ笑そうやね……」


机を挟んだ向こう側にいる彼女の頬に手を伸ばし少し強引に引き寄せ、唇に噛み付く。




同じことの繰り返しで、代わり映えのない毎日だけど、、


変わらなくていいと、変わらないでくれと願うのはきっとこの人がいるから。

どれだけ毎日がつまらなくても、彼女さえ居ればなんだっていい。どんなに刺激のない日々だろうと彼女と過ごす平穏な日常だけで十分だから。



「大好きだよ。保乃。」



「知ってるよ。山﨑さん。」
　
　
　

　

　
fin.