6 実技試験

 アルフレッドは魔法使い候補生の寮までシンを送っていった。普通なら騎士候補生は入れないのだが、アルフレッドはシンを抱えて部屋まで連れていく。
 魔法使いのたまご達が赤い髪の騎士候補生を見て慌てて距離を置いた。噂をされてもアルフレッドは気に留めず、シンの部屋を聞いた。

 部屋にいたのは同室の委員長だ。アルフレッドとシンを見て絶句した。

「弟の部屋は?」
「あ、ああ。こっちだ」

 サイラスに案内されて、アルフレッドはベッドにシンを横たえる。相変わらず顔色も悪く目を閉じたままだ。

 焦げて破れた上着と手袋、靴を脱がせると、サイラスが用意してくれた濡れた布で弟の口元の血や手を丁寧に拭った。

「なあ、本当に怪我はないと思うか?」

 アルフレッドに聞かれてサイラスは動揺する。

「お前、魔法使いだろ。本当に治療しなくて大丈夫か判断してくれ。さっきから全然目を覚まさない」

「……ない」

「え?」

 アルフレッドが振り返ると、サイラスは眼鏡を外してシンの顔を凝視していた。

「何が?」
「いや……何でもない」

 何かなくなってるものでもあるのだろうかとアルフレッドは思った。委員会で見かけただけだが、この冷静な委員長が少なからず動揺しているのを見て不思議な気持ちになる。

「怪我は治癒していると思う」
「そうか」

 しばらくの沈黙の後、サイラスが口を開いた。

「五つ星の魔物が出たそうだな」
「ああ。獏とかいう魔物の突然変異だ。魔力を吸い取るらしいな」

「なるほど……」

 サイラスが何か納得しているので、アルフレッドは自分の仮説を聞いてみる事にした。

「なあ、弟は獏に魔力を取られたんじゃないか? それで昏睡状態になっている。違うか?」

「取られたのは間違いないと思う……意識が戻るのかは、俺にはなんとも言えない」

「そうか……」

 落ち込む様子のアルフレッドを見て、サイラスはそっと部屋を後にした。
 彼には言わなかったが、シンの額には理事長の封印が無かった。獏はそれを吸い取ったのだろう。だが、意識が戻らないのは魔力を取られたからでもなんでもなく、理事長がかけた拘束の魔法のせいだ。

 サイラスは自分の部屋に戻って息を吐いた。サイラスがまだ子供だった頃、いとこのユーシスの命令は絶対だった。逆らうとよく同じ魔法をかけられたものだ。あれをかけられると動くことも言葉を話すことも出来なくなる。

(サイラス、僕に逆らうなんて頭の悪い子だね)

 動けないサイラスにそう言い放ったユーシスの笑顔を思い出して、サイラスは身震いした。あの兄弟には何の恨みもないが、理事長には逆らえなかった。
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